limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

New Mr DB ⑬

2019年01月07日 15時56分15秒 | 日記
東京都八王子、夕闇が迫る中、3階の屋上で小型パラボラアンテナをかざす人影があった。「N坊、どうだ?」¨シリウス¨がトランシーバーで呼び掛ける。「かなり微妙だな。僅かでもズレたら、一般家庭のwi-fiに引っ掛かる!自衛隊の電話を普通に聞き取れる様なもんだ!」N坊が返す。「となると、有線しか無いだろう。どうやら¨アイツ¨の出番の様だ!」F坊が台車に乗せたマシンを指差す。「N坊、降りて来い。¨アイツ¨の出番だ!」「了解!」F坊は、サイコロの様な機器をLANジャックに差し込んで、ノートPCの画面を食い入る様に凝視している。「どうだ?ブースターの威力は?」N坊が聞く。「契約速度の10倍は出せるな。横浜の半分だが、実用上は問題ない。¨シリウス¨の専用機は此処にした方がいい」「他のヤツは?」「5台までは接続可能だから、後何台設置するかによりけり。プリンターは無線で行けるだろう」F坊が答える。「部屋は2階を使うか。1階は手狭だし、これから届くサーバーや端末で多分一杯になる。3階が寝床だな」¨シリウス¨は筐体を手に階段を登って行く。八王子の¨司令部¨は手狭ではあったが、3階建てのビルだったのが幸いだった。ビルを取り囲む様に駐車場もあり、¨機動部隊¨と¨遊撃隊¨の車両も停められた。3人は、2階に¨司令部¨を仮設するべく、機器の筐体を運び上げてネットワークを形成していった。リーダーは、駐車場で¨機動部隊¨と¨遊撃隊¨の車両を誘導しながら、今晩の¨作戦¨の打ち合わせに追われていた。「誘導と見張りに4人、運び出しに8人だ。ユニック付きのトラックとキャリアに積み込んで¨基地¨へ回送する。シートで覆い隠して行け!ゼロアワーは、午前0時とする。各隊長は人選を急げ!今晩、動く予定のない車両は、奥へ詰めて駐車場へ並べ替えだ!」駐車場のスペースは限られている。文字通りセンチ単位で詰め込まなくては、各隊の車両は収まり切らない。¨機動部隊¨の半数がまだZ病院周辺に展開しているとは言え、酷く骨の折れる作業だった。そこへ携帯の着信が来る。「ミスターJ、ええ、順調ですよ。今晩の¨作戦¨のメドは立ちました。日付が変わる頃に¨侵入¨してベンツ2台を運び出します。はい、そちらの便はまだ着いてません。¨司令部¨内もまだネットワークが出来上がってませんので。そうですね、後2時間もあれば完了出来ると思います。¨車屋¨が¨基地¨へ着いたんですね?分かりました。¨シリウス¨達に伝えて置きます。はい、こちらは大丈夫です。では、失礼します」リーダーは、トランシーバーを手に取ると「¨シリウス¨、¨車屋¨が帰り着いたそうだ。そっちの準備が出来次第、¨基地¨とコンタクトを取れ!」と吹き込んだ。「了解!」事務所内では、¨シリウス¨専用機を中心に4台の端末の設置が終わり、プリンター5台は無線ルーターを介してネットワークが組上がっていた。「¨シリウス¨、早速テストを始めよう!ブースターの調整もあるしな」N坊がノートPCを起動して、調整画面を出す。「4台の調整とプリンターの調整は、俺がやる」F坊が最後のケーブルを繋ぎながら言う。「さて、それでは接続からだ」¨シリウス¨がキーボードを叩いて回線を繋ぐ。「接続完了。速度は一般家庭と変わらん。ブースターを起動して見てくれ!」「了解、ブースター起動!今、微調整に入る」N坊はノートPCの画面に釘付けになる。「速度が10倍に上昇!動作安定。ロックしてくれ!」“シリウス”が指示を出す。「あいよ、ギリギリだな。これ以上上げると他回線に影響が出て勘づかれる。横浜の半分だが、我慢してくれよ!」調整を終えたN坊が言う。「贅沢は言わんよ!この周辺じゃ最速なんだから」“シリウス”が笑顔で返す。「さて、F坊、そっちはどうだい?」「同調は完了した。ネットワークも異常なし!後は、テストプリントだけだ」F坊は4台の端末からテストプリントの操作を行っていた。「じゃあ、“基地”を呼んでみるか!」“シリウス”が携帯で“車屋”を呼びだす。「もしもし、“車屋”そっちのPCとサーバーの接続は終わっているな?じゃあ、手順通りに“遠隔”のページにアクセスしてくれ!ああ、待機している」“基地”側のPCが“遠隔”のページにアクセスするのを“シリウス”は待った。「よし、繋がった。手を放して画面を見ててくれ、こっちで操作する。異常があれば言ってくれ!」“シリウス”は慎重にキーボードとマウスを操る。「異常はないな?では、こちらからサーバーへデーター転送を開始する。2~3時間はかかるから、その間に装備品の片付けに入ってくれ!こっちでモニターしているから、放って置いても問題は無い。30分に1度くらいの頻度で画面を見てくれりゃあいい。はいよ、何かあったら連絡してくれ」そう言うと携帯を切った“シリウス”は再度画面を凝視して確認に入る。「転送は順調だ。そろそろ“例のサーバーと端末”が着く頃合いだな。N坊、F坊そっちはいいかい?」「問題なし」「“ゲーム”に感染してるヤツがどれだけあるかだな」「感染してても“解除コード”を打ち込んで、“ゲーム”を削除して復元をかければ、正気に戻るさ!端末はいいが、サーバーはちと厄介かも知れんが」“シリウス”が心配する。「まあ、取り敢えずやって見るさ!ダメなら手を考えりゃいい!」「どっちにしても、“ゲーム”を駆逐しなきゃ“情報”には辿り着けない!今晩の内に終わらせよう!」3人は1階へ降りると、スペースを作るために片付けを始めた。そこへリーダーと機動部隊員と遊撃隊員がドヤドヤと雪崩れ込んで来た。「設置は済んだか?」リーダーが誰何する。「完了しましたよ!既に転送を開始してます!」「寝床は何処にした?」「3階にしました。最上階で休んでいて下さい」N坊が言う。「食事当番はどうします?」F坊が聞く。「今、買い出しへ行ってる。ポットは何処だ?」「上に持って行ってあります」“シリウス”が言う。「まもなく“旧AD事務所”経由のトラックが着く。まずは、寝床の確保と湯を沸かせ!」リーダーに促された機動部隊員と遊撃隊員達は階段を登った。「“シリウス”、N、F、今晩の内にメドを付けてくれ!明日からは“切り売り”に入らなきゃならん!」リーダーが真顔で言う。「売り先の選定もですが、どんな“情報”を吸い上げられるか?にもよりけりですね。とにかく、使い物になる様に最善を尽くしますよ!」“シリウス”も真顔で答えた。「うむ、こっちは“黒のベンツ”を奪取する“作戦”も控えてる。“情報”の方はそっちに任せきりになるが、頼んだぞ!メシはもう直ぐ届く。腹ごしらえを済ませたらかかってくれ!」リーダーはそう言うと3階へ向かった。八王子は夕闇に包まれて行った。

R女史は、ようやく電話を手にしていた。ミセスAに泣き落としをかけて、散々ゴネた結果、ミセスAが根負けしたのだ。「10分だけよ!」との厳命付きだったが、彼女は気になっている“事案”について、どうしても確かめずにはいられなかったのだ。急いでU事務所のT女史の携帯を呼び出す。「もしもし、T先輩、今大丈夫ですか?」擦れた声で問いかけると「Rちゃん!絶対安静の人がどうやって電話して来る訳?!また、看護師さんに無理を押し通したわね!貴方って人は、どう言うつもりなの?!」T女史のお怒りが炸裂した。「すいません。どうしても先輩にお願いした“事案”が気になって、その後どうなっていますか?」恐る恐るR女史は切り出した。「まあ、仕方ないか!貴方の性格じゃあ看護師さんも根負けするわね!時間が無い見たいだから簡潔に言うけど、DBは“自らの意思で海外勤務を希望した”様よ!表向きは懲戒解雇になってるけど、Y社長が裏で手を回して海外へ送り込んでくれたそうよ!家族を養う術を奪う事は出来ないからって!」T女史は“筋書き通り”の説明をR女史にした。「それを証明するモノはあるんですか?」「Y社長とDBが直接会談した際の“音声記録”を手に入れたわ!それを聞く限り間違いないと思う。DBが書いた辞表のコピーもあるし、Y社長からも“前代未聞”の処置だったって聞いたわ!」「T先輩、直接Y社長と会ったんですか?」「ええ、向こうも“第三者には明かさない”って条件で話してくれた。最初は渋ってたけど、Kの疑念を払拭して変に騒がれるよりは、真実を告げた方がいいって説得したの。Kだって檻からは出られない訳だし、DBも定年までって条件付きだから、不当な扱いとは言えないと思う。犯罪の片棒を担いだ以上は、懲戒解雇は当然だけど“破格の処遇”を受けて海外の工場で働けるなら、文句は言えないわよ!」「そうだったんですか・・・、そんな取引があったとは・・・、DBは何処の国へ行ったんです?」「ベトナムよ。定年までは帰国は見合わせるって条件で合意してます!さあ、これで安心した?面会が出来る様になったら、直ぐに“音声記録”を持って飛んでくわ!まずは、ICUから一般病棟へ脱出して頂戴!そろそろ時間でしょ!あんまり迷惑かけるんじゃないの!!人を困らせるのちっとも治らないわね!ついでに治療してもらいなさい!」T女史は一通りの説明を終えると、釘を刺すのを忘れなかった。「はい、すみませんでした。T先輩、感謝してます」R女史は神妙な口ぶりで返した。「じゃあ、頑張って“治して”貰いなさい!病気もだけどせっかちな性格もね!今度、会えるまでに報告書をまとめて置く。早く元気になりなさい!」そう言って電話は切れた。R女史は安堵の表情を浮かべた。「さあ、これで納得したかしら?」ミセスAは呆れ顔で言う。「ええ、やっと胸の閊えが降りました」R女史は穏やかに言った。電話機を没収すると「さて、夕食の時間です!ちゃんと食べて下さいね!」と言って膳を差し出した。7分粥がメインだったが、彼女はしっかりと平らげにかかった。

S氏は、癇癪を起していた。部下達は順番に“尋問”に呼び出されていったが、帰っては来なかった。押し込められた“素敵なホテル”には、彼だけが残されたのだ。「どう言うつもりだ?!!」室内のそこかしこに蹴りを入れては、電話をかけまくっていた。“AD法律事務所”へかけると、自動音声で“現在、AD法律事務所は業務を停止しております。お急ぎの方は、・・・”と別の番号を案内させるし、案内先へ何度かけても通じない。サイバー部隊長の携帯は電源を切っているらしく不通。姉のM女史の携帯も同様だった。「身柄引き受けに来いと命じたのに、何をモタモタしとる!!」ヤケクソになって受話器を叩きつけるも、事態は何も進展が無い。夕闇が迫る中、彼は焦りを隠せなかった。「待てよ、相手は米軍だ。余程のツテが無くては基地内へ入る事も不可能だ。姉貴の力を持ってしても時間が必要だと言う事か?!」少し冷静になって考えれば、如何に救出が困難かが見えた。「しかし、妙だな?部下共は何処へ行ったんだ?」檻の中の熊の様に室内をウロウロしながら彼は必死に考えた。そして意を決して“U法律事務所”へ電話を繋いだ。「AD法律事務所のSだが、社長はいるか?」商売敵ではあったがこの際、手段を選んでいる場合では無かった。「Sさん!今、どこに居ます?」“U法律事務所”の社長の声は上ずっていた。「実は、昨夜米軍に拘束されまして、横須賀基地に居るんですよ」S氏はなるべく下手に話し出した。「何の嫌疑です?お姉さんもそれが分からなくて苦労してますよ!」「嫌疑が何か私にもサッパリ分からんのです。身柄引き渡しに協力してもらえませんか?」彼はプライドをかなぐり捨てて懇願した。「うーん、警察ならともかく米軍となると、大使館経由で働き掛けないと難しいですな。アメリカ大使館にツテがある弁護士を総動員して、お姉さんに協力してますが“拘束理由”がハッキリしないと交渉自体が難しいんですよ!Sさん心当たりはありませんか?何でも構いません!鍵を頂かないと事は進みません!」“U法律事務所”の社長の声も困惑気味だ。「心当たり・・・、それが無いんですよ。何故拘束されたのかも見当も付かない有様でして・・・。部下3人は取り調べを受けてますが、別室へ移されてしまって子細も不明なんです」「参ったなー、それが分からないと前には進めませんよ。“不当拘束”の理由が明らかにならなくては、交渉しようにも手が無い。ただ、我々も手をこまねいている訳じゃありません!“解放”する様に交渉する手掛かりを探ってます!」「私の事務所に電話が通じないのはどういうことです?」彼は思い切って切り出した。「非常事態ですからねー、一時業務を止めてるんですよ。お姉さんからの要請で、混乱しては困るので弁護士会で業務を振り分けて、御社の顧客の救済に奔走してます。電話が繋がらないのはそう言う理由もあります。携帯も繋がらないでしょう?」「そうですか、私が拘束されている以上仕方ありませんな・・・」「Sさん、もうしばらく待ってもらえますか?こちらも手は尽くしてます。“解放”へ向けてあらゆる手を繰り出してます。ただ、時間が必要です。相手が悪すぎるし、基地内は“治外法権”です。それを乗り越えるには、どうしても手数がかかる。必ず助けには行きます。待ってもらえませんか?」“U法律事務所”の社長の声も悲痛だった。「分かりました。すいませんがお願いします。姉貴には“心配をかけて済まない”と伝えて下さい!」「承知しました。済まんけどもう少しだけ我慢して下さい。必ず助けに行きますから!じゃあ、伝言は伝えて置きます」と言って“U法律事務所”の社長は電話を切った。「うぬー!嫌疑がバレたらオシマイじゃないか!かと言っていつまでも“素敵なホテル”に滞在はしたくない!俺はどうすれば出られるんだ!」S氏は熊の様にグルグルと室内を歩き回って呻いた。正直に話せば“破滅”しかねないし、話さなくては出られない。彼はジレンマに陥り、頭を掻きむしるしか無かった。

M女史の携帯に“U法律事務所”の社長から連絡が入ったのは、S氏からの連絡があった直後だった。彼女は、丁重に礼を述べて携帯を切った。「話の途中で済まなかったわ。さて、貴方がSに命じられていた仕事は何なの?」デスクの前にはサイバー部隊長が立っていた。「私が命じられていたのは、同業他社の動向や企業情報、スキャンダルの類の情報を広範囲に集める事、事務所のセキュリティーを保つ事です」「それは“ハッキング”を含めての話なの?」「無論、そうです。“ハッキング”の方が圧倒的に多かったです」彼は正直に答えた。「Sはそれらの“情報”をどうしたかったの?」「分かりません。とにかく“集めろ”が至上命題でした。具体的にどうこうする前に米軍に拘束されたのです」「では、Sが“情報”を利用して悪事を働くことは無かったと言うの?」「いえ、R女史に関しては別です。R女史の動向については、毎日報告を上げていましたし、ミスターJとか言う秘密組織の情報も逐一報告していました。その結果、首都高での襲撃計画や“U法律事務所”と“司令部”の襲撃計画が立案されたのです」「それ以外はどうなの?」「まだ手付かずの状態でした。前社長が何を考えていたのかは分かりません」「“情報”は押収したサーバー以外にどこへ保管していたの?」「サーバーと各端末のHDDです。前社長のPCにも保管してません」「そう、ではRさんとミスターJ以外の“情報”は何も手を触れていないのね?まずはそれが知りたかったのよ。これ以上関係先へ迷惑はかけられないから。では、Sと共に拘束された3人は何処の人間なの?」「撹乱波発生器と同時にやって来た香港人です。取説の代わりも兼ねていました。黒いベンツを発注したのも彼らです」「なるほど、貴方の部下に外国人は居るの?」「いえ、全員日本人です。サイバーセキュリティの専門家ばかりです」「分かりました。貴方達5人に改めて命じます!Sが拘束された以上、こちらがサイバー攻撃に曝されるのは目に見えて明らかです!事務所のPCを攻撃から守り抜く体制を至急取りなさい!こちらの腹を探ろうとする輩は必ず攻撃して来ます。鉄壁の防御を敷いて置きなさい!」「承知しました。ただ、1つ伺いたいのですが、我々はどうなるのですか?」「馘首する理由がありません。むしろ、貴方達の専門知識はビジネスとして使えます。サイバーセキュリティ部門として存続させます。クライアントが見つかり次第、派遣先へ出向いてもらいます!当面は、事務所のPCとタブレットの管理・セキュリティ対策を進めなさい!」「承知しました。では、早速始めさせていただきます」サイバー部隊長は深々と一礼すると社長室を辞して行った。「Sが設置したサイバー部門。再建の柱になりそうだわ。これで3つ柱が揃った。残るは弁護士達の再配置だけね。人材こそが再建の鍵。生かすも殺すも私次第!」M女史は社員達の経歴簿に目を落とした。

八王子の“司令部”に9台の端末とサーバーが設置された。「LAN接続はするな!“ゲーム”に感染してる端末がまだあるはずだ!」“シリウス”が注意する。「サーバーはどこまで感染してるんだろう?」F坊が調べながら言う。「どうやら、片足を突っ込んで止まってる感じだ。感染が広がる前に隔離したらしいぞ!」N坊が状態を確認しつつ言う。「じゃあ、サーバーは後回しだ。端末から1台づつ確認して行こう!」“シリウス”が順に端末の電源を入れていくと、派手な音楽と共に“ゲーム”がスタートし始めた。「おいおい、クリアしたのは2台だけかよ!他はみんな乗っ取られたままだ!」N坊が悲鳴を上げる。「まあ、こんなモノだろうよ。“スターウォーズ・ゲーム”はシンプルだが、クリアするのは余程運が良くなきゃ無理だ!解除コードを打ち込んで、“ゲーム”を止めてプログラムを削除してから、直前の日付付近で復元すりゃあいいんだ!」F坊が早速始末にかかる。“シリウス”もN坊も即座に始末にかかった。「おい、何事だ?」リーダーが3階から駆け下りて来る。「例の“ゲーム”に感染したヤツか!それにしても派手だな!」「送り付けた以上、仕方ありませんよ。もう直ぐ静かになりますから」“シリウス”がなだめる。「どっちでもいいが、“情報”を吸い上げたら、3台くらい貸してくれ!みんな暇を持て余し気味だ!」「マジですか?!まあ、確かに暇潰しには打って付けだな」F坊が認めた。「マシンとしてはややスペック不足だが、“ゲーム”を入れ直すのはそんなに手間じゃない。OK、3台用意しますよ!」“シリウス”が約束した。「ついでですから、言っときますが“情報”の売り先ですが、NHKだけは除外して下さいよ!」N坊が釘を刺す。「何故、NHKがダメなんだ?」リーダーが怪訝そうに言う。「税金を強要する上に、二束三文にしかならないんじゃ話なりません!1円でも高く売り捌く。今回は採算重視で行きましょう!」F坊も釘を刺す。「おいおい、受信料は“税金”なんかじゃ・・・」「立派な“酷税”です!!大体、国会で予算審議をする団体が徴税するんですから、立派な“酷税”です!!年金暮らしでも障害者でも情け容赦なく取り立てるなんざ酷吏もいいとこです!!」N坊とF坊が合唱する。「“シリウス”、お前もか?」リーダーが気圧され気味に問うと「“酷税”云々は別にしても、NHKなどの放送事業者や雑誌社、新聞社へ売り込むにしても、我々では厳しいと思いますよ。第一“相場”が読めません!」「確かにそうだ」リーダーは腕を組んだ。「中身にも寄りますが、同業他社の“情報”については“U事務所と連合艦隊”の意見・同意が無くては無理でしょう?取引企業の内部文書にしても同様です。まあ、あり得ないでしょうけど“スキャンダルネタ”なら交渉次第ってとこですかね?」「我々の手では無理がありか?」「ええ、誰かが間に入るか?“情報”を専門に扱う業者に接触するか?の選択になりますよこれは!」“シリウス”の意見は的を射ていた。「そうなると、マージンを取られたらアウトか!業者と言っても知り合いは居るか?」リーダーは宙を仰いだ。確かに1事務所の“浮沈”を左右する大事だ。採算重視は当然であり、1円でも多く手渡せなくては意味が無い。4人の間に沈黙が流れた。「おい、N坊“泣き虫CAT”のオフィスはどうだ?」F坊が思い出したように言う。「10年は会ってないが、ヤツなら近所のはずだな?」「“泣き虫CAT”とは何者だ?」リーダーが誰何する。「俺達と同様に施設で育ったヤツで、クスリと殺し以外なら何でもやるヤツですよ。裏とも取引があるし、顔は広いですよ。ヤツなら捌きが着くかも知れません。ただ、音信不通になって10年経ってますから、都内を捜索して繋ぎをつけなきゃなりませんが・・・」N坊とF坊は遠い目をして昔を見ていた。「最後の会ったのは10年前で間違いないか?」リーダーが確認する。「ええ、施設の同窓会にフラッと来てそれきりですが・・・。確か神田のビル・・・何て名前だったか・・・?」F坊は必死に記憶を手繰る。「“泣き虫CAT”と神田だな?!よし、俺の知り合いに“探し”のプロが居る。そいつに捜索依頼を出して見よう!」リーダーは携帯を手にして連絡を取り始めた。「“泣き虫CAT”とは親しいのかい?」“シリウス”がN坊とF坊の顔を見る。「ワルガキ3人組の一角よ!」「昔から商売っ気丸出しのやり手だった!」2人はそう振り返った。「おい、捜索してくれるそうだ。“泣き虫CAT”と神田のキーワードがあれば、24時間以内に居所を突き止められるぞ!」リーダーが言った。「後は、“泣き虫CAT”が無事ならいいんですがね」N坊が呟く。「なーに、アイツがくたばるタマか?それより、早いとこ“情報”を吸い上げて分析しとかねぇと時間が無い!」F坊が俄然張り切りだす。「善は急げ!“情報”も鮮度が命だ。大車輪でかかれ!」リーダーが発破をかける。3人は猛然と仕事に掛かった。リーダーは、そんな3人の背を見て「コイツらが敵でなくて良かった」と呟いた。作業は夜を徹して行われた。

New Mr DB ⑫

2019年01月04日 14時53分56秒 | 日記
AD法律事務所は、早朝からてんやわんやの騒ぎに陥っていた。サイバー部隊長は、弁護士軍団との調整に四苦八苦して、気も狂わんばかりだった。「米軍に拘束された?!社長は何をしていたんだ?」「それが、全く分からないんです。深夜に電話があって、¨とにかく身柄引渡しのために、朝イチに2名横須賀基地へ寄越せ¨と言われまして。我々は徹夜でシステムの復旧に当たっておりましたので、皆様へご連絡をしたまでです」「相手が悪い。米軍基地は¨治外法権下¨にある。引渡しを申請しても、トボケられたら空手で引き返すしか無い。¨ツテ¨が無くては助けられん!」「だが、何もしない訳にも行くまいよ。社長が居ない¨異常事態¨では、現場は混乱するだけだ!決済を仰ぐ書類は溜まっている。影響は日に日に深刻化しかねない」弁護士軍団は途方に暮れかけた。その時、1人の女性がやって来た。AD法律事務所の社長の姉。そろそろイニシャルで呼んだ方がいいだろう。M女史である。「おはよう、皆さん社長のSが米軍に拘束された事は、ご存知でしょう。Sから救援依頼が来ている事も」「お嬢様!この非常事態を乗り切るためには、お力が必要です!直ぐに横須賀へ参りましょう!」古参の弁護士が、M女史に訴えた。だが、彼女の口からは「Sを救う必要はありません!放って置きなさい!それより、今直ぐ全員を集めなさい。これからどうするか?を私が直接話します!」と言い放ったのだ。「はい、では全員を集めます」事務室に全員が集まるとM女史は「今日を持って¨AD法律事務所¨は、休眠状態とします。社長のSが、悪逆非道に走り米軍に拘束された以上、事務所の存続は不可能です。会社危急存亡の今、全員の力で¨新たな道¨を切り開くしかありません。社長の座は、私が引き継ぎ原点に立ち返り、新体制を構築します。まず、TVのCMを打ち切り、新規相談者の受付を止めなさい!現在進行中の事案については、3週間以内に決着が付くものと、そうでない事案に振り分けなさい!決着が難しい事案は、U事務所へ引き継ぎが出来る様に、書類を整えて相談者へ案内を始めて!財務担当者は、現在ある現金、預貯金、不動産の一覧表を作成しなさい。財務状態を把握します。サイバー部隊は、ハッキングによって得た情報を整理して、報告書を取り纏めなさい!私達に与えられた猶予時間は、3週間あります。大車輪で新事務所を立ち上げます。さあ、かかりなさい!」M女史の号令がかかると、各員は一斉に動き始めた。「お嬢様、この様な事を勝手に進めてよろしいのでしょうか?」古参弁護士が問い質す。「社長室の金庫の更に奥に¨父の意思¨が封印されているわ。Sも知らない¨非常事態¨の際の遺言が。今から開けましょう!」彼女は、社長室の金庫を開けると中身を取り除き、小さな隠し扉に指をかけた。中からテンキーが現れる。一冊の手帳に記された8桁の数字を慎重に打ち込む。「父が、生前に誰にも知られない様に封印した¨遺言¨が眠っているの。¨危急存亡の時以外には開けてはならぬ¨と私に言い残した代物よ!」カチリと音を立てながら細長い引き出しが前に滑り出した。和紙が丸めて納められていた。M女史は、和紙を広げ文面を目で追う。やがて、彼女は古参弁護士に和紙を差し出した。「我より後、Sに不義理、悪逆非道あらば、躊躇う事なく罰を下し、Mに全権を委ねる」と書かれていた。「父は、Sが意思を継ぐとは信じていなかったの。必ずや¨危急存亡の時¨が来ると予見して、こうした細工を用意していた。本当は、開けずに済めば良かったのは確かよ。でも、父の予見は的中した。私は、父の意思を継いで建て直しを図るわ!異議があるなら、言いなさい!」彼女の凛とした声が響く。「ご先代のご意志に逆らう者などおりません!お嬢様、どうか執務をお取り下さいませ!」「分かったかしら?では、まず財務状況から説明して頂戴!」社長室の椅子に収まったM女史は、事細かに説明を受け始めた。

その頃、横浜の“司令部”では、全員が揃ってミーティングが始まっていた。「さて、本日の“一仕事”は引っ越しだ。ここに“司令部”を置いて置く必要は無くなった。戦線を後退させて安全を図る!」ミスターJは静かに宣言した。「場所は、八王子。“AD法律事務所”の元社長のお姉さん、M女史の事務所を間借りする。手狭にはなるが、支障は無いはずだ!」「ここは、どうします?完全に引き払う訳にも行きますまい」リーダーが問うと「ここへは“前線基地”としての最低限の機能だけを残す。残るのは、私と“スナイパー”だ。リーダー以下の者は、八王子“司令部”へ移動だ。指揮はリーダー、君に任せる。M女史達の支援とU事務所との連携に努めてくれ!」「はい、しかしミスターJ、まだ“密輸”に関する情報を得られていません。引っ越しは時期尚早では?」「いや、“密輸”に関する情報は、元社長のSと3名の部下から得られるはずだ。国際情勢と軍事機密に関わる以上、米軍に花を持たせた方が得策だ。特に3名の部下達は、恐らく邦人ではあるまい。機密情報を手土産に米国へ亡命させた方が始末を付けやすい。様は、Sを丸裸にするためだ!」「では、ここは“米軍との接点”のために残すのですね?今回の作戦の成否を巡る情報は、ほぼ手中にしましたし、これ以上大戦力を貼り付けて置く理由はない」「そうだ!だから安全を考慮して後退を選ぶ。シールドなどの機材はもう必要はあるまい。不逞の輩は、もう現れる事はなさそうだし、Z病院も不安はない。後は最後の仕上げをどうするか?だけだ。ここからは、情報戦になるし遠隔でも問題は無い。“機動部隊”と“遊撃隊”も順次、八王子周辺に移動させたい。リーダー、そちらの手筈も君に任せる」「分かりました。では、残す機材を指定して下さい。必要が無いものは、八王子へ持っていきます」「うむ、各部屋の“撤収作業”もある。各自必要な作業に入ってくれ!」ミスターJが指示を出すと「よっしゃ!」「うぃーす!」と声が上がり、各自が散って行った。そこへ携帯の着信が入った。「姉さん、かかって来ると思っていた。やはり厳しいか?」ミスターJが誰何すると「はい、懐具合が思っていた以上に厳しい状況です。資金調達で何か手はありませんか?」とM女史の困惑した声が聞こえた。「1つ手がある!サイバー部隊のサーバーに入っている“情報”だ。モノによっては“喉から手が出る程欲しい”輩は山の様に居る。もし、サーバーを引き渡してくれれば、我々の手で“現金化”して見ようじゃないか!どうだね?」「手っ取り早く資金が得られるならば、否とは言いません!お願い出来ますか?」「夕方、トラックをそちらに回そう。端末も含めて積み込んでくれれば、出来る限りやって見よう!」ミスターJはリーダーに目配せをすると同意した。「分かりました。夕方には用意を済ませてお待ちしております」M女史は少しホッとした声で応じた。「数日中には、手渡せる様に命じて置く。貴方は心置きなく事務所の“再建”に努めなさい。では、夕方に」ミスターJは電話を切った。「リーダー、“旧AD法律事務所”へ夕方トラックを回す手筈を整えて置け!サイバー部隊のサーバーを積み込んで、八王子に据えろ。そこから“金の生る木”を選別して売りさばけ!出来る限りの現金を手に入れるんだ!」「はい、情報にも寄りますが、出来るだけ“高値”で捌いて見ましょう!“シリウス”とNとFに担当させます」「よし、それでいい。売り先を見誤るな!」「はい!」次に、ミスターJは“車屋”を呼んだ。
「¨車屋¨、お前さんは、出来るだけ速やかに¨基地¨へ戻れ!そして、¨基地¨のサーバーと八王子¨司令部¨との回線を繋いで、データーの転送を行ってくれ。今回の作戦で集めたデーターは、後々必ず必要になる代物だ。それから、お前さんにしか出来ない任務もある!」「ミスターJ、何を私に?」¨車屋¨は怪訝そうに言う。「首都高で大破させた¨黒いベンツ¨じゃよ。今晩にも手中に収めて、¨基地¨へ回送させる。どうも、気になって仕方ない節があるから、詳しく調べてもらいたい!」「分かりました。仕様も含めて洗い直してみます!」「ついでながら、修理の可否も調べて置け。1台でも修理可能ならば、その分M女史の懐が潤う。特殊仕様ならば、売値も上がるしな!」「オリジナルでの修理は無理でも、通常仕様に戻せば行けるかも知れません。出来る限りの手は尽くして見ましょう!」「よし、不要になった装備品を積んだら直ぐに出発しろ!」「はい!」「さて、“スナイパー”、横須賀へ次の手を打つか?!」「へい、Sは無視して部下を取り調べさせるんですな?」「そうだ!今から書簡を用意する。クレニック中佐へ届けてくれ!」ミスターJは、便箋と封筒を用意すると、中佐宛てに依頼状をしたため始めた。

「うっ・・・、あぎゃー・・・、いでぃー・・・、はっ・・・はら・・・が・・・、あぎゃー・・・・・・、痔が・・・・・・、きっ・・・・・・、切れ・・・た・・・、うぉー・・・、いでぇー・・・!」目を白黒させてDBは、排便の激痛に耐えていた。「どういう事だ?また、赤痢アメーバを与えたのか?」事業所長は、モニター画面を見ながら首を傾げる。「いえ、どうやら食中毒の様です。DBに与えているのは、余り物が主です。間違えて残飯が混入したのではないかと・・・」「そこに、たまたま赤痢アメーバが居たと言うのか?」「はい、昼食からは水に抗生物質を混ぜていますし、レーザー攻撃も解除しています。目下、クスリが効くのを待っている状況です」「マズイな!これ以上の体力消耗は避けなくてはならない。逃がすのもマズイが、死なせるのはもっとマズイ!止むを得ん。医者を呼べ!」「はい、事業所指定医でよろしいですか?」「誰でも構わん!DBを治しさえできればいいのだ!」「分かりました」部下は直ぐさま受話器を取り上げた。当のDBは、脂汗を滴らせながら、苦痛に呻いていた。「どう・・・なっ・・・て・・・いる・・・んだ?俺の・・・腹は・・・、ぐえぇー・・・!」以前の下痢よりも、今回の下痢はタチが悪く。いぼ痔と切れ痔を併発していた。そこへピーピードンドンが数十回も来るのだから、便座から動く事もままならなかった。「DB!治療薬ヲ与エル。直グニ飲ムノダ!」合成ボイスが命令を下すが、凄まじい腹の痛みと痔の痛みに我慢の限度を超えているDBには、中々聞こえなかった。そこへレーザーの威嚇射撃が来た。「DB!治療薬ヲ与エル。直グニ飲ムノダ!」フラフラになりながら、DBはクスリの入った水を飲んだ。だが、体内にモノが入ると胃と腸はたちまち活発に動き出し、急降下爆撃の様にモノを大腸へ殺到させた。「いでぇー・・・!うぎゃー・・・、ハヒュー・・・!」水分が下るのは痔持ちには酷だった。傷口に塩を塗り込むのに等しい激痛にDBは七転八倒した。「早く医者を!地下空間に麻酔ガスを混入しろ!」事業所長は狼狽え気味に急かす。「うぬー!これではまた赤字になってしまう!本社へ追加予算を要求しなくては!」事業所長は唇を噛んで憤怒の表情を浮かべた。

横浜本社にベトナム工場からの¨苦情¨が届くまで、差ほどの時はかからなかった。FAXを受け取った秘書課長は、苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべて、社長室へ向かった。「失礼します。Y副社長。ベトナムから¨苦情¨が届いているのですが、如何致しましょう?」彼はFAXを差し出した。「何!DBが赤痢アメーバに感染?!治療費と衛生用品の支給要請か!それと慢性的な赤字解消のために、予算化か!うーん、秘書課長、DBに関わる経費は何処の財布から出している?」「極秘裏にベトナムへ送り込んだ関係上、秘書課の機密費から賄っております。しかし、あまりにベトナムからの要求が多いために、底を尽きかけておりまして、DBの現地給与の半額をも振り向けております」「それでも足りないか!ヤツには定年までベトナムで過ごしてもらう義務がある。経理の目を誤魔化して後、いくら送金できるかね?」「そうですね。ざっと計算しても20万円が限度かと」秘書課長の歯切れは悪い。「うーむ、それでは現地は納得せんな。後、50万円いや、80万円は用意しなければ、向こうは回らんし、黙っては居まい!やむを得ん。私の交際費を取り崩そう!それで合わせて100万円を送金したまえ!」Y副社長は、即座に決断した。「はい、それでは伝票上の操作をしまして、送金処理を致します」「経理に疑われるな!上手く操作して80万円分を¨上乗せ¨してくれ!」「承知しました!これで暫くは持つでしょうが、恒久的処置はどう致しましょう?」「DBの賃上げと機密費の増額で凌ぐしかあるまい。他には設備更新費などに上乗せしてやるしか無いだろう。表立っては¨懲戒解雇¨にしてあるのだ。有らぬ疑念を持たれない様にするには、水面下で調整するしかない!今回はベトナムの顔は立てるが、なるべく¨節約¨する様に要請はして置け!」「はい、向こうも大分苛立っておりますので、遠回しに返答をして置きます。DBの¨イタズラ¨はそろそろ落ち着くでしょうし、感染症にさえ注意すれば、医療、衛生費も抑えられます。もう少し辛抱してくれれば、ヤツの気力も失せるはずです!」「そう願いたいものだ。なるべくヤツを眠らせて、時間感覚を狂わせると同時に食費を減らす様に言って置け。何なら睡眠薬を送ってやれ!今が一番大事な時期だ。可能な範囲から手を着けて行くしかない。後、半月が成否を分けるだろう。何とか今回の送金で結果を出してくれ!」「その様に伝えます」「直ぐにかかれ!」Y副社長は秘書課長に命ずると、ため息を漏らした。「しぶといなDBめ!だが、いくら足掻いても抜けられはせん。そろそろ諦めろ!」Y副社長は、FAX用紙をシュレッダーにかけながら呟いた。

R女史は、順調に回復しつつあった。無菌室からICUへの引っ越しも済ませ、容態も薄皮を剥ぐ様に日に日に良くなっていた。面会はまだ先だが、固形物を食べられる様になったのは大きな前進であった。ただ、彼女にはどうしても早急に確かめたい¨事案¨があった。Kから依頼されたDBの¨行方¨である。T女史に引き継ぎせざるを得なかったが、彼女は一刻も早く結果を知りたかった。¨もし、DBが不当に扱われているとしたら、早急に救済しなくては!¨彼女の悪いクセである焦りが、見え出していた。「後、どの位で面会出来る様になるの?」「まだまだ先!やっと菌をやっつけたばかりよ。体の消耗は予想以上に深刻なの。充分に抵抗力が付くまでは、ICUからは出せないわ!」ミセスAは透かさず釘を刺す。「ともかく、貴方の体は疲弊しきっているの。変に焦って元の木阿弥だけは、避けなくちゃ!奇跡的に助かった命なんだから、大事にしないとみんなから叱られるわよ!」「お願いだから、1人だけ面会を許可して下さい!」R女史は懇願する。「仕事がらみ?それとも他の事?いずれにしても、外部との接触はダメ!どうしてもって言うなら、電話しか許可出来ませんよ!それよりも、まずはしっかり食べて置かないと。はい、昼食です。残さず食べて頂戴!食べたらコールを押して」ミセスAは有無を言わさずに押しきった。「うーむ、敵もさるモノ。中々手強いわね。どの道、ベッドから自力で起きあがらなくては無理か?!」R女史は白旗を揚げるしか無かった。

「これは・・・、どう言う事なの?」M女史は絶句した。一通り事務所の財務諸表に目を通した彼女は、我が目を疑った。「嘘偽りのない数字でございます。表向きは“何の問題も無い事”になっておりますが、裏を返せば借財が年々膨れ上がっております」説明をしたベテラン弁護士の顔も青ざめている。「虚偽記載は、何年前からなの?」「5年前からでございます。昨年からは、財務面での立て直しを名目に“月次ノルマ”が導入され、弁護士達も窮屈な仕事を強いられてまいりました・・・」「これは、表立っては出されてはいないわよね?」「はい、公式には発表しておりません。お嬢様!この際、経験の浅い弁護士に事務所を移ってもらう訳には参りませんか?」「いいえ、馘首はしません!Sは人を見る目は曇っていないはず。有望な人材を手放すなど愚の骨頂!適材適所に配置し直せば、利益は上がるはず。1人の馘首はなりません!」M女史は断固として言い放った。「まず、当面の資金の手当てをしなくては。売り捌ける不動産や資産はあるの?」「S氏の自宅マンションぐらいでしょうか。ベンツは3台ありましたが、いずれも最早売り物にはなりません。廃車にして、余計な経費を浮かせなくてはなりません!」「そうなると・・・、“あれ”しかないわね!ミスターJに相談して見るわ!」彼女は直ぐさま携帯を取った。数分のやり取りの後「分かりました。夕方には用意を済ませてお待ちしております」と言って携帯を切った。「サイバー部隊が使っていた専用サーバーをミスターJに差し出します。夕方までに端末を含めて積み出しの用意をして置きなさい!」「はい、何をお売りになるのですか?」「Sが裏で集めた“情報”を切り売りします。選別と捌きは、ミスターJに依頼しました。当面の当てはこれしかありません!」M女史は前を見据えて言った。「直ぐに方針を転換しても、利益が得られなければ雪だるま式に借金が増えるだけです。まず、Sの路線を縮小して継続事業として1本。私の顧客を移して拡大路線で1本。残りは新規事業で1本。3本の柱で再建を目指します!夕方までに弁護士の再配置を決めましょう!彼らの経歴書を持って来なさい。私が適性を判断します!」「はい、直ぐにお持ちします」ベテラン弁護士は、アタフタと社長室を辞して行った。「割れた鍋でも手をかければ料理は作れる!作り手が誤らなければ・・・」彼女はひたすら前を見据えていた。

「ミスターJ、只今戻りました」“スナイパー”が横須賀から戻った頃には、部屋はガランとしていた。ノートPCが2台とプリンターが1台残っているだけだった。「ご苦労だったな。中佐の機嫌はどうだった?」ミスターJが誰何する。「3人の部下の取り調べで忙しそうでしたが、“贈答品”は殊の外気に入った様でした。それで、我々を招待したいと言ってきましたよ!」“スナイパー”が白い封筒を差し出す。蝋で封印された白い封筒には、クレニック中佐のサインが記されていた。「ほう、ご招待とは、どう言う風の吹きまわしだ?」ミスターJは封を開けると中身を読んだ。「ふふふふ、余程我々の事が気になるらしいな。明日の夜に“法務部”でパーティーを開催するから、出て来いと言って居る」ミスターJは笑みを浮かべて、コーヒーカップを手にした。「どうします?」“スナイパー”が問いかけると「面白い、応じてやろうじゃないか!何をご馳走してくれるかな?」カップをソーサーに戻しながら言った。「護衛はどうします?」「お前さんが居るだろう?」「じゃあ、出向くんですか?」「ああ、1年半ぶりの再会だ。どれだけ“切れ味”が増したか?この目で確かめに行こう!」ミスターJは本気だった。携帯を取り出すとメールを1通作成して送信した。「出席の返事は出した。明日の夜は愉しいパーティーになりそうだ」「本当に行くんですか?向こうが何を考えているかも分からないんですよ!」“スナイパー”は心配して止めにかかる。「だから行くんだ。中佐の本心を直に聞くためにな!」「N坊とF坊を呼びましょう!私だけでは手が足りません!」「その必要はない。何故なら“危険はない”と言えるからだ。基地外ならば用心も必要だが、基地内であるなら敵意は無いと言ってもいい。逆に我々の正体を根掘り葉掘り聞きたがるだろう。友好的な話し合いになるだろうよ!」ミスターJは意に介す風は無い。「それよりも“スナイパー”よ、隠しカメラとレコーダーが必要だ!この手の“小道具”は万が一に備えて置いて行ってもらってある。青いトランクを開けてみろ!」ミスターJは小さなトランクを指さした。“スナイパー”がトランクを開けると、文房具が出て来た。「万年筆にボールペン、ネクタイピンしかありませんぜ?」「それが隠しカメラとレコーダー一式だ。NとFが作った特製のヤツだ」「えー!取説が無いと分かりませんぜ!」「一見しただけでは、分からない。だから“隠し”が付くんじゃ!頃合いを見計らって八王子に連絡して使い方を確認して置け!今回は絶好のチャンスだ。隅から隅までデーターを集めて保管するぞ!」ミスターJは、ニコニコと笑って言う。丸で子供の様に。“スナイパー”は口をへの字に曲げて考えていた。