由利の顔を見ると、頬がほんのりと赤くなっているようだった。そんな感じの由利を見るのは、初めてだな。もう長い知り合い、小学校からの幼馴染《おさななじみ》なのに。
「ね、ねぇ。どうするの? するの? 接吻《キス》」
由利が断ると思っていたけど、僕に判断を委ねるなんて。ドキドキする気持ちで由利の唇を見つめた。ああ、柔らかそうな唇だ。
「まかせるよ」
そう答えて僕は、空を見上げた。心を落ち着かせるために。そうしたのは、身体の主砲が発射のための変形《トランスフォーム》を始める事を恐れたからだ。接吻《キス》する問題なのに、突入攻撃《ダイエロスアタック》を妄想する自分が恥ずかしい。
「まかせるって何? 男でしょう。なんか白けたよ」
「え?」
急に冷めた感じの由利の豹変に驚いてしまった。安心した気持ちと、少し残念な気持ちが入り乱れて、声を出して呆然《ぼうぜん》となってしまった。
「どうやら恋人同士と言うのは、嘘だったようだな!」
業を煮やして、後利主将が叫んだ声が、僕を我に返さす。や、やばいな。犬養と猿田を目で探す。いつの間にか遠くの方に立っているじゃないか? もしかして、接吻《キス》すると思って、気を使ったのかよ……。
「蓮輔、どうしよう」
再び由利が僕に寄り添ったが、もう甘い雰囲気なんかならないよ。
そして、僕と由利は、後利主将と禅虎高校バスケ部の巨人達に取り囲まれてしまったのであった。