新元号「令和」の元は万葉集。その典拠は?
新元号「令和」は万葉集から創られました。漢籍から引用またはコピーされたとSNS等で議論されていますが、引用やコピーと呼べるものは無いようです(例:帰田賦のそれは「時和」、万葉集は「風和」。令の元「令月」は時候を示すもの)。たぶん「典拠した」と言うべきで、典拠を駆使するのは寧ろ良いことで、詩歌ではよくみられるものだと思います。
令和の元となった天平二年正月十三日(西暦730年2月4日)の大宰府の立春の宴
天平二年正月十三日(西暦730年2月4日・おそらく立春)大宰府での壮麗な立春の宴の席を写実した序文が元のようです(()は朱書)。
梅花歌三十二首并序
天平二年正月十三日 萃(㆓)于師老之宅(㆒)申(㆓)宴會(㆒)也 于時初春令月 氣(㆐)淑 風(㆐)和 梅披(㆓)鏡前之粉(㆒)蘭薫(㆓)珮後之香(㆒) (萬葉集第五巻)大伴旅人(665~731)山上憶良(660~733頃)
意訳:天平二年正月十三日(西暦730年2月4日)立春、ここ大宰師・大伴旅人の邸へ集まり(萃)宴会す。
時は初春の吉月(令月)にして、雲霧淑やかに風はやわらぎ、梅は鏡前のおしろいのごとく花開き、蘭は玉珮※後ろの香玉のように薫る(※大嘗祭等の礼服にあわせる玉の腰飾り絵)。
蘭亭集序,王羲之
東晋・永和九年(353)暮春三月上巳の禊
是日也天朗氣清、惠風和暢
蘭亭集序,王羲之(東晋,303~361)
意訳:この日の空は明朗で大気は澄み渡り、心地よい春のそよ風が優しく吹いている。
洛禊賦,張協
こちらも禊のようです
夫何三春之令月 嘉天氣之絪縕 和風穆以布暢 百卉曄而敷芬
洛禊賦,張協(西晋 ?~307?)
意訳:春の旧暦三月吉月、天地陰陽たがう美しの気候に 穏やかなるやわらぎのそよ風が吹き散らし 花木生い茂り香気を放つ
帰田賦,張衡
都での政に失意したエリートが田園へ帰る詩のようです
於是仲春 令月,時和 氣清;原隰鬱茂,百草 滋榮
歸田賦,張衡(78-139)
意訳:おりしもこの旧暦二月吉月 気候は穏やかで爽やかに晴れ 原野は鬱そうと茂り花木も隆盛す