トーキング・マイノリティ

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マザーウォーター 10/日/松本佳奈 監督

2010-11-04 21:13:06 | 映画
 マザーウォーターとは、ウィスキーの仕込み水に使われる水を意味するという。タイトル通り、この作品では水がテーマとなっている。映画のチラシには次のような一文がある。
人と場所、そんなシンプルな関係性だけで、「かもめ食堂」「めがね」「プール」という3作を作ってきたプロジェクトが、新作「マザーウォーター」で遭遇した場所は、不変な美意識の中に、ひたひたと進化を続けている街、京都でした…

 映画は京都で慎ましく暮らす男女7人の日常を描いている。ウィスキーしか置かないバーを構えるセツコ、コーヒー店経営者タカコ、豆腐屋のハツミに関わるのは、中古家具店のヤマノハ、銭湯屋のオトメと彼を手伝うジンの男たち。そして、彼ら全員と繋がりを持ち、いつも街を散歩してる老女マコト。以上の7人に加え、オトメの赤ん坊ポプラがいる。
 ヤマノハやマコトを除き、彼らの職業はすべて水に関係がある。京都でも華やかな観光地を映すのではなく、ごく一般の住宅地が舞台であり、セツコ、タカコ、ハツミは余所から京都に移り住んだ女たちだった。そして、登場人物で京都弁を話す者はいなかった。そのため、まるで京都らしくない印象だった。

 それにしても、いかに水が良いにせよ今時の京都で、ウィスキーしか置かないバーで経営が成り立つのだろうか?また、タカコの喫茶店も昔ながらのこじんまりとした店内。日本全国で小規模の喫茶店は軒並み潰れており、何処でも同じチェーン店ばかりが目立つのは寂しいが、これも映画ゆえに成り立つ設定だろう。
 ハツミの豆腐屋も小さかったが、このような店で作られた豆腐はさぞ美味しいはず。買ったばかりの豆腐を登場人物が店先のベンチに腰掛け、その場で食べているシーンがある。醤油をかけ、アイスクリームのようにスプーンですくって食べている。こんなことが出来るとは豆腐大好き人間の私にはとても羨ましかった。

あしたへは、ダイジなことだけもってゆく」がこの映画のコピー。この作品も「かもめ食堂」「めがね」の延長にあり、特にストーリー性はない。淡々とした日常と時に哲学的な台詞が入る。ゆったりとした展開なので、映画館でもなければ眠くなってしまうかもしれない。セツコはじめ自然体の女たちに対し、いささかヤマノハやジンは頭でっかち気味。セツコの店で水割りを飲んでいたヤマノハは、貴方は純情な青少年だと言われる。さらに、純情な青少年だと老けてから苦労するとまで付け加える。老いても精神は青少年のままの人物もいるが、年を経るにつれ純情さを失っていく人が大半なのだ。

 主人公セツコ役は小林聡美で、散歩人マコトはもたいまさこ。出演している俳優陣も前3作とほぼ同じだが、今回は新たに喫茶店主役の小泉今日子が加わった。小泉といえば未だに「なんてったってアイドル」のイメージが私にはあるが、アイドルから見事に女優として成長した。フードスタイリストはまたも飯島奈美、映画に映る素朴な食品はどれも美味しそうだ。マコトが揚げていたかき揚げは思わず唾をのんだ。火加減を誤るとかき揚げは具材が油の中で散って天かすみたいになったり、焦げのある団子状になったりするので、意外に難しい。

 春の日の午後、タカコが店で川を眺めながらコーヒーを飲んでいたシーンがある。珈琲党の私にはこれもお気に入りのシーンだった。何かと慌ただしい毎日で、午後にゆったりとコーヒーを飲んでくつろぐというのも贅沢な時間の過ごし方なのかもしれない。

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