下記の記事は東洋経済様のホームページからお借りして紹介します。(コピー)です。
「加工食品が体によくない」という認識は広く一般的ですが、加工食品をしのぐ「超加工食品」の存在をご存じでしょうか? そして日々「工業製品」を口にしているとしたら? 栄養生態学の分野で30年以上研究を続けるシドニー大学教授のデイヴィッド・ローベンハイマー氏が、「破壊された現代の食環境」と形容する現状に警鐘を鳴らします。
「肉・魚・卵・乳製品をあまり食べてない人の超盲点」(2021年12月29日配信)に続いて、デイヴィッド・ローベンハイマー氏著『科学者たちが語る食欲』から抜粋・再編集してお届けします。
人類は技術という武器を食品に持ち込み、品種や収穫時期、そして味覚や保存期間を操作してきた。人類にはどんな食環境でも生み出せる力がある。それなのに、なぜこれほど不健康な栄養、病気、死、そして環境劣化を生み出してしまったのか?
サンパウロ大学の公衆衛生栄養学の第一人者カルロス・モンテイロ氏が様々な種類の食品と肥満との関係を世界中で調べたところ、「超加工食品」と呼ばれる分類の食品の摂取量が増えると肥満が増えるパターンが見つかった。肥満が増えるほど、糖尿病や心疾患、脳卒中、がん、そして早死が増えるのは周知の通り。
私たちは、「超加工食品」がほかの種類の加工食品とどう違うのかを理解する必要がある。
ただの「加工食品」とはまったく違う
一口に加工食品といっても、何の危険性もなくむしろ健康によいものもある。
そこでカルロス氏らは食品を加工のレベルに応じて分類し、健康を脅かす加工食品を特定するための方式「NOVAシステム」を開発した。NOVAシステムは、食品を加工の性質によって次の4つに分類している。
グループ①:食品の長期保存・簡易調理のための加工 その1つ目、NOVAグループ①は、非加工食品と、栄養組成をほとんど変化させない単純な方法――乾燥、粉砕、焙煎、煮沸、低温殺菌、真空パックなど――で加工された食品である。
グループ①の加工の主な目的は、食品の寿命を延ばして保存性を高めることや、調理を簡易化することにある。この分類の食品の例には、低温殺菌牛乳、粉乳、冷凍・缶詰野菜、無塩のナッツ、乾燥豆などがある。
グループ②下ごしらえ、風味づけのための加工 NOVAグループ②は、グループ①のようなホールフードを含まず、食品の下ごしらえや調理、風味づけに使われる食材である。バターやオイルなどの油脂類、メープルシロップなどの砂糖、塩などが含まれる。
これらの食材は、主に精製、抽出、圧搾、また塩の場合は採取、蒸発などの機械的加工によって製造される。
グループ③缶詰、瓶詰め NOVAグループ③は、加工食品だが「超」のラベルには相当しない。これらは瓶詰めや缶詰、場合によっては発酵などの保存技術を用いて、グループ①の非加工・最小加工食品に、グループ②の食材(脂肪、糖、塩)を加えて製造される。
グループ③の加工の主な目的は、グループ①の食品の品質保存期間を延ばし、嗜好性(おいしさ)を高めることにある。このグループの食品の例には、缶詰・瓶詰めの豆や野菜、果物、缶詰の魚、塩または砂糖で味つけされたナッツ、塩漬け肉・乾燥肉・燻製肉、伝統的な製法で作られたチーズやパンなどがある。
人類が昔からしてきた「いい加工」
グループ①②③に挙げられてきた加工法は新しいものではない。なかには人類が出現する前の時代、今から数千万年前にまでさかのぼる方法もある。人類の遠い親戚のヒゲオマキザルは、NOVAグループ①の加工を行う。石器を使って、食用でなかった木の実の殻を取り除くのだ。
人類が数千年前にオリーブオイルの抽出やチーズの製造、ベーコンの塩漬けを行った証拠も見つかっているし、イスラエルの洞窟では1万3000年前にビールの醸造が行われていた証拠も発見されている。
人間が農業が始まるずっと前から、非常に長い間にわたって食品を加工してきたのは明らかだ。このため、NOVAの最初の3区分は、現代の栄養的災難を引き起こした原因とは考えにくい。
ここで登場するのが、NOVAグループ④の超加工食品である。
NOVAグループ④の食品が利用されるようになったのはごく最近のこと、繊維から鉄、蒸気エンジン、自動車にいたるあらゆるものの製造を機械化する大規模産業が発展して以来である。
それでは、NOVAグループ④の超加工食品とは、どういうものをいうのだろう? 先に述べた加工食品と何が違うのだろうか?
グループ④:ペンキやシャンプーと同じ「工業製品」 工業的製法で広範な加工が行われるため、ときには食品と見なされず、「超加工製品」と呼ばれることさえある食品だ。ペンキやシャンプーと同じ工業製品だが、消費者の装飾的な美学や衛生観念にではなく、味覚に訴えるよう設計されている。
一般に超加工食品の製造は、大規模な機械によってホールフードをデンプン、糖、脂肪、油、タンパク質、食物繊維などの成分に分解するところから始まる。原材料となるのは、主に工業生産された高収量作物(トウモロコシ、大豆、小麦、サトウキビ、テンサイなど)や、集約的に生産された畜肉の挽肉やすり身である。
続いて加水分解(化学分解の一形態)や水素化(水素原子の付加)などの化学的修飾を施されてから、ほかの物質と組み合わされることもある。またその過程で、さらに工業加工(前揚げ、押し出し、成形など)されたり、また品質保持期間を延ばし、食感や風味、匂い、外観を変えるために、化学添加物を配合されることもある。こうした添加物の多くが農産物由来ではなく、石油などの産業に由来する化学物質である。
石油とシャンプー、ペンキ、超加工食品の共通の関心事は、人間の食事をよくすることとは何の関係もなく、むしろ製品をより効率的に製造したり、消費者への訴求を高めたりすることにある。
大量生産された市販のアイスクリームの製造に一般的に使用される原材料を見てみよう。
石けんや合成洗剤、合成樹皮、香水にも使われる「酢酸ベンジル」。染料やプラスチック、ゴムにも使われる「C-17アルデヒド」。燃料ガスのブタン由来で、医薬品や殺虫剤、香水にも用いられる「ブチルアルデヒド」。一昔前、病院でアタマジラミの駆除に使われていた「ピペロナール」。糊やマニキュアリムーバーにも使われる「酢酸エチル」。リストはまだまだ続く。
アイスクリームはこうした原材料を含む超加工食品の1品目でしかない。キャンディやチョコレート、ピザ、朝食用シリアル、サラダドレッシング、マヨネーズ、ケチャップなどなど、多すぎてここには掲載しきれないほどの品目があるのだ。
ラベルでは「合成香料」とのみ表示
2018年にオーストラリアで販売されていた加工食品の61%が、NOVAグループ④に該当した。また、2016年に新しく発売された食品・飲料製品の数は2万1435品にのぼったが、これらのほとんどが超加工食品であることも判明した。
私たちが体内に送り込んでいる奇妙な化学物質のカクテルがどんなものか、想像できるだろうか?
たとえば2018年10月にアメリカ食品医薬品局(FDA)は、動物実験で発がん性の証拠が得られたとして、超加工食品に合成香料として使われていた複数の添加物の使用を禁じた。そのうちの1つ、「ベンゾフェノン」については、食品と直接接触するゴムの製造に使用することさえ禁じられたのだが、あなたがこの記事を読んでいる今も、大手を振って食品に使われている可能性がある。なぜならFDAの決定後2年間は、使用が認められるからだ。だがどの食品に使われているか知るすべはない。食品メーカーには、ラベルに「合成香料」以上の詳細を表示する義務はないからだ。
化学物質のカクテルには嗜好性がある。食べればなんども食べたくなる仕掛けが、この工業製品には化学的にほどこされている。
目の前にあると食べてしまうから、家の中に持ち込まないのがいちばんだ。
『科学者たちが語る食欲』(サンマーク出版)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら
しかしラベル上でベールに包まれているかもしれない食品を見分ける方法はあるだろうか? 冒頭のカルロス氏は指針を示す。
「超加工食品を見分ける実用的な方法としては、NOVA超加工食品群に特徴的な成分が少なくとも1種類以上、原材料のリストに含まれているかどうかを調べるといい。つまり、キッチンで決して、またはめったに使われない食品成分(合成香料や高果糖コーンシロップなど)があればアウトである」
スーパーできれいに包装されたパッケージを手に取るとき、「工業製品も混じっている」ことを思い出していただきたい。そして、できることならホールフード(加工がほどこされていない、自然の形そのままの食材)を食べるのがベストなことも書き添えておく。
デイヴィッド・ローベンハイマー : シドニー大学生命環境科学部栄養生態学教授、チャールズ・パーキンス・センター栄養研究リーダー
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます