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【まとめ】「あかつき」軌道投入失敗と今後

2010-12-08 23:26:47 | あかつき関連
こんばんは。
金星探査機「あかつき」は、昨日金星の周りを回る軌道へ乗るためのエンジン噴射を行いましたが、残念ながら予定の軌道に乗ることができませんでした。

今日も出張先から携帯で最新情報を配信してきましたが、さすがに仕事のテンションも下がりました。

現在失敗の原因究明と今後の運用についての検討が行われていますが、ここで昨日からの動きと現状について、まとめてみます。
出張先から帰宅中ですが、携帯から投稿。
(さらに今夜行われた会見の内容を含めて、加筆しました)



1. 金星周回軌道投入について

日本初の金星探査機「あかつき」は、金星の周りを回る軌道から、金星の詳しい探査を行う予定です。これまで惑星間飛行を続け、昨日金星に到達しました。しかし、金星の重力圏の外側からやってきた「あかつき」はそのままだと金星でターンして双曲線軌道を描いて重力圏を飛び出してしまいます。そのため金星最接近時の前後で、脱出速度(重力圏を出る速度)よりも遅い速度にまで減速し、楕円軌道に乗せなければなりません。そのため、エンジン(セラミックスラスタ)を逆噴射する必要がありました。
金星に最も接近するのが昨日の午前9時。その前後の8:49から9:01の12分間、予定では噴射が行われることになっていました。しかし8:50から9:12にかけて、「あかつき」は地球から見て金星の裏側に回り込むため、一時的に通信ができない状態になります。そのため、地上からの指令を受けた後、自動シークエンスによってエンジン噴射が行われます。
まず、8:49に正常に噴射が開始されたことは確認されていました。しかしその後については、通信トラブルのため確認できない状態が続いていました。
ただし、実際に軌道修正に成功したかどうかは、最終的に軌道を精密に測定して初めて判断されます。これには探査機からの電波の到達時間(距離が分かります)と周波数のズレ(視線速度が分かります、ドップラーシフトという現象です)を繰り返し測定し、精密な軌道を割り出します。
軌道の決定にも時間を要しましたが、今日5時頃に得られた軌道決定情報を基に、最終的に予定の軌道に乗れなかったことが確認されました。
またのちの確認で、エンジン噴射時間が予定の1/4前後で終わってしまったことが分かりました。下で改めて説明しますが、何らかのトラブルにより、自らセーフホールドモードに切り替え、その際に噴射も中断されたようです。とにかく噴射時間が短かったために、減速が不十分となり、金星を離れてしまう軌道となってしまいました。



2. 「あかつき」との通信状態について

先に説明したように、地球から見えない金星の裏側に入っている間は通信が一時遮断されます。しかし9:12に再び地球から見える位置に出てから、計画では速やかに通信が再開されるはずでした。しかし実際には通信が回復せず、10:29にようやく「あかつき」の電波を受信することができました。
また、本来は中利得アンテナを使った通信が開始される予定でしたが、受信したのは低利得アンテナからの電波でした。「あかつき」には低・中・高利得アンテナの3種類のアンテナが搭載されています。それぞれの通信速度は8bps、512bps、32kbpsで、高利得アンテナは低利得アンテナよりも4000倍のスピードでデータをやり取りできます。その反面、高利得アンテナはパラボラを向けた方向しか通信を行えません。一方低利得アンテナは広い角度で通信が可能です。
本来は中利得アンテナで通信を確立し、高利得アンテナを地球に向ける姿勢制御を行う予定でした。ところが姿勢が悪く中利得アンテナでの通信ができなかったため、10:03頃に低利得アンテナに切り替わったようです。低利得アンテナは広い角度をカバーできるので、姿勢が不安定でも通信することができました。
しかしその後も中利得アンテナによる通信の確立はできませんでした。中利得アンテナからの電波は10分周期で変動し、これは探査機が10分周期の回転をしているためと考えられました。そのため中利得アンテナが地球を向くのは10分に一回40秒間だけで、回転運動が止まらない限り、中利得アンテナでの通信は困難です。
また、当初探査機の位置が推定よりややずれていたため、これを修正したところ、地球からの指令にもある程度応答はするようになったようです。
リアクションホイールを使った姿勢制御を試みましたがうまくいかず、低利得アンテナを使って情報収集を行う方針となりました。
その後再度試みたところ姿勢制御に成功したようです。これにより最終的には今日8:25に高利得アンテナでの通信確立に成功し、現在も維持されています。



3. 「あかつき」本体の状態について

先に説明したように、「あかつき」は高利得アンテナとスラスタを通る軸を中心に回転を続けていました。何らかの原因でセーフホールドモードに入っていたと考えられます。
通信が回復し、テレメトリデータを収集することができましたが、その結果各種機器に今のところ明らかな異常はないようです。
また既に説明したように現在は高利得アンテナを地球に向けた姿勢を保っています。
また、取得したデータから、エンジン噴射開始後の「あかつき」の様子が少しずつ明らかになってきました。「あかつき」の姿勢は噴射開始からしばらくは安定していましたが、開始から2分23秒後の8:51:23、突然X軸を中心に5秒で1回転するというとんでもない速さの回転運動を始めました。X軸とは、カメラ等が取り付けられている面に垂直な軸で、スラスタの軸(Z軸)に垂直です。そのため、そのまま噴射を続けると、探査機は大きく揺さぶられることになります。その急激な姿勢の変化の直後で姿勢データは途切れてしまっており、セーフホールドモードに入ってデータの書き込みが中断されたためだと思われます。つまり、エンジン噴射中に何らかのトラブルに見舞われて急激に姿勢が変化した結果、自らセーフホールドモードに切り替えたと思われます。



4. 「あかつき」の今後の運用

金星を離れてしまった今、もう一度エンジン噴射を行って軌道修正しようとしても、燃料が足らず不可能です。金星に最も接近した時期に修正を行うことで、最小限の燃料で軌道を変えることができるのですが、今となっては軌道の修正には莫大なエネルギーが必要です。そのため今回の軌道投入は最終的に失敗と結論付けられたわけです。
しかし今の軌道だと、2016年末に金星に再び接近することができます。その際には今の軌道だと金星に最も接近するときの距離がやや遠いため、金星へ向かう途中に一度軌道を修正した上で、再度金星接近時に軌道投入作業を行うことになります。
ただし再度金星を目指すには財源や人材が長期間に渡って必要となります。その頃には機器もやや時代遅れとなっているはずです。実際に再度チャレンジするのか検討が行われています。
また失敗の原因究明も必要です。再チャレンジするならなおさらです。また、将来の探査計画にもその教訓を生かさなければなりません。
とは言え、セラミックスラスタによる航行等、将来の日本の宇宙開発にとって有用な成果もありました。今回の失敗を失敗として終わらせず、次へと繋げることこそ重要だと思います。

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