新型コロナウイルスと経済対策―消費税引き下げ、現金給付、商品券―
和洋女子大学・山下景秋
最近の日本では上記のテーマが重要になってきたので書いてみました。皆さんの議論のたたき台として使っていただければ幸いです。
なお、( )内の日付は、関連した内容を私のツイート「山下景秋@kageyamashita」に掲載した日を表わしています。
1.新型コロナウイルスの拡大と経済
当初、自国経済の維持を優先した結果、入国制限などの対策を早期にとらなかった(日本やイタリアなど)ことが、国内における新型コロナウイルスの拡がりを許してしまった。また、経済の急速な悪化を恐れて、経済を優先して非常事態宣言の発令などの感染症対策が後手になったこともある。結局、感染症対策よりも経済を優先する結果、逆にますます経済が悪化することになった。
感染症の拡がりにより経済が悪化し、そして経済が悪化すると感染症がさらに拡大するという悪循環になる。感染症が拡がると外出が控えられ消費が抑制されるので経済が悪化し、経済が悪化して経済的に苦しい人々が増えると十分な治療が受けられなくなるし、栄養状態が悪化して免疫機能が低下するため感染症がさらに拡がるからである。
この悪循環を断ち切るために、感染症の拡がりを断ち切る対策をとりつつ、経済の悪化を防ぐ対策も同時に行わなければならない。
2.感染症拡大下の経済対策
(1)国債発行による政府支出
政府が国債を発行して国民の余剰資金を吸収し、その資金で企業など事業を行っている組織や個人に対する経済的支援を行うことが必要になっている。
また新型コロナウイルス危機を根本的に解決するには治療薬と正確で迅速な検査技術(最後の5参照)の研究開発が必要である。それに加えて、医療施設を充実し、医療設備・機械(新型コロナウイルスの重症感染者の治療に必要な人工呼吸器やECMOなど)、防護服、マスク、消毒薬などの生産を増やすことも必要である。これらの生産を促すために、政府は適当な企業を選んでこれらの製品の製造を要請するか命ずるべきであり、これらの全てには巨額の資金(設備投資を支援する資金や、将来製品が売れ残った場合政府がその量を全量買い取るための資金)の援助が必要となる。(3月28日)
(これらの企業へ民間資金を融通する貸出や投資などによる民間からの支援も必要である。拙稿「コロナ研究投資信託」(3月20日の私のブログ「逍遥日記 山下景秋」)参照)
(2)企業支援と個人支援
政府は経済的に困窮する企業などの組織を経済的に支援すると同時に、経済的に困窮する個人をも経済的に支援しなくてはならない。
各国は金融緩和をさらに進め、資金融通の面でも経営が悪化する企業などに対する支援を行いつつある。
(3)個人に対する経済的支援
対象者
以下で専ら対象にしている人達は、新型コロナウイルスの影響により失業したり賃金が減るなどして収入が低下した人達と、もともと低収入でこの危機によりさらに困窮度が増している人達である(以下では、これらの人達を経済的困窮者と称することにする)。彼らこそ、危機時に支援すべき人達だからである。また、実際問題としても、財政の制約のために、影響の程度がそれほどではない人達に対する経済的支援の余裕はないかもしれない(ただし、これらの人達に対する財政支出により消費が刺激する可能性はある)。
消費税減税か現金給付か商品券か?
個人に対する経済的支援としては、消費税を軽減する方法や、政府が各個人に現金を支給する方法や、政府が各個人に商品券(本稿では受給券と称する。後述)を渡す方法などがある。
これらの方法には効果があるかどうか問題点があるかどうかが重要であるのは勿論である。その他のポイントとして、これらの方法によって、経済的支援の対象者が絞れるか、支援の程度を決めることができるか、支援金をどの用途に使用するか(使用用途)、いつ使用するか(使用時期)、どこで使用するか(使用場所)などを決めることができるか、あるいは自由なのかも比較しなくてはならない。
①消費税(付加価値税)の引き下げ
メリット―消費の刺激
一般に、消費税減税(あるいは消費税を0にする)は消費を刺激する。
日本では、2019年10月1日から消費税率が8%から10%に引き上げられた。しかし、(酒や外食以外の)飲食料品には8%の軽減税率が適用されている。
仮に消費税率がたとえば8%から5%に3%引き下げられる場合を具体的な数値例でみてみよう。
[(例)
1個1,000円の食品があるとする。
消費税率が8%とすると消費税額は80円。このとき、この食品の消費税を含む販売価格は1080円(=1,000円+80円)。消費者はこの消費税額80円(と本来の販売価格1,000円)を小売店に支払い、小売店はこの受け取った消費税額80円を税務署に納める。(小売店の1個当たりの売上収入は1,000円)
消費税率が5%に下がると消費税額は50円。このとき、この食品の消費税を含む販売価格は1050円(=1,000円+50円)。消費者はこの消費税額50円(と本来の販売価格1,000円)を小売店に支払い、小売店はこの受け取った消費税額50円を税務署に納める。(小売店の1個当たりの売上収入は1,000円)
消費税率が(8%から5%に)3%(=8%-5%)下がると、消費者の消費税支払額が30円(=80円-50円)減少し、小売店が税務署に納める消費税額も30円減少する。(この結果、政府[税務署]の消費税の徴収額も30円減少する)(このことは、政府が小売店から元の消費税80円を受け取る一方、30円の補助金を小売店に渡すことと実質的に同じであると考えることもできる)
消費税を含む販売価格が1,080円から1,050円に下がるので、消費者はこの食品の購入数を増やす可能性がある。もし2倍の2個買うようになったとすれば、小売店の売上収入は、2倍の2,000円(=1,000円×2)に増える。
結局、消費税が下がると、消費者の消費税の負担が軽くなるうえに、消費税を含む販売価格が下がるため消費者の購入数(小売店の販売数)が増えるので小売店の売上収入が増える可能性があることになる。
反面政府の消費税徴収額が減少するので、消費税の引き下げは、政府が税収を減らす犠牲を払って、消費者の税負担を軽くし、小売店の売上を増やす効果があることになる。
後で述べる現金給付は一部貯蓄(将来の消費のために現在消費しないおカネ)にまわる可能性があるが、消費税減税は消費を増やす効果が大きいところが異なる(ただし、高額商品の場合は後述参照。また外出規制の下では、その分消費刺激効果が小さくなる可能性がある。それを防ぐためには、宅配とセットにする方が良い。後述)。
対象
消費税の引き下げは、経済を刺激するためには一律に引き下げるのが好ましい。しかし、社会的必要性や財政上の観点からは、経済的困窮者(前述)を対象に、必需財(必須の食料・食品、日用品など)に限定しその範囲内で行うのが好ましい。 (3月26日)
デメリット
高額商品に関しては、消費税の引き下げを実施する前と復活引き上げ後に消費が抑制される可能性がある。消費税の引き下げが予想される場合は、人々は引き下げ後に買おうとして引き下げ前は買うことを控えるし、消費税が再び元の水準まで上がることが予想される場合は、その引き上げ前に多く買うので引き上げ後にはその分買わなくなるからである。
ただし、最低限の生活に必須の(高額商品以外の)食料品(米・パンなど)や日用品(石鹸、タオルなど)は、毎日買わざるを得ないからそのような問題点はない。すなわち、食料品や日用品に関しては消費税引き下げの効果がある。(3月23日)
なお一般に、消費税の引き下げは、復活引き上げ時に国民の反発をかう可能性がある。
消費税の引き下げは、消費者(支援対象者)にとって商品の購入価格がその分安くなるという効果があるが、金額の大きい現金給付に比べれば、支援対象者が受ける恩恵度は低いかもしれない。もちろん、消費税引き下げと現金給付を合わせて行えば、効果は大きい。
方法1-食料品や日用品の一律引き下げ
食品や日用品の消費税を一律に引き下げる。
経済的困窮者にとって必要な商品である食料品や日用品の消費税を引き下げることによって、彼らの困窮を軽減させる。この方法は対象者を限定しないので簡単な方法であるが、経済的に困窮していない人達も恩恵を受ける。政府にとって消費税収入がその分減少するが、消費増の効果は広範な人達を対象にするので(経済的困窮者のみを対象にする場合に比べ)大きい。
方法2-消費税引き下げ券
消費税引き下げの恩恵を受ける人達を経済的困窮者に限りたい。また収入低下幅の大きい人達や収入の水準が低い人達には、その程度に応じてより多く消費税を引き下げたい。対象商品を限定したい。そして消費税引き下げ期間を限定したい。
このような政策的意図を含める場合は、消費税引き下げの1つの方法として、各個人に(引き下げる消費税額に相当する割引が可能な)消費税引き下げ券(たとえば、消費税3%引き券や4%引き券など)を配布するという方法がある。
消費税引き下げの恩恵を受ける人達を経済的困窮者に限る場合は、その条件に該当する人達のみにこの券を配布する。消費税引き下げ券を保有する者は、販売側に対するその提示により対象者であることを示すことができる。
収入低下幅の大きい人達や収入の水準が低い人達には、その程度に応じてより多くの消費税引き下げ券を渡すこともできる。
使用用途を食料品や日用品に限りたい場合は、この引き下げ券の使用をこれらの商品に限定するようにすればよい。
この券を受け取った人達が買い物のために外出するのを控えるべきだというのならば、宅配による購入のみに使用できるという条件がついた消費税引き下げ券を配布する。(3月24日) また、この券の使用期間を券面に表示することによって、その使用期間を限ることもできる。
この券を消費者から受け取った商店に対して、政府は引き下げた消費税に相当する金額を補助金として支給する。
実際問題として、このような消費税引き下げ券を商店で提示する際、心理的な障害がある可能性はある。
なお、このような消費税引き下げ券は、実質的に割引の条件がついた商品券(クーポン券)であるといえる。したがって、以下の③で述べる受給券(商品券)で代用できる可能性もある。
方法3-キャッシュレス
商品購入代金をクレジットカードなどキャッシュレス(現金を使わない支払い)で支払う場合はどうなるか。
(クレジット―カードの場合)
仮に消費税率が8%から5%に3%引き下げられる場合(前の例と同じ)を具体的な数値例でみてみよう。
[(例)
消費者がクレジットカードを使って商品を購入する時、30円分安く買えることになる(現実には、消費者がカード会社に支払う金額が30円少なくなる)。
カード会社は小売店に対してこの消費者の購入代金1,080円を支払う(この消費者のために立て替える)。後にカード会社は消費者から1,050円のおカネを受け取るが、カード会社は不足する30円(=1,080円-1,050円)を国から受け取る。
国は小売店から8%の消費税額80円を受け取るが、カード会社に30円(補助金として)を支払うので、結局実質的に政府の税収額は50円(=80円-30円)となる。国は30円ぶん徴収する税収が減少したことになる。]
このような仕組みを利用する場合は、まず対象者はカード会社に対象者であることを申請する必要がある。
一定の上限金額内という制約条件のもとで、カード会社は、カード保有者のカード使用による消費金額のうち消費税減税額(たとえば3%なら、本来の販売価格×0,03)を計算し、カード保有者に対する請求額はこの消費税減税額を差し引いた金額となる。そしてカード会社は、この消費税減税額に相当する金額を政府から補助金として受け取る。
対象商品が、たとえば食料品(米・パンなど)や日用品(石鹸、タオルなど)であるとする場合、カード会社に来る商品購入情報のうちどれが食料品や日用品であるか明確に区別できないかもしれない。その場合は、カード保有者が小売店で食料品や日用品を購入するときのみその消費税引き下げ額(と商品情報)をカード会社に伝えればよい。
対象者を経済的困窮者に限る場合は、収入低下幅の大きい人達や収入の水準が低い人達に対して、その程度に応じて減税率を引き上げることができる。また消費税引き下げ期間を限定したい場合は、カードによる減税適用期間を決めてやればよい。
(デビッドカードの場合)
消費者が購入すると、消費者の預金口座から即時に支払いが行われるデビッドカードのようなカードの場合はどうなるか。
一定の上限金額内という制約条件のもとで、小売店は、カード保有者のカード使用による消費金額のうち消費税減税額(たとえば3%なら、本来の販売価格×0,03)を計算し、カード保有者の預金口座からその消費税減税額を差し引いた金額を受け取る。そして小売店は、この消費税減税額に相当する金額を差し引いた消費税額を政府に支払う。
対象商品が、食料品や日用品であるとする場合、カード保有者が小売店で食料品や日用品を購入するときのみレジで消費税減税額を計算する。
対象者を経済的困窮者に限る場合は、収入低下幅の大きい人達や収入の水準が低い人達に対して、その程度に応じて減税率を引き上げることができる。また消費税引き下げ期間を限定したい場合は、カードによる減税適用期間を決めてやればよい。
その他
消費者が買い物のために外出することを制限したい場合は、消費税引き下げ券やカードによる使用を宅配による購入に限る必要がある。
地元の小規模な商店の経営を維持するためには、宅配商品を地元の商店から購入するという制約を設ける方がよい。
消費税引き下げ券の場合は、券面に以上のような条件を記載することができる。
②現金給付
メリット
各個人に対する政府による現金給付がその対象者を経済的困窮者に絞る場合は、収入低下幅の大きい人達や収入の水準が低い人達に対して、その程度に応じて給付する現金を増やすことができる。
現金給付の場合は、受給した現金の使用用途と使用時期そして使用場所を個人の自由に任せることができる。ただし、現金給付の時期を分けることによって使用時期を政府がある程度管理することはできる。
また、商品券に比べれば、商品券発行に必要な設計や印刷などに要する手間が省ける。
デメリット
現金の使用時期が自由であるゆえに、現金が現在の消費に使われないかもしれない。経済が悪ければ悪いほど将来が不安なので、人々は現金を消費に使わず貯めようとするからである。(3月24日)
また現金の使用用途が自由であるゆえに、本来の目的(必需財の購入や家賃や公共料金の支払い、医療費等の支払い)とは異なる用途に使われてしまう可能性がある。
現金給付に関して自己申告制をとる場合は、本当は所得減ではない人物が申告する懸念がある。不正がないか審査を厳格に行い、本当に必要な人のみに適正に現金が給付されるようにしなくてはならない。(4月3日)
③受給券
経済的困窮者を経済的に支援するためには、商品の購入に使えるだけである商品券よりも、家賃・公共料金・医療費・教育費などのサービスの購入にも適用できる、もっと適用範囲の広い「商品券」が必要である。本稿では、特定の商品を購入することができるだけでなく、特定のサービスをも受け取ることができる受給権を表わすものとして、受給券と称することにし、商品券と区別することにする。
受給券は、この1枚の券によって購入できる(あるいは支払うことができる)金額が決まっている。
メリット―消費刺激効果
消費を刺激する効果に関して、国民に現金を支給する方法と商品券を配布する方法を比べれば、財政支出額が同じなら、商品券の配布の方が良い。 (3月24日)。
これに関しては、内閣府の検証に基づいて、島澤諭氏が政府による現金給付も商品券の配布も喚起される新規消費は同じだと主張されている。しかし、商品券の使用期限を設ければ、商品券の貯蓄化(商品券の使用の先延ばし)を防げるのではないか。
設計可能性
受給券は、現金給付とは異なり、政府が受け取り個人の消費の内容・仕方を政府が設計することができる。すなわち、政府が配布する受給券は、使用用途と使用時期、さらには使用場所を社会にとって好ましい形に設計できる(後述)。また、受給券の対象者を経済的困窮者に絞る場合は、収入低下幅の大きい人達や収入の水準が低い人達に対して、その程度に応じて受給券の金額を増やしたり受給券の配布数を増やすことができる。
受給券の種類
収入減に見舞われた人達が困るのは、食と住である。
生存に最低限必要な食を確保するために、食料・食品の購入に使用できる(受給券の一種としての)食料品券や、石鹸、歯ブラシなどの日用品の購入に充てることができる日用品券を渡す。住を保証するために家賃補助が必要であるが、そのためには家賃券を渡す。もし居住する場所を失った人がいるならば、彼らに関しては、低料金の旅館・ホテルに宿泊できる宿泊券(宿泊者は宿泊施設の仕事を手伝う条件で)を渡すということも可能である。勿論、政府は食材・食品販売店や旅館・ホテルに使用受給券に該当する金額を補助金として与える。 (この両者により、食品販売店と旅館・ホテルの仕事を増やすこともできる) (3月24日)
また経済的困窮者の生活にとって最低限、公共料金の支払い、医療費や教育費の支払いも必要である。これらのサービスの受給ができるための、公共料金券、医療費券、教育費券なども配布することが求められる。
宅配とセットなど
食料品券や日用品券を配布することによって多数の人が商店に集中すると感染の機会が増えるので、商品購入に関する受給券はできるだけ宅配とセットにする(宅配のときに使用できるという条件を付ける)ことが必要である。
配布された受給券の一部か全部を、受給券を受け取る人が住む地方自治体の中だけで使用できるようにすれば、自ずから住民の移動制限にも役立つ。
なお、一定金額のうち各種受給券の受け取り割合をどのようにするかは受け取り個人に任せることもできる。(3月26日)
デメリット
受給券の設計・印刷・配布などの準備にはある程度の時間がかかる。
政府が恣意的に特定の受給券(たとえば和牛券)を発行する場合は、国民の反発を受ける可能性がある(畜産農家には、別途、宅配システム充実による販売維持と所得補償で対応すべきである)。
④対象
政府による現金給付や受給券の配布は経済的困窮者に限るべきである。(だから和牛などの特定の品目を対象にした商品券ではなく、生存に最低限必要な食材である米などを想定した食料品券というような受給券にすべきである)(3月27日)
収入低下幅の大きい人達や収入の水準が低い人達には、その程度に応じてより多くの現金や受給券を配布するのが好ましい。(3月24日)
⑤キャッシュレスの場合
クレジットカードなどのキャッシュレスでも、現金給付や受給券に対応させるものを設定することができる。方法は、一定の上限金額内の制約条件のもとで、カードに貨幣情報を注入するかクレジットカードやデビッドカードを使う場合などがある。どの方法にしても、経済的困窮者のみを対象にすることが好ましい。
一定の上限金額の貨幣情報を注入するカードでは使用使途を制限できないので、現金給付に対応する。また、クレジットカードやデビッドカードで使用用途を制限しないものも現金給付に対応する。
どちらの方法にしても、まず対象者はカード会社に対象者であることを申請する必要がある。
(現金給付に対応―クレジットカードの場合)
クレジットカードの場合は、カード会社は、一定の上限金額内の制約条件のもとで、カード保有者のカードによる使用額をカード保有者の代わりに支払い先に支払う。そしてカード会社は、この使用額に相当する金額を政府から補助金として受け取る。
(現金給付に対応―デビッドカードの場合)
カード発行・管理会社(金融機関)は、一定の上限金額内の制約条件のもとで、カードによる使用額をカード保有者の預金口座に振り込めばよい。
カード発行・管理会社は、この振込額に相当する金額を政府から補助金として受け取る。
現金給付に対応する、クレジットカードにしろデビッドカードにしろ、対象者を経済的困窮者に限る場合は、収入低下幅の大きい人達や収入の水準が低い人達に対して、その程度に応じて補助金の上限額を増やすことができる。適用期間を限定したい場合は、カードによる適用期間を決めてやればよい。
(受給券に対応―クレジットカードの場合)
使途を決められたクレジットカードは、受給券に対応する。
カード会社は、一定の上限金額内の制約条件のもとで、カード保有者のカードによる使用額(食料品や日用品などの商品購入額や、家賃・公共料金・医療費・教育費等の支払い額)をカード保有者の代わりに支払い先に支払う。そしてカード会社は、この使用額に相当する金額を政府から補助金として受け取る。
対象商品が、たとえば食料品(米・パンなど)や日用品(石鹸、タオルなど)であるとする場合、カード会社に伝えられる商品購入情報のうちどれが食料品や日用品であるか明確に区別できないかもしれない。その場合は、カード保有者が小売店で食料品や日用品を購入するときのみ、レジで対象商品の金額と対象商品であるという情報を入れてもらい、カード会社にその情報を伝える。カード会社はこの情報により対象商品の金額を計算すればよい。
対象者を経済的困窮者に限る場合は、収入低下幅の大きい人達や収入の水準が低い人達に対して、その程度に応じて適用する上限金額を引き上げることができる。適用期間を限定したい場合は、カードによる適用期間を決めてやればよい。
(受給券に対応―デビッドカードの場合)
使途を決められたデビッドカードは、受給券に対応する。
カード発行・管理会社は、一定の上限金額内の制約条件のもとで、カード保有者のカードによる使用額(食料品や日用品などの商品購入額や、家賃・公共料金・医療費・教育費等の支払い額)をカード保有者の預金口座に振り込めばよい。カード発行・管理会社は、この振込額に相当する金額を政府から補助金として受け取る。
対象商品が、食料品や日用品であるとする場合は、カード保有者が小売店で食料品や日用品を購入するときのみ、レジで対象商品の金額と対象商品であるという情報を入れてもらい、その情報を政府に伝える。政府はこの情報により食料品や日用品に関する補助金の金額を計算すればよい。
受給券に対応する、クレジットカードにしろデビッドカードにしろ、対象者を経済的困窮者に限る場合は、収入低下幅の大きい人達や収入の水準が低い人達に対して、その程度に応じて補助金の上限額を増やすことができる。適用期間を限定したい場合は、カードによる適用期間を決めてやればよい。
その他
消費者が買い物のために外出することを制限したい場合は、受給券やカードの使用を宅配による購入に限る必要がある。
地元の小規模な商店の経営を維持するためには、宅配商品を地元の商店から購入するという制約を設けるのが良い。
受給券の場合は、券面に以上のような条件を記載することができる。
⑥中央政府か地方自治体か?
収入が低下した人達に配る受給券の発行・印刷と配布は、地方自治体に任せる方がよい。中央政府よりも、発行と配布のスピードが速いからである。ただし、受給券発行に相当する財政支出は、主として中央政府が負担する方がよい。
また各家庭へのそれらの券の割り当て数も、地方自治体に決めさせる方がよい。地方自治体の方が低所得者を把握しやすいからである。
それらの券の一部か全部をその地方自治体の中だけで使用できるようにすれば、自ずから住民の移動制限にも役立つ。(3月23日)
⑥実施の方法
政府が行う経済対策として、上で述べた、消費税引き下げ(券)や現金給付、受給券配布をさまざまに組み合わせて行うことができる。
たとえば、広範な人たちを対象にした一律の消費税引き下げを基礎に、さらに、収入の低下した人にその減収の程度に応じて受給券を配布することを加えるという方法があるかもしれない。
また、政策実施の順番としては、準備があまりいらない現金給付を先にして、その後受給券を配布するという方法もある。
いずれの方法にしても、各種税金の引き下げや免除なども付随する方がよいと思われる。
3.究極の方法はあるのか
現在の新型コロナウイルスの感染症によるり患やこれによる経済悪化の問題の究極的な解決は、治療薬の開発を待つしかないのかもしれない。
その他にも、もし仮にこの感染症の検査が短時間で行われかつ100%正確であり、またもし仮に病院に人々が殺到して院内感染や医療崩壊を起こさないような検査制度が完備されているならば、そして感染者が病院や自宅、ホテルなどに適正に収容・隔離されているならば、その他の未感染者は、感染を恐れることなく、自由に外出し、仕事をし、買い物ができるかもしれない(ただし、隔離された人々を区別・差別することは厳に戒まなくてはならない)。しかし、現実にはこれらの条件はそろっていない。
我々は医療崩壊が起こらないように注意深く行動しなくてはならない。政府は経営の悪化した中小企業・各種事業体や個人を支援しながら、我々も少しでも工夫しながら、耐えて努力していくしかない。
やがてこの苦しい事態は必ず終息する。それまでお互い頑張りましょう!
(近日中に、「新型コロナウイルスとマスク問題―買い急ぎ、買い占め、転売―」と「新型コロナウイルスと世界の経済・政治」をブログに掲載する予定です。)
和洋女子大学・山下景秋
最近の日本では上記のテーマが重要になってきたので書いてみました。皆さんの議論のたたき台として使っていただければ幸いです。
なお、( )内の日付は、関連した内容を私のツイート「山下景秋@kageyamashita」に掲載した日を表わしています。
1.新型コロナウイルスの拡大と経済
当初、自国経済の維持を優先した結果、入国制限などの対策を早期にとらなかった(日本やイタリアなど)ことが、国内における新型コロナウイルスの拡がりを許してしまった。また、経済の急速な悪化を恐れて、経済を優先して非常事態宣言の発令などの感染症対策が後手になったこともある。結局、感染症対策よりも経済を優先する結果、逆にますます経済が悪化することになった。
感染症の拡がりにより経済が悪化し、そして経済が悪化すると感染症がさらに拡大するという悪循環になる。感染症が拡がると外出が控えられ消費が抑制されるので経済が悪化し、経済が悪化して経済的に苦しい人々が増えると十分な治療が受けられなくなるし、栄養状態が悪化して免疫機能が低下するため感染症がさらに拡がるからである。
この悪循環を断ち切るために、感染症の拡がりを断ち切る対策をとりつつ、経済の悪化を防ぐ対策も同時に行わなければならない。
2.感染症拡大下の経済対策
(1)国債発行による政府支出
政府が国債を発行して国民の余剰資金を吸収し、その資金で企業など事業を行っている組織や個人に対する経済的支援を行うことが必要になっている。
また新型コロナウイルス危機を根本的に解決するには治療薬と正確で迅速な検査技術(最後の5参照)の研究開発が必要である。それに加えて、医療施設を充実し、医療設備・機械(新型コロナウイルスの重症感染者の治療に必要な人工呼吸器やECMOなど)、防護服、マスク、消毒薬などの生産を増やすことも必要である。これらの生産を促すために、政府は適当な企業を選んでこれらの製品の製造を要請するか命ずるべきであり、これらの全てには巨額の資金(設備投資を支援する資金や、将来製品が売れ残った場合政府がその量を全量買い取るための資金)の援助が必要となる。(3月28日)
(これらの企業へ民間資金を融通する貸出や投資などによる民間からの支援も必要である。拙稿「コロナ研究投資信託」(3月20日の私のブログ「逍遥日記 山下景秋」)参照)
(2)企業支援と個人支援
政府は経済的に困窮する企業などの組織を経済的に支援すると同時に、経済的に困窮する個人をも経済的に支援しなくてはならない。
各国は金融緩和をさらに進め、資金融通の面でも経営が悪化する企業などに対する支援を行いつつある。
(3)個人に対する経済的支援
対象者
以下で専ら対象にしている人達は、新型コロナウイルスの影響により失業したり賃金が減るなどして収入が低下した人達と、もともと低収入でこの危機によりさらに困窮度が増している人達である(以下では、これらの人達を経済的困窮者と称することにする)。彼らこそ、危機時に支援すべき人達だからである。また、実際問題としても、財政の制約のために、影響の程度がそれほどではない人達に対する経済的支援の余裕はないかもしれない(ただし、これらの人達に対する財政支出により消費が刺激する可能性はある)。
消費税減税か現金給付か商品券か?
個人に対する経済的支援としては、消費税を軽減する方法や、政府が各個人に現金を支給する方法や、政府が各個人に商品券(本稿では受給券と称する。後述)を渡す方法などがある。
これらの方法には効果があるかどうか問題点があるかどうかが重要であるのは勿論である。その他のポイントとして、これらの方法によって、経済的支援の対象者が絞れるか、支援の程度を決めることができるか、支援金をどの用途に使用するか(使用用途)、いつ使用するか(使用時期)、どこで使用するか(使用場所)などを決めることができるか、あるいは自由なのかも比較しなくてはならない。
①消費税(付加価値税)の引き下げ
メリット―消費の刺激
一般に、消費税減税(あるいは消費税を0にする)は消費を刺激する。
日本では、2019年10月1日から消費税率が8%から10%に引き上げられた。しかし、(酒や外食以外の)飲食料品には8%の軽減税率が適用されている。
仮に消費税率がたとえば8%から5%に3%引き下げられる場合を具体的な数値例でみてみよう。
[(例)
1個1,000円の食品があるとする。
消費税率が8%とすると消費税額は80円。このとき、この食品の消費税を含む販売価格は1080円(=1,000円+80円)。消費者はこの消費税額80円(と本来の販売価格1,000円)を小売店に支払い、小売店はこの受け取った消費税額80円を税務署に納める。(小売店の1個当たりの売上収入は1,000円)
消費税率が5%に下がると消費税額は50円。このとき、この食品の消費税を含む販売価格は1050円(=1,000円+50円)。消費者はこの消費税額50円(と本来の販売価格1,000円)を小売店に支払い、小売店はこの受け取った消費税額50円を税務署に納める。(小売店の1個当たりの売上収入は1,000円)
消費税率が(8%から5%に)3%(=8%-5%)下がると、消費者の消費税支払額が30円(=80円-50円)減少し、小売店が税務署に納める消費税額も30円減少する。(この結果、政府[税務署]の消費税の徴収額も30円減少する)(このことは、政府が小売店から元の消費税80円を受け取る一方、30円の補助金を小売店に渡すことと実質的に同じであると考えることもできる)
消費税を含む販売価格が1,080円から1,050円に下がるので、消費者はこの食品の購入数を増やす可能性がある。もし2倍の2個買うようになったとすれば、小売店の売上収入は、2倍の2,000円(=1,000円×2)に増える。
結局、消費税が下がると、消費者の消費税の負担が軽くなるうえに、消費税を含む販売価格が下がるため消費者の購入数(小売店の販売数)が増えるので小売店の売上収入が増える可能性があることになる。
反面政府の消費税徴収額が減少するので、消費税の引き下げは、政府が税収を減らす犠牲を払って、消費者の税負担を軽くし、小売店の売上を増やす効果があることになる。
後で述べる現金給付は一部貯蓄(将来の消費のために現在消費しないおカネ)にまわる可能性があるが、消費税減税は消費を増やす効果が大きいところが異なる(ただし、高額商品の場合は後述参照。また外出規制の下では、その分消費刺激効果が小さくなる可能性がある。それを防ぐためには、宅配とセットにする方が良い。後述)。
対象
消費税の引き下げは、経済を刺激するためには一律に引き下げるのが好ましい。しかし、社会的必要性や財政上の観点からは、経済的困窮者(前述)を対象に、必需財(必須の食料・食品、日用品など)に限定しその範囲内で行うのが好ましい。 (3月26日)
デメリット
高額商品に関しては、消費税の引き下げを実施する前と復活引き上げ後に消費が抑制される可能性がある。消費税の引き下げが予想される場合は、人々は引き下げ後に買おうとして引き下げ前は買うことを控えるし、消費税が再び元の水準まで上がることが予想される場合は、その引き上げ前に多く買うので引き上げ後にはその分買わなくなるからである。
ただし、最低限の生活に必須の(高額商品以外の)食料品(米・パンなど)や日用品(石鹸、タオルなど)は、毎日買わざるを得ないからそのような問題点はない。すなわち、食料品や日用品に関しては消費税引き下げの効果がある。(3月23日)
なお一般に、消費税の引き下げは、復活引き上げ時に国民の反発をかう可能性がある。
消費税の引き下げは、消費者(支援対象者)にとって商品の購入価格がその分安くなるという効果があるが、金額の大きい現金給付に比べれば、支援対象者が受ける恩恵度は低いかもしれない。もちろん、消費税引き下げと現金給付を合わせて行えば、効果は大きい。
方法1-食料品や日用品の一律引き下げ
食品や日用品の消費税を一律に引き下げる。
経済的困窮者にとって必要な商品である食料品や日用品の消費税を引き下げることによって、彼らの困窮を軽減させる。この方法は対象者を限定しないので簡単な方法であるが、経済的に困窮していない人達も恩恵を受ける。政府にとって消費税収入がその分減少するが、消費増の効果は広範な人達を対象にするので(経済的困窮者のみを対象にする場合に比べ)大きい。
方法2-消費税引き下げ券
消費税引き下げの恩恵を受ける人達を経済的困窮者に限りたい。また収入低下幅の大きい人達や収入の水準が低い人達には、その程度に応じてより多く消費税を引き下げたい。対象商品を限定したい。そして消費税引き下げ期間を限定したい。
このような政策的意図を含める場合は、消費税引き下げの1つの方法として、各個人に(引き下げる消費税額に相当する割引が可能な)消費税引き下げ券(たとえば、消費税3%引き券や4%引き券など)を配布するという方法がある。
消費税引き下げの恩恵を受ける人達を経済的困窮者に限る場合は、その条件に該当する人達のみにこの券を配布する。消費税引き下げ券を保有する者は、販売側に対するその提示により対象者であることを示すことができる。
収入低下幅の大きい人達や収入の水準が低い人達には、その程度に応じてより多くの消費税引き下げ券を渡すこともできる。
使用用途を食料品や日用品に限りたい場合は、この引き下げ券の使用をこれらの商品に限定するようにすればよい。
この券を受け取った人達が買い物のために外出するのを控えるべきだというのならば、宅配による購入のみに使用できるという条件がついた消費税引き下げ券を配布する。(3月24日) また、この券の使用期間を券面に表示することによって、その使用期間を限ることもできる。
この券を消費者から受け取った商店に対して、政府は引き下げた消費税に相当する金額を補助金として支給する。
実際問題として、このような消費税引き下げ券を商店で提示する際、心理的な障害がある可能性はある。
なお、このような消費税引き下げ券は、実質的に割引の条件がついた商品券(クーポン券)であるといえる。したがって、以下の③で述べる受給券(商品券)で代用できる可能性もある。
方法3-キャッシュレス
商品購入代金をクレジットカードなどキャッシュレス(現金を使わない支払い)で支払う場合はどうなるか。
(クレジット―カードの場合)
仮に消費税率が8%から5%に3%引き下げられる場合(前の例と同じ)を具体的な数値例でみてみよう。
[(例)
消費者がクレジットカードを使って商品を購入する時、30円分安く買えることになる(現実には、消費者がカード会社に支払う金額が30円少なくなる)。
カード会社は小売店に対してこの消費者の購入代金1,080円を支払う(この消費者のために立て替える)。後にカード会社は消費者から1,050円のおカネを受け取るが、カード会社は不足する30円(=1,080円-1,050円)を国から受け取る。
国は小売店から8%の消費税額80円を受け取るが、カード会社に30円(補助金として)を支払うので、結局実質的に政府の税収額は50円(=80円-30円)となる。国は30円ぶん徴収する税収が減少したことになる。]
このような仕組みを利用する場合は、まず対象者はカード会社に対象者であることを申請する必要がある。
一定の上限金額内という制約条件のもとで、カード会社は、カード保有者のカード使用による消費金額のうち消費税減税額(たとえば3%なら、本来の販売価格×0,03)を計算し、カード保有者に対する請求額はこの消費税減税額を差し引いた金額となる。そしてカード会社は、この消費税減税額に相当する金額を政府から補助金として受け取る。
対象商品が、たとえば食料品(米・パンなど)や日用品(石鹸、タオルなど)であるとする場合、カード会社に来る商品購入情報のうちどれが食料品や日用品であるか明確に区別できないかもしれない。その場合は、カード保有者が小売店で食料品や日用品を購入するときのみその消費税引き下げ額(と商品情報)をカード会社に伝えればよい。
対象者を経済的困窮者に限る場合は、収入低下幅の大きい人達や収入の水準が低い人達に対して、その程度に応じて減税率を引き上げることができる。また消費税引き下げ期間を限定したい場合は、カードによる減税適用期間を決めてやればよい。
(デビッドカードの場合)
消費者が購入すると、消費者の預金口座から即時に支払いが行われるデビッドカードのようなカードの場合はどうなるか。
一定の上限金額内という制約条件のもとで、小売店は、カード保有者のカード使用による消費金額のうち消費税減税額(たとえば3%なら、本来の販売価格×0,03)を計算し、カード保有者の預金口座からその消費税減税額を差し引いた金額を受け取る。そして小売店は、この消費税減税額に相当する金額を差し引いた消費税額を政府に支払う。
対象商品が、食料品や日用品であるとする場合、カード保有者が小売店で食料品や日用品を購入するときのみレジで消費税減税額を計算する。
対象者を経済的困窮者に限る場合は、収入低下幅の大きい人達や収入の水準が低い人達に対して、その程度に応じて減税率を引き上げることができる。また消費税引き下げ期間を限定したい場合は、カードによる減税適用期間を決めてやればよい。
その他
消費者が買い物のために外出することを制限したい場合は、消費税引き下げ券やカードによる使用を宅配による購入に限る必要がある。
地元の小規模な商店の経営を維持するためには、宅配商品を地元の商店から購入するという制約を設ける方がよい。
消費税引き下げ券の場合は、券面に以上のような条件を記載することができる。
②現金給付
メリット
各個人に対する政府による現金給付がその対象者を経済的困窮者に絞る場合は、収入低下幅の大きい人達や収入の水準が低い人達に対して、その程度に応じて給付する現金を増やすことができる。
現金給付の場合は、受給した現金の使用用途と使用時期そして使用場所を個人の自由に任せることができる。ただし、現金給付の時期を分けることによって使用時期を政府がある程度管理することはできる。
また、商品券に比べれば、商品券発行に必要な設計や印刷などに要する手間が省ける。
デメリット
現金の使用時期が自由であるゆえに、現金が現在の消費に使われないかもしれない。経済が悪ければ悪いほど将来が不安なので、人々は現金を消費に使わず貯めようとするからである。(3月24日)
また現金の使用用途が自由であるゆえに、本来の目的(必需財の購入や家賃や公共料金の支払い、医療費等の支払い)とは異なる用途に使われてしまう可能性がある。
現金給付に関して自己申告制をとる場合は、本当は所得減ではない人物が申告する懸念がある。不正がないか審査を厳格に行い、本当に必要な人のみに適正に現金が給付されるようにしなくてはならない。(4月3日)
③受給券
経済的困窮者を経済的に支援するためには、商品の購入に使えるだけである商品券よりも、家賃・公共料金・医療費・教育費などのサービスの購入にも適用できる、もっと適用範囲の広い「商品券」が必要である。本稿では、特定の商品を購入することができるだけでなく、特定のサービスをも受け取ることができる受給権を表わすものとして、受給券と称することにし、商品券と区別することにする。
受給券は、この1枚の券によって購入できる(あるいは支払うことができる)金額が決まっている。
メリット―消費刺激効果
消費を刺激する効果に関して、国民に現金を支給する方法と商品券を配布する方法を比べれば、財政支出額が同じなら、商品券の配布の方が良い。 (3月24日)。
これに関しては、内閣府の検証に基づいて、島澤諭氏が政府による現金給付も商品券の配布も喚起される新規消費は同じだと主張されている。しかし、商品券の使用期限を設ければ、商品券の貯蓄化(商品券の使用の先延ばし)を防げるのではないか。
設計可能性
受給券は、現金給付とは異なり、政府が受け取り個人の消費の内容・仕方を政府が設計することができる。すなわち、政府が配布する受給券は、使用用途と使用時期、さらには使用場所を社会にとって好ましい形に設計できる(後述)。また、受給券の対象者を経済的困窮者に絞る場合は、収入低下幅の大きい人達や収入の水準が低い人達に対して、その程度に応じて受給券の金額を増やしたり受給券の配布数を増やすことができる。
受給券の種類
収入減に見舞われた人達が困るのは、食と住である。
生存に最低限必要な食を確保するために、食料・食品の購入に使用できる(受給券の一種としての)食料品券や、石鹸、歯ブラシなどの日用品の購入に充てることができる日用品券を渡す。住を保証するために家賃補助が必要であるが、そのためには家賃券を渡す。もし居住する場所を失った人がいるならば、彼らに関しては、低料金の旅館・ホテルに宿泊できる宿泊券(宿泊者は宿泊施設の仕事を手伝う条件で)を渡すということも可能である。勿論、政府は食材・食品販売店や旅館・ホテルに使用受給券に該当する金額を補助金として与える。 (この両者により、食品販売店と旅館・ホテルの仕事を増やすこともできる) (3月24日)
また経済的困窮者の生活にとって最低限、公共料金の支払い、医療費や教育費の支払いも必要である。これらのサービスの受給ができるための、公共料金券、医療費券、教育費券なども配布することが求められる。
宅配とセットなど
食料品券や日用品券を配布することによって多数の人が商店に集中すると感染の機会が増えるので、商品購入に関する受給券はできるだけ宅配とセットにする(宅配のときに使用できるという条件を付ける)ことが必要である。
配布された受給券の一部か全部を、受給券を受け取る人が住む地方自治体の中だけで使用できるようにすれば、自ずから住民の移動制限にも役立つ。
なお、一定金額のうち各種受給券の受け取り割合をどのようにするかは受け取り個人に任せることもできる。(3月26日)
デメリット
受給券の設計・印刷・配布などの準備にはある程度の時間がかかる。
政府が恣意的に特定の受給券(たとえば和牛券)を発行する場合は、国民の反発を受ける可能性がある(畜産農家には、別途、宅配システム充実による販売維持と所得補償で対応すべきである)。
④対象
政府による現金給付や受給券の配布は経済的困窮者に限るべきである。(だから和牛などの特定の品目を対象にした商品券ではなく、生存に最低限必要な食材である米などを想定した食料品券というような受給券にすべきである)(3月27日)
収入低下幅の大きい人達や収入の水準が低い人達には、その程度に応じてより多くの現金や受給券を配布するのが好ましい。(3月24日)
⑤キャッシュレスの場合
クレジットカードなどのキャッシュレスでも、現金給付や受給券に対応させるものを設定することができる。方法は、一定の上限金額内の制約条件のもとで、カードに貨幣情報を注入するかクレジットカードやデビッドカードを使う場合などがある。どの方法にしても、経済的困窮者のみを対象にすることが好ましい。
一定の上限金額の貨幣情報を注入するカードでは使用使途を制限できないので、現金給付に対応する。また、クレジットカードやデビッドカードで使用用途を制限しないものも現金給付に対応する。
どちらの方法にしても、まず対象者はカード会社に対象者であることを申請する必要がある。
(現金給付に対応―クレジットカードの場合)
クレジットカードの場合は、カード会社は、一定の上限金額内の制約条件のもとで、カード保有者のカードによる使用額をカード保有者の代わりに支払い先に支払う。そしてカード会社は、この使用額に相当する金額を政府から補助金として受け取る。
(現金給付に対応―デビッドカードの場合)
カード発行・管理会社(金融機関)は、一定の上限金額内の制約条件のもとで、カードによる使用額をカード保有者の預金口座に振り込めばよい。
カード発行・管理会社は、この振込額に相当する金額を政府から補助金として受け取る。
現金給付に対応する、クレジットカードにしろデビッドカードにしろ、対象者を経済的困窮者に限る場合は、収入低下幅の大きい人達や収入の水準が低い人達に対して、その程度に応じて補助金の上限額を増やすことができる。適用期間を限定したい場合は、カードによる適用期間を決めてやればよい。
(受給券に対応―クレジットカードの場合)
使途を決められたクレジットカードは、受給券に対応する。
カード会社は、一定の上限金額内の制約条件のもとで、カード保有者のカードによる使用額(食料品や日用品などの商品購入額や、家賃・公共料金・医療費・教育費等の支払い額)をカード保有者の代わりに支払い先に支払う。そしてカード会社は、この使用額に相当する金額を政府から補助金として受け取る。
対象商品が、たとえば食料品(米・パンなど)や日用品(石鹸、タオルなど)であるとする場合、カード会社に伝えられる商品購入情報のうちどれが食料品や日用品であるか明確に区別できないかもしれない。その場合は、カード保有者が小売店で食料品や日用品を購入するときのみ、レジで対象商品の金額と対象商品であるという情報を入れてもらい、カード会社にその情報を伝える。カード会社はこの情報により対象商品の金額を計算すればよい。
対象者を経済的困窮者に限る場合は、収入低下幅の大きい人達や収入の水準が低い人達に対して、その程度に応じて適用する上限金額を引き上げることができる。適用期間を限定したい場合は、カードによる適用期間を決めてやればよい。
(受給券に対応―デビッドカードの場合)
使途を決められたデビッドカードは、受給券に対応する。
カード発行・管理会社は、一定の上限金額内の制約条件のもとで、カード保有者のカードによる使用額(食料品や日用品などの商品購入額や、家賃・公共料金・医療費・教育費等の支払い額)をカード保有者の預金口座に振り込めばよい。カード発行・管理会社は、この振込額に相当する金額を政府から補助金として受け取る。
対象商品が、食料品や日用品であるとする場合は、カード保有者が小売店で食料品や日用品を購入するときのみ、レジで対象商品の金額と対象商品であるという情報を入れてもらい、その情報を政府に伝える。政府はこの情報により食料品や日用品に関する補助金の金額を計算すればよい。
受給券に対応する、クレジットカードにしろデビッドカードにしろ、対象者を経済的困窮者に限る場合は、収入低下幅の大きい人達や収入の水準が低い人達に対して、その程度に応じて補助金の上限額を増やすことができる。適用期間を限定したい場合は、カードによる適用期間を決めてやればよい。
その他
消費者が買い物のために外出することを制限したい場合は、受給券やカードの使用を宅配による購入に限る必要がある。
地元の小規模な商店の経営を維持するためには、宅配商品を地元の商店から購入するという制約を設けるのが良い。
受給券の場合は、券面に以上のような条件を記載することができる。
⑥中央政府か地方自治体か?
収入が低下した人達に配る受給券の発行・印刷と配布は、地方自治体に任せる方がよい。中央政府よりも、発行と配布のスピードが速いからである。ただし、受給券発行に相当する財政支出は、主として中央政府が負担する方がよい。
また各家庭へのそれらの券の割り当て数も、地方自治体に決めさせる方がよい。地方自治体の方が低所得者を把握しやすいからである。
それらの券の一部か全部をその地方自治体の中だけで使用できるようにすれば、自ずから住民の移動制限にも役立つ。(3月23日)
⑥実施の方法
政府が行う経済対策として、上で述べた、消費税引き下げ(券)や現金給付、受給券配布をさまざまに組み合わせて行うことができる。
たとえば、広範な人たちを対象にした一律の消費税引き下げを基礎に、さらに、収入の低下した人にその減収の程度に応じて受給券を配布することを加えるという方法があるかもしれない。
また、政策実施の順番としては、準備があまりいらない現金給付を先にして、その後受給券を配布するという方法もある。
いずれの方法にしても、各種税金の引き下げや免除なども付随する方がよいと思われる。
3.究極の方法はあるのか
現在の新型コロナウイルスの感染症によるり患やこれによる経済悪化の問題の究極的な解決は、治療薬の開発を待つしかないのかもしれない。
その他にも、もし仮にこの感染症の検査が短時間で行われかつ100%正確であり、またもし仮に病院に人々が殺到して院内感染や医療崩壊を起こさないような検査制度が完備されているならば、そして感染者が病院や自宅、ホテルなどに適正に収容・隔離されているならば、その他の未感染者は、感染を恐れることなく、自由に外出し、仕事をし、買い物ができるかもしれない(ただし、隔離された人々を区別・差別することは厳に戒まなくてはならない)。しかし、現実にはこれらの条件はそろっていない。
我々は医療崩壊が起こらないように注意深く行動しなくてはならない。政府は経営の悪化した中小企業・各種事業体や個人を支援しながら、我々も少しでも工夫しながら、耐えて努力していくしかない。
やがてこの苦しい事態は必ず終息する。それまでお互い頑張りましょう!
(近日中に、「新型コロナウイルスとマスク問題―買い急ぎ、買い占め、転売―」と「新型コロナウイルスと世界の経済・政治」をブログに掲載する予定です。)