ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

辛いのはお前一人じゃない・・・ってね。

2017-02-11 01:05:49 | 日記
アケミ(75歳)はおととし、ウチで自殺未遂を犯した。

睡眠薬を多量摂取して倒れているところを
ヘルパーが発見したのだ。

退院後、すぐには帰ってこられなかった。
また自殺するリスクがあるとして
3ヶ月間、精神病院に入院させられたのだった。

あれからもうすぐ2年。
すっかり回復したアケミは毎日10000歩のウォーキングを日課とし
他の利用者からも、職員からも親しまれて
明るく健康的な毎日を送っている。

さて、そんなアケミのところに、昨夜、服薬介助のため訪室した。

「ねえ、アナタはなんでそんなにスタイルがいいの?」と、アケミ。
(もちろん、かなりのお世辞である。そんなこと、わかってら~い)

いやいや、アケミさん、これでも結構太ったのよ。
8年前にちょっと辛いことがあってご飯も食べられなくて
すっごく痩せちゃったことがあったんだけど
今はほとんどもとの体重に戻ったの。

そう言うと、アケミの目は輝き、ぐいぐいと質問を浴びせてくる。

「何? 何があったの? お金? ご主人のこと?」

いや~、お金のこととも言えるし、主人のこととも言えるし
いやいや、別に主人が女をつくったとか、そういう話じゃなくて…

援助は詰まっているからここで長話をするわけにもいかないし
ましてやお世話している利用者さんに
個人的な苦労話を聞かせるのもどんなものか!?

ま、とにかく、50、60過ぎれば
誰にも苦労の一つや二つあるってことよね。
そう言って惜しまれつつ退室した。

それから2時間後。
夜勤中だった私は、エントランスに怪しい人影を発見する。

アケミだ。
マスクをして、頭からすっぽりスカーフをかぶっていて
一見怪しげな不法侵入者だが
あのダウンコート姿はアケミに違いない。

どうしたの、アケミさん? こんな夜中に。

私を見て嬉しそうな笑顔を浮かべた彼女は言った。

「さっきアナタと話をして、辛いのは自分だけじゃないってわかったの。
実は誰にも話していなかったけど
私の夫、結婚前から女がいて
子どもを生んだ頃にそれに気づいて
でも、子どものためにず~っと、ず~っと我慢してきたのよね。
それがおととし、ついに爆発しちゃって
あんな騒ぎ(自殺未遂)を起こしちゃったの」

「入院治療のお陰でもう自殺を考えることはなくなったけど
それでも心の奥底に、夫に対する恨みつらみが残ってて
たま~にフツフツと嫌な記憶が戻ってきたりしてたのよ」

北風の舞うエントランスで立ち話をする彼女の手に
コンビニの袋が。

で、こんな時間にお買い物?

するとアケミがカラカラと笑った。

「うん。苦労してるのは自分だけじゃないと思ったら
なんだか気分がよくなって
思わず梅酒買って来ちゃったあ!
これから一人で乾杯するの。
アナタの話を聞いたお陰よ。ありがとねえ」

十数年ぶりに飲むお酒らしく
介護職員としては一応、心配していた。
しかし今朝、彼女に会うと
夕べはあれから梅酒を2杯ほど飲み、久しぶりに心地よく眠れたという。

「ありがとう。アナタの話で救われたわ」

ええ~? 私の何気ない話で
アケミさん、救われちゃったのかあ?

ありがとう。こちらこそ、ありがとう、だわ。

人間、持ちつ持たれつ、というけれど
人間、救い救われつつ…って気がするなあ。






思い出話

2017-02-06 21:49:25 | 日記
半年振りくらいで姉と会った。

以前も書いたが、姉は若年性認知症。
確定診断されてからちょうど1年たったが
記憶障害はすすみ
薬もまったく効果がないように感じられる。
(薬を飲んでいなかったらもっとすすんでいた可能性はあるけれど)

会おう!と言ってから今日まで
何度電話やメールでやりとりしてきたことだろう。
2度、3度の連絡では
約束したことをまったく覚えてもらえない。
苛立ちを抑えながら、あきらめずに4度、5度…。
外でランチを食べる。
その約束をする。
たったそれだけのことなのに、私のストレスは溜まるばかりだ。

そして今日。
ランチを済ませてからブラブラと買い物を楽しむ。

「ねえ、このセーター、50%OFFだって!
もともとが4900円だから、2500円くらいになるよ。
買っちゃおうかな?」

姉はお気に入りのセーターを見つけて嬉しそうだ。

しかし同じところに陳列されている他のセーターを見てから
また、さっき買おうとしていたセーターを手に取り

「ねえ、このセーター、50%OFFだって!
もともとが4900円だから、2500円くらいになるよ。
買っちゃおうかな?」
と、同じ言葉を繰り返す。

これを、4回やった。
わずか10分ほどの間に――。

その後コーヒーを飲みながら小さい頃の話になった。

「ほら、お母さんがいなくなってから
お父さんと3人で箱根に行ったじゃない?」と、姉。

え、そうだったっけ?
私はちっとも覚えていない。

「あら、覚えてないの?
あの時お父さんは娘たちを気遣って
いろんなところに連れて行ってくれたのよ。
万博にも行ったし、那須高原にも行ったし
那須の牧場ではアナタ白い馬に乗ったんだけど
それがお腹に赤ちゃんがいるもんだから
なかなか歩かなくてさぁ」

姉が記憶しているエピソードを糸口に、姉妹ならではの昔話で盛り上がった。

お姉ちゃん、よく覚えてるわねえ。
そう言って笑いながら、心の中には雨が降る。
せつないね、昔のことは鮮明に記憶しているというのに。

まあいいか。
姉は病気だが、私だってもはや若くない。
これから先の人生、姉と私で小さな頃の思い出話に笑い合おう。



パンを買うお金もないのに・・・

2017-02-03 02:32:56 | 日記
サナエには愛する一人娘がいる。

しかしサナエが入居して2年も経ったというのに
その娘がやってきたのは3度くらいのもので
3年間勤務している私でさえ
彼女の顔は1度しか見たことがない。

50は過ぎているはずだが
金髪のロングヘアを頭のてっぺんで結い
そこにピンク色のリボンを飾ったド派手な娘だった。

今日、服薬介助のためにサナエの部屋に行くと、彼女が言った。
「私の娘、全然来てくれないのよ。
でさあ、この間こんなものを送ってきたのよ」

何を送ってきたのか。
見れば、キティちゃんのトースターである。

サナエは3食とも食堂を利用しているのだから
部屋にトースターなんか必要ない。
なのに、なんでこんなものを!?

私がその疑問を口にする前に、サナエは言った。
「こんなもん送ってくれたって、私にはパンを買うお金すらないのに…」

そこよ、そこ。

ウチで暮らしている以上
サナエは食を含めた最低限の生活はできる。
けれども娘がめったに会いに来てくれないから
サナエはトイレットペーパーや洗剤、ゴミ袋といった日用品
そして小腹が空いたときに食べたいおやつを買うお金がないのである。

そんな母親にポン!とトースターを送ってくる娘
しかも、恐らく自分の趣味であろう
おもちゃみたいなキティちゃんのトースターを送ってくる娘。

頭、弱いのか?
うん。頭、弱いんだろう。