96 ブルーベビー
この収容所には5000人が収容されている。収容所としても規模の大きいほうである。
軍の指示に従い10人100人と性別や年齢層をあわせて出荷している。
出荷された者の運命がどうなっているのか収容所の誰も知らない。
見張りの兵士の数はわずかに60人。収容所所長がイシュヴァール人を2グループに分け管理しているのも理由の無いことではなかった。
60人の兵士の中には地元に現地妻を持つ者もいる。
マスタングたちが来る半月ほど前のことである。
兵士Aはその現地妻に泣かれたばかりだった。
生後半年の赤ん坊が風土病と思われている病気で死んだ。
青の呪いと呼ばれる奇妙な病気、この10年で蔓延した。死ぬのはほとんど赤ん坊。そのためにこの土地全体に子供が減少し(砂塵の影響や水不足もある)活気の無い社会を作っていた。
兵士Aは強制収容グループのテントのある広場にいた。彼の役目は見張りである。
彼の耳に女の叫び声とむせび泣く声が聞こえた。
つい数日前彼の妻が同じ泣き方をした。
(誰か死んだのか?)
本当は見張りである自分が捕虜と口を利くのは禁止されているのだが、彼は近くにいた老人に訊いた。老人は赤ん坊が急に死んだと答えた。
青い色になって死んだと聞いたとき兵士は危うく銃を取り落としかけた。
それは彼の子供と同じだった。
一言にイシュヴァール人というが、その範囲は広い。特徴的な赤い瞳と褐色の肌の遺伝が強く出るため1つの民族と見られているが、もしその外見の特徴が無ければアメリストス社会に溶け込んだものたちはすでにイシュヴァール人としての生き方を失っている。
たとえばイシュヴァール本来の社会では何かの理由で乳が枯れた女がいる場合、まずは姉妹、次に親族のなかで乳の出るものが与えるしきたりがある。ただし、赤ん坊が男の場合だけである。
イシュヴァール社会には男女に強烈な差別がある。それは赤ん坊のころから徹底しており女の子は大地の神に母親が返す(生き埋めにする)しきたりになっている。
5000人が収容されたこの街には2人の妊婦がいた。地元グループと強制収用グループに一人ずつ。生まれたのは男1人女1人。
それぞれの母親は自分の子供のことしか知らないが、赤ん坊は2人とも同じ青い姿で死んでいた。
春風邪と俗に呼ばれる病気がある。最近の名はインフルエンザであるがこのころは正体が不明でたちの悪い風邪と見られていた。強制収容グループの母親はそれにかかり乳が枯れた。母親はむしろ当然の権利として地元グループの乳の出る女に乳を提供するよう求めた。その女の子供は女児であったから自分の男の子が優先されるのはイシュヴァール社会では当然のことなのだ。
しかしその常識は通用しなかった。
赤ん坊は早めの離乳を強制された。それでも育った。食糧不足のなかでもイシヴァールの民は男の赤ん坊を大事にしてくれた。それなのに赤ん坊はある日死んだ。
葬儀がすんでも母親は叫び続けた。兵士Aが聞いたのはそんな声だった。
その母親は暴動の直接の引き金になった最初の殺人事件を起こしていた。
ロイ・マスタングは暴動の直接の先導者だけは公開処刑を決めていた。どこかで線を引く必要があった。捕らえられた彼女は軍のなかで拘束され処刑の日まで生かされていた。
この収容所には5000人が収容されている。収容所としても規模の大きいほうである。
軍の指示に従い10人100人と性別や年齢層をあわせて出荷している。
出荷された者の運命がどうなっているのか収容所の誰も知らない。
見張りの兵士の数はわずかに60人。収容所所長がイシュヴァール人を2グループに分け管理しているのも理由の無いことではなかった。
60人の兵士の中には地元に現地妻を持つ者もいる。
マスタングたちが来る半月ほど前のことである。
兵士Aはその現地妻に泣かれたばかりだった。
生後半年の赤ん坊が風土病と思われている病気で死んだ。
青の呪いと呼ばれる奇妙な病気、この10年で蔓延した。死ぬのはほとんど赤ん坊。そのためにこの土地全体に子供が減少し(砂塵の影響や水不足もある)活気の無い社会を作っていた。
兵士Aは強制収容グループのテントのある広場にいた。彼の役目は見張りである。
彼の耳に女の叫び声とむせび泣く声が聞こえた。
つい数日前彼の妻が同じ泣き方をした。
(誰か死んだのか?)
本当は見張りである自分が捕虜と口を利くのは禁止されているのだが、彼は近くにいた老人に訊いた。老人は赤ん坊が急に死んだと答えた。
青い色になって死んだと聞いたとき兵士は危うく銃を取り落としかけた。
それは彼の子供と同じだった。
一言にイシュヴァール人というが、その範囲は広い。特徴的な赤い瞳と褐色の肌の遺伝が強く出るため1つの民族と見られているが、もしその外見の特徴が無ければアメリストス社会に溶け込んだものたちはすでにイシュヴァール人としての生き方を失っている。
たとえばイシュヴァール本来の社会では何かの理由で乳が枯れた女がいる場合、まずは姉妹、次に親族のなかで乳の出るものが与えるしきたりがある。ただし、赤ん坊が男の場合だけである。
イシュヴァール社会には男女に強烈な差別がある。それは赤ん坊のころから徹底しており女の子は大地の神に母親が返す(生き埋めにする)しきたりになっている。
5000人が収容されたこの街には2人の妊婦がいた。地元グループと強制収用グループに一人ずつ。生まれたのは男1人女1人。
それぞれの母親は自分の子供のことしか知らないが、赤ん坊は2人とも同じ青い姿で死んでいた。
春風邪と俗に呼ばれる病気がある。最近の名はインフルエンザであるがこのころは正体が不明でたちの悪い風邪と見られていた。強制収容グループの母親はそれにかかり乳が枯れた。母親はむしろ当然の権利として地元グループの乳の出る女に乳を提供するよう求めた。その女の子供は女児であったから自分の男の子が優先されるのはイシュヴァール社会では当然のことなのだ。
しかしその常識は通用しなかった。
赤ん坊は早めの離乳を強制された。それでも育った。食糧不足のなかでもイシヴァールの民は男の赤ん坊を大事にしてくれた。それなのに赤ん坊はある日死んだ。
葬儀がすんでも母親は叫び続けた。兵士Aが聞いたのはそんな声だった。
その母親は暴動の直接の引き金になった最初の殺人事件を起こしていた。
ロイ・マスタングは暴動の直接の先導者だけは公開処刑を決めていた。どこかで線を引く必要があった。捕らえられた彼女は軍のなかで拘束され処刑の日まで生かされていた。
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