Loomings

映画・舞台の感想や俳優さん情報等。基本各種メディア込みのレ・ミゼラブル廃。近頃は「ただの日記」多し。

映画『オーストラリア』感想~デイヴィッド・ウェナムの悪役

2009-03-14 19:52:16 | HJ&DW・映画『オーストラリア』
のち
バズ・ラーマン監督の映画『オーストラリア』出演俳優と言ったら、当ブログとしては、やはりこの人を取り上げないわけには行かないでしょう。
そう、サラ(ニコール・キッドマン)、ドローヴァー(ヒュー・ジャックマン)、そしてナラ(ブランドン・ウォルターズ)に仇をなし続けるニール・フレッチャー役デイヴィッド・ウェナムです。

予告編ではひたすら主役二人が目立っていたので、それほど出番は多くないのかも、と思っていたら、けっこう最初から最後まで出ずっぱりでしたね。クレジットや各媒体でも、ニコール、ヒューに続き、常に三番目に名前が出ています。
この「第三の重要な役」、ラッセル・クロウ主演で予定されていた頃には、ヒューがそれを演じるとか、主演がヒューに替わった後はヒース・レジャーが演じるかもとか、様々な噂が飛び交っていました。が、彼らが演じたとしたら、ここまでベタな悪役になっていたかどうかは疑問です。
もしかしたら、ヒューやヒースに用意されていたのは「悪役」じゃなくて、実はダットン大尉の役だったのでは?と今にして思いますが……

そんな憶測はともかく、デイヴィッドとフレッチャーに話を戻すと、上でも書いたように、本当にベタな悪役でした。
騙す、殺す、裏切る、火は放つ、水場に毒を投下する、女子供は虐待する──サラと旅の仲間たちが危機に見舞われるたび「フレッチャーの仕業だ!」と断言するのが笑えます。いったいどんだけワルイやつだと思われているのかと。
これまで『DOWN UNDER BOYS』のブレットや『ピュア』のレニー等、悪役やワルな役も何度か演じて来たデイヴィッド・ウェナムですが、ここまで本格的な(?)、絵に描いたような悪役はなかったと思います。
いや本当に「絵に描いた」感じ。ブレットも中身空っぽなヤツだったけれど、あれはそういう「人としての空虚さ」を表現することが重要な役だったから、それともちょっと違います。
同じ姓を持つ『プロポジション』のイーデン・フレッチャーも、立場上「仇役」であり嫌なヤツではあったけれど「悪役」ではないと、自分は理解しました。

しかし、今回のニール・フレッチャーの場合、ただ「悪役」という記号がそこに存在するだけです。それが悪いと言っているわけではありません。こういう役は「フラット・キャラクター」として、それこそ思い切りベタに演じるほうが望ましいのです。
でも、このフレッチャーについては、役柄の要求するものとデイヴィッド・ウェナムという俳優の演技の間に、何がしか齟齬があるように感じてしまいました。
フレッチャーの数々の悪行の背景に、ファラウェイ・ダウンズの土地や財産への執着があるらしいことは判ります。その一方で、例の「ハエ」のくだりなど見ると、単にそういう嗜好の持ち主かとも思えるのです。
クライマックスシーンの少し前、彼の視線の先にいるのは、やっと巡り会えたサラとドローヴァーとナラ──法的にはともかく、既に「家族」の絆で結ばれた三人です。それこそが、彼の得られなかったものであったということでしょうか。
キング・カーニーへの凶行に及んだのも、その前に「おまえは家族じゃない」と否定されたことが引き金となったのだろうと考えると、この男にも0.1%くらいは同情の余地があるかも、と思える瞬間ですが、それも、あの死にざまで一気に粉砕されます。あの時のスゴイ顔と声には笑っていいのかどうか悩むところです。
かと思うと、あのクロコダイルの靴に表象されるような、わかり易い「悪役」表現があったりする。
本来あるべき役柄と、役を形作るディテール、そして演じる俳優の演技、それぞれがちぐはぐな感じで、どうにもモヤモヤしたものが残ります。フラット・キャラクターに徹し切れていないので、こう、お腹の底から「ワルイやっちゃな~」と感嘆(?)させられ、その無残な死にざまに拍手喝采、という具合には行かないんですよ。デイヴィッド・ウェナムがすぐれた役者であることは十分承知していますが、その演技力が寧ろ裏目に出たと言うべきかも知れません。

ところで、この役の画像として最初に流出したのは本編後半部のものだったので、当初フレッチャーを「紳士的悪役」かと思っていましたが、とんだ成り上がり男だったんですね。でも、元からそういう階級である前述イーデン・フレッチャーとちゃんと演じ分けているのはさすがだと思いました。
それにしても、旦那はあんなヤツなのに、奥さん(キング・カーニー令嬢)がおっとりと優しい人だったのが、ちょっと意外でした。サラも(旦那はともかく)彼女とは仲良かったみたいだし、財産目当てと言いながら、フレッチャーもそういう部分に救われていたのかも知れませんね。

★映画『オーストラリア』その他の感想★
オズの国の偉大なるペテン師
夢の男
オージー・オールスターズ

さて、ここで書くことが適切かどうか判りませんが、この David Wenham という名前の日本語表記について。
日本では映画公式や雑誌等の各媒体でも「ウェンハム」とされることが多いですが、正しくは「ウェナム」であると思われます。
それでも、2007年公開の『300<スリーハンドレッド>』や2008年の『あぁ、結婚生活』では「ウェナム」になっていましたが、このたびの『オーストラリア』で再び「ウェンハム」に戻ってしまったと、一部同好のかたがたを嘆かせました。
英語を片仮名表記にする場合、多少の揺れがあるのはやむを得ない面もあり、ジェフリー・ラッシュ共演の『悪魔大臣』ビデオでは「ウィナム」表記だったと記憶しています。
映画雑誌では『スクリーン』が一貫して「ウェナム」を採っていますが、同誌は「ケヴィン・コストナー」「ヒース・レッジャー」「マシュー・マコナヘー」等の独自過ぎる表記でも知られているので、その類いと思われる可能性なきにしもあらずです。

この問題に関心を持たれたかたは、白丸さん主催「ウェナム」表記普及委員会までお運び下さい。DWファンのかたのサイトやブログで、青く四角いバナーをご覧になったかたも多いと思います。

と、ここまで書いておいて何ですが──現在の私は、この問題をそれほど厳密に考えてはいません。
私自身は彼の名前を「デイヴィッド・ウェナム」と表記するし、公式でくらい統一してほしいと思ってはいますが、他の人や、彼のファンでもない映画ファンの皆さんにまで強制または「啓蒙」する意図はありません。
「できる限り正確に片仮名表記せよ」ということであれば、名前のほうも「デイヴィッド」で統一するよう求めるべきだし、より厳密に「オーストラリアでの」発音通り表記するなら、「ダァイヴィッド」となるべきでしょう。『ヴァン・ヘルシング』の頃、ヒュー・ジャックマンが明確にこう発音しているのを聞いたときは、けっこう衝撃でした(笑)。

「正しい表記」を求めるなら、たとえばマギー&ジェイク・ギレンホール姉弟の姓は「ジレンホール」だし、ユマ・サーマンの名前は「ウマ」です(これについては、彼女自身が「ユマ」表記を認めていますが)。
「ジェラルド・バトラー」だって「ジェラード」であるべきだし、「原音通り」の表記にこだわるなら、彼の愛称「ジェリー」も正しくは「ヂェリー」でしょう。

という中で、「ウェナム」だけを殊更に推奨する理由は見当たらないし、そう表記することが「ファン度」を測る物差しや圧力装置となってしまうことには疑問を呈さざるを得ません。そういった無用な混乱を避けるためにも、公式では統一をお願いしたい、という方向であれば賛同できるのですが……

そのようなわけで、現在の私自身のスタンスは、「自分は『デイヴィッド・ウェナム』と表記する」というだけのことであり、それ以上もそれ以外もないと、この機会に表明しておきます。

コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ヒューヒュー!・523 アカデ... | トップ | ヒュー&デイヴィッド・39 ... »
最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ウェナム万歳 (くまんちゅう)
2009-03-14 23:15:44
TBどうもでした
記事が沢山なので、こちらへコメントしておきます

この映画は殆どウェナム氏を見に行ったようなものですが、
最初のフレッチャーさんの愛人の名前が「デイジー」という所から大受けしたました、スミマセン・・・
珍しく正装している舞踏会の場面とかに驚いてました、映画祭でもそのカッコしろよ!とか突っ込みいれたい位でした
そのあと美味しい所をヒューに持っていかれてヘタレてるのもウケましたけど
最後までブレない悪役振りを堪能いたしました
3番目にクレジットされている割には予告編に出てこないし、公式サイトの扱いも低くて残念でした
返信する
悪役 (レイチェル)
2009-03-21 01:33:58
くまんちゅうさん、コメントありがとうございます。
ウェナム氏の演技については、やはり何とも言えない違和感を持ってしまいます。彼だけ違う映画から来た人みたいと言うか。もちろん巧いことは確かなのですが……

あの「デイジー」は、やっぱりわざとですよね(笑)。
返信する
半端な悪役 (rukkia)
2009-03-30 14:09:04
やっと見ました~。
あら、Qさんから見てもなんかしっくりこない悪役でしたか。
演技力じゃなくて設定の問題かと思うんですがね。
彼が土地に執着する理由はわかったんですが、なんだかなー、でした。

すみません、うちは各種映画情報と同じ記述「ウェンハム」のままです(^^;
映画情報媒体では統一してほしいですね。
返信する
悪役・2 (Qまたはレイチェル)
2009-04-03 21:44:25
rukkiaさん、コメントとTBありがとうございました。
オーストラリアでは移民の中にも様々な階級があるようだし、アシュレイ卿やサラに到ってはオーストラリア人でさえなくて英国貴族だし、代々「使用人」だったフレッチャーとしてはいろいろ思うところもあったのだろう、と推察はできますが、そのへんがあまり伝わってこなかったですね。
『ジャイアンツ』のジェット・リンクなどは、そういうところもちゃんと描かれていたのですが……

「ウェンハム」は指輪の時の表記がそのまま踏襲されているのかも知れません。まあ、できればオフィシャルでは統一してほしいと思いますが、なかなか難しいもたいです。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

HJ&DW・映画『オーストラリア』」カテゴリの最新記事