limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

ミスター DB 52

2018年10月05日 15時43分55秒 | 日記
3日目の朝がやって来た。ミスターJの朝は早い。「歳を取ると早くなるものだ。昔は信じられなかったが、今は先輩たちの言い分が身に染みて分かる」静かに起き上がると、洗顔をし着替えを済ませる。リーダーはまだスヤスヤと寝ている。彼を起こさない様に、荷物の整理にかかる。手荷物は最小限にまとめて小さなショルダーバックへ移し、衣類などはボストンバックに押し込んで置く。機動部隊に引き渡し運んで貰うためだ。“耳”を聴いて見ると、爆音の如きイビキが響いているのが確認できた。「“2匹の食用蛙”達も、まだ爆睡中か。自身の運命が決まると言うのに、呑気なものだ」ミスターJは湯を沸かして、お茶を淹れソファーに座り込んだ。「さて、結末や如何に?」小声で呟くとゆっくりとお茶を飲み始めた。

N坊は悩んでいた。「何でこんなに早く起きちまったんだろう?」まだ、結構な時間が残っている。F坊はまだ爆睡中だ。「コイツを起こすのはまだ先でいいが、問題は方法だな」以前に比べれば寝起きはよくなっているが、F坊を起こすのは骨の折れる作業に変わりが無かった。「“撤収作業”もあるし、早めに起こすしかねぇが、何しろ目覚ましが無いと来てる。たっぷり30分は格闘しなきゃならんな!」N坊はため息交じりに呟くと、そそくさと洗顔、着替えを済ませ荷物との格闘に移る。衣類や特殊な道具類の装備一式は、機動部隊に引き渡し運んで貰うつもりだ。護身用のスタンガンと必ず持ち歩いている小型の工具達だけを残すと、ショルダーバックへ移し替えた。「ふー、毎度の事ながら、装備品が多いのは俺達の商売柄しょうがないか・・・。おっと、ノートパソコンの梱包を忘れちゃいかんな!」慌てて、パソコンと付属機器を終いにかかる。その時だった。ドアをノックする音が聞こえたのは。「“スナイパー”か?あっちも早くお目覚めか?」N坊は慎重にドアを開ける。「N坊!お・は・よ・うー!」唇が頬に飛んで来た。赤い口紅が目一杯、頬に叩き込まれた。「ミセスA!どうしました?こんな早い時間に?」N坊は慌てて聞いた。「私の荷物も運んで貰おうと思ってね、預けに来たの。もう一回、ほっぺちゃんに唇をお見舞いしてあげる!」N坊の両頬に、口紅がたっぷりと叩き込まれた。「ねぇ、F坊はまだ?」「ええ、見ての通り爆睡中ですよ」F坊は依然としてお休み中だ。「とにかく、荷物を預かりますよ」そう言うとN坊は廊下に出たが、腰を抜かしそうになった。「なんじゃこりゃ?!」巨大なボストンバックが4つ廊下に鎮座していのだ。しかも、4つとも途轍もなく重く、パンパンに膨れ上がっている。ミセスAは、ショルダーバックも持っていたはず「どうやって担いで来たんだこりゃ?」N坊はヒーヒー言いながら部屋へボストンバックを引きずり込んだ。「ここまで運んでくるのに、骨が折れそうだったわ」ミセスAがぼやいた。「尋常じゃない荷物の量ですぜ!どうやって運んで来たんです?!」N坊は悲鳴を上げつつ聞いた。「タクシーの運転手さんに手伝ってもらったのよ。運転手さんもヒーヒー言ってたけれど何故かしら?」ミセスAは不思議そうに言う。「中身が何か知りませんが、1人の荷物としては尋常じゃない量です。運転手に同情しますよ」N坊はヘタッて顎を出した。その位、重く大量なのだ。「女の子は持ち歩くモノが多いのよ。あれもこれもって考え出すと、どうしても増えちゃうのよねー」ミセスAは呑気にコンパクトを出して、口紅を塗り直している。女性の荷物だと割り切っても、N坊にもどうしても納得のいかない量である。ひょっとすると、彼女はクローゼット毎持ち歩いているのではあるまいか?N坊は背筋が冷たくなった。タクシーの運転手がぎっくり腰でダウンしなければいいが・・・。「N坊、F坊を起こしてもいい?」ミセスAが聞いた。「そろそろ起こしてやって下さい。“撤収作業”もあるし、俺だと30分は格闘しなきゃいけませんから」N坊は荷物の中から“メイク落とし”を引きずり出しながら言った。「俺は司令部に行って来ます。その間に頼みますよ」「分かったわ!まずは添い寝してからね!」無邪気にはしゃぐミセスAを残して、N坊は司令部のドアをノックした。「おはよう、N、派手にやられたな。Aが来ているのか?」ミスターJが笑いながらドアを開けて言った。「おはようございます。これ位は普通ですよ。今、F坊を起こして貰ってます」N坊はいつもと変わらずに言う。「だが、外は歩けないな!明らかに“不審者”だ。洗面台は空いてるよ!」リーダーが腹を抱えて笑う。「お前さん達にとっては普通だろうが、Aの性格を知らない人が見たら“不審者”扱いは免れんぞ」ミスターJも噴き出しながら言う。「まあ、お前達を育て直したのは、Aだから仕方ないのは認めるが、“メイク落とし”を持参して来るのは他に例が無いだろう!」司令部内は笑いが止まらなかった。「まあ、慣れてますから。ともかく顔を洗わせてください。その後、ミセスAを呼んできます」そう言うと、N坊は洗顔をやり直しにかかる。「当人達にして見れば普通の事?!私なら到底受け入れられませんが」リーダーが不思議そうに言うと「グレ果てた2人を立ち直らせたのは、Aの途轍もない愛情だ。彼女には脱帽するしかない」ミスターJは昔を思い出しながら言った。「尋常じゃない愛情の注ぎ方ですね」「ああ、あの2人は両親を知らないまま育てられた。施設でな。その後、身元保証人になって、2人を今の姿に育て直したのがAだ。彼らにとっては、母親以上の存在なのだよ」「それにしても、凄い育て直しだ。私には到底出来ません」リーダーが呆れたように言うと「だからこそ、今の2人がある。Aの子供達は勇猛果敢だよ」ミスターJは目を細めて言う。「じゃあ、ミセスAとF坊を呼んできます」洗顔を終えたN坊は部屋へ戻って行った。「さて、最終の協議を始めよう。リーダー、朝食を6人分注文してくれ。皆が揃ったら早速かかろう」「分かりました」いよいよ最後の協議が幕を開けようとしていた。

覚醒には“悪夢の鈍痛”が伴った。爆音の様なイビキが止まると“2匹の食用蛙”達はベッドで呻き声を上げた。「うー、又しても悪夢の鈍痛がしてやがる。DB、そっちはどうだ?」Kが腹を摩りながら聞いた。「うぉー、鈍痛じゃなくて波の様な激痛になりつつある。では・・・、一気に行くか・・・K?」「ああ、急ごう。悪臭が漂うのは、分かっている。いてぇー・・・、急げ!DB!」“2匹の食用蛙”達はトイレに急行すると、ドアを閉めるのも忘れて座り込んだ。「うーん!」「あぎゃー!」それぞれに呻くと、強烈な悪臭が部屋へ流れ出した。冷や汗が噴き出し、親父臭と混ざり合い悪臭に吸収され状況は更に悪化する。「これで・・・“異臭の素”は・・・駆逐される・・・のだな・・・DB」Kは呻きながら何とか声を絞り出す。「ああ・・・そうだ・・・これで・・・最後だ」DBも苦しみつつ言う。10分の苦痛と引き換えに、2匹は全てを押し出した。ヨレヨレになって室内を這い進み、ベッドへ戻る。「臭い、体臭を飲み込んだ悪臭が漂ってる」Kは鼻を摘まんでいる。「お香を2本焚こう。その前にまずは換気だ」2匹は換気扇を回し、エアコンを全開にして窓を開けた。朝日が眩しい。澄んだ空気が室内へとなだれ込む。DBはお香2本に火を点じ、部屋の真ん中へと置いた。「よし、窓を閉めよう」換気扇も切って、室内にお香の香りを循環させると悪臭は徐々に駆逐されていった。「ふー、これで悪臭地獄から抜け出せた。もう、ガスも出ないから“異臭の素”は体外へ出たな。DB、腹の具合は?」Kが聞く。「うむ、落ち着いてる。やっと悪夢から抜けたと見ていいだろう」「部屋の悪臭も駆逐された。さてと、まずは洗濯だ!」Kの号令の元、2匹はシャンプーとホディソープを大量に使い、全身を洗った。残っていた親父臭も洗い流され、2匹はサッパリとして浴室から出た。「空気が変わってる。やっと普段の生活に戻れる」DBはしみじみと言った。「いよいよ、今日の午後、憎たらしい小僧の始末も付く。晴れて我らの天下が戻る日だ。DB、まずは朝食だ。その後に、最終確認をしよう!」「長い雌伏だったが、これで日の当たる世界に戻れる。午後3時が待ち遠しいな!」そう言うとDBは朝食をオーダーした。Kは、腹をバシバシと叩くと着替えに移った。DBも汗を拭い着替えた。オーダーした朝食を囲んで、2匹は暫く無言で食べ続けた。「DB、相談がある」Kが真顔で言う。「何だ?」「今夜発の航空券が3枚ある。俺の高飛び用に用意したモノだ。行先は全部バラバラだが、お前さんも高飛びするのはどうだ?」意外な話にDBは驚き、暫く声も出なかった。「この際だ、ちょいと日本を抜け出して、行方を眩ませるのも一手じゃないか?」Kの予想外の発言に、DBは戸惑った。高飛びなど予定外の話だ。DBは何と答えたものか?と思案に沈んだ。「どうも、お前さんの先行きが不安でな。Yが失脚するまで、海外で待つのも一案の様に思うんだが、どうするDB?!」Kは本気だった。

ミセスAとF坊、“スナイパー”の3人にN坊とリーダーが揃い、6人は朝食を囲んで座っていた。「F坊、その口紅は何とかならんのか?」“スナイパー”は噴き出しそうになりながら言う。F坊の顔には、ミセスAの“キスマーク”が所狭しとばかりに付いている。「別にいいじゃないか!俺にとっては普通の状態だ!」F坊は意に介す事無く朝食に食らいつく。「そうよ、私達にとっては、ふ・つ・う・の出来事だわ」ミセスAも同じことを言う。「うーん、何処が普通なんだ?常識が通じない」“スナイパー”は頭を抱えた。「さて、皆が揃ったところで、最終の協議を始めるとしよう。A、まずはZ病院の状況からだ。何か変化はあったか?」ミスターJが問うた。「あるわ。昨夜、県警の捜査一課長が来院したの。理事長や院長と話し合っていたわ。当初の予定では、KとDBは、病棟で取り押さえられて“誘拐未遂”の容疑で任意同行されるはずだったのが、外の駐車場で“殺人未遂”と“麻薬取締法違反”の容疑で逮捕されることになった様よ。県警の方針が大きく変わったみたい」ミセスAは一気にまくし立てた。「ほう、県警が逮捕に踏み切るのか。どうやら我々の証拠が功を奏したな。県警としても、これを足掛かりにして一気に青竜会を掃討するつもりだろう」ミスターJは“バトン”が繋がった事を確信した。「それともう1つ、相模原の施設へ同時刻に家宅捜索が入るって聞いたわ」「旧NPO法人の施設にガサ入れか。本腰を入れると言う事は、壊滅作戦に突入したと見て間違いないな」ミスターJが唸る。「ミセスA、そろそろ出勤時間じゃありませんか?」N坊が時計を見て言った。「そうね、もう行かなくちゃ遅刻だわ。N坊、F坊、また打ち上げの時にね!熱いのをたっぷりと、し・て・あ・げ・る!」少女の様に言うとミセスAは、支度を始めた。「ミセスA、お使いを頼んでもいいですか?」リーダーが分厚い封筒を差し出した。「これは何?」「音声記録ですよ。ジミー・フォンとミスターJの。警察の方に渡して欲しいんです」「このままでいいの?」「渡せば分かりますよ。裏に捜査一課長様って書いてありますから」リーダーは拝むように手を合わせている。「分かったわ。これは確かに届けるわ。じゃあ皆さんお先に!」彼女はN坊とF坊に手を振りながら出勤して行った。「先陣を切ってのご出勤か」“スナイパー”が呟く。「Aは、自分の役割をきちんと把握しておる。Z病院内は彼女に任せておけば大丈夫だ。次は、NとF、お前達と“スナイパー”だ。Kの車に発信機は装着してあるな?」ミスターJが確認する。「ええ、昨日のガサ入れの際に設置してあります」「型番はRX-02。こいつは、見通しが良ければ1キロ先まで受信可能なタイプです。発信周波数は“スナイパー”、この付近だ」「ふむ、一番混信の少ないバンド帯だな。市街地でも700mは距離を保てる」「バッテリーの持続時間は、約12時間。ヤツらがエンジンを始動させればスイッチが入る仕組みになってます」N坊とF坊はてきぱきと答えた。「うむ、それなら追尾も容易だな。お前達3人は、KとDBが車で出発したら、直ぐに追尾にかかってくれ。それと万が一だが、KとDBが車で逃走した場合の対策はどうなっている?」ミスターJが更に踏み込む。「Kの車を詳細に分析した結果、ブラックボックスを取り付けて置きました」「最初は、ECUを狂わせるウィルスプログラムを送り込むつもりでしたが、Kの車が結構なポンコツでして、ウィルスを送り込むと走行に支障が出る事が分かりました。Z病院までは、まともに走って貰わなければ困りますので、結局、制御回路を新たに別個体で外付けにすることにしました」「別個体の制御回路は、燃料噴射やATの変速を狂わせる様に細工してあります。アクセルをベタで踏んだとしても、時速40キロ以上の速度は出せないでしょう。ただ、問題が1つだけ残っています」「Z病院にKが乗り付けた後でないと、切り替えができないんです。切り換えそのものは遠隔操作で出来ますが、俺達のどちらかがZ病院に潜った上で、リモコン操作をしなくてなりません」N坊とF坊は説明しつつ、問題点を提起した。「ふむ、一手間をかける必要があると言うのだな。それは構わん。ともかくKの車を容易に追い詰められさえすれば、目的は達せられる。2人のどちらでもいいから、Z病院に潜入して確実に切り替えを完了させろ。リーダー、Z病院周辺の地図を」ミスターJは地図を持って来させると「機動部隊と遊撃隊は、Z病院周辺でインターへ向かう筋を中心に、円を描く様に展開させる。“スナイパー”は、KとDBを追尾して、Z病院の東側のバス停付近に車を止めて待機だ。NとFのいずれかが、ここからZ病院に潜入してリモコン操作を完了させる。操作が終わり次第、このバス停付近へ戻れ。私とリーダーもここで合流する。“スナイパー”、直ぐに駐車場から車を引き出して、αポイントへ向かってくれ。NとFは“撤収作業”が完了したら、αポイントの“スナイパー”の車内で待機だ。各自、荷物は必要なモノ以外は、ここへ運び込め。では、速やかにかかれ!」「はい!」3人は司令部を出て各自の部屋へ戻った。「では、リーダー。いよいよ機動部隊と遊撃隊の配置だ。もう腹案は出来ているだろう?」ミスターJはリーダーに問う。「はい、インターへ向かう幹線道路を重点に、車両の配置を考えました。逃走するにしても、行先は成田に決まっていますので、インター入り口付近にも車両を配置します。追跡の中心は“スナイパー”になりますが、車を乗り捨てられた場合を考慮すると、半径2キロ以内に集約するのが限度になります」リーダーは別の地図を広げて説明する。「Z病院周辺の最寄り駅は、カバーすると言う訳か。徒歩で逃げられる確率は低いし、警察も逃走されれば非常線を張り巡らせるはずだ。我々の配置はこれでいいだろう。車両の数に措いては、到底警察には敵わない」ミスターJは配置に同意した。「分かりました。では、大隊長に連絡して各車両を配置に向かわせます!」「よし、直ぐにかかれ。リーダー、大隊長にトラックを回すように言っておけ。今のうちに、積み込みを始めないと司令部の“撤収作業”に影響が出る」「1時間後でよろしいですか?」「そうだな。KとDBに悟られる前に済ませたい。大隊長へさっきの地図も届けなくてはマズイ。1時間後に着けてくれ」「分かりました」リーダーは携帯で大隊長を呼び出し始めた。N坊とF坊、“スナイパー”も司令部に荷物を運びこみ始めた。ミセスAのボストンバックは2人がかりで持ち込まれた。「何でこんなに重いんだ?」「気を付けろ!破けたら最期だ!」N坊とF坊が口々に言う。「ミスターJ、ミセスAのボストンバック4つ、取扱い要注意でお願いします」N坊が願い出る。「何だ?!この化け物の様なバックは?」「ミセスAに聞いてください!クローゼット丸ごと入ってるらしいので!」「うーむ、とにかく気を付けよう」ミスターJも呆れながら言う。いよいよ、矢は弦を放れようとしている。慌ただしく続けられる作業は、分刻みのスケジュールに沿って動き始めた。決戦は午後3時。各自は可能な限り急いで作業に取り組み始めた。

DBは悩んだ。当初は、海外逃亡など考えてもいなかった。だが、Kは本気で尋ねている。「DB、お前の安全の為でもあるんだ。どうする?」パスポートは持ち歩いているし、手持ちのキャシュもソコソコある。1週間ぐらいなら、海外へ行けるだけの用意もしている。DBは悩んだ末に「では、俺も高飛びするとしよう」と答えた。「よし!これで安心だ。では、行先を決めよう。香港、上海、シンガポールの3つだ。俺は香港を取らせて貰う。DB、残るは2択だ。どちらにする?」Kは2枚の航空券を出した。「ならば、上海を選択する。国内線で香港へ飛べるからな」DBは上海行きの航空券を取った。「分かった。シンガポールの分は、成田でダフ屋に売って金に換えよう。逃走資金は多いに越したことは無い」Kは航空券を懐に入れると「日本に凱旋できるまで、左程の時間はかからないだろう。Yが失脚しさえすればいいのだ。今度こそ、我らが勝つ番だ!」Kは自信に溢れていた。Y副社長は失脚し、自分達の天下に取って替われると、疑いすら抱いていなかった。計画は完璧、後腐れも無く事は済むはずだった。だが、知らぬ間に張り巡らされたワナに堕ちるのは、KとDBの方だった。しかも2匹は“まったく気付いていない”のだ。「DB、そろそろ片付けにかかろう。今日でこのホテルを引き払う。車も出さなくてはならない。チェックアウトまで、あまり時間は残っていないぞ!」「ああ、最後の打ち合わせもしなくてはならない!肝心の場面でボロが出るのはマズイ」「その通りだ。DB、名演技を見せてもらうぞ!」「任せて置け!ハリウッドからスカウトが来る位の演技をして見せようじゃないか!」DBは腹を打って自信たっぷりに言った。これが2匹の最期になるとは、当人たちも知る由も無かった。音を立てて迫りくる包囲網に、2匹はまだ気づきもしていなかった。

普天間は還らない

2018年10月03日 20時43分44秒 | 日記
普天間は還らない。半永久的に固定化されるだろう。「世界一危険」と言うレッテルを貼られても、普天間は使われ続ける。皮肉だが、沖縄県民の意思である。辺野古への移設阻止を掲げた新知事が誕生したからだ。「辺野古に基地は造らせない」=「普天間の固定化」の容認と取られても仕方あるまい。彼らはそう判断したのだから。

そもそも、鳩山政権の誕生、自民党の下野から、話は迷走した。鳩山は選挙で「最低でも県外」と玉虫色の箱を掲げた。沖縄県民は狂喜し、鳩山らは政権を奪った。だが、玉虫色の箱には「最初から、何も入っては居なかった」のだ。当時の民主党政権は、目の色を変えて、辺野古の代替地を探した。だが、そんな土地は何処にもなかった。「徳之島にお願いしたい」と鳩山が言うと、非難の矢が豪雨の如く降った。徳之島にして見れば、青天の霹靂もいい話で、到底通る話ではなかった。それでも、ヤツは「腹案はある」と虚勢を張った。けれども、そう言った時点で万策は尽きており、結果として話は辺野古へ戻ってしまった。鳩山が振り回した結果、話は完全にこじれて、沖縄と政府の間には大きな溝が生じた。辺野古への移設計画を苦難の末に決めた「平成オジサン」事、小渕総理の努力はこうして水泡に帰したのだ。

自民党が政権を奪還し、1強他弱となった現在。政府は「粛々と移設を進める」と言って工事を続けているが、反米活動家「翁長氏」の亡霊政権が誕生した沖縄に対して、これまで以上に強硬な姿勢を取らざるを得なくなった。米帝国の総統ジョーカーの気分次第では、在韓米帝国軍の撤退もあるかも知れないからだ。総統ジョーカーは「在韓米帝国軍を撤退させて、その分の経費を自帝国の為に使おう」とまで言ったのだ。そうなれば、我が国の防衛は自衛隊が担う事になり、自衛官たちを常に最前線に立たせる事になる。彼らとて国民である。自国民に「死んで来い」と誰が言えようか?!先の大戦の特攻隊ではないのだ。沖縄県民にしても、先の大戦で多大な犠牲を強いた「沖縄戦」の記憶は風化してはいまい。歴史上の悲劇は繰り返してはならないのだ。故に、辺野古への移設が普天間返還の大前提になるのだが、今回の知事選の結果は絶望的なものに終わった。普天間の一層の半永久的固定化は避けられまい。

「辺野古に基地は要らない」と言うのならば、「普天間は返しませんよ」と米帝国は言うだろう。代替地に建設出来ないとなれば、今、有るもので凌ぐしかない。普天間の危険除去は絶望的になった。これからも、この先も危険と隣り合わせで暮らしてもらうしかない。それが知事選の結果であり、彼らの意思ならばそうするしかない。これから、埋め立て承認の撤回や反政府、反米帝国集会などが活発に展開され、沖縄と政府は益々対立するだろう。だが、それが県民の意思ならばやむを得ない。最終的には、建設を中断せざるを得なくなっても仕方あるまい。普天間基地を使い続ければいい。それが最善の選択と言えなくても、今、有る基地を生かすしかないからだ。

ミスター DB 51

2018年10月03日 17時41分33秒 | 日記
“兄貴”と呼ばれた人物に、呼び止められたミスターJ一行は、通された部屋で一様に硬い表情を浮かべていた。「貴方は何者です?!ただの青竜会の幹部ではありませんな!」ミスターJは言い切った。「流石にお見通しですか?やはり、貴方もただの陰ではなさそうだ」“兄貴”は笑い出した。「確かめておきたい事があります。それも早急に!」“兄貴”は急に真剣な顔つきになった。「まさかとは思いますが、もしや・・・」ミスターJは何かを察した様だった。「多分、貴方はこう思っておられる。“モグラ”ではないかと。そうではありませんか?」“兄貴”はミスターJを真っ直ぐに見据えて言った。一瞬の静寂の後「私は、青竜会では“本山某”と呼ばれていますが、本名は別です。お察しの通り、私は“モグラ”です。2年前から青竜会に潜入している」仮称、本山氏は静かに言った。「よろしいのですか?“モグラ”は日の当たる場所、つまり身分を明かす事を禁じられているはず。何故、私達に?」ミスターJは誰何した。「確かに言われる通りです。日の当たる場所へ出るのはご法度。しかし、重要な情報が相次いで入ったのですよ。1つ目は“親父”平たく言えば組長ですが、急に“身づくろいを急げ!”と言って来た事。2つ目は、県警から極秘に“近々手入れに入るから、手元の資金を手放すな!”と言って来た事。3つ目は、県警から情報を流していた青竜会の手先が、つい先ほど逮捕された事です。こっちは目下、大混乱ですよ。そこで、フォンに情報提供を依頼するために若いのを出したら、店先でKOされてると来ました。そこで閃いたんですよ。“遂に県警が確たる証拠を手にした”と言う事実を。後は“誰がどうやって届けたか?”を確かめるだけでした。フォン自らが、もてなしていたのが貴方達だと知り、私は包囲をかけた。教えていただけますか?貴方達なんですね?確証を県警に届けたのは?」本山氏は淀みなく語り問うた。「お察しの通りですよ。我々が確証を揃えて“ある人物”に託した。彼は“後輩”にバトンを繋いだ。それだけです」ミスターJも静かに応じた。「なるほど、やはりそうでしたか。となると、私も急がなくてはならないな!至急、この街に対しての“借り”を返さなくては」本山氏はお茶を飲み何やら思いを巡らせ始めた。「青竜会がこの街に積み上げた“借り”は、億単位と聞いてますが、本山さん、どうなさるおつもりですかな?」ミスターJは思い切って切り込んだ。「私が単独で動かせる青竜会の資金は、約4億あります。その内の半分、2億はこの街へ返すつもりですよ。せめてもの償いですが。県警は資金を手放すなとは言ってますが、額までは知らない。その前に返してしまえば、何も問題にはならない。フォンと近々の内に話して、返済しましょう。彼に話を持ち掛けても構いませんか?」本山氏は穏やかに問うた。「フォンに任せれば間違いはありません。しかし、貴方の立場はどうなります?」ミスターJも問い返した。「“親父”が、“身づくろいを急げ!”と言っている今なら、何の疑いも無く処理できます。ですから、急がねばなりません」本山氏は決意を込めて言う。「青竜会がこの街を食い物にして来た事実は、もう消し去れません。この街全体もそう思っているでしょう。私も青竜会の一員として、数々の悪事に手を染めました。でも、何時、誰が、何をしたのか?は全て記録してあります。晴れて自由の身になった折には、必ず断罪して償わせます。この2年、決して平坦ではなかった。だが、貴方達が用意してくれた確証で、青竜会を壊滅に追い込むことが出来る。私の任務も間もなく終わりますが、漸く重い荷物を降ろせる。それが確かめられて安心しましたよ」本山氏は穏やかに言った。「失礼ですが、ご家族は?」ミスターJが心配そうに聞く。「妻子とは別れました。潜入する以上、後顧の憂いは絶っておかねばならなかった。実は、顔も変えています。この顔で妻子と会っても、気づかれる事はありません」本山氏は微かに笑っていた。「そこまでして、青竜会へ潜った訳は何なんです?」ミスターJが更に聞く。「青竜会を壊滅させる。それだけです。彼らを駆逐するには潜るしか手が無かった。何の罪もない人々の生活を守る。使命感とは違う義務感みたいなモノですかね。自分でも分かりませんが・・・」本山氏は照れくさそうに言った。「お引止めして申し訳なかった。どうぞお茶や菓子を召し上がって下さい。ここは、青竜会が支払います。若いのがご迷惑をおかけした詫びです。では、失礼します。もう、2度とお会いする事は無いでしょう。ですが、私は今日の事は生涯忘れません。ありがとう」そう言うと、本山氏は去って行った。通りに面した窓から、彼が雑踏に消えていくのをミスターJは静かに見送った。「N!F!今日の出会いを忘れるな!彼の様な男、中々居るものではない。しかと心に刻んで置け!」ミスターJは2人に言い渡した。「はい、あんな風には簡単になれないだろうけど、いつか追いついて見せます」「ええ、必ず追いついてやります」N坊とF坊は決意を新たにしていた。「まあ、お前達には、後10年以上かかるだろうがな」“スナイパー”が遠くを見る様に言った。「私達は、この街と彼も救うことが出来た。今回の作戦は成功だったと言えよう。後は、KとDBだ。明日に備えて引き上げるとするか?」ミスターJはお茶を飲むと、3人を連れて店を出た。雑踏は途切れることなく続いている。一行は司令部への帰途に就いた。

絶え間なく響く爆音の如きイビキと険悪な悪臭ガスの噴射音。KとDBは、くたびれ果ててソファーに横たわっていた。室内には、又しても悪臭が充満していた。昨夜から数えれば何回目だろうか?客室係の女性達に知れたら卒倒モノであった。やがて、まずKが意識を取り戻した。「何だ?この異臭は?」ヤツは記憶が飛んでいた。ハンカチで口元を覆い隠して、窓を開ける。冷たい夜風が入り込むと、DBも意識を取り戻した。「臭い!また悪臭地獄だ!今日は厄日か?」DBも記憶の1部が飛んでいた。「DB、俺達はどうやってサウナから帰って来たんだ?この異臭の原因は何だ?」Kの記憶は、そっくり抜け落ちている様だった。「K、生薬を飲んで、コーラを一気飲みして、コンビニを悪臭地獄に陥れたのを忘れたか?!」DBが抜け落ちている記憶を並べ立てた。「あっ!ヤケを起こしてコーラを飲んで、大量のガスでコンビニを臭くしたのは俺か?!」Kはやっと思い出しつつあった。「その後、警察に追われる前に“追いかけっこ”をやって、路地裏を走り回ってやっとの思いで帰って来たのを忘れないでくれ!だから、疲れて沈没してるんだ!」DBが止めを刺す。「あー、俺の悪いクセが全て出ている。済まんDB。異臭の発生先は俺達だな?」「そうだよ。ガスだからまだいいが、どうにかして“異臭の素”を駆逐しない限り、ガスは止まらん」DBは換気扇とエアコンを全開にして、ガスを追い払おうとする。その間にも2匹の尻からは、ブォーっと言う轟音と共にガスが噴射され続けていた。「では、食事をするしか無いのか?」Kが聞く。「そうだな、それしか道は無い」DBは答えた。「1階のレストランは?」「ダメだ!」「コンビニへ買い出しに行くのは?」「ダメだ!今度こそ捕まる!」「ホテル外へ食べに出るのは?」「以ての外だ!!」Kは、うな垂れて「コーラを止めて置けば・・・」と後悔したが、もう遅かった。唯一残された道は、ルームサービスでオーダーするしか無かったが、リスクがあった。室内の異臭だ。「化学製品は使えない。異臭に飲み込まれて、臭ささを助長するだけだ。残された手はお香を焚くことだが、どこかにないかな?」DBは客室内を物色し始めた。ソファー周辺からベッド周辺、バス、トイレと隅々を丹念に見て回る。「おっ!天祐だ!お香がある」DBは浴室内でお香の箱と皿とチャッカマンを発見した。それは、客室係の女性達がウッカリ忘れたモノだったが、今の2匹にとっては天佑神助に他ならなかった。「K、お香が20本近くある。直ぐに焚こう!」DBとKは窓を閉めて、換気扇も止めてからエアコンの風量を最大にすると、お香に火を点じた。徐々に悪臭は鎮められていく。「これで、ルームサービスを呼んでも問題ない。K、直ぐに電話しよう!締め切りまで時間が無い!」Kは受話器を取り上げると「DB、何を持って来させるんだ?」と聞いた。「あらゆるモノ、注文できる限り全部だ。朝からロクに食べていないんだから、好みは問わん」「よし!片っ端からオーダーするぞ!」Kは直ぐに大量のオーダーを入れた。異臭はお香によってかなり鎮まり、室内の臭いも変わりつつあった。「一旦、換気しよう」DBは窓を開けて、空気を入れ替えた。2本目のお香にも火を点じ、皿を浴室内へ移す。「ガスの噴射も治まって来た。生薬が分解されたのだろう。ようやく、まともに食べられる」DBは湯を沸かし、お茶を淹れる準備をした。ルームサービスの品も届けられ、食卓にはズラリと料理が並んだ。「しかし、DB、食っても大丈夫なのか?また、悪臭地獄に陥る心配は無いのか?」Kは怯えたように言う。「“異臭の素”を腸から駆逐するには、食べるしかない。明日の朝、悪臭は漂うかも知れないが、食った後に生薬を飲めば、臭さは抑えられる。お香もかなりの本数があるんだ。今朝の様な悪夢は振り払え!」DBはそう言うと、ガツガツと食らい付いた。「そうだな、まずは食おう」Kも無心に食らい付いた。24時間振りのまともな食事だった。「K、1つだけ頼みがある」「何だ?」Kは一旦、食事を止めた。「炭酸飲料だけは、勘弁してくれ!もう、ガスも沢山だ!」DBがしみじみと言う。「分かった。今夜はお茶にしよう」Kも反省した様に返した。2匹はこの日、初めての“まともな食事”にあり付いた。夜は更けて行った。

県警に戻ったW氏は、真っ直ぐに鑑識課へと向かった。Y副社長から託された“荷物”を抱え、鑑識課長を探す。「課長!大至急これを分析して欲しい!」鑑識課長を見つけたW氏は、“荷物”を手渡した。「W警部、これは何処からの押収物です?それに何を分析するんです?」怪訝そうな鑑識課長にW氏は、封筒の中身を突き出した。暫く書類を繰っていた鑑識課長の顔色が真っ青に変わる。「こいつは・・・、物凄い!決定的な証拠じゃありませんか!この青いビニール袋の中身は、ZZZって事ですよね!」「そうだ。それを改めて検証して貰いたい!分析をされた先生は、向こうの県警の分析医として、私も存じ上げているが、確実にZZZだと言う証明をしたいんだ!科捜研へは送れるかい?」「直ぐに誰かを行かせます!所長を叩き起こせば、朝までには分析出来るでしょう!一大事だ!全員集合しろ!」鑑識課長は直ぐに課員を呼び集めた。既に帰宅した者には、非常招集を命じた。W氏は、内線でマル暴の課長と古参のG刑事を呼び出していた。「直ぐに鑑識へ来てくれ!一大事だ!」数分後に2人は鑑識へ駆けつけた。「一大事とは何事だい?W警部殿?」やって来たG刑事とマル暴の課長は怪訝そうに聞く。W氏は、鑑識課長の時と同様に封筒の中身を突き出した。「Gさん、とにかく見てくれ!貴方なら分かるはずだ!」「こいつは・・・、まさか・・・!遂に尻尾を掴んだって事か?!」G刑事もマル暴の課長も驚きのあまり声も出ない。暫しの沈黙の後、G刑事が「どこから手に入れたんだ?これは、長年俺が追っていた答えそのものだ。余程の組織が無けりゃ、これ程の子細な分析なんぞ出来ない」「確かにそうだ。どこで手に入れたんです?」マル暴の課長も答えを聞いている。「それは、残念ながら明かせない。入手先については、一切口外しない事を前提に譲り受けたんです」W氏は苦しそうに答えた。「オープンに出来ない事によって、この証拠が埋もれるのは避けたい。逆に、この機に乗じて青竜会への強制捜査に踏み切りたい。でも・・・」「でも、本部長がウンと言うか分からん。そうだな」G刑事が後を引き取った。「出何処がどうであれ、俺は青竜会に切り込めると思うぜ。麻薬取締法違反でな。正直な話、俺なら1人でも切り込むけどな」「そこから、芋づる式に釣り上げる。願っても無いチャンスだ!私だってGさん同様、直ぐにでも令状を取るがどうする?これだけの証拠が揃うのは、もしかするとこれ以後、無いかも知れないぞ!」マル暴の課長も前のめりだ。「本部長を説得に行くか?俺も課長も援護する。青竜会の息の根を止めるのは今しかない!」マル暴の課長も頷いた。「まだ、鑑識課長と、お2人にしかお話してませんが、この証拠で青竜会を壊滅させられると思いますか?」「取っ掛かりとしては、最高の証拠だよ。今まで陰すら踏めなかったんだ。逆に1歩、いや3歩は先回りしてる。これを逃すと次は無いぞ!」G刑事が受話器を取り上げた。「本部長なら分からない筈が無い。散々煮え湯を飲んでるんだ。俺が引導を渡して見せよう」そう言うとG刑事は本部長を呼び出した。10分後、3人は本部長室で話し合いに望んでいた。書類を無言で繰った本部長は、やはり顔色を変えた。W氏が証拠の入手経過を説明し、マル暴の課長とG刑事が、捜査の開始を進言した。黙って聞いていた本部長は、暫く目を閉じてから「W警部、Z病院の一件は知っているな。あそこの理事長は私の先輩でもあるし、主治医でもある。だから、私は密かに捜査一課を動かしてきた。今の話を総合すると、Z病院の一件に絡んで青竜会の動きを察知し、証拠を得たと言う事だな」「はい、そうです」「Gさん、勝ち目はあるか?」「あるも何も、最初で最後の好機ですよ。この機に乗じて、動かない手はありません」本部長は、捜査一課長を呼んでから「では、決まりだ!Z病院の一件に本件を加えて、青竜会を叩く!合同捜査本部を設置して至急取り掛かってくれ。捜査一課長、W警部とマル暴課長から説明を聞いて、直ぐに必要な処置をとってくれ!」「はい!」4人は急いで辞して行こうとしたが、G刑事は本部長に呼び止められた。「Gさん、遂にこの日が来たな。今までご苦労だった」本部長は感慨深く言う。「確かに長かった。俺も後2年で定年だ。その前にヤツらを叩けるとは、思ってもいませんでしたよ。珍しいですな。石橋を叩き壊しても渡らない貴方が、即断するとは」G刑事も感慨深く言う。「散々、煮え湯を飲まされた相手だ。Gさんから引導を渡されるまでも無く、私は動くつもりでいたよ。出何処がどうであれ、証拠が挙がったんだ。この機を逃す訳には行かないよ」本部長は決然と静かに言った。「本部長、Wもいい刑事になりましたね」G刑事がポツリと言った。「ああ、お前さんの跡継ぎの様なもんだ。若い者の活躍の場を整えてやらんといかんな。定年まで、しっかりと背中を見せてやってくれ!」2人は将来を託す者達への賛辞を惜しまなかった。「じゃ、本部長、私も参戦します」「ああ、任せるGさん」G刑事は前を行く3人を追い始めた。目指すは、青竜会の壊滅。合同捜査本部は熱を帯びて動きだして行った。

ミスターJの一行は、無事に司令部に戻った。リーダーが出迎える「ご無事でなによりです。直ぐにコーヒーをお淹れします」「ああ、他の3人の分も頼む。それと、フォンが喋った音声記録だ。県警へ匿名で送ってやれ」そう言うとICレコーダーをリーダーに手渡した。「編集しなくてもいいのですか?」「構わん。そのまま送り付けてくれ」ミスターJは意に介さずに言う。「N、F、“スナイパー”、ご苦労だった。部屋はこの続きに取ってある。今夜は早めに休んで置け。まだ、もう1日残っている」「はい」3人が同時に答えた。「ジミー・フォンはどうでしたか?」リーダーがコーヒーを配りながら聞く。「スラスラと喋りおった。意外だったが、ヤツも見えて来たモノがあるのだろう。親父さんの背中がな」ミスターJは、フォンの親父さんを思い出していた。時に熱く、時に優しく、悪を許さなかった偉大な人物。病気で早逝してしまったのが惜しまれた。後を継いだのが、ジミー・フォンだ。彼もようやく目覚めようとしている。“蛙の子は蛙。義侠心は親父さんそっくりだ”心の中でそう呟いていた。「ミスターJ、俺達早めに休ませてもらいます」N坊とF坊が言った。「俺も飲んじまったから、車を出せない。済みませんが休ませてもらいます」“スナイパー”も言う。「そうしてくれ。一番疲れてるのは、お前さん達3人だ。ゆっくりと休め」「じゃあ、失礼しまーす」とN坊が大声で挨拶をすると、3人は各部屋へ引き上げて行った。「リーダー、“耳”からは何が聴こえる?」ミスターJは“2匹の食用蛙”達の動向を聞いた。「どうやら、食事中の様です。また、大量のルームサービスをオーダーしまして、無心に食べている模様です。明日の朝が、また山場ですね」「悪臭地獄再来か?有り得る話だな。まあ、それはいい。今、思い出したが明日の朝、早い時間にY副社長の使いが来るやも知れん」「えっ、まだ何か?」「DBの処遇だよ。Kは逮捕起訴されるのは確実だが、DBは検察に送致されても不起訴になる確率が高い。嫌疑不十分でな。問題は、その後だ。Y副社長が黙って許す訳がない。DBに対して何らかの処分を下されるだろうが、釈放されたDBをどうするか?まだ何も協議していない」「確かに、その点はスッポリ抜け落ちてますね」リーダーも思い出した様だ。「明日は“撤収作業”もしなくてはならない。Y副社長関係は、私が引き受けるから、リーダーは“撤収作業”の指揮を執って貰いたい」「分かりました。お帰りはどうなさいます?」「Z病院の行く末を見届けてから引き上げる。車を2台用意してくれ。私とリーダー、NとFを乗せて帰らねばならん」「分かりました。機動部隊から、2台を振り向ける様に手配します」ミスターJはコーヒーを飲み干すと、上着を脱いで窓辺に向かった。「全ては明日に掛かっている。もう少しだ。上手く罠に落とさねばならん」月は中天高く昇り、街の明かりは少しづつ消え始めていた。いよいよ、決着の日が迫った。ミスターJはシャワーを浴びると床に就いた。疲れからだろうか、彼は瞬く間に眠りに落ちて行った。

ミスター DB ㊿

2018年10月02日 11時20分43秒 | 日記
時間は少し戻って、サウナの1フロア下の漢方薬局。KとDBは、美人のスタッフの応対に鼻の下を伸ばし切っていた。問診票に必要事項を記載して提出し、今は窓口で話している最中である。「とにかく、胃と腸に負担をかけてしまいましてね。調子が悪いんですよ」DBはデレデレになりながら、美人スタッフに訴える。「そうでございましたか。昨夜はどの程度お食事をなされましたか?」2匹は答えに窮した。△珍楼でドンチャン騒ぎをしたとは、とても言えたものではない。「△珍楼でフルコースを注文しましてな。少々食べ過ぎた嫌いがあります」Kが何とか誤魔化しにかかる。「油の濃い料理をお食べになられているのですね?お酒は?」「ビールの大瓶を各1本ぐらいです」DBも誤魔化しに走る。「承知いたしました。油の濃い料理にお酒を少しですね。普段と違うお食事を摂られている様でございますので、胃と腸に負担がかかってしまうのは、当然でございましょう。当店には、この様な症状を改善する生薬が揃っております。これから調合してお出ししますので、ソファーに座ってお待ちください」美人スタッフは笑顔で話を聞き終えると、奥へ消えた。「おい、DB!凄い所を知っているな。美人揃いじゃないか。お香の香りもいいし、居心地のいい空間だ」Kは、よだれを垂らさんばかりに表情を崩している。「1度だけ来た事があるが、ここの生薬はよく効く。K!よだれを拭け!」DBがたしなめる。「ああ、済まん。美人の宝庫なんでつい、垂れてしまう」Kはティシュで口元を拭った。程なくして、美人スタッフは、袋と水の入ったコップを持って現れた。「お待たせ致しました。胃の不快な症状を改善する生薬をご用意致しました。お食事の前にお飲みになって下さい。当面1日分でございますが、症状が改善されない場合は、速やかに病院を受診される事をお勧めします。今、お飲みになって行かれますか?」「ああ、そうしよう」2匹は早速、生薬を飲み込んだ。「繰り返しになりますが、出来るだけ速やかに病院での診察をお勧めします。お客様の状態を伺った限りでは、かなりの負担が胃と腸にかかっていると思われます。こちらでの処方には限界もございますので、お医者様にきちんと診断をしていただいて下さい」美人スタッフは、丁寧に医療機関での受診を勧めた。「分かりました。明日にでも病院へ行きますよ」DBはそう言ってコップを返した。「お会計はあちらでございます。どうぞお大事になさって下さい」美人スタッフはそう言うと、薬袋と明細をDBに手渡すと、一礼して下がって行った。「ほう、結構リーズナブルじゃないか」Kは明細を見て言った。「1日あれば胃と腸は落ち着く。“悪臭の素”は追い払ったんだ。生薬パワーで復活だ!」「だが、今晩は用心しなくちゃならない。食べ過ぎは厳禁だぞ!」DBが釘を刺す。2匹は、会計を済ませると、意気揚々とPホテルへ引き上げて行った。

ミスターJ一行は、中華街へ足を踏み入れようとしていた。煌めく光と人々の渦。華やかな雰囲気が街を包んでいた。ミスターJを中心に、左前をN坊が右前をF坊が固め、“スナイパー”は後方から全体を俯瞰する様に固めていた。「こうして見ると華やかだが、裏へ回れば青竜会の影がチラついているんだろうな」N坊が声を潜めて言う。「ああ、どこから何が出て来てもおかしくねぇ」F坊も言う。「前の2人は丸腰ですが、大丈夫なんですか?」“スナイパー”はミスターJに聞いた。「お前さん、あの2人が丸腰で前衛を務めると思っているのか?心配はいらん。ちゃんと武器は持っておる。機械屋兼電器屋らしいモノだがな」ミスターJは落ち着き払って言った。△珍楼までは何事も無く着いたが、入り口は何故か静まり返っていた。ウェイターが2人、頭を下げて客の入店を断っている。「申し訳ございません。本日は満席でございまして・・・」「何だと!俺に向かって帰れと言うのか?!兄貴に何て詫びを入れりゃあいいんだ?!フォンを呼んで来い!!俺のツラを拝めば気も変わるだろうよ!!」背広の左襟には、青竜会のバッチが光っている。ウェイターはあくまでも「満席」を繰り返して頭を下げているが、青竜会の若い組員は引き下がる気配が無い。そこへN坊が「予約した者だが、ジミー・フォンに“ミスターJが来た”と伝えてくれ」と言った。ウェイターの1人が「少々お待ちください」と言って店内へ声をかける。青竜会の若い組員が突っかかって来た。「何だ?!お前らは入店する気か?!」N坊が「予約は入れてあるぜ!」と突っぱねる。「俺達を差し置くとはいい根性だ!兄貴が聞いたらタダじゃすまねぇぞ!」と目の前を塞ぐように立ちはだかった。「N、F、騒がれるとマズイ!」ミスターJが小声で言うと「何をごちゃごちゃ言うとんのじゃこら!」と青竜会の若い組員が迫って来た。接触寸前にN坊とF坊の上着が翻り、バシッっと電流の青く弾ける光が躍った。前と後ろの両方から右手が叩き込まれたのだ。若い組員はゆっくりと崩れ落ちた。「成敗!」N坊とF坊は、素早く若い組員を物陰に引きずり込んでいく。「お前ら、殺してないだろな?」“スナイパー”は真顔で聞く。「大丈夫!」「出力絞ってあるし」N坊とF坊はビニールの紐で手を縛り上げつつ言った。股間の周囲には失禁の跡が広がっている。「朝まで沈没だよ」「このままにしといても、害は無い」N坊とF坊は“片付け”を済ませると口々に言った。「タダのスタンガンじゃないな!何本持ってるんだ?」“スナイパー”が聞くと「2本だけだよ。今、使ったのは威嚇用」「威嚇用と、とどめ用さ。俺達は機械屋兼電器屋さ。分解して出力を上げる悪いクセがあってね」N坊とF坊が説明する。「なるほど、丸腰ではありませんな。ミスターJ」“スナイパー”はあきれ顔で聞く。「ようやく分かった様だな。私の護衛役を務める以上、この位の武器は用意して来るのは当然じゃ」ミスターJは平然と言い、店の玄関をくぐった。「いらっしゃいませ!」店員達がズラリと並んで4人を迎えた。「3階へお進み下さい。ジミー・フォンが待っております」支配人が先頭に立ち階段へと誘う。4人は3階の奥まった部屋へと通された。「ミスターJ、いらっしゃいませ!」小柄な男が深々と頭を下げて、かしこまって出迎える。「フォン、今日は久しぶりに、美味いものを食いに来た。料理は任せる」ミスターJがピシリと言うと「はい、最高の料理をお持ちします」とジミー・フォンが返した。「前菜をお持ちしろ!」ジミー・フォンは冷や汗をハンカチで拭いながら、支配人に命じた。

Pホテルへの帰り道、KとDBは別のルートを選んで歩いていた。来た道を帰るのが最短ではあったが、悪臭漬けにしたコンビニの前を通るのは、流石にマズイと言う事になり、大きく迂回する事にしたのだ。だが、2匹の足取りは重かった。萎んだはずの腹が再び膨れ上がりつつあったのだ。しかも腸はキュルキュルと動き、絶え間なく尻からガスが噴射されていた。「クッソー、どう言う事だ!腸が暴れている。しかも臭いガスが止まらん!」Kは、いら立ち転がっていた空き缶を蹴飛ばした。バフンと言う鈍い爆音が響いた次の瞬間、後ろを歩いていたDBは猛烈に臭いガスにむせ返った。「クッ臭い!K・・・、大人しく歩いてくれ!しかし、この臭さは異様だ。もしかすると、まだ“異臭の素”が残っているか?」DBは自らも機関銃の様にガスを噴射しつつ呻いた。実際の処、“異臭の素”はまだ2匹の腸の中に居座っていて、生薬と反応し多量のガスを生成し続けていたのだ。これらを駆逐するには、食事を摂って排泄するしかなかったが、2匹は悪臭に対する恐怖心から、食事を摂ろうとしなかった。結果として、ガス地獄にハマってしまったと言う訳だった。「DB!またしても悪臭が漂う事態になったが、これをどう説明する?」Kは目を吊り上げて聞く。「汗からは臭気が漂っている訳ではない。むしろ腸の動きの方が怪しい。腸にまだ“異臭の素”が付着していて、さっき飲んだ生薬と反応しているとしたら、ガスが続く事は説明できないか?」DBはやや控えめに言う。「うむ、確かに腸まで洗浄した訳ではないから、多分間違いないだろうが、いつまで続くと思う?」Kは更に聞き込んで来る。「分からない。いつまで続くか見当も付かんよ」DBは機関銃の様にガスを噴射しながら言った。「DB!こうなればヤケクソだ!俺はコーラを飲むぞ!」と言うとKは、自販機からコーラのペットボトルを引きずり出して、グビクビと飲み始めた。DBは「K、それはヤバイ!止めてくれ・・・」と叫んだが、Kは一気に飲み干してしまった。Kの胃から腸に向かって、コーラの香料と炭酸ガスが流れ込む。Kの腸に巣くっていた“異臭の素”は直ぐさま反応を起こして、多量のガスを生成した。Kの顔は赤くなり、次第に青白くなり、ついには、血の気が失われた。「DB、腹の中で・・・ガスが・・・沸いている・・・、ベルトを・・・緩めてくれ」Kはロボットの様に喋ると、目を白黒させて痙攣を起こした。「言わんこっちゃない!」DBは素早くKのベルトを緩めると、周囲を見渡した。100m先にコンビニの看板を見つけると、Kを担いで全力で移動した。自身から噴射されるガスには目もくれずに、一気にコンビニのトイレを目指す。幸い、車椅子も入れるトイレが設置されていたので、そこへKを引きずり込んだ。「この際だ、やむを得ない」DBはKのズボンとトランクスを降ろすと、便座に座らせてハンカチで厳重に口元を覆った。ドカン!ドカン!ドカン!爆発の様な轟音が3発轟くと、ダダダダーっと機銃掃射の様な音が続いて響いた。Kは驚いて意識を回復したが、トイレ内には猛烈な悪臭が充満しており、臭さにむせ返り喘息患者のように咳き込んだ。DBもある程度は予知していたが、あまりの臭さに呼吸困難に陥りそうになった。そして緊張が切れた時、自らも猛烈な音を発してガスを放出してしまった。この臭過ぎるガスは、隙間からコンビニ店内へと漏れ出し、客を容赦なく悪臭地獄へと誘った。「キャー!!!」と言う女性たちの悲鳴と、人のバダバタと倒れる音が聞こえる。DBはKに「急げ!履くモノを履いたら、脱出する」と何とか言った。Kは大急ぎで身支度をすると、トイレの外の音に耳を澄ます。「よし、脱出だ!」2匹がトイレのドアを開けると、更に臭過ぎるガスが店内へ流れ出した。床には倒れて動けなくなっている人々が多数いた。店外では、女性客らしき人々が寄り集まり、警察へ通報を始めていた。「ヤバイ!直ぐに脱出せねば・・・」と言うDBにKは「裏口へ行け!表に出れば捕まってしまう!」と言い、カウンターを突っ切ると裏口からコンビニの外へと逃れた。三十六計逃げるに如かずで、また路地裏を必死に逃げ惑った。パトカーのサイレンが聞こえる。2匹はともかく決死の形相で逃走を続けた。

ジミー・フォンは焦っていた。ミスターJに提供される料理の監督や味見、盛り付けの仕方まで全てに目を光らせ、従業員の衣服や仕草に至るまで、細かく指示を出していた。ミスターJ一行は、料理に満足しつつ笑みも浮かべている。だが、いつどの様な形で災禍が降ってくるか分からないのだ。彼は、ミスターJの真意を計りかねていた。「“秘伝のエキス”の件か?青竜会との関係か?いずれにせよ、ヤバイ橋を渡るハメにならなければいいが・・・」フォンの頭の中では、あらゆる事を想定した“想定問答集”がパラパラと捲られていた。そして、極度の緊張から、冷や汗が止まらなくなっていた。「大丈夫ですか?顔色がお悪いように感じますが?」支配人が聞いている。「いや、大丈夫だ。今、どこまで進んでいる?」フォンは雑念を振り払うように言った。「もう直ぐメインディシュになりますが・・・、何か不都合でもございましたか?」「いや、それならばいい。失礼の無い様に慎重に進めてくれ」フォンは奥の部屋へ戻ると、水を飲み深呼吸した。鏡の前で襟を正して、再び客間と厨房の中間点へ戻る。「フォン様、お客様がお話があるとおっしゃっておられます」従業員が急ぎ足で知らせる。「うん、直ぐに行く」フォンはもう一度深呼吸をすると、軽やかな足取りで、ミスターJのテーブルの前に進んだ。「何か不都合でもございましたか?ミスターJ?」「おお、ジミー。今日の料理は、殊の外美味いぞ!見事だ。さて、訊ねておきたい案件がある」フォンは「いよいよ来たか」と心の中で呟くと、億尾にも出さずに「何をお聞きになりたいのでしょうか?」と惚けた。「まずは、3ヶ月前の事だ。ニカラグアの組織のトップを接待しているな?“秘伝のエキス”を大量にばら撒いて。誰がここへ連れて来た?」“見抜かれている”フォンは直感した。こうなると下手な抵抗は無駄だ。「青竜会の麻薬担当の上の方の人でした。“存分に食べさせろ”と言われまして、好きなだけ飲み食いさせて帰したまでです。“秘伝のエキス”は多少使いましたが・・・」「なるほど、“多少”とは家訓を破ってまで、ばら撒いたと言う事だな!」ミスターJの目が光る。「麻薬組織は許せません!青竜会の跋扈も!せめてもの抵抗です。みんな青竜会に食い尽くされてるんだ。それしか手は無いんですよ。ミスターJ」フォンは震えながらも言った。「だが、家訓を破ってまでする事か?親父さんが生きていたら、別の手を使っただろう。親父さんは言っていた“秘伝のエキスは、少量使うから秘伝なのだ”とな。使い過ぎればとんでもない事になるのは分かっておるだろう。ジミー、青竜会にはどの位の貸しがある?」「ざっと、2千万。この街全体なら、億単位になりますよ」フォンは改めて暗算して答えた。「かなりの額だな。赤字の店は?」「3分の1ぐらいでしょうか。ウチだってトントンなんですから」フォンは仕方なしに言う。ミスターJは更にたたみかける。「ジミー、相模原のNPO法人については、知っているか?青竜会が乗っ取りをかけた施設だ?」「理事長を始めとする幹部がどうなったかは知りません。ただ、信者12名を夜逃げする際にこの街へ託して行かれたので、2週間程匿ってから個別に自宅へ送り返しました。青竜会と信者は無関係でしたし、青竜会も煩く追及しなかったので帰せましたが・・・。理事長達は“名古屋へ逃げる”と言ってましたが、逃げ切れたかは確認できていません。携帯を変えた様です。処方箋薬の密売は、1部の幹部達が始めた事でした。資金繰りに行き詰った挙句の行動です。それを青竜会が嗅ぎつけた。始めは“利益を折半する”事で折り合ったのですが、青竜会がコカイン、ヘロイン、MSD、の密売に利用し始め、利益も独占する様になった。気付いた時には“外堀”を埋められて、逃げるしかなかった。いいお客さんでしたよ。やってる事は無茶苦茶でしたが、月に1度は食べに来てくれました。知ってるのはそこまでです」フォンは一気に喋った。「ふむ、信者達を匿って、送り返すとは。親父さん譲りの“義侠心”は健在の様だな」「チャかさないで下さい!当然の事をしたまでです」フォンは冷や汗をハンカチで拭う。「では、青竜会がZZZを扱いだした時期は?」「3ヶ月前、ニカラグアの組織のトップが来日してから。月に1度、海路で運んでいると聞いてます。警察も必死に追ってる様ですが、尻尾どころか陰すら掴んでいません。近々、またニカラグアから“商談”に来日する様です。その際の接待をまた、青竜会に押し付けられました」フォンはお手上げのジェスチャーをして見せる。「ジミー、どうして素直に喋る気になった?こうもスラスラと言われると気味が悪いくらいだ。何があった?」ミスターJは聞いた。「私達は、親父の代からの付き合いです。“見抜かれている”って直感しましたよ。そうなれば、嘘は通用しない。貴方が直接来たからには、何らかの証拠を知っているからでしょう?白を切ったところで何になります?青竜会についてもそうです。表も裏もガッチリ固められた以上、抵抗は無理だ。素直に白旗をあげたまでですよ。ミスターJ」フォンは大きくため息をついた。偽らざる本音だった。「そうか、そこまで分かっているなら、私は何も言わん。ジミー、後1ヶ月だけ辛抱しろ!そうすれば、この街もお前さんも昔の輝きを取り戻せるだろう。今頃、県警はシャカリキになって、青竜会を追い詰める算段をしているはずだ。私が保証する」ミスターJは真っ直ぐにフォンを見て言った。「分かりました。貴方がそう言われるなら、間違いはない。1ヶ月待ってみますよ。では、成功を祈って乾杯をしたのですが、受けていただけますか?」「ああ、喜んで受けよう」ミスターJが承諾すると、フォンは支配人を呼んでシャンパンを用意させた。「栄光を祝して!」フォンが音頭を取り、全員が祝杯を挙げた。「ジミー」ミスターJが手招きをした。「はい?」怪訝そうな顔でフォンがミスターJに近づく。部屋の隅へ連れて行くと「早く、嫁を取れ!この街のドンが独り身ではマズイ!」ミスターJが小声で言う。「分かってます!長老達からもせっつかれて、見合い写真の山が出来てます!これ以上、うず高く積まれるのはコリゴリです!」フォンは肩を竦めて地団駄を踏み、悔しがった。

悪臭事件の通報を受けた警察は、直ちに近隣の交番から警察官をコンビニへ派遣した。倒れていた人々も意識を回復し、事情聴取に応じた。「猛烈な悪臭が立ち込めて、意識をうしなったのですね。何か盗まれたモノはありますか?」警官達は片っ端から聞いて回ったが、盗まれた物品や私物は一切なかった。「防犯カメラの映像に逃走犯は映っているか?」「それが、どうも故障したらしく、犯人逃走の際の映像が出ないんだよ」担当していた警察官がぼやく。「男が、誰かを担ぎ込むのは確認できるが、その後、クラッシュしてやがる」「うーん、いまいち釈然としないな。とりあえずは押収するか」防犯カメラの映像は、ともかく押収する事になった。だが、どうも釈然としない事件だった。別の証言では「ガス爆発の様な音が3回と、機関銃を連射する様な音、車が衝突した時の様な音がした後に、猛烈に臭いガスが充満した。トイレも無傷なので爆発自体もあったのか分からない」となっていた。数時間前にも、別のコンビニで悪臭事件が起きているが、警察しとても関連性は見つけられなかった。「不可解だ。向こうは店が全滅する被害だが、こっちは無傷。被害もほぼない。どう解釈する?」出動した警察官達は悩んでしまった。「ともかく、本署へ連絡して、防犯カメラの映像を提出しよう。付近の警戒と聞き込みは、継続だな」警察官達は、2手に別れた。本署へ向かった警察官は、状況報告と唯一の証拠である防犯カメラの映像を提出しようとした。だが、本署はそれどころではなく、上へ下への大騒ぎになっていた。「悪臭事件?!とりあえず、そこに置いておけ!今はそれどころじゃないんだ!全員持ち場で待機しろって署長命令が出てる。お前さん達も早く帰って待機しろ!下手にウロチョロしてると署長から大目玉を喰らうぞ!」とどやし挙げられ、早々に引き上げるハメになった。「どーなってるんだ?」「分からん?ともかく引き上げよう」彼らは急ぎ交番へ引き返し、付近の警戒と聞き込みに当たっていた仲間達にも交番へ引き上げる様に伝えた。

物陰から物陰へ、夕闇が迫る中、KとDBは決死の形相で逃走を続けていた。警察当局が捜査を打ち切ったとも知らずに、2匹は怯えながら街を彷徨っていた。やがて、2匹は小さな公園へとへたり込んだ「ここは、どこだ?!」Kが喘ぎながら言う。DBも荒い息を抑えながら周囲を見る。「どうやらPホテルの北側へ出たらしい。あそこを見ろ」DBの指す先には、Pホテルが見えた。「やっと帰り付いたと言う訳か。臭いガスの噴出も治まったな。DB、夕飯は?」Kはぐしゃぐしゃになった髪を直している。「とてもそんな気分ではない。下手に食うと何が起こるか分からん」DBはズボンを履き直している。2匹ともヨレヨレになっており、暫く息を整えるのに時間を要した。「ともかく、ホテルへ帰ろう。もう“追いかけっこ”をする気力も無い」DBはKに進言した。「そうしよう。帰れるうちに帰らないと、永遠に戻れそうもない」Kはしょぼくれていた。コーラのせいで又しても悪臭騒ぎを起こしたのだ。この上は、Pホテルへ逃げ込む以外に選択肢は無かった。何とか身なりを整えると、2匹はPホテルへ向かって歩き出した。足取りは重く、気分も滅入っていた。時々、ブォーっとガスの噴出音が響く。「一時よりはマシだ」「爆発的な噴射は治まった」2匹は口々に言いつつ、Pホテルの玄関をくぐった。エレベーターに乗り、部屋へ雪崩れ込む。「ぐぇー、疲れた」ソファーに落ち着くと、お香の香りがした。「どうやら、部屋も消臭されてるらしいぞ。あそこを見ろ」DBは、脱ぎ捨ててあったはずの衣服が、クリーニングされて置かれているのに気付いた。「その様だな。だが、今は動けない。根が生えた」Kはしょんぼりと言う。暫し静寂が室内を包んだと思われた次の瞬間、猛烈な爆音が響き始めた。2匹は、すっかり体力を使い果たして眠りこけてしまったのだった。だが、2匹の腸はまだ動いており、険悪極まりない悪臭ガスを生成し続けていた。時折、ブォーっと音を立てて、悪臭ガスは噴出を続けていた。「うん?!何の音だ?」留守番を勝ち取ったリーダーは“耳”から聴こえる妙な音に首を傾げた。「お休みとは、呑気なものだ」2匹の奏でる爆音に嫌気が刺したリーダーは、ボリュームを絞るとコーヒーを片手に、窓辺に移動した。「ご無事だといいが・・・」中華街へ出向いたミスターJ達からは何の連絡も無い。「便りが無いのは、無事と言う事だろう」自らに言い聞かせるように、彼は外の明かりに見入っていた。

「ジミー、すっかりご馳走になった。悪かったな」ミスターJはフォンに言った。「とんでもない。また、いらして下さい。盛大に歓迎しますよ」ジミー・フォンはご機嫌そうに言った。△珍楼の玄関でミスターJ一行は、見送りを受けていた。「早く、嫁をな!」ミスターJが冷やかすと「それは・・・、自分で決めます!しかるべき時期に!」フォンは真っ赤になって反論する。「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」従業員一同の盛大な見送りを背に、ミスターJ一行はとっぷりと暮れた街へと歩き出した。その姿を物陰から4人の男達が見ていた。青竜会の組員達である。裏通りを先回りすると、4人はミスターJ一行の前に躍り出た。「誰だ!」「何のつもりだ!」N坊とF坊が誰何する。「青竜会のお出ましか?!」“スナイパー”が懐のパイソンに手をかける。「ちょいと付き合ってもらうぜ!」「大人しく着いてきな!」彼らも懐に手を入れている。「3人共、油断するな!」ミスターJにも緊張が走る。その時だった。「やめろ!客人に手荒い真似はするな!!下がれ!」5人目の男が現れた。「兄貴!今、しょっ引こうと・・・」と言った瞬間、若い組員が裏拳を喰らってひっくり返った。「俺の客人に手荒い真似は許さん!!お前らは、引っ込んでろ!!」“兄貴”と呼ばれた男からは、ただならぬオーラが発せられていた。「へい、事務所へ戻ります」裏拳を喰らった組員を抱き起すと、4人は煙のように消えて行った。「ミスターJ、少しお時間をいただけますかな?」“兄貴”が誰何した。「ああ、付き合おうじゃないか!3人共、矛を収めろ」N坊とF坊と“スナイパー”が手を収めた。“兄貴”は、近くの中華料理店の最上階へミスターJ一行を案内した。「手荒な連中が失礼を致しました。ここは、誰にも聴かれる心配の無い部屋です」“兄貴”が言う。「貴方は何者です?!ただの青竜会の幹部ではありませんな!」ミスターJは言い切った。「流石にお見通しですか?やはり、貴方もただの陰ではなさそうだ」“兄貴”は笑い出した。「確かめておきたい事があります。それも早急に!」兄貴”は急に真剣な顔つきになった。「まさかとは思いますが、もしや・・・」ミスターJは何かを察した様だった。いったい、彼は何者なのか?