トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

逃げぬピーチ姫議論 その二

2022-04-04 22:00:23 | 世相(日本)

その一の続き
 現代の若者には知らない人も少なくないだろうが、昭和の終わり(※1988(昭和63)年11月~1989(昭和64)年1月の間に発生)に起きた女子高生コンクリート詰め殺人事件も拉致監禁の挙句、惨殺された事件だった。女子高生は約40日間に亘り、不良少年グループから暴行・強姦を受け続け、凄惨な集団リンチを受けて亡くなる。享年17歳。
 wikiには事件へのマスメディアの反応が詳細に載っている、この間少女は住宅街の家に監禁されていたにも関わらず、何故逃げなかったのか?という疑問は少なくなかったし、名は忘れたが、そう書いた女のライターまでいた。

 実は少女はすきを見て2度通報していたが発覚し、激しい暴行を受けていたのだ。以降は心身ともに衰弱した少女に逃げる気力もなくなる。多くのメディアがセカンドレイプ同然の記事を掲載し、以下は朝日新聞の記事。
『朝日新聞』1989年4月4日朝刊の「ニュース三面鏡」は、「少女は無断外泊もままある非行少女」と書き、見出しに「女高生殺人事件数々の疑問」「助け求められなかったか」と掲げた。

 殺害こそされなかったが、2013年に米国で発覚したクリーブランド監禁事件は、文字通り若い女性3人が10年近くも監禁されていた事件。私がこの事件を知ったのは、行きつけのツタヤに事件を映画化したDVDがあったのでレンタルして見たから。
 事件は監禁されていた女性の1人が逃げようとしたので、ようやく発覚したのだが、犯人は監禁場だった自宅をあえて部分的に鍵をかけず、脱出できるように女性たちをテストしていた。もし彼女らが逃げようとすれば、ひどい折檻をしたのは書くまでもない。

 日米の監禁事件の対応の違いは興味深い。日本では警察への批判は殆どなかったが、米国では何故もっと早く発見できなかったのか、と捜査体制の不備に対する批判が集まった。一方、被害者にも落ち度があると言わんばかりの報道をしたのが日本だった。加害者少年の崩壊家庭を紹介、加害者には妙に同情的だったのが人権派やリベラル派。
 この論調は、現代のロシアのウクライナ侵攻にも通じるものがある。ロシアは責めず、ウクライナにも落ち度があるという著名人が結構いる。ちなみに女子高生コンクリート詰め殺人事件の少年Cの両親は共産党員だったが、これを報じた新聞はあっただろうか?河北新報では父親を団体職員と書いていた。

 監禁された被害者は加害者にさほど虐待を受けないと、被害者が生存戦略として犯人との間に心理的なつながりを築くようになる「ストックホルム症候群」もある。よど号ハイジャック事件(1970年)では、乗客と犯人には奇妙な連帯感が生まれ、パトリシア・ハースト誘拐事件(1974年)に至っては、誘拐された女性が後にその犯行グループと共に銀行強盗の一味に加わる始末。

 以上の事例からも、他愛のないゲームを基にした「逃げぬピーチ姫議論」が、いかに非現実的空論であるかお分かりになるはず。空想実験にふけるのは勝手だが、これが高校教科書に反映されるのは恐ろしい。教科書で扱うならば、せめてストックホルム症候群を載せた方が遥かにいい。いつ何時、事件に巻き込まれるのか分からないのだから。
 そして戦う女性キャラの登場するゲームもあるのだから、スーパーマリオブラザーズだけをやり玉に挙げるのはおかしく、これに意図的なものを感じてしまう。コラムはこう結ばれていた。

一方、英語の「論理・表現Ⅱ」では「冷蔵庫と洗濯機の発明は社会、特に女性にとって最大のインパクトを与えた」「それらがなければ多くの女性は家事で忙しすぎて家の外で働けなかっただろう」という意味の英文に「家事は女性の役割と誤解する恐れ」と検定意見が付き、修正された。

 最後まで唖然とさせられるコラムだった。20世紀後半になっても家事は女性の役割とされていたのは否めず、この意見こそ非倫理・表現である。冷蔵庫と洗濯機の発明は男性だったのはともかく、こうなると歴史修正主義というよりも歴史抹殺主義だろう。検定する側の思想こそ、検定に値するのではないか?

◆関連記事:「女権原理主義
桃太郎は反男女共同参加物語?

よろしかったら、クリックお願いします
   にほんブログ村 歴史ブログへ



最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (鳳山)
2022-04-06 09:02:37
スーパーマリオですら反日左翼界隈の異常な言説の対象になっていることに驚きました。そう言えばウクライナ戦争でも日本の左翼は最初ロシアを擁護していましたよね。狂った思想でバランス感覚が欠如しているんでしょう。連中は日本のみならず世界の敵だと思います。
返信する
鳳山さんへ (mugi)
2022-04-06 21:48:14
 私もスーパーマリオが反日左翼の標的になっていたことに愕然としました。この類なら戦うヒロインが登場するバイオハザードにも難癖をつけてくるでしょう。

 未だにウクライナにも非があるとほざいているТV解説屋や現役国会議員もいますね。最近はロシアの侵攻は良くないと言った後で、かつての日本も同じだったので、日本人には批判する資格はないというイエス・バッド論法を展開しています。

 バカ言うんじゃねぇ!ロシアなぞナチスに先駆けてポグロムしていたし、コーカサス戦争(19世紀)でジェノサイドしまくっていた。近代以前から全く変わっていないのです。
返信する
ドラクエ1とかバイオレンスジャックだと (madi)
2022-04-08 03:43:46
マリオは1985ですがドラゴンクエスト1が186年でこれは勇者がされわれたローラ姫を助けて竜王と対決するストーリーですが、裏技でローラ姫をたすけずに竜王を倒すこともできました。
 人質を見殺しにするどころか拉致したやくざごと殺すストーリーは週刊少年マガジンで永井豪が1970年代にデビルマン』のあとに連載した『バイオレンスジャック』でやっています。いまの60歳代だと人質にとられたら拉致犯もろとも殺していいという感覚のひとはけっこういるかもしれません。
返信する
Re:ドラクエ1とかバイオレンスジャックだと (mugi)
2022-04-08 22:33:41
>madi さん、

 ドラクエも名前だけしか知りませんが、'80年代半ばに出たゲームでしたか。マリオと同じく姫君を助けるストーリーでも、一方で姫をたすけずに竜王を倒す設定もあったのは面白いですね。姫君を助けるよりも怪物退治の方がワクワクするでしょうし。

『バイオレンスジャック』という作品は初めて知りました。永井豪作品には結構過激なストーリーがありますが、拉致したやくざごと人質まで殺す作品まであったとはスゴイ。このような作品が'70年に発表されていたのも興味深いですね。
 現代ならジェンダー論者が横やりを入れてくるかもしれません。めんどくさい世の中になりました。
返信する