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毛饅頭
写真㊤:池波正太郎 http://www.taitocity.net/tai-lib/ikenami/
池波正太郎の作品に『剣客商売・鰻坊主』というのがある。ご存知の方も多いだろう。
この作品の中で、秋山小兵衛の息・大治郎が、父親の薬を、本所・亀沢町の町医者・小川宗哲のもとへ貰いに行き、父の親友でもある宗哲から「(もう薬はいらぬ)毛饅頭でも食べさせれば、すぐさま元気になるわい」と言われ・・・・・
「け、まんじゅう、と、申しますと?」
わけがわからぬ大治郎が、真顔で訊いたものだから、
「うは、はは・・・・・・」
腹を抱えて笑い出し、
「もうよい。お帰りなされ。訊きたくば小兵衛さんに訊いたがよい」・・・という条がある。
大治郎は父に訊こうとして、訊くチャンスがないまま、数日過ぎたある日、こともあろうに、恋人である女剣友・佐々木三冬に訊く。
「宗哲先生が(中略)毛饅頭を食べさせると、すぐに癒ると申された・・・」
「け、まんじゅう・・・・・・?」
「(略)三冬どのは御存知か、その毛饅頭なる菓子を・・・・・・」
佐々木三冬が、かぶりを振って目をみはり、
「存知ませぬ」
「はて・・・・・・?」
「耳にしたこともありませぬ。それは、どのような饅頭なのでしょう?」
「ふうむ・・・・・・」
と、茶をいれ替えにあらわれた飯田粂太郎少年に、
「お前は、食べたことがあるかね?」
「いいえ、知りませぬ」
「大治郎どの、その饅頭には、何やら薬草のようなものが入っているのではありませぬか?」
「ふうむ・・・・・・」
「では、これより秋山先生の隠宅へまいり、たずねて見ましょう」
「さよう、それがよい。では、ごいっしょに・・・・・・」
「はい」
池波正太郎という作家センセも、初(うぶ)な二人を描写するのに、これは余りにも“お人がわるい”。
06.04.28
この投稿は、老朽化防止のため、破損部分を修復して再掲しています。ご了解ください。2011-11-01