今週末はもう9月。
あちいあちいいっていても、さみいさみいという季節に流れて行くんでしょうが、もう暑いのはいいですハンソン。
ふるいか(自爆)
それにしても東京は昨日も一昨日も36度の猛暑日。今日も暑くなるそうで、これはもう残暑なんてもんじゃないです。
さて、珍しく記事の内容に迷っております。
なので先日しなかった怖い話にしようかな、と。
何年も前、つる姫が子育ての後半に入った頃、年に数回の一泊ひとり旅をさせてもらうのが楽しみの一つでした。
その頃は京都は飽きていて、奈良に嵌った時期でした。
以前ブログの記事にしたものを今日はコピペします。
少しは涼しくなっていただけると幸いですが、さて。
因みにこれは病気がわかる前の、無謀ずっこけ一人旅の頃の話です。
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数年前の、都会の木々も色づき始めた11月半ばのこと。
急に旅に出たくなり、新緑の頃に訪れて以来、お気に入りになった奈良に行く事にした。
一人旅の宿は、いつも安いビジネスホテルである。
急な事もあり、また紅葉の時期だからであろう、観光スポットへのアクセスに都合のよいホテルは満室で
奈良市内から離れた街のビジネスホテルが、やっととれた。
家族も心配するほど、よくばりでハードな旅をする私。
この日も半日歩き回り、日が暮れたら絶対に何かが出てきそうな道で迷いそうになりながら日没ぎりぎりに、かろうじて電車の駅につながるバスに乗る事が出来た。
降りる人の少ない駅に降り立ち、駅から5分と書いてあるが、ゆうに10分以上かかってようやく目的のホテルの看板を見つけた。
駅から離れたホテルの周りには、お店もほとんどなく、小さな信号機と、コンビニの灯りが灯っているだけだ。
この頃はまだ、一人で食堂に入れない私の夕食はもっぱらコンビニ。
この日も、コンビニで買い物をしてからホテルに入った。
中はとても薄暗く、シャンデリアが飾りもののように天上からぶら下がっている。
灯してあるのは、小さなスポットライトだけだ。
フロントには誰もいない。
「すいません」と、フロントの奥の方に声をかけると白髪を中途半端に茶色に染めた、小柄なおばあさんが出てきた。
「はいはい」
「予約した、カメノツルコです」
「はい、ありがとうございます。お部屋は3階の5号室でございますだ。階段でおあがりくだせえまし」
おばあさんから古い型の鍵を受け取り、小さな荷物とコンビニの袋をぶら下げて、下手をすると躓くほど薄暗い階段を、足もとを見ながら上る。
ネットでは「空室残りわずか」となっていたが、人の気配は全くない。
2階まで上がって、3階へと方向を変える階段の踊り場で、ふと10数メートルの廊下の先をみると、付きあたりにある物入れのスペースのような所の入口が、扉の代わりに黄ばんだ白い布のような物で被われている。隙間から古ぼけた椅子が天井まで積み重ねられているのが見える。
ちいとばかり、やばい、と感じる。
305号室に入る。
入ってすぐの左手には、お風呂場とトイレのドアが別々にある。
お風呂場のドアを開けると、昔ながらのタイル張りのお風呂だ。トイレも和式であった。ううむ。
部屋の入口のふすまを開けると、畳の部屋に大きくないテーブルが置かれその隣に、すでに布団が敷いてある。
薄暗いお風呂場でさっとシャワーだけすませ、バリバリして着心地のよくない浴衣を着てテレビをつけると、
馴染みのない地方のテレビ番組が流れている。
缶ビールをプシュッとして、テレビの音だけ聞きながらコンビニの晩ご飯を食べる。
夜中3時過ぎに起きて、家事を済ませてから新幹線の始発に乗り、半日ほとんど座る事もなく歩き回ってくたくただった私は
テーブルの隣に敷いてあった布団の上で、いつの間にか電気をつけたまま眠ってしまっていた。
何時頃のことだろう。
ふと目が開いたその時、入口の襖からおじいさんが、すーっと入ってきた。
白い半そでのシャツに、ベージュのズボンをはいている。
ふっくらとした体型である。つやつやした丸顔、穏やかな表情。
少なくなった白髪が、きれいな櫛目をつけて頭になでつけてある。
あ、いけない。。
着なれない浴衣の前をはだけて寝ていた私は、反射的に蹴飛ばしていた布団を、肩まですっぽりと掛け直した。
おじいさんは、私に一瞥する事もなく、そのまま静かに窓の方から出て行った。
は?
窓の方から出て行った?
不思議な事に、恐怖を感じて飛び起きるどころか、再び眠りに落ちた。
朝になって目覚めても、私の中には「こわい」という感情が全くなかった。あれは夢だったのだろうか、という漠然とした想いだけが、頭の中で風のない朝の霞のように静かに流れている。
持ってきた小さな鏡で化粧を澄ませ、チェックアウトしようと降りて行くと、天気の良い朝のロビーは、昨夜とは別世界のように明るかった。
朝食の用意されたスペースのドアが開けられていて、人の世界の匂いがする。
しかし相変わらず宿泊客の姿も、他の従業員も見当たらなかった。
おばあさんに鍵を返し、丁重にお礼を述べてホテルを出る。
深まる秋の朝の、キンと冷たい風の中を駅に向かって歩く。
昨日歩き回った足の裏がかなり痛い。
足を気にしながら、あのおじいさんは誰だったのだろうと考える。
何より不思議なのは、少しも怖いと思わなかったことだ。
とある宗教団体の作務衣を着た人が沢山歩いているのを、横目で見て考えた。
そうか・・・。
あれは、あのホテルのおばあさんの亡くなったご主人だ。
おじいさんが若き日に建てたホテル。
お嫁に来たおばあさんは、とても働き者で、いつもにこにこしながら、おじいさんを支えている。
しかし後継者になるはずのひとり息子は、親が稼いだお金で、遊びまわる。
おじいさん亡き後は、おばあさんが一人で切り盛りしている。
おばあさんが亡くなったら、どこかにいた道楽息子が帰って来て、ホテルを売り払い、大金を手に入れる算段をしている。
そんな親不幸な息子のせいで、消えて行くのもそう遠くない、おじいさんの大切なホテル。
今では滅多に客の来ないホテルに来てくれた私に、ありがとう、どうぞごゆっくりしていってくだせえ、と挨拶に来たのだ。
いやそれにしても、断りもなく女性の部屋に入ってくるなよ。
電車に揺られて妄想が続くよどこまでも。
私の母方のルーツは、奈良の方だと聞いた事もあるし、父方の親戚の蔵からは、藤原鎌足から始まる系図が出てきたと聞く。
たどっていくと、あのおじいちゃんとどこかで繋がっていたのかも知れないし。
いずれにしても、気配は感じるが見た事のないものを、ずいぶん大人になってから初めて見てしまったものだ。
ベージュのズボン・・・足があったのか・・?
いや、さらに言えばあの場所に、もともともうホテルなどなかったのかも知れない。
いにしえの奈良の都のある秋の夜のできごと。
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奈良ではその後タヌキのタクシーにも乗ったのですが、それはまたいつかのお話。
タヌキいや手抜きな記事でごめんなさい。
素敵な一日をお過ごしください。
感謝をこめて
つる姫
(ブログ開設から2598日)