今年の土用の丑(うし)は三十日。その日を前に九日「うな丼の未来」という公開シンポジウムが東京大弥生講堂で開かれた。四回目となる今年のテーマは「丑の日のあり方を考える」。
ウナギ博士として知られる東大名誉教授教授、日大教授の塚本勝巳さんは、詰めかけた聴衆に語りかけた。安い「うなぎ」を大量に消費する「丑の日」でよいのですか。
土用の丑には鰻(うなぎ)。このコピーを発案したのは江戸の奇才、平賀源内といわれる。クリスマスのケーキや、バレンタインのチョコ同様に、記念日を定めて商品を売る販売法は「記念日マーケティング」といわれる。
土用の日、一日の鰻の消費量は、年間消費量の32%に当たるという。丑の日に安く、大量に販売されるのはヨーロッパウナギを中国で養殖加工したものだ。
現在、国内で流通する鰻の六割は輸入に頼る。加工品では、ニホンウナギの代わりにヨーロッパウナギが利用されている。しかし、日本の爆食も一因とされる乱獲で、ヨーロッパウナギも激減。ワシントン条約の規制対象となり国際取引ができなくなった。
皮肉なことに代用品だったヨーロッパウナギの輸入禁止に引きずられて、ニホンウナギを含む世界中のウナギ類の輸出入が禁止されようとしている。安かった輸入ウナギが消える日は国内産のウナギも消える日なのだ。
私は浜名湖北岸の町で生まれた。産湯を漬かった母の実家のななめ向かいに、戦前から三代続く「清水屋」という老舗鰻屋がある。現在の主は波多野利彦さん(61)。私の一年後輩で、幼年期の遊び仲間だ。幼年期の思い出は、近所の大きな犬、廃工場のお化け煙突。高い塀の中からは、先代が焼く鰻の香りが流れていた。
帰省の路。鰻を焼く香りで故郷を感じた。
鰻屋に行こう。座敷に座わり、流れてくる香りを楽しもう。胃袋を踊らせ、大切な人と鰻を食べよう。土用の丑の日以外の日に。(魚類生態写真家)
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