ベラルーシの部屋ブログ

東欧の国ベラルーシでボランティアを行っているチロ基金の活動や、現地からの情報を日本語で紹介しています

母乳について

2011-07-31 | 放射能関連情報
 母乳について複数の方から心配するメールをいただきました。
 前にもこのブログ上でお答えしたのですが、ここで母乳に関してはまとめようと思います。
 以前いただいたご質問は「赤ちゃんに母乳をあげても大丈夫?」です。

 私としてはまずどれぐらい放射能汚染されているのか、いないのか調べてほしい、と言いたいです。それよりも1人1人授乳中のお母さんは母乳を強制的に測定するるぐらいのことを国がしてほしいぐらいです。
 放射能が見つからなければ、あげればよく、見つかったらあげなければいい話です。
 しかし、現状は「母乳の測定ができないので、子どもにあげてもいいのかどうか悩んでいる。」というところでしょう。
 
 私から言える対策としては、お母さんの体に入った放射能が母乳にいってしまうのですから、まずお母さんが放射能の被爆を受けないように努力することです。
 問題なのは食べ物です。こちらのほうが長期にわたる問題になると思います。
 しかし対策方法はあります。それはカリウムとカルシウムをお母さんがたくさんとることです。そうすると放射能のセシウムとストロンチウムが体の中に入ってきません。
 そうすれば母乳のほうにも放射能がいかなくなります。でも汚染された牛乳をカルシウム源としてお母さんが飲まないでください!

 粉ミルクに切り替えるとなると、今度は
「水道水は安全か?」
という問題が出てきて、悩ましいところです。
 水道水は活性炭を使ったフィルターを使ったら放射能を除去できる、と言う学者もいれば、いやできない、という学者もいて、私自身どっちが正しいのか分かりません。
 ベラルーシでもフィルターを開発する話があったのですが、立ち消えになってしましました。
 やはり簡単には放射能を除去できるフィルターはできないのではないかと思います。
 
 私自身の意見ですが、赤ちゃんには母乳をあげてほしいです。(ただし検査をして、放射能が母乳から検出された場合は赤ちゃんにあげないでください。)
 母乳には赤ちゃんの免疫を高める力があります。
 私が問題だと思うのは、放射能そのものの作用より、それによって免疫力が低下し、病気になりやすくなることです。 
 赤ちゃんの免疫力を高めるためにも、母乳をあげてください。そのためにもお母さんがまず被爆しないように気をつけてください。

 放射能の被爆というと、すぐ髪の毛が抜けるとか、白血病になるとか言われていますが、そのような症状で亡くなる人は実はとても少ないです。
 私が問題だと思うのは、放射能そのものの作用より、それによって免疫力が低下することです。 
 それで、簡単に病気(かぜなど)にかかり、さらに重篤化してしまいます。これが問題だと思います。

 母乳を測定するのは大切ですが、日本では基準値がゆるいのが問題です。
 ベラルーシの場合ですが、母乳は食品ではないので、食品の基準値一覧表に「母乳」という項目がありません。
 しかし母乳は「子ども向けの食品」として扱われるので、これが基準値として適用され、ベラルーシでは母乳1リットルあたり37ベクレルが基準値となっています。

 母乳の放射能濃度についのデータはベラルーシにあります。原子力資料情報室発行の「チェルノブイリ10年」と言う本にも載っています。
 ベラルーシ母子健康管理研究所、放射線生物学研究所の研究「チェルノブイリ事故後の母乳中放射能と鉛の濃度」によると、3つの汚染地域と対象地域としての非汚染地域の合計4つの地域に住む母親の母乳を調べました。
 それによるとセシウム137の濃度が、平均で1番高かったのは、非汚染地域の母乳でした。理由としては地表の汚染が低くて「非汚染地域」とされていても、土壌からの農産物へのセシウムの移行率が高かった・・・つまり食品による内部被爆です。
 もう一つの理由は「非汚染地域の住民は食品の放射能汚染への関心が低いから」です。
 皆さんはどう思われますか?
 ただし高汚染地域の母親から1リットルあたり、59.6ベクレルが検出された人もいて、この人が最高の値をこの中では記録しました。
 
 さらにセシウム137のほかストロンチウム90や鉛も全ての母乳サンプルから見つかりました。
 新生児の骨格中のストロンチウム90の濃度は妊娠中の母親の食事中の濃度の2.3倍である、と言う報告もあるそうです。
 授乳中の方も妊娠中の方も食事にはくれぐれも気をつけてください。 

 放射能が含まれる母乳をあげてしまった場合のその後の影響については、ベラルーシではちゃんとしたデータはたぶんないと思います。
 それは具体的に詳しく研究している人がいないからです。そもそも被験者になる人をたくさん集めないといけませんが、心情的に考えて、承諾するお母さんは少ないでしょう。
 後になって
「ほら、あんたが母乳をあげたから、10年後子どもがこんな病気になった。」
というようなことを実験データの結果として、つきつけられるかもしれないからです。
 
 研究そのものも難しいです。上記の風邪がこじれて死んだ、というようなケースも被爆のせいだとするのかしないのかも議論されるでしょう。
 母乳が子どもに与える影響は未知数です。
 しかし言えるのは、できるかぎりお母さんが被爆しないようにして、放射能の入っていない母乳を赤ちゃんにあげるのが、一番だ、ということです。

 それとできるかぎり測定をしてください。そうすれば対策方法も見えてきます。
 (ただ、検査に2万円とか3万円とかするそうですね。少子化に歯止めをかけよう!と国が叫んでいる中で、こんな事故が起きたのですから、もっと国が母親と子どもをケアしてほしいです。子どもを国の宝と思ってほしいです。母乳の検査なんか国が費用を出して、全て無料にすべきと思います。)

 ただし、日本の母乳の基準値は1キロあたり200ベクレルです。(基準が変わっていたらすみません。)ゆるすぎます。
 ですから検査をして、その結果を「大丈夫です。」と言われるだけではなく、具体的にどれだけのベクレルだったのか、きちんと教えてもらってください。
 「大丈夫です。」と言われても、その数値が「199ベクレル」だったらどうしますか?
 私だったら自分の子どもにこのような母乳はあげたくないです。

 ちなみにベルラド研究所では1リットルあたり37ベクレルというベラルーシが決めた基準値すら「ゆるい」と批判しています。
 
 精神的にもつらい、と言うお母さんたちのためにも、授乳中一時的に避難するのも、私はいいことだと思っています。

先天性の異常

2011-07-31 | 放射能関連情報
 5月14日付の記事「低レベルの放射能でも危険があります」でも少し触れましたが、先天性の異常についてです。

http://blog.goo.ne.jp/nbjc/e/2ac51efe091604740fad16a57e40b92f


 チェルノブイリ原発事故が起きた後、先天性の異常を持った子どもが放射能汚染地域でたくさん生まれたらしいが、これから日本で出産してもいいのかどうか悩む方々からのメールが届いています。 
 1996年に原子力資料情報室が発行した「チェルノブイリ10年」という本にベラルーシ遺伝疾患研究所、広島大学原爆放射能医学研究所による「事故後のベラルーシにおける先天性胎児障害」という報告が載っています。

 1986年の事故後、この年は確かにべラルーシで中絶する人が増えました。しかしもともとベラルーシは中絶の件数が多い国です。(理由の多くは、経済的に育てられない、望まない妊娠だった、中絶手術費用が無料か、あるいはとても安いことが多い・・・などです。)
 放射能の影響を恐れて、中絶したという人も1986年にはもちろんいました。
 そのため、本来なら異常を持って生まれてきたはずの子どもが、生まれないことになったので、誕生した子どもだけを対象にして、先天性異常の発生の割合を計算すると、それはあまり正しくないのではないか、という指摘があります。

 ベラルーシの遺伝疾患研究所はそういうことを踏まえ、中絶された胎児をサンプルとして集め、顕微鏡で観察し、異常があるかどうか調べました。
 その結果、事故前のミンスク市の調査結果を基準にすると、放射能汚染地域では胎児の異常が、1986年後半から1992年までの調査結果の場合、有意に5%増加していました。
 多く見られたのは口唇裂、口蓋裂、腎臓異常、尿管異常、多指症だそうです。

 事故後生まれた新生児については高汚染地域(セシウム137が1平方キロあたり15キュリー以上)で先天性の異常が増えました。事故前と比べ79%増えています。
 また高汚染地域では1987年と88年に発生のピークがありましたが、他の地域ではピークはなかったそうです。
 特に増加したのは多指症、複合的形成不全症だそうです。

 1986年12月から1987年2月に生まれた子どもは、事故発生時は胎児だったはずです。しかし他の時期に生まれた子どもと比べて先天性障害はほとんど増えていません。つまり原発事故が起きたとしても、胎児には放射能はあまり影響を与えない、ということです。
(ただ妊娠期間のごくごく初期だった場合は放射能により胎児が影響を受ける可能性があります。)

 胎児のときに母親の体内で被曝するよりも、事故が起こってしばらくしてから、被曝した親の生殖細胞が突然変異を起こすと、より遺伝的影響として先天性の異常が子どもに現れるのではないか? とも言われています。しかしはっきりしないことも多いです。

 私の意見ですが、以上のベラルーシでのデータがそのまま日本のケースとして当てはまると仮定すると、今妊娠されている方が、放射能を心配するあまり「障害児を生みたくないから。」とあわてて中絶されるのは、やめておいたほうがいいと思います。
 それよりも、これから妊娠される方(特にここ1、2年の間)のほうが、妊娠中の経過を注視するほうがいいと思います。


 同じく原子力資料情報室が2006年に発行した「チェルノブイリを見つめなおす・20年後のメッセージ」という本には「遺伝的影響と胎内被曝影響」という記事があります。

 ベラルーシ先天性疾患研究所によると、1987年1月にダウン症の子どもが急激に増え、その後またピークが1990年5月に起きた、とあります。
 つまり1987年1月生まれの新生児ということは(早産の可能性もありますが)1986年4月の事故当時、母親はごく初期の妊娠時期だったと思われます。
 その後急に起きた1990年5月のピークですが、これは事故発生からほぼ4年目です。どうして急にこの時期だけ増えたのか説明はありませんでした。
(事故当時ハイティーンだった年齢の子どもが成人して、出産した結果ではないか、という意見もありますが、このデータだけでは出産したときの年齢が分からないので、何とも言えません。)

 また先天性の障害は放射能に関係なくても起こり、その頻度は6%、とあります。つまりもし、日本で今後
「放射能被曝のせいでうちの子が異常を持って生まれた。賠償してほしい。」
と訴えるケースが出てきても、放射能との関連性は不確定であるとされ、賠償など受けられない可能性のほうが高いと思われます。

 1996年に読売新聞の記者と同行してベラルーシ遺伝疾患研究所の所長さんとお話したときには、
新生児1000人当たりの先天性異常の発生頻度を平均し、グループを「1982年から85年生まれ」と「1987年から1995年生まれ」に分けて推移を調べると、
放射能汚染度が1平方キロメートルあたり「15キュリー以上」の地域だと、3.87から7.07に増えていました。
 「1-5キュリー」の地域では4.57から6.90に、「非汚染地域」とされている地域でも3.90から5.84に増えていました。

 つまりだいたい1.5倍から1.8倍ぐらいに増えていることになるのですが、気になるのは「非汚染地域」でも1.5倍ほど増えている点です。
 これは汚染地域に住んでいなくても、汚染された食品を食べていてはいけない(自分から生まれる子どもに影響が出るかもしれない)ということだと思います。
 
 以上のようなことを読まれると、心配になってしまう人もいると思います。
 しかし、、障害によってはもともとの発生頻度が少ないものもありますから、それがあなたのお子さんに発生する可能性が放射能のせいで発生頻度が2倍になるとしても、確率で言うとかなり少ないほうだと思います。
 つまり今まで1000人に1人の割合で生まれていた先天性の異常が、1000人に2人の割合になったとします。数字だけ見ると倍増していることになります。倍増、と聞くと何だか深刻な感じがしますが、1000人中999人が健康に生まれてきたのが、998人になるだけの話です。
 こうして見方を変えると、そんなに違いはないな、と感じます。そして心配して、子どもを生むのはやめよう、と思うのはやめておいたほうがいいと、私は思います。

 また以上のデータはベラルーシの場合であって、日本にそのまま当てはまるとは限りません。
 チェルノブイリ原発事故が起きたとき、ロシア人の間では
「ベラルーシ人はこれからどんどん死んでいく。ベラルーシ民族は滅亡する。」
と言われました。
 実際には事故が起きて5年後には独立国家をつくり、今も滅亡することなくちゃんと国も民族も存続しています。
 私も日本民族が原発のせいで滅亡するとは思いません。
 
 さらに日本のほうが医学が進んでいますから、もし障害のあるお子さんが生まれても、障害の種類によってはきれいに整形手術(多指症の場合、余分な指を切除したりする)して、治ったりする場合もあるわけです。
 ですので、「将来子どもを生んでいいものかどうか。」と若いご夫婦が悩んでいたりしますが、あまり深刻に考えすぎないほうが(精神的にも)いいかと思います。

 しかしながら、障害児より健康な子どもを生みたい、と思う人の気持ちもよく分かります。
 とにかく今は親になる世代が被曝しないように注意し、対策をとっておくほうがいいと思います。
 それからベラルーシの場合、先天性の異常だけが問題になっているわけではありませんから、とにかく被曝を最小限にするように気をつけてください。