逃亡者たち12
参報ヘルガ・ボルジア
「トリンガム准将。ご気分が優れないと伺いましたが」
薄暗い寝室に平気で入ってくる彼はボルジア家の嫡男ヘルガ。士官学校を同期で卒業しその後もずっと翼竜隊でともに戦っている。そういう風に言うと、戦友という言葉が即うかぶが、実のところそんな生易しい単語では言えない。ヘルガは私への長期求婚者である。
ヘルガが士官学校に入ったのは私、フレッチャー・トリンガムより2年遅い。1年生を2回も繰り返しているうちに同級生になってしまった。こういうと私が無能のようだがそれは誤解である。もともと私は大学への特別入学(年齢制限の撤廃特別枠)を求めて形式的に士官学校に入ったに過ぎない。医大を2年でクリアしてすぐ医師になった。卒業論文はシン医学検証。
順風満帆で医師か研究者になると思われた私だがその年士官学校に正式入学した。すべて、兄のために・・・・・。
思えばあのころ兄は私が医師資格を取ったことで安心していたのだろう。
これで弟の手は汚さずに済む。医師なら例え徴兵されても前線には出なくてすむ。おそらくそんな風に考えていたのだろう。
だが、私は医師資格をとった直後軍人への道を選んだ。
その結果、 めったに声を荒げたことの無い兄がいきなり怒鳴りつけて、さらにすぐに退校しろと迫ってきた。
僕の言葉なんて聞こうともしないで・・・。
だからつい答えた。
「僕の人生だ。いつまでも兄さんの思い通りには生きない!」
私は兄に守られるのでなく兄を助けたかった。
兄が軍の手を借りてしか軍に利用されてしか生きられないなら、それを助けたかった。それだけだったのに。
「准将、お疲れなのはわかりますが、部下たちが動揺しています。一度お姿だけでも見せていただけませんか」
ここでヘルガは一呼吸おいて付け加えた。
「第一、お前が姿を見せないと俺がさびしい。出て来いよ。でないと、このまま押し倒すぜ」
言ったときにはもうされていた。
有言実行というがヘルガは有言と実行の間に隙間がまったく無い。
こんな男に挨拶代わりに10年以上求婚されている。
いつもは挨拶返しに殴り返すのだが、といっても当たったのは最初の求婚の日の1発目だけで以降は100パーセント避けられている。
生前のエド兄さん(あのころはそう呼んでいた)に何か悩みでもあるのかと聞かれたが、入学早々男に結婚を申し込まれて付きまとわれて困っていますなどと言えるわけが無い!!
もちろん兄にも言えるわけが無い。副官としての、ボルジアの名は知っているだろうがどういう付き合い方をしている(されかかっている)かまでは知らない・・・知らないはずだ。
絶対に好きになれない男だが、実のところ、エルリック兄弟との別れやら、その後の兄との行き違いとか、その度にこの男の言動に救われたのは否定しない。どんな悩みも所詮意識の上でのことでその点この男(の危険)は現実だったからだ。だが、もう何もかもどうでもいい。
この男に押し倒されようと所詮はあの父によって作り出されたこの肉体だけの事だ。そんなものもうどうでもいい。
なぜって、
にいさんはぼくをすてていってしまったから。
「おい、フレッチャー、死んでいるのか」
そのとおりだと答えてやる気も無い。もうどうでもいいのだから。
しかし、普通は生きているかと聞くだろうに、貴族のお坊ちゃまのわりにこの男は気が短い。言うのとするのがほぼ同時、ひどいときには撃ち殺してから、「抵抗したら射殺する」と警告した。
戦場では頼りになる。個人戦闘家としても指揮官としても。この男の指揮下で全滅した部隊は無い。
利用できるものは何でも利用するがモットーで、部下のアメニティ向上のために温泉がほしいと言い出したと思ったら、某貴族にお願いして(脅して)部隊に寄贈させた。しかも、必要なメンテナンスは相手の貴族もちで!
そういえば、こいつが私の兄を利用しようとしないのが不思議だった。
兄に隙が無いというより、あまりの守護の完全さに利用しかねるというのが実際だったのだろう。
何しろ兄にはマスタング、アームストロングを始め、各界の大物達が微妙な距離を保ちながら常についているから。
兄自身には守られているという意識は無い。ギブアンドテイク。等価交換。だが、有形無形の悪意から兄が守られているのは事実だ。兄は25を越してもどこか透明なほどに清らかだった。ましてその後の5年間誰にも見られることも無いまま、 あぁ、兄の最後の声が忘れられない。
血を吐くような声とはあの声を言うのだ。
「見るな。俺を見るな!!」
あれから5年。
ブロッシュだけを連絡役に兄は誰にも姿も声も見せないまま生きていた。
そういえばブロッシュさんはどこに隠れたのか。
とっ捕まえて締め上げてやる予定だったのに見事に気配を消されてしまった。
今も隠れているのだろう。もう、何をする気も無いのに。
どうでもいいのに。
兄さん、あなたは僕を捨てたのだ。そんなあなたの行方など今更捜すものか。
だから、ブロッシュさんが出てきても何もする気など無い。 いや、きっと私は彼を締め上げてしまう。兄さんがこの5年苦しまなかったのか、泣いてはいなかったのか、あなたの5年を聞き出して、あなたに関する記憶をボクダケノモノニするために。
だから隠れていてもいい。いっそこのままどこかに消えてほしい。そうすれば僕は私を捨てたあなたではなく私を守っていたあなたの記憶をおいつづけられる。
「おい、ほんとにやっていいのか」
ヘルガにしては珍しい。3秒間も逡巡した。
もっともその分その後は早かった。
それをあれこれ考える気は無い。所詮体のことだ。
女なら4桁は抱いたし、いまさら男が一人増えたことぐらい何の問題にもならない。
そのつもりだったのだが、 実際問題、抱くのとはわけがまるっきり違った。
何もかも溶けていく。ヘルガの問いに何でも答えてしまう。
気がついたときにはヘルガの肩を枕代わりに兄を呼んではしゃくりあげる自分がいた。
「ふ―ん、つまり兄が誘拐でなくて失踪だったからいじけていると。しかもマスタングに反乱状をたたきつけた後で
要するにお前は兄でなく 弟である自分をかわいがってくれる兄 が欲しいわけだな」
「・・・!」
「そうだろう、兄が無事かどうか確かめようともしない。誘拐より失踪のほうが無事の可能性は高い。それなのに失踪したから兄を拒否するわけだ」
「 「僕を拒絶したのは兄さんのほうだ。僕は絶対兄さんを迎えになんかいかない」 」
何か答えようとして、記憶の底のほうでわだかまっていた言葉が出てきた。
これはいつ言った言葉だったのか。あぁそうだ。エドさんが生きていたころ、僕の手を振り払って飛び出してしまった兄さんを迎えに行くようエドさんに言われて、あの時も本当は迎えに行きたかった。それなのに、なぜ行かなかったのか。なぜ、「兄さんなんて、大嫌いだ」、あんな言葉を口にしたのか。
あの後兄さんはあの人の手に収まった。あの人の・・・。
何かがわかった気がした。兄さんが失踪あるいは誘拐(公式には殺害)されたときあの人はどこで何をしていた。行方不明の副官。彼の忠誠の対象は。今までどうして思い出しもしなかったのか。最も可能性の高い人を。それは相手があの人ならそれは誘拐ではなく失踪ですらなく世に言う 駆け落ち になってしまうから。それは兄が完全に弟たる自分を忘れたことになる。忘れる。それは捨てるよりもよほどひどいことではないだろうか。
「火葬したそうだな」
土葬が本来のアメストリスでは珍しい。感染度Dランクの伝染病患者以外を火葬にするなどめったにあることではない。
「マスタングの命令だった」
士官学校時代からこの二人は2人だけのときはマスタングへの敬称が消える。
検視したのはマスタングの戦友(共犯者)のノックス、引退した彼をわざわざ引っ張り出して押し付けた。その上で火葬された。
「きれいな死体だったと聞いた。発見から10日後の解剖でも死後硬直すらなかった」
「検視報告を見たのか」
検視の報告はマスタングに直行したはずだ。
「解剖助手はうちの援子だ」あっさりとヘルガは答える。
マスタングの情報隔離もいいかけんな物だ。
ちなみに援子とは貴族が保護あるいは援助したものを指す。ボルジア家は高名なパトロン一族だから援子は多い。アームストロング家ほどではないが。(あの家系は育て癖があるようだ)。
「内臓、血管、筋肉すべてが解剖図のように整っていた。理想的な死体に見えたそうだ。さすがに銀のトリンガムの1品だな。
本来なら注文主のバース家のものになるべきだが、マスタングは焼却命令を出した」
「え、?」
動くと腰が引き攣れた。
「うっ」
声を出す気など無かったのにうめいた。
兄に捨てられてもなお自分が生きていることを実感せざるを得ない痛み。
「注文主?」
「知りたいか?そうだな。フレッチャーが正式に準婚姻を受けたら教えてやる」
「上官命令だ。答えろ」
「涙目で言われても、迫力ゼロだな。第一この情報は公爵家のものだ」
確かにそうだ。しかし、兄のことだ。すべて知るのは自分の権利だ。
「だったら受けてやる」
「・・・・・たいしたものだな。それだけ執着があれば何でもできるだろう」
今まで、10年以上断ってきたことをあっさり受けられた。うれしいというより落胆がある。これでフレッチャーと私ヘルガ・ボルジアとの関係は変わる。対等の軍人同士の関係はおしまいになる。
これからは革命家あるいは陰謀家とその参報になる。
「ではまず、リキニウスの名をお前のものにしろ。それから宣戦布告だ」
面白くなる。最高の駒を手にしたのだから。
しばらく後に女性向け週刊誌を始めとして、リキニウス家に嫡男が現れたことが派手に宣伝された。
最高の駒の実兄がそれを見て弟を焦がれるように求めるまで後幾日か。
失踪13約束
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参報ヘルガ・ボルジア
「トリンガム准将。ご気分が優れないと伺いましたが」
薄暗い寝室に平気で入ってくる彼はボルジア家の嫡男ヘルガ。士官学校を同期で卒業しその後もずっと翼竜隊でともに戦っている。そういう風に言うと、戦友という言葉が即うかぶが、実のところそんな生易しい単語では言えない。ヘルガは私への長期求婚者である。
ヘルガが士官学校に入ったのは私、フレッチャー・トリンガムより2年遅い。1年生を2回も繰り返しているうちに同級生になってしまった。こういうと私が無能のようだがそれは誤解である。もともと私は大学への特別入学(年齢制限の撤廃特別枠)を求めて形式的に士官学校に入ったに過ぎない。医大を2年でクリアしてすぐ医師になった。卒業論文はシン医学検証。
順風満帆で医師か研究者になると思われた私だがその年士官学校に正式入学した。すべて、兄のために・・・・・。
思えばあのころ兄は私が医師資格を取ったことで安心していたのだろう。
これで弟の手は汚さずに済む。医師なら例え徴兵されても前線には出なくてすむ。おそらくそんな風に考えていたのだろう。
だが、私は医師資格をとった直後軍人への道を選んだ。
その結果、 めったに声を荒げたことの無い兄がいきなり怒鳴りつけて、さらにすぐに退校しろと迫ってきた。
僕の言葉なんて聞こうともしないで・・・。
だからつい答えた。
「僕の人生だ。いつまでも兄さんの思い通りには生きない!」
私は兄に守られるのでなく兄を助けたかった。
兄が軍の手を借りてしか軍に利用されてしか生きられないなら、それを助けたかった。それだけだったのに。
「准将、お疲れなのはわかりますが、部下たちが動揺しています。一度お姿だけでも見せていただけませんか」
ここでヘルガは一呼吸おいて付け加えた。
「第一、お前が姿を見せないと俺がさびしい。出て来いよ。でないと、このまま押し倒すぜ」
言ったときにはもうされていた。
有言実行というがヘルガは有言と実行の間に隙間がまったく無い。
こんな男に挨拶代わりに10年以上求婚されている。
いつもは挨拶返しに殴り返すのだが、といっても当たったのは最初の求婚の日の1発目だけで以降は100パーセント避けられている。
生前のエド兄さん(あのころはそう呼んでいた)に何か悩みでもあるのかと聞かれたが、入学早々男に結婚を申し込まれて付きまとわれて困っていますなどと言えるわけが無い!!
もちろん兄にも言えるわけが無い。副官としての、ボルジアの名は知っているだろうがどういう付き合い方をしている(されかかっている)かまでは知らない・・・知らないはずだ。
絶対に好きになれない男だが、実のところ、エルリック兄弟との別れやら、その後の兄との行き違いとか、その度にこの男の言動に救われたのは否定しない。どんな悩みも所詮意識の上でのことでその点この男(の危険)は現実だったからだ。だが、もう何もかもどうでもいい。
この男に押し倒されようと所詮はあの父によって作り出されたこの肉体だけの事だ。そんなものもうどうでもいい。
なぜって、
にいさんはぼくをすてていってしまったから。
「おい、フレッチャー、死んでいるのか」
そのとおりだと答えてやる気も無い。もうどうでもいいのだから。
しかし、普通は生きているかと聞くだろうに、貴族のお坊ちゃまのわりにこの男は気が短い。言うのとするのがほぼ同時、ひどいときには撃ち殺してから、「抵抗したら射殺する」と警告した。
戦場では頼りになる。個人戦闘家としても指揮官としても。この男の指揮下で全滅した部隊は無い。
利用できるものは何でも利用するがモットーで、部下のアメニティ向上のために温泉がほしいと言い出したと思ったら、某貴族にお願いして(脅して)部隊に寄贈させた。しかも、必要なメンテナンスは相手の貴族もちで!
そういえば、こいつが私の兄を利用しようとしないのが不思議だった。
兄に隙が無いというより、あまりの守護の完全さに利用しかねるというのが実際だったのだろう。
何しろ兄にはマスタング、アームストロングを始め、各界の大物達が微妙な距離を保ちながら常についているから。
兄自身には守られているという意識は無い。ギブアンドテイク。等価交換。だが、有形無形の悪意から兄が守られているのは事実だ。兄は25を越してもどこか透明なほどに清らかだった。ましてその後の5年間誰にも見られることも無いまま、 あぁ、兄の最後の声が忘れられない。
血を吐くような声とはあの声を言うのだ。
「見るな。俺を見るな!!」
あれから5年。
ブロッシュだけを連絡役に兄は誰にも姿も声も見せないまま生きていた。
そういえばブロッシュさんはどこに隠れたのか。
とっ捕まえて締め上げてやる予定だったのに見事に気配を消されてしまった。
今も隠れているのだろう。もう、何をする気も無いのに。
どうでもいいのに。
兄さん、あなたは僕を捨てたのだ。そんなあなたの行方など今更捜すものか。
だから、ブロッシュさんが出てきても何もする気など無い。 いや、きっと私は彼を締め上げてしまう。兄さんがこの5年苦しまなかったのか、泣いてはいなかったのか、あなたの5年を聞き出して、あなたに関する記憶をボクダケノモノニするために。
だから隠れていてもいい。いっそこのままどこかに消えてほしい。そうすれば僕は私を捨てたあなたではなく私を守っていたあなたの記憶をおいつづけられる。
「おい、ほんとにやっていいのか」
ヘルガにしては珍しい。3秒間も逡巡した。
もっともその分その後は早かった。
それをあれこれ考える気は無い。所詮体のことだ。
女なら4桁は抱いたし、いまさら男が一人増えたことぐらい何の問題にもならない。
そのつもりだったのだが、 実際問題、抱くのとはわけがまるっきり違った。
何もかも溶けていく。ヘルガの問いに何でも答えてしまう。
気がついたときにはヘルガの肩を枕代わりに兄を呼んではしゃくりあげる自分がいた。
「ふ―ん、つまり兄が誘拐でなくて失踪だったからいじけていると。しかもマスタングに反乱状をたたきつけた後で
要するにお前は兄でなく 弟である自分をかわいがってくれる兄 が欲しいわけだな」
「・・・!」
「そうだろう、兄が無事かどうか確かめようともしない。誘拐より失踪のほうが無事の可能性は高い。それなのに失踪したから兄を拒否するわけだ」
「 「僕を拒絶したのは兄さんのほうだ。僕は絶対兄さんを迎えになんかいかない」 」
何か答えようとして、記憶の底のほうでわだかまっていた言葉が出てきた。
これはいつ言った言葉だったのか。あぁそうだ。エドさんが生きていたころ、僕の手を振り払って飛び出してしまった兄さんを迎えに行くようエドさんに言われて、あの時も本当は迎えに行きたかった。それなのに、なぜ行かなかったのか。なぜ、「兄さんなんて、大嫌いだ」、あんな言葉を口にしたのか。
あの後兄さんはあの人の手に収まった。あの人の・・・。
何かがわかった気がした。兄さんが失踪あるいは誘拐(公式には殺害)されたときあの人はどこで何をしていた。行方不明の副官。彼の忠誠の対象は。今までどうして思い出しもしなかったのか。最も可能性の高い人を。それは相手があの人ならそれは誘拐ではなく失踪ですらなく世に言う 駆け落ち になってしまうから。それは兄が完全に弟たる自分を忘れたことになる。忘れる。それは捨てるよりもよほどひどいことではないだろうか。
「火葬したそうだな」
土葬が本来のアメストリスでは珍しい。感染度Dランクの伝染病患者以外を火葬にするなどめったにあることではない。
「マスタングの命令だった」
士官学校時代からこの二人は2人だけのときはマスタングへの敬称が消える。
検視したのはマスタングの戦友(共犯者)のノックス、引退した彼をわざわざ引っ張り出して押し付けた。その上で火葬された。
「きれいな死体だったと聞いた。発見から10日後の解剖でも死後硬直すらなかった」
「検視報告を見たのか」
検視の報告はマスタングに直行したはずだ。
「解剖助手はうちの援子だ」あっさりとヘルガは答える。
マスタングの情報隔離もいいかけんな物だ。
ちなみに援子とは貴族が保護あるいは援助したものを指す。ボルジア家は高名なパトロン一族だから援子は多い。アームストロング家ほどではないが。(あの家系は育て癖があるようだ)。
「内臓、血管、筋肉すべてが解剖図のように整っていた。理想的な死体に見えたそうだ。さすがに銀のトリンガムの1品だな。
本来なら注文主のバース家のものになるべきだが、マスタングは焼却命令を出した」
「え、?」
動くと腰が引き攣れた。
「うっ」
声を出す気など無かったのにうめいた。
兄に捨てられてもなお自分が生きていることを実感せざるを得ない痛み。
「注文主?」
「知りたいか?そうだな。フレッチャーが正式に準婚姻を受けたら教えてやる」
「上官命令だ。答えろ」
「涙目で言われても、迫力ゼロだな。第一この情報は公爵家のものだ」
確かにそうだ。しかし、兄のことだ。すべて知るのは自分の権利だ。
「だったら受けてやる」
「・・・・・たいしたものだな。それだけ執着があれば何でもできるだろう」
今まで、10年以上断ってきたことをあっさり受けられた。うれしいというより落胆がある。これでフレッチャーと私ヘルガ・ボルジアとの関係は変わる。対等の軍人同士の関係はおしまいになる。
これからは革命家あるいは陰謀家とその参報になる。
「ではまず、リキニウスの名をお前のものにしろ。それから宣戦布告だ」
面白くなる。最高の駒を手にしたのだから。
しばらく後に女性向け週刊誌を始めとして、リキニウス家に嫡男が現れたことが派手に宣伝された。
最高の駒の実兄がそれを見て弟を焦がれるように求めるまで後幾日か。
失踪13約束
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