やぎの宇宙ブログ

宇宙の最新情報ヽ( ・◇・)人(・◇・ )ノ世界の愛と平和

世界をリードするIKAROSの画期的成果

2011-01-30 04:06:04 | 最新ニュース
小型ソーラー電力セイル実試機IKAROSの定常運用が終了し、その成果が報告されました。
それを少しだけ紹介しようと思います。

光には、実は圧力があります。
そのため太陽光が面に当たると、そこに力が発生します。
これを人工衛星の推進力として利用する試みは、世界中で始まっていますが、IKAROSは世界に先駆けてソーラーセイルによる宇宙空間での加速に成功しました。
光による圧力はとても小さいので、非常に広くて軽い帆が必要です。
その形状から宇宙ヨットとも呼ばれ、将来的には惑星探査、さらには星間飛行へと夢が膨らみます。
20世紀にはSFの技術だったソーラーセイルは、日本によってついに実現したわけです。

それだけではありません。
IKAROSのソーラーセイルは加速だけでなく、姿勢制御を行うこともでき、それらの運用を惑星間空間で行っており、将来を見据えたかなり実践的なミッションです。
さらに科学機器を使った探査が行われ、世界初のソーラーセイル探査機となりました。


まずは技術面。

何よりも大型の帆を広げなくては始まりませんが、打ち上げの際には小さく畳んでおく必要があるので、宇宙空間で展開しなければなりません。
IKAROSでは、折り畳んだ膜面を、スピンによる遠心力で展開する方法を取りました。
展開の様子はカメラで撮影され、展開後には分離カメラで膜面全体が撮影されました。
その結果、正常に展開できたことが確認されました。

さらに、IKAROSの帆には太陽電池パネルも貼り付けられており、電力を発生することができます。
これも正常に発電できることが確認されました。
日本は将来的に、光圧による推進力と、電力を利用したイオンエンジンとを組み合わせたハイブリッド推進を目指しており、帆を光圧を受けるためだけではなく、発電にも使ってしまおうというユニークな発想です。

そして、肝心の光圧による推力が得られたことが確認され、世界初のソーラーセイルの実現となりました。
膜面展開を行った6月からゆっくり加速し、11月の時点では累積加速量が100m/sに達しました。
時速に直すと360km/hです。
光の圧力だけで(!)、静止した状態から最新型の新幹線と同じ速度まで加速するのと同じだけの加速量です。

加速だけではありません。
IKAROSはソーラーセイルを使って機体を傾かせ、姿勢制御も行うことができます。
IKAROSの帆には光を反射する性質を変化させる液晶デバイスがついており、部分的にかかる力を変化することで、帆を自在に傾かせることができます。
帆を傾かせることで、光を反射する方向が変わり、加速の方向を変えることができます。
こうしたユニークで実践的な技術も、高い精度で実現することができました。
この結果、金星探査機「あかつき」が金星に接近した翌日の12月8日、IKAROSは金星から8万kmの距離をフライバイすることに成功しました。
もちろんソーラーセイルによる惑星フライバイは世界初です。
金星の姿を撮影することにも成功しました。

ソーラーセイルの他にも、新しい技術の検証が行われました。
その一つがVLBI計測用マルチトーン送信機です。
人工衛星の運用には、人工衛星から送られてくる電波をもとに衛星の軌道を精確に測定することが重要です。
特に惑星探査では、地球から探査機までの距離が遠いため、より高精度の軌道決定が必要になります。
これを可能にするのが、地上の複数の電波望遠鏡で同時観測を行うVLBIを用いたDDOR技術です。
IKAROSが搭載した送信機を用いることによって、「あかつき」等と比べると20倍の精度で軌道決定を行うことができることが確認されました。


さらに科学的成果もあげています。

ガンマ線バースト偏光検出器(GAP)は、ガンマ線バーストから放射された偏光を観測する初めての検出器です。
ガンマ線バーストは、最期を迎えた大質量星が起こす宇宙最大規模の爆発現象ですが、偏光を観測することによって、発生している磁場を測定することができ、ガンマ線バーストのメカニズムの解明に大いに貢献するはずです。
さらに、ガンマ線バーストの位置の特定は非常に難しく、離れた複数の地点で同時観測することによって、観測された時刻のわずかなずれによってガンマ線がやってくる方向を推定しています。
そのため、より遠い距離が離れた地点から観測できれば、ガンマ線の到達時刻の差が大きくなり、位置をより高精度に特定することができます。
これまでのガンマ線観測衛星は、地球を回る軌道にありました。
一方IKAROSは地球から遠く離れた惑星間空間にあるため、地上や地球を回る軌道上からの観測と同時に観測を行うことで、これまでにない高い精度で方向を特定することができ、ガンマ線バーストの発生源となる天体を特定するのに役立つはずです。

そしてもう一つ大きな成果を出しているのが、大面積薄膜ダスト検出アレイ(ALDN)です。
これはIKAROSの大きな帆を利用して、宇宙空間に漂う塵を検出するものです。
宇宙空間にある実際の塵の量は、探査機が直接観測しないとなかなかわからないものです。
面積の広い検出器を使うことで、これまでの探査機が観測した量とは桁違いの多くの塵を検出することに成功しました。
IKAROSによって、金星軌道と地球軌道との間の領域における塵の分布が、非常に高い精度で測定されました。


IKAROSの運用は、これから後期運用へと進みます。
さらなる成果が期待されるとともに、これまでの成果を生かした新しい探査機の開発にもますます期待が膨らみます。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿