最初の千年紀になると、オーメン(予兆)はアッシリアの最も重要な関心事となった。天文学者であり、占星術師でもある聖職者によって報告書が作成され、宮廷や王に提出された。国家のために良いことを、それは敵にとっての大惨事や災害であるが、それを予言することができたことで、天文学者兼占星術師兼聖職者は一身に尊敬の念を集めた。
この莫大なオーメン資料の多くは大英博物館のR.C.トンプソンによって19世紀に編纂されたものだ。それは、月からのオーメン(予兆)であり、太陽からのオーメン、惑星と星からのオーメン、雷からのーメン、月の消失からのオーメン、嵐からのオーメン、地震からのオーメン、食からのオーメン、また誕生日からのオーメンなどである。トムプソンが編纂したオーメン録を書いたのは、情報収集のために王国のあちこちに派遣された天文学者であり占星家である書記であった。つまり、王は国内でのできごとの成り行きをかなり詳しく知っていたのである。
アッシュルバニパル図書館の何千ものオーメン粘土板は大きく5種類に分かれている。国全体に関すること、作物、洪水、王室、反乱と敵に関するものである。5番目を除いて個人に関する事項は含まれていない。大部分が紀元前1000年頃か、その少し後に書かれたと思われる。その中心となるオーメンとしては5種類ある。すなわち、
(1)エヌマ・アヌ・エンリル、すなわち天界オーメン(月、太陽、惑星と星)。
(2)シュンマ・イズブ、すなわち怪物の誕生からのオーメン。
(3)生贄にされた羊の内臓からのオーメン 。
(4)シュンマ・アル・イナ・メレ・シャキン、すなわち動物の振舞い、鳥、昆虫、井戸掘、都市のある場所に関するいろいろなオーメン。
(5)人相学のオーメン。
ここではエヌマ・アヌ・エンリル、つまり天界オーメンを特にとり上げてみよう。エヌマ・アヌ・エンリルには、地震、雷、稲妻等に関係している不吉な天のできごとや収穫、洪水、王室、貴族、反乱、敵など、国全体に与える影響について記録されている。(図19~24を参照)。
こうした例から、アッシリアの書記がどんな考えをしていたがわかる。大多数のオーメンは王、作物、そして天気現象に関するもので、たとえ王や王子についてでさえ、個人の誕生日に関する言及はない。
月が見えなくなれば、大地は邪悪に包まれるだろう。
月が時期でもないのに隠されるなら、食が起るだろう。そして、月は24日目に見えなくなった。
月が見えなくなった日に、太陽が光輪(ハロー)で囲まれているなら、エラムの食が起るだろう。
キスレウ(IX)では、食が見られるだろう。太陽を囲んだ光輪と消えた月が、キスレウでの食の観測のために現われた。王はそれを知るべし。閣下たる王に幸せあれ。
王の下僕なる年寄りラシールRasilから、
図19: キスレウの月食からのオーメン。 写真©大英博物館
H.ハンガーの「アッシリアの王たちへの星占い報告書」から。 ヘルシンキ大学出版局、1992年。
[月]は光輪に包まれ、その中にかに座があった。これがその解釈である。
[もしも月が]光輪に包まれ、かに座がそこにあれば、アッカドの王の寿命は伸びることだろう。
[もしも月が]光輪に包まれ、北風が吹けば、神々は奮い立ち、そして地に幸いをもたらすであろう。
[もしも月が][光輪に]包まれ、それが見え続けるならば、王に統治権が与えられるだろう。
[地に霧が出ていれば]、人々は豊かになるだろう。
その地がずっと霧に覆われているならば、その地の王朝が世界を支配することだろう。
毎日、絶え間なく霧が出ているなら、商売が繁盛するだろう。
スマヤSumaya[から]。
図20: 月の光輪の中のかに座からのオーメン。写真©大英博物館。
H.ハンガー、「アッシリア王への占星術の報告書」から。ヘルシンキ大学出版局、1992年。
月が見えなくなったその日にアダド(雷)が鳴れば、収穫は豊かで、商売は安定するだろう。
月が見えなくなったその日に雨が降れば、収穫が得られ、商売は安定するだろう。
君主なる王よ、永遠に!
アサレドゥAsareduから。
図21: 月末に鳴る雷からのオーメン。写真©大英博物館。
H.ハンガー、「アッシリアの王たちへの星占い報告書」から。ヘルシンキ大学出版局、1992年。
マルデュックの星が年の初めに目に見えるようになれば、その年は、マルデュークの耕作は上出来となろう。水星がニサン(1)で見えるようになる。
アルデバラン星に接近して来る惑星があれば、エラムの王は死ぬだろう。
見知らぬ星がエンメサッラEnmesarraに近づいてくるならば、人々はあちこちに広がり、地は幸せになるだろう。
水星がおうし座で見えるようになり、その老いたる者のもとに着いた。
[ある惑星が---の中]で目に見えるようになれば、[雨が]降り、洪水となるだろう。
[-----]から
図22: 水星がおうし座で見られるようになった初めての日の夕方からのオーメン。写真©大英博物館
H.ハンガー、「アッシリアの王への占星術の報告書」から、ヘルシンキ大学出版局、1992年。
ニサンの月(一番目の月)に地震が起これば、王は土地を失うであろう。
夜に地震が起これば、土地が見捨てられないか、心を配るべし。
アプラヤAplayaから。
図23: 地震からのオーメン。写真©大英博物館。
H.ハンガー、「アッシリアの王への占星術の報告書」から、ヘルシンキ大学出版局、1992年。
月を光輪が包み、その中にレグルスがあれば、女どもは男の子を生むことだろう。
ニルガル・イターから。
火星がさそり座に近づけば、王子はサソリの毒針にかかって死に、彼の息子が後を継いで王座に就くことだろう。しかし、その土地の住処には……また別の君主が……土地の境界線は定まらなであろう。
無名。
胎児に8本の脚と2つの尻尾がついているなら、その王国の王子が権力を奪うであろう。ウッダヌという名前のある肉屋が言った。「うちの豚が出産したが、8本の脚と2本の尻尾がついていたから、塩水につけて、家の中に置いておいた」と。
ニルガル・イターから。
...火星がふたご座に近づけば、王は死に、戦乱となろう。
日の出に水星がおとめ座の領域に見えている。それを解釈したのがこれである。水星がスピカに近づいたなら、作物は豊作となり、家畜は殖え、王は強くなり、敵を打ち負かす(?)であろう。ごまとナツメヤシは豊作となろう...
スピカが火星に接触すれば、雨が降るだろう.
...金星がおとめ座に見えたなら、天は雨となり、地は洪水となり、アハッルは豊作となるだろう。そして、廃墟に人が住むようになるだろう。
無名。
図24: 7つのオーメン録。
R.C.トムプソン「ニネヴェとバビロンの魔術師と星占い師の報告書」、Luzac社(1900年)から。
福島憲人・有吉かおり