平成25年6月27日
独立行政法人日本原子力研究開発機構
新たに開発した航空機モニタリング解析手法を用いて福島第一原子力発電所事故により放出されたヨウ素131の地表面沈着量を導出
-米国エネルギー省が事故後初期に測定した結果を日米共同研究により解析-
【ポイント】
- 独立行政法人日本原子力研究開発機構と米国エネルギー省(DOE)は、共同研究によりスペクトル解析を用いた新たな航空機モニタリングの解析手法を開発した。
- 新手法を用いて、DOEが実施した事故後初期に測定した航空機モニタリング結果からエネルギー情報を抽出し、初めてヨウ素131の地表面沈着量を解析し、地図上に“面”で示した。
- 航空機モニタリングの測定結果は、その後、地上で測定された“点”のデータと符合している。
独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 松浦祥次郎、以下「原子力機構」という)は、文部科学省原子力災害対策支援本部(当時)の依頼を受け、米国エネルギー省(以下、「DOE」という。)が早い段階(平成23年3月17日~同年4月5日)で実施した航空機モニタリングの測定結果をDOEから入手し、スペクトルの解析を行った。測定結果の中に、ヨウ素131(半減期:8日)を示すエネルギーのピーク(365keV)が検出されるものがあったことから、原子力機構はDOEと共同でヨウ素131の地表面沈着量を解析する手法を開発し、ヨウ素131の地表面沈着量の分布を求めマップ化した。
本解析手法は初めての試みであることから、その後の航空機モニタリングでも検出されている半減期の長いセシウム134(半減期:2年)についても同様の手法を適用し、文部科学省原子力災害対策支援本部(当時)が実施したヨウ素131とセシウム134の土壌試料の測定結果(同年6月14日)と、その後の航空機モニタリング(同年7月2日)によるセシウム134の沈着量分布との比較を行った。その結果、両方の測定結果とも、今回新たな手法を用いて解析した結果に半減期補正したものと良く一致していることから、事故後早い段階でのヨウ素131の地表面沈着量分布が明らかとなり、初めてヨウ素131の“面”的な分布図(マップ)が得られたと判断した。
本解析の結果、放射性セシウム(セシウム134、137)と同様に東京電力株式会社福島第一原子力発電所(以下「福島第一原子力発電所」という。)の北西方向に高い濃度のヨウ素131の沈着が認められた。また、同発電所付近ではヨウ素131が南側にも広がっている傾向が見られた。
本解析で得られた結果は、米国保健物理学会誌Health Physics 8月号に掲載され、同誌ON-LINE版でも発表される(米国時間で平成25年6月26日予定)。
(http://journals.lww.com/health-physics/pages/currenttoc.aspx)
http://www.jaea.go.jp/02/press2013/p13062701/index.html
[研究の背景]
福島第一原子力発電所の事故により、放射性物質が広い範囲にわたって拡散した。事故後、DOEは平成23年3月17日から同年4月5日まで航空機モニタリングを実施した。文部科学省は4月6日からDOEと共同で第1次航空機モニタリング(~80km圏)、第2次航空機モニタリング(80~100km圏、一部120kmまで)を行った後、第3次(~80km圏)航空機モニタリングからは文部科学省が単独で行っていた(原子力機構は第3次航空機モニタリングから参加)。
通常の放射性物質の沈着量の解析評価は、航空機に搭載している大型NaIシンチレーション検出器の信号(検出器に入射した放射線の計数率)の全計数率から評価する手法(GC法)により、航空機の飛行高度による放射線計数率の減弱割合を用いて地上高さ1mでの空間線量率を逆算し、その値に地上での放射性セシウムの測定結果から算出した換算係数を掛けることによって、放射性セシウムの沈着量を求めてきた*1。このため、地上での測定結果がなければ個々の核種を同定できず、また、ヨウ素131やセシウム134、137などの複数の放射性物質(核種)が存在し、その割合が場所により異なる場合は、核種別の沈着量の評価が困難であった。
一方、同年11月に文部科学省原子力災害対策支援本部(当時)から依頼を受けた原子力機構は、DOEからデータの提供を受けるとともに、スペクトルデータから地表面沈着量を解析する新たな手法の開発研究をDOEと共同で行った。しかしながら、ごく初期の測定結果は機体への放射性物質の付着による影響や他の核種(放射性セシウム等)が放出するγ線の大気中での散乱による影響が無視できず、地表面沈着量の評価が課題であった。
[研究内容と成果]
今回、ヨウ素131のエネルギー・ピーク(365keV)が検出でき、面的な分布が評価できる平成23年4月2日と3日に実施した3回のフライト測定(図1)に着目し、測定データの中にわずかに含まれるヨウ素131のピークを抽出し、ガンマ線の挙動をシミュレーションするモンテカルロ計算法を用いてヨウ素131に対する検出器の感度特性や地表面から上空に届くまでの減弱量を求める手法を開発し、地表面の沈着量を解析した。
測定が終了した4月3日時点で評価したヨウ素131の沈着量の解析結果を図2に示す。また、セシウム134についても、ヨウ素131の解析と同様の手法を用いて解析を行っている*2。
本手法の妥当性を検証するため、文部科学省原子力災害対策支援本部(当時)が実施した土壌データ(同年6月14日)と今回の解析結果を半減期補正して比較した。その結果、地上で測定したヨウ素131、セシウム134の沈着量は本航空機モニタリングの結果とよく一致していることが確認された(図3)。また、ヨウ素131に比べて半減期が長いセシウム134については、第3次航空機モニタリングの結果(同年7月2日)と比較した。第3次モニタリングは、今回使った解析手法と異なり、GC法を用いているが、第3次航空機モニタリングが終了した同年7月2日時点に半減期補正して比較した結果、両者は高い相関が認められた。これらの結果から、本手法のヨウ素131の地表面沈着量の解析が妥当と判断した。
*1 その後、原子力機構が文部科学省から受託した広域航空機モニタリング以降、天然核種の影響を取り除いたMMGC (Man-Made Gross Count) 法を採用している。
http://radioactivity.nsr.go.jp/ja/contents/6000/5847/view.html
*2 航空機モニタリング等で用いられているNaIシンチレーション検出器で放射性セシウムを測定するとき、セシウム134は他の核種の影響を受けないピーク (796keV) を持つが、セシウム137は662keVのピークが、セシウム134の605keVと重なる部分があるため、セシウム134を評価した後にセシウム134の寄与分を差し引いて求める必要がある。このため、引き算による誤差を生じることからセシウム134のみを解析した。