昨日観て来ました。
南アフリカ共和国初の黒人大統領ネルソン・マンデラと、1995年のラグビーワールドカップ南アフリカ大会に題材を取った『インビクタス/負けざる者たち』。クリント・イーストウッド30本目の監督作品です。
マンデラ本人のお墨付きである主演モーガン・フリーマンが持ち込んだ企画であり、悪く言えば雇われ仕事なのですが、オーソドックスな感動作となっています。
暗く重厚な「イーストウッド作品」を期待したファンの間では「物足りない」との声もあるようです。寧ろ「あのイーストウッドがこんなストレートに爽やかな作品を!」と驚く声の方が多いかも。
でも、しっかりしたテーマのあるエンターテインメント作品をも衒いなく作れるのが、イーストウッド監督の力量なのでしょう。素直に「ああ、いい映画だった」と言える作品でした。
ストーリー:1991年、南アフリカ──白人政権から「テロリスト」として長年収監されていた黒人指導者ネルソン・マンデラ(モーガン・フリーマン)が釈放された。
3年後の1994年、初の統一選挙により、マンデラは大統領に選出される。人種間対立の激化が予想されたが、新大統領は「過去は過去」として復讐の空しさを説き、敵対よりも和解を推し進める道を選ぶ。
国民の心を一つにするイベントとして大統領が注目したのが、1995年に同国で開催されるラグビー・ワールドカップだが、代表チーム、スプリングボクスは、アパルトヘイト政策時代に国際試合の舞台から締め出され、国内でもアパルトヘイトの象徴として黒人社会から反感を買っていた。
チームの先行きも不安なおり、主将フランソワ・ピナール(マット・デイモン)は大統領じきじきの呼び出しを受ける。そこでマンデラの人柄とビジョンを知ったピナールは、その理想を実現すべく、チームと共にワールドカップ優勝へ向けて走り始めた──
人種間対立についての描写は必要最低限のもので、直接的な暴力表現などは出て来ません。そこが「物足りない」と言われる所以かも知れませんが、本作品の描きたかったことはそれではないし、差別や対立の様相はさりげない台詞の端々からも伺えるので、後は観る側の知識と理解力の問題でしょう。
イーストウッドが監督を引き受けた理由の一つは「脚本が良かったから」だそうですが、「敵対から和解へ」のライトモチーフは、様々なエピソードによって繰り返し描かれています。
たとえば、当初ボクスのシャツを支給されることを拒否していた少年が、終盤では白人のカーラジオを盗み聞きしようと側に寄り、そして……という件りなど、何だかホッとしました。
また作中にはボクス以外に「もう一つのチーム」が登場します。それは大統領警護のSPたちで、白人たちは黒人の下につくことに不満や不安を覚え、黒人側もかつて同胞を迫害した公安上がりなんかと組めない、と反撥するのですが、ワールドカップ会場の警備という一大プロジェクトを通じて、彼らが「チーム」としての結束を深めていく過程も丁寧に描かれていました。
もちろん彼らが互いに歩み寄ることが出来たのは、トップにいたのがマンデラだから、なのでしょう。
「我こそ我が運命の支配者 我が魂の指揮官」という言葉で結ばれる、ウィリアム・アーネスト・ヘンリーによる詩『Invictus』を支えにつらい日々を生き延びた、独立不覊の魂を持つ不屈の男。
それはイーストウッド好みのヒーロー像であるかも知れませんが、同時にマンデラは暴力的手段に依らず、「赦す」ことで新たな世界を開いた人でもありました。
長年にわたり暴力の連鎖を描いて来たイーストウッドにとっても、「マンデラ」はその向こう側に位置する一つの到達点であったのかも知れません。
代表チームの皆が、かつてマンデラの収監されていたロベン島(現在、世界文化遺産に登録されているそうです)を訪れるエピソードで、ピナールがその独房の狭さに驚き、マンデラがそこで過ごした日々と彼の「負けざる魂」に想いを馳せるシーンは感動的でした。
その一方で、マンデラの必ずしも順調ではなかった家庭生活のエピソードにも触れ、悩み多き一人の夫であり父親としての顔も描くことで、物語とキャラクターに厚みが加えられていました。このあたりの描写が、イーストウッドらしいと言えば言えるかも知れません。
「らしい」と言えるかどうか判りませんが、準備中のスタジアムを偵察する怪しい人物、そして決勝開始直前、超低空飛行で接近する旅客機の影──と、サスペンスを盛り上げておいて、「実は…」と落として感動を呼ぶあたりもお見事。娯楽映画の本道ですね。これが実際にあった出来事だというのも驚きです。
出演者はフリーマンとデイモン以外、あまり見知った顔がありませんでしたが、それが却って効を奏し、まさにその人がそこにいる、と思わせます。もしかして南アフリカの俳優さんたちが多くキャスティングされていたのでしょうか。中でも、マンデラの有能なる女性秘書官と、フットワークの良過ぎる大統領のせいでいつも胃の痛む思いをしている警備主任さんが良かったです。彼だけでなく、SPの人たちは皆さんいい感じでした。
スプリングボクスが世界一のオールブラックスを向こうに回して、大会史上初の延長線にまで持ち込んだ決勝戦については、実際に映画をご覧下さい。ピナールの最後のスピーチにも感動しました。
が、マンデラの戦いと彼らの戦いが見事に合致していた幸福な日々が過ぎて、現在の南アフリカ共和国に於ける経済格差や失業率、犯罪発生率は以前より悪化していると聞きます。
今年、同国ではサッカーのワールドカップも開催されますが、この時のような奇跡が再び起きることはあるのでしょうか……?
それでも、この映画が観て幸福になれる作品であることに変わりはありませんが。
『インビクタス/負けざる者たち』公式サイト
ウィリアム・アーネスト・ヘンリーの『Invictus』- Wikipedia 英語版
イーストウッドの作品は割と見終わって落ち込む内容が多いけれど、大好きです。
監督としても、俳優としても
去年のMy No.1はグラントリノでしたから~。
今回は爽やかな感動作と聞き、ますます期待に胸が膨らみます
今日の特ダネ(フジテレビ)でヒューの話題が出たようですね。
見ていなかったけれど、お友達から「いいパパなのね~。私服もカッコイイ」とメールが来ました。
いいパパは周知の事実ですが、私服がカッコイイとは…
ファッションセンスはイマイチだなぁ、ファッションにはさほど興味はないのだろうなぁと思っていたので、意外でした。
そういうちょっとダサいところも私にはツボなんですけど
『インビクタス』はお奨めですよ。『グラントリノ』は或る意味集大成みたいな感じでしたが、今回は言われなければイーストウッド作品とは判らないくらい真っ直ぐな作品でした。
特ダネにヒューが出たとは知りませんでした観そびれて残念です
しかし、私服がカッコイイって……ヒューが!?
以前「ベストドレッサー賞」など貰ってしまった時には、海外の皆さんも「えっ!ヒューがベストドレッサー!?ぎゃはは!」という反応でした
あ、でも近頃お嬢ちゃんとお出かけする時などに着ている革ジャンはけっこう素敵かも知れないです