My favorite things 2024

不定期でジャンルもバラバラです。 お気軽に寄って見て下さい、 

羅宇屋

2007-03-27 22:45:12 | 江戸由縁東京旧聞
羅宇屋と書いてラオヤと読みます。ラウヤが読んで字の如し、
ですがもっぱらラオヤと呼ばれていました。子供の頃は何と
言う字を書くのか、考えもしませんでしたが、煙管を直す、
または煙管を清掃する商売で徒歩で商いをするひとのこと
です。

私が子供の頃は家の周りに良く来ていました。羅宇屋が来ると
ピーって独特な音が聞こえて来るのですぐに分かりました。
煙管の雁首取替えとか、羅宇交換、ヤニ掃除などを頼むのです。

後年になり、ラオというのはラオスの竹でそれでラオヤと言う
のだ、と知らされたことがありますが調べたわけじゃありません。
屋台のようなリアカーのようなもので、蒸気でピー、ピー鳴らし
ながら商いをして歩いていました。

ついこの間まで、浅草寺の雷門のあたりに羅宇屋が出ていた
のは憶えているのですが最近は全く見かけません。
年のせいか「ついこの間」なんて言うのが「最近」ではなく10年
くらいも前だったりします。困ったもんです。

私の祖母、母親のほうの親ですが、このひとの連れ合い、つまり
祖父は下町で理髪店を営んでいました。腕が良くて役者がわざわざ
散髪しに来たくらいだそうですが、その店の奥を上がると六畳くらい
の部屋があり、そこには仏壇に長火鉢がおいてありました。

五徳があって火箸が灰の隅に挿してあって、煙草を入れる引き出
しがついている、御馴染みのものですが、何、そんな上等な代物
じゃありませんや。形が長火鉢ってだけで使い難かったのかも知
れません。後年には普通の丸い火鉢になりました。
七輪から練炭を移すのには深めの丸い火鉢の方が使い勝手が良
かったんでしょう

そこで良く祖母は煙管で煙草をのんでいました。最近は煙草を「の
む」なんて言うとびっくりされますが、昔は煙草は「のむ」と言った
もんですが、蕎麦を「たぐる」というのと同じような感覚です。
これも今じゃあんまり聞かないねえ。
蕎麦って言えば「あつもり」を注文するひともいなくなって来ました。
これもそのうち「近頃見かけない」ものになるんでしょうか。

しばしば私は祖母に煙管のヤニ取りをさせられた憶えがあります。
「羅宇屋にやらせると綺麗にやっちゃくれるけど、オワシを払うのが
面倒くさい、お前、ちょっとやっとくれ。」ってなもんで小学生の孫の
私にやらせる。私は手先が器用だったからそれで頼んだのです。

まず半紙を寄越すんです。床屋だから、髭をあたったときに剃刀を
拭くから半紙なんか山ほどある。これを広げて持って、右から一寸
くらいのところを上からツーと下へ裂いていき、これを何枚か作って
おきます。それで指の先で撚ってコヨリを作り、煙管の中へ通して
ヤニ掃除をする、って具合で、祖母の方はもう眼が遠いから自分で
やるのが億劫なんです。で、私がやるわけ。

それで孫にやらせておいて、綺麗になった煙管の吸い口に煙草を揉
みこんで、火鉢の中のミツウロコの練炭から火をつけ二、三服プカー
とやる。すると煙管から紫煙が出てゆっくりと漂います。

煙管なんていうのはそんなに吸うもんじゃないんで、それを長火鉢
の角でコンとやって吸殻を捨てる。その後必ずフッと煙管に息を強
く吹き込んでやるんです。いつも、フーン、美味そうに吸うもんだ、
と子供ながらに感心して見ていたもんでした。

この後にたまには煙管掃除代としてお小遣いをくれる。小さい子供
としてはこっちの方が楽しみでした。

この祖母は、もちろん明治の生まれで、20年か、もうちょっと前だった
か、ちょいと今すぐ生まれ年は思い出せません。晩年は洋服でしたが、
普段は和服で窓から顔を出し、半身で腰掛て良く外を見ていました。

身内が火傷をした時なんかによく「おまじない」をしてくれました。
「猿沢の池が何だ、かんだ」で始まるんですが意味は不明です。本人
も良く分からない。聞いても、昔からそう言うのさ、でおしまい。

このおまじないは多分、「猿沢の池の大蛇が焼け死んで蛸が葬り」と
か何とか言うもので、とにかくこれを三遍繰り返すんです。
効き目があるんだかどうか分かりませんが、火傷で熱くって仕様がな
い、何でも良いから痛くなくしてくれりゃ良いんですが、まず、おまじな
い、それから冷やすなり、塗り薬なりという順番でした。

子供心にこのおまじないをしてくれたのを何故か良く憶えています。
不思議な感じでしたね、まさしく、まじないって印象でした。
今こんなことやるひとァいないわな。でも、何か気分のもんでこれで
良くなると思うと気が楽になっちゃう、そういう精神的な要素があった
んだと思います。






コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 豊海橋 | トップ | 「旧聞日本橋」ー長谷川時雨作 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿