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繁栄は戦争のおかげ?その①

2018-03-20 21:40:54 | マスコミ、ネット

 宮城県の地方紙・河北新報は毎週日曜日ごとに読書案内を載せている。3月18日付第23面の「本の杜」コーナーには、『海の向こうの火事』(トーマス・R・H・ヘイブンズ著)が取り上げられ、コーナーの見出しには「繁栄は戦争のおかげ?」とある。斎藤貴男なるジャーナリストが執筆しており、その全文を紹介したい。

長嶋茂雄の公式戦デビュー前日に東京・池袋で生まれた私は、幸せな少年時代を過ごしました。零細な鉄くず屋で、背広姿の人たちにはどこか見下されてもいましたが、いわゆる戦後民主主義の下で、食べるものに困ったこともありません。
 ただ十数年前、ある新聞の依頼でそんな話を書いていて突然、キーボードをたたく手が止まりました。―俺の幸福って、実は朝鮮戦争ベトナム戦争のおかげだったんじゃないか?そう思ってしまったから。

 前者は大企業の社史にも「日本経済の復興は朝鮮特需で始まった」みたいにまとめてありますが、その当時は父がシベリア抑留されていて、わが家に直接関係はなかった。でも後者の特需は、高度経済成長の原動力でもあったはずだ。もはや顧みられもしないが…。
 それで元ベ平連・事務局長の吉川勇一さん(故人)に教えていただいたのが、トーマス・R・H・ヘイブンズ「海の向こうの火事 ベトナム戦争と日本 1965-1975」(筑摩書房)。歴史学の泰斗が、あの戦争を人ごと、としか考えていなかった平均的日本人の意識と、それとは裏腹の関係にあった米軍の兵たん基地としての振る舞い、および直接・間接特需を活写していきます。

 もちろん日本にも、70年代まではそれなりの報道も研究もありました。ただ、ある意味で純粋すぎた学生運動が、あさま山荘事件三菱重工爆破へと展開されるに及んで、この、本来は戦後日本経済の本質とされるべきテーマが、タブーにされていったように思います。
 もともとはA級戦犯として捕らわれた人物が、米国の操り人形として憲法9条の下でも戦争で儲けられる構造を築いた。その立役者の孫が絶対権力を振るう現在。万が一にも、彼一族の悲願たる改憲が果たされる日がくるとすれば、他国の悲劇を無自覚に歓迎していた意識が、今度は操る側と一体化して、積極的に戦争を仕掛けては儲ける構造へと「進化」することになるのかもしれません。

 斎藤氏の経歴を新聞ではこう紹介している。
「1958年東京都生まれ。新聞記者、週刊誌記者などを経てフリー。近著に「健太さんはなぜ死んだか―警官たちの『正義』と障害者の命」」。
 尤もwikiにはより詳しい経歴が載っており、上のコラムだけでやはりねぇ…と感じた。そもそも「繁栄は戦争のおかげ?」の一文だけで実に下らない。ナイーブぶった左翼の常套句の典型に過ぎず、日本人全体に朝鮮戦争やベトナム戦争で儲けたといった糾弾と贖罪洗脳の手段なのだ。特に南北朝鮮人が日本叩きに使う文句だが、全くの妄言に過ぎず、これを受け入れるブンヤこそ半島の操り人形そのものである。

 もちろん日本が戦争特需で儲けたのは否定しない。だが、2つの戦争で儲けなかった主要国があっただろうか?大量の武器を製造、売却していたのは米ソに限らない。
 特にベトナム戦争は韓国の経済成長の原動力になったばかりか、特に米国に命じられたわけでもないのにわざわざ参戦、ベトナム各地で虐殺と女性拉致を重ねたことは近年知られるようになっている。もちろん河北ではタブーにされている出来事だが。

 朝鮮やベトナムの戦争は共に米ソの代理戦争であり、責めるべきはこのふたつの超大国の方である。ヘイブンズの名も作品も初めて知ったが、検索しても著書「海の向こうの火事」関連でしかヒットせず、これで“歴史学の泰斗”なのか?
 どうやら戦争を人ごととしか考えていない平均的日本人の意識を、米軍の平たん基地があったことと絡め批判しているようだが、公然と武器を売り、同じく米軍基地のあった欧州諸国にとっても他人事だった。かつての日米戦争も、アフリカや中東諸国にとっては他人事だったろう。

 ベトナム戦争で騒いでいた欧州人は、これまた日本同様左翼活動家だったし、ベ平連・事務局長の吉川勇一の名も出ている。便利なことにwikiにはこの反戦団体とKGBとの関係が載っており、「脱走兵の日本脱出に事実上の援助を与えてくれるところなら、KGBだろうがスパイだろうが手を借りたいという気持ちだった」という吉川の言葉も挙げられている。
 wikiによれば吉川は1931年生まれ、「東京大学在学中に日本共産党に入党し、武装闘争を志向」した筋金入りの共産党活動家だった経歴が記載されている。そんな人物の勧める本なら、内容は察しが付くだろう。米国内の反戦団体も東側の情報組織が陰で支援していたのは書くまでもない。

道徳を破壊して敵を倒せ!/馬鹿を利用する工作員」という興味深いブログ記事がある。ソ連の工作員による対米「大衆教育」が描かれており、「口先だけの藝人とか、下品な歌手、詩人、作家、芸術家、音楽家、知識人」を様々な形で援助していたそうだ。もちろん米国も劣らず対共産圏への宣伝戦に力を入れており、それが冷戦下の世界だった。
その②に続く

◆関連記事:「ある共産主義者の死

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12 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
東アジアの赤化について (ぺろ)
2018-03-21 09:48:23
こんにちは。
先の大戦は、アジアの番長たらん、とした日本と、それを妨害しようというアメリカがぶつかった戦争でした。日本は敗けたので勝ったアメリカがアジアの番長としての責任を果たすべきです。日本は朝鮮戦争でも、ベトナム戦争でも「知ーらない。アメリカさん頑張ってね!」でいいと思います。現在の朝鮮半島問題も、日本が朝鮮から退いたせいでこうなってしまったと思います。中国の赤化も日本に打撃を与えたアメリカの責任です。
「たんと苦しむがいいさ」という余裕が日本人に持てないのは、やはりあの戦争にたいする間違った認識や贖罪意識があるからだと思います。
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軍需産業 (スポンジ頭)
2018-03-21 11:18:46
 おはようございます。

 こう言ったら何ですが、斎藤氏のコラムは「それだどうした」と言うレベルの話ですね。例えば中世日本は硫黄を宋や明に輸出していましたが、これは火薬の材料です。要するに「外国の戦争で儲けていた」のですが(笑)。中世日本の時代から批判するつもりでしょうか。
 また、日中戦争ではチェコ製の機関銃を国民党兵は使用していました。ナチス・ドイツが武器を中華民国に売却していたのは有名な話、この二国も非難するのでしょうか。日本に抵抗していた中華民国に武器を売るとはけしからん、と言う主張は見たことがありません。ナチス・ドイツの場合は非難されていますが、あれは同盟を組んでいたのに武器を中華民国に販売した点で、武器売却で儲ける事の非難ではありません。武器がないと日本に「抵抗」できないのですけど、その辺りの矛盾について斎藤氏はどう言われるつもりでしょう。

 そして、スウェーデンも韓国も武器を外国に販売していますが、その辺りはどうなのでしょうね。中国の地雷は安価なのでかつて紛争地域で多用されて被害が出ていますが、その辺りも是非批判して欲しいところです。スウェーデンの武器輸出額は人口比で見ると世界第三位でした。上はロシアとイスラエル。この二国とスウェーデンのイメージは全く異なりますし、通常、斎藤氏のような思想の方はスウェーデンを称賛されていますね(笑)。

 スウェーデンの輸出品の一つ、「サーブ 39 グリペン」様々な国が購入しています。戦争があれば更に増加することでしょう。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%96_39_%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%83%9A%E3%83%B3#%E8%BC%B8%E5%87%BA

 スウェーデンの武器輸出先に対する批判。利益には勝てないものです。
http://www.afpbb.com/articles/-/3015652
 こちらもスウェーデンの戦闘機を購入する話なのですが、この記事によるとフランスは大統領自らフランス製戦闘機の売り込みに行ったそうです。そして、戦闘機の購入が民間機の技術発展に寄与するという内容も掲載されていました。
http://www.afpbb.com/articles/-/3005338

 全然関係ありませんが、フランスの大手軍需会社ダッソーはユダヤ系の会社なんですね。
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Re:東アジアの赤化について (mugi)
2018-03-21 22:05:12
>こんばんは、ぺろ氏。

>勝ったアメリカがアジアの番長としての責任を果たすべきです。

 アメリカに限らず、地域の番長として責任を果たした覇権国があったでしょうか?近代まで常にアジアの番長として振る舞っていた中国が典型で、朝貢国に責任など取らなかった。米中ともに自国第一で、アジア主義に被れた方が愚かしい。

>中国の赤化も日本に打撃を与えたアメリカの責任です。

 中国の赤化はソ連の責任です。隣国と言うこともあり、多数のソ連工作員が中国で活動していたことが『マオ』に描かれています。リンクした「道徳を破壊して敵を倒せ!/馬鹿を利用する工作員」という記事もありますが、アメリカ中枢部も結構赤化していたし、欧州のインテリ層は心情的左翼が多かったのです。
 ソ連による革命の輸出工作もあり、イスラム圏でも共産主義活動が珍しくなく、それだけ全世界が赤化していたのです。ネルーも社会主義者を自称しています。但し、武力闘争を始めた共産主義活動は非合法化しました。

>「たんと苦しむがいいさ」という余裕が日本人に持てないのは、やはりあの戦争にたいする間違った認識や贖罪意識があるからだと思います。

 もちろん先の戦争や植民地支配に対する間違った認識や贖罪意識もありますが、朝鮮半島問題で厄介なのは周辺諸国を巻き込む半島特有の事情があるから。南北朝鮮だけでたんと苦しむなら、鼻ホジホジで笑えますが、日本国内でもテロを行うため余裕は持てません。
 それにしても、あなたも結構反米感情が強いですね。まるでサヨクみたいです(笑)。
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Re:軍需産業 (mugi)
2018-03-21 22:07:42
>こんばんは、スポンジ頭さん。

 河北のコラムにロクなものはありませんが、たまたま目に入ってしまったので読んでしまいました。仰る通り「それが何?」レベルですが、改憲を掲げる安倍政権打倒キャンペーンなのはバレバレです。wikiにもありますが、斎藤氏は「九条の会」傘下の「マスコミ九条の会」呼びかけ人を務めている人物ですよ。こんなジャーナリストの低劣コラムを載せるのが河北。
 ナチス・ドイツやチェコ以外にも中華民国、日本双方に武器売却した国はありますが、このようなケースを挙げても斎藤氏のような者は、論点ずらしをすると思います。

 スウェーデンの武器輸出額が人口比で見ると世界第三位だったとは知りませんでした。何時も興味深いサイトを紹介して頂き、ありがとうございます!ロシアはともかく、イスラエルが第二位というのは凄い。軍需産業でも世界に冠たる国なのですね。
 軍事オンチなので、スウェーデンの戦闘機名も初めて知りましたが、グリペンは英国、南アフリカ、チェコ、タイ、ハンガリーの空軍も導入していたそうでするね。日本も米国製ばかりではなく購入できればよいのに(嘆)。フランスの大手軍需会社ダッソーも初耳ですが、ユダヤ系とは興味深いものがあります。

 昨年3月、スウェーデンは徴兵制を約7年ぶりに復活させることを決定しました。対ロ脅威への対抗ですが、対象は18歳以上の男女。
http://www.sankei.com/world/news/170303/wor1703030005-n1.html

 フランスも徴兵制復活の動きがあるし、何かとスウェーデンを見習えという思想の方には困った事態になりましたね。尤も斎藤氏のような「マスコミ九条の会」の連中は、日本とスウェーデンでは事情が違うと必死に抗弁することでしょう。
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乾いた笑い (スポンジ頭)
2018-03-22 00:35:31
 これを読む限り、斎藤氏の心配は杞憂に終わるでしょう。乾いた笑いしか出ませんでした。

https://dic.pixiv.net/a/62%E5%BC%8F%E6%A9%9F%E9%96%A2%E9%8A%83
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Re:乾いた笑い (mugi)
2018-03-22 22:27:38
>スポンジ頭さん、

 恥ずかしながら、62式機関銃と云う武器は知りませんでした。陸上自衛隊に配備されていた軽機関銃だそうですが、かなり出来の悪い銃のようですね。「この欠陥は、調達開始してから終了するまでの役40年間、改善されることはなかった」の一文だけで、私も乾いた笑いしか出ませんでした。しかし、この箇所は笑えなかった。
「この銃はとある自衛隊PKO派遣の際、何丁持って行くかで大揉めし、「複数持って行くのは侵略行為」という意見が出た為、最終的には1丁だけ+大量の予備部品を持って行くことで決定したという」

 斎藤氏は実は心配するフリをして、メシの種にしているのかもしれません。今年で60歳、もう死ぬまで思想は変わらないでしょう。
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平たん基地? (トオニ)
2018-03-26 22:44:50
平たん? 兵站のことかな。
仮にもジャーナリストなら言葉は正確に使ってほしいと思う。
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Re:平たん基地? (mugi)
2018-03-27 23:44:21
>トオニさん、

 仰る通り「兵站」が正しく、記事には「兵たん」と書かれています。これは私のミスで訂正しました。お恥ずかしい。
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ボフォース (スポンジ頭)
2018-04-12 21:31:53
 こんばんは。

 こちらはスウェーデンのボフォース社が開発した対空機関砲。一番日本の航空機を撃墜したと何かで読んだ記憶があります。戦争で利益を得ている例ですね(戦争中は直接販売せずライセンス生産だったようです)。

://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%82%B9_40mm%E6%A9%9F%E9%96%A2%E7%A0%B2

 斎藤氏の思想だと、まさか、使用国が悪い、開発した国は悪くない、とは言えないでしょう。
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Re:ボフォース (mugi)
2018-04-13 21:33:06
>こんばんは、スポンジ頭さん。

 ボフォース社という兵器会社も初耳ですが、19世紀末にはあのノーベルが経営者となり、「単なる鉄工所から、研究開発に基づいた現代の大砲・化学工業メーカーに発展させることに成功した」とwikiにあります。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%82%B9

 ボフォース 40mm機関砲は、戦時中の日本でもライセンス生産が行われたそうですね。斎藤氏のような「マスコミ九条の会」呼びかけ人を務めているジャーナリストならば、平気で使用国が悪いくらい言いかねませんね。護憲運動に援助を与えてくれるところなら、中共でも北朝鮮でも構わないタイプかも。
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