米ツイッターが先月発表した新たな事実確認ツールは、総じて新型コロナウイルスに関する偽情報対策だとされていた。だが2週間後には、そのツールを使って、創業以来最大級とも言える大胆な行動に打って出る。ドナルド・トランプ米大統領との直接対決だ。
ツイッターはその後も、郵便投票に関するトランプ氏やホワイトハウスの公式アカウントからの投稿について、社内規定に違反しているとし、事実確認の注記を追加した。トランプ氏はこれに対抗し、ソーシャルメディア企業による「検閲」を標的とする大統領令に署名。自身の投稿に対する注記を停止しなければ、ツイッターの事業を解体すると脅した。
ツイッターはここ何年も、投稿内容の監視が不十分かつ一貫性がないとして批判を受けてきた。また、最も影響力の大きいユーザーであるトランプ氏の投稿への対応を巡り、社内でももめていた経緯があり、今回の動きは大きな方針転換となる。約4000人に上るツイッター社員の間では、有力者によるプラットフォーム上の有害な言動を無視しているとして、会社やジャック・ドーシー最高経営責任者(CEO)を批判する声がある一方、投稿内容を管理することは検閲に等しいとの意見が対立していた。
内情に詳しい関係筋によると、コロナが世界的に大流行し、8000万人のフォロワーを抱えるトランプ氏が時にツイッターの規定の限界を試すような投稿を行う中で、ここ数週間に社内の緊張が高まっていったという。
ツイッターの決定について詳しいある社員は「内部の意志決定はドミノ倒し的ではなく、緩やかに少しずつ行われていった」と明かす。
ツイッターの社員は、トランプ氏の投稿に対して社内規定をどう適用するか、何年にもわたり非公式の場で話し合っていた。会合の事情を知る関係者が明らかにした。関係者の1人は、今回の決定は予想外だと話す。
ツイッター社員の一部は、相手がトランプ氏であっても、ヘイトスピーチ(憎悪表現)や有害コンテンツとみる投稿を減らすために、既存の規定を会社として適用すべきと考えていた。
フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOのように、ドーシー氏もトランプ氏と水面下で会談し、有力保守派とも関係を構築しようと努めてきたが、同時に社員の大半は政治的に左寄りの見解を持っている点も認めていた。ドーシー氏は2018年、保守派の社員が社内で自身の見解を安心して表現できる環境にあるとは思わないと述べている。
ツイッターでコンテンツの品位管理に関する責任者を務めるヨエル・ロス氏はこのところ、同社に左寄りのバイアス(偏向)があることを示す例として、保守派の間で取り沙汰されるようになった。ロス氏は過去に、トランプ氏を「人種差別主義のミカン」と呼び、大統領上級顧問のケリーアン・コンウェー氏をナチス・ドイツのプロパガンダ相、ヨーゼフ・ゲッベルスと比較したことがある。コンウェー氏がテレビのインタビューでロス氏を名指しして批判したことで、最近ではネット上で嫌がらせや脅迫の標的となっていた。
トランプ氏のツイートには事実確認を促す注意書きが付けられた(5月29日)
PHOTO: SHAWN THEW/SHUTTERSTOCK
ドーシー氏は先頃、会社の決定に関する責任を負うと発言。「事実確認:会社としてわれわれの行動について最終的に誰かが責任を取る必要があり、それは私だ」とし、トランプ氏の投稿内容に注意喚起した件でツイッター社員を攻撃しないよう求めた。
ドーシー氏は、黒人運動「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切)」の支持者として知られるが、ツイッターは会社として、リベラル派でも保守派でもないとの立場を長らく維持している。現・元幹部によると、ドーシー氏は社内で、当局者らの生の声にも配慮すべきと繰り返し強調していた。こうした見解は、2016年の大統領選の初期段階から多くの社員の怒りを買っていたが、トランプ氏が当選後、ツイッター上で政敵を名指しで攻撃し、偽情報を拡散するようになると、ますます反発が強まっていったという。
ツイッター社員によると、同社はここ数年、コンテンツ管理について比較的、干渉しない姿勢を取ってきた。これに対し、フェイスブックは数万人のコンテンツ監視要員を起用して、ネット上の対話を改善すると表明している。
ツイッターとフェイスブックの間で、役割の逆転が起こったのは昨年終盤以降だ。ツイッターは政治広告を全面的に禁止する一方、フェイスブックは、事実確認をすることなく、引き続き政治広告を受け付けることを決めた。ザッカーバーグ氏はここにきて、有害コンテンツの排除よりも、言論の自由に注力する姿勢をより強調するようになった。
ツイッターのその後の行動からは、同社が世界の首脳に対して、異なる対応を取るようになったことがうかがえる。3月には、有効性の確認されていない新型コロナウイルスの治療法に絡み、ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領とブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領の投稿を削除。
4月には、隔離措置はコロナ感染を広げるとしたブラジルの政治家による投稿に、事実確認の注記を添えている。
それでも、多くのユーザーに加え、社員の一部の間でも、ツイッターによる社内規定の適用は一貫性がないと感じられていた。
ツイッターが5月初旬に発表した事実確認ツールは、有力者の投稿を完全に削除することなく、内容に警告を発する手段を提供した。同社はこのツールについて、コロナに関する陰謀説や偽情報に対処する方策と説明していたが、内部ではより広範に適用できるとの意見が出ていた。ツイッターの決定に詳しい社員が明らかにした。
その社員は「ツイッターにはこれまで、うそはつけない、または陰謀説は拡散できないとの規定が全くなかった」とし、「これがきっかけになった」と明かす。
ツイッターのドーシーCEO(4月7日)
PHOTO: JIM WATSON/AGENCE FRANCE-PRESSE/GETTY IMAGES
ツイッターは当初、陰謀説が横行する「プランデミック」の動画などに、内容は誤りとの警告を行うようになった。その後、この規定を選挙など、重要なテーマにも適用できないか検討するようになっていったという。
ツイッターは5月20日、トランプ氏の不正投票に関するツイートは、不在者投票の「申請」ではなく、不在者「投票」に誤って言及しているとして、事実確認の注記が添えられることになると同氏のチームに警告した。トランプ氏はその後、投稿を削除した。これについては、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)がこれまでに報じている。
ツイッターはその後の5月26日、郵便投票に関する不正疑惑についてつぶやいたトランプ氏の2件の投稿について、初めて事実確認の注記を加えた。
その数日後の5月29日には、トランプ氏の「略奪が始まれば、銃撃も始まる」としたツイートは暴力をあおるとの警告を加え、さらに大胆な措置に出た。この台詞は、市民権を求める抗議デモの取り締まりを行ったマイアミの元警察署長や市民権運動に反対していた元アラバマ州知事が使ったものだ。
トランプ氏はツイッターの警告を受け、「事実を語ったのであって、意見ではない」とし、「これが起こってほしくなかった。それが昨夜のメッセージに込められた意図だ」と釈明した。
ツイッターは1年前に、政治家による規定違反の投稿について警告する指針を導入したが、トランプ氏のツイートに対して行ったのはこれが初めてだった。
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ツイッターはその後も、郵便投票に関するトランプ氏やホワイトハウスの公式アカウントからの投稿について、社内規定に違反しているとし、事実確認の注記を追加した。トランプ氏はこれに対抗し、ソーシャルメディア企業による「検閲」を標的とする大統領令に署名。自身の投稿に対する注記を停止しなければ、ツイッターの事業を解体すると脅した。
ツイッターはここ何年も、投稿内容の監視が不十分かつ一貫性がないとして批判を受けてきた。また、最も影響力の大きいユーザーであるトランプ氏の投稿への対応を巡り、社内でももめていた経緯があり、今回の動きは大きな方針転換となる。約4000人に上るツイッター社員の間では、有力者によるプラットフォーム上の有害な言動を無視しているとして、会社やジャック・ドーシー最高経営責任者(CEO)を批判する声がある一方、投稿内容を管理することは検閲に等しいとの意見が対立していた。
内情に詳しい関係筋によると、コロナが世界的に大流行し、8000万人のフォロワーを抱えるトランプ氏が時にツイッターの規定の限界を試すような投稿を行う中で、ここ数週間に社内の緊張が高まっていったという。
ツイッターの決定について詳しいある社員は「内部の意志決定はドミノ倒し的ではなく、緩やかに少しずつ行われていった」と明かす。
ツイッターの社員は、トランプ氏の投稿に対して社内規定をどう適用するか、何年にもわたり非公式の場で話し合っていた。会合の事情を知る関係者が明らかにした。関係者の1人は、今回の決定は予想外だと話す。
ツイッター社員の一部は、相手がトランプ氏であっても、ヘイトスピーチ(憎悪表現)や有害コンテンツとみる投稿を減らすために、既存の規定を会社として適用すべきと考えていた。
フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOのように、ドーシー氏もトランプ氏と水面下で会談し、有力保守派とも関係を構築しようと努めてきたが、同時に社員の大半は政治的に左寄りの見解を持っている点も認めていた。ドーシー氏は2018年、保守派の社員が社内で自身の見解を安心して表現できる環境にあるとは思わないと述べている。
ツイッターでコンテンツの品位管理に関する責任者を務めるヨエル・ロス氏はこのところ、同社に左寄りのバイアス(偏向)があることを示す例として、保守派の間で取り沙汰されるようになった。ロス氏は過去に、トランプ氏を「人種差別主義のミカン」と呼び、大統領上級顧問のケリーアン・コンウェー氏をナチス・ドイツのプロパガンダ相、ヨーゼフ・ゲッベルスと比較したことがある。コンウェー氏がテレビのインタビューでロス氏を名指しして批判したことで、最近ではネット上で嫌がらせや脅迫の標的となっていた。
トランプ氏のツイートには事実確認を促す注意書きが付けられた(5月29日)
PHOTO: SHAWN THEW/SHUTTERSTOCK
ドーシー氏は先頃、会社の決定に関する責任を負うと発言。「事実確認:会社としてわれわれの行動について最終的に誰かが責任を取る必要があり、それは私だ」とし、トランプ氏の投稿内容に注意喚起した件でツイッター社員を攻撃しないよう求めた。
ドーシー氏は、黒人運動「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切)」の支持者として知られるが、ツイッターは会社として、リベラル派でも保守派でもないとの立場を長らく維持している。現・元幹部によると、ドーシー氏は社内で、当局者らの生の声にも配慮すべきと繰り返し強調していた。こうした見解は、2016年の大統領選の初期段階から多くの社員の怒りを買っていたが、トランプ氏が当選後、ツイッター上で政敵を名指しで攻撃し、偽情報を拡散するようになると、ますます反発が強まっていったという。
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それでも、多くのユーザーに加え、社員の一部の間でも、ツイッターによる社内規定の適用は一貫性がないと感じられていた。
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その社員は「ツイッターにはこれまで、うそはつけない、または陰謀説は拡散できないとの規定が全くなかった」とし、「これがきっかけになった」と明かす。
ツイッターのドーシーCEO(4月7日)
PHOTO: JIM WATSON/AGENCE FRANCE-PRESSE/GETTY IMAGES
ツイッターは当初、陰謀説が横行する「プランデミック」の動画などに、内容は誤りとの警告を行うようになった。その後、この規定を選挙など、重要なテーマにも適用できないか検討するようになっていったという。
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ツイッターはその後の5月26日、郵便投票に関する不正疑惑についてつぶやいたトランプ氏の2件の投稿について、初めて事実確認の注記を加えた。
その数日後の5月29日には、トランプ氏の「略奪が始まれば、銃撃も始まる」としたツイートは暴力をあおるとの警告を加え、さらに大胆な措置に出た。この台詞は、市民権を求める抗議デモの取り締まりを行ったマイアミの元警察署長や市民権運動に反対していた元アラバマ州知事が使ったものだ。
トランプ氏はツイッターの警告を受け、「事実を語ったのであって、意見ではない」とし、「これが起こってほしくなかった。それが昨夜のメッセージに込められた意図だ」と釈明した。
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