社会の窓
ズボンやスカートの前のファスナー(チャック)の部分をよく “社会の窓” などという。言い得て妙だ。確かに社会への窓には違いない。
“社会の窓”を開けたまま人前へ出て、後で気が付いて恥ずかしい思いをすることは誰でも経験があることだろう。
でもこれが存外閉め忘れるのだ。これに関して二つの流儀がある。ご存知だろうか?
「前せん家」 と 「後せん家」 だ。
つまりズボンをはく際に、先にチャックを閉め 後からズボン最上部のボタンやフックをかけるのが「前せん家」、先にボタンやフックを留めてからチャックを閉めるのが「後せん家」だ。
それぞれ一長一短がある。「前せん家」流だとチャックの閉め忘れは少なくなるが、ズボンがはきにくい。片や、「後せん家」流だとズボンははきやすいが、閉め忘れる危険が伴う。皆さんはどちら?
10数年前に、今は亡き10代目・桂 文治(そのころは未だ桂 伸治だったかな?)師が、落語「堀の内」の枕で、次のような噺を振った。
アタシャア、正月だったんで新調の背広を着て、得意げに山手線に乗ったン…電車は座れなかったけれど、マア混んじゃあいなかった。アタシャア、電車のハジッコの隅に行って、つり革にぶら下がっていた。
するてえと、反対側の端の隅っこにやはり同じ年格好の男がつり革にぶら下がって立っていたン……見ると、ワタシのと同じ柄の背広だ。ガッカリしたねえ…
「なんだ、同じのを着てやがって」と思って、ひょいと見ると笑っちゃうじゃないか! ズボンの前のチャックが開いてイヤガルン…
注意してやったねえ。注意するたって、電車の端から端へ向かって、大きな声で…
「もしも~し! アンタのズボンの前のチャックが開いているヨッ!」ってえわけにゃいかないから、傍へ行って小さな声で「もしもしズボンの前が開いていますよッ」って囁いたんだよ。
するてえと、その人が……
「アンタも開いていますヨ」
06.11.07