天と地と…初戦にして、あの完成度の高さ。
演技が始まった 途端、吸い込まれるように惹き込まれる
全体が清浄な空気に包まれ清らかな風が吹いてくる…
衣装の青が一層その空気を澄み渡らせる。
舞うその姿は「麗しい」というその一言に尽きる
これが10か月ぶりの初戦か…? と思う。
だが、羽生選手らしいというか
そこには緻密に計算しつくされた信念が随所に見えてくる。
羽生選手がかつて「SEIMEI」を作り上げたとき
日本独自の和のプログラムを完成させたときと似たような
観ていて満足感というか充実感を味わうことが出来る。
更に、このプログラムの根底には断固とした精神的な強さを感じる。
沙羅双樹の花の中を飛び交う瑞鳥の
その背中の何と頼もしく雄々しいことか
今、まさしく無敵のフィギュアスケーターを目の当たりにしている。
コーチのいない全日本だったが
そんなのどこ吹く風といったリラックスした様子が見て取れる。
まさしく自然体である。
この表情から察するに羽生選手はむしろこの逆境を思いの外楽しんだのではないかとさえ思う。
元々高い壁を乗り越えることが好きだし、逆境ヤッホーイの人間だ。
「ユヅは何を考えているのか分からない」「もうユヅに教えることは何もない」
などと言っていたのはブライアン・オーサーコーチだ。
そういう状況では羽生選手は一人でやるしかなかったのだろう。
独自の練習方法を編み出し集中できる方法を考案しながらやるのは案外、羽生選手の頭脳プレイで得意分野なのかもしれないと思う。
これまでもそういったやり方でやってきた形跡があり、オーサーは羽生選手のやり方をクリケの他の選手に応用していた。
しかし、そのやり方が他の選手にも通用するかと言えば、そんなことはなく恐らく、練習につけても羽生選手は「別次元」だと思うから、周りの人間は見て出来る範囲で真似するしかない。
そんな大人数の中で羽生選手のレベルで、あのスピードでの練習は可能だろうか? それを考えると思うように練習はできなかっただろうし集中できるわけがない。
その点、日本での練習は羽生選手の思い通りにできたのかもしれないと思う。一人での練習は幸か不幸か真夜中には最適だったのかもしれない。
今回は振付師とのリモートについてもうまくいかず、殆どが羽生選手自身が振りつけたということらしいが、もしかすると羽生選手の新たな才能が花ひらく切っ掛けになったのではないかとさえ思う。
その振り付けは素晴らし過ぎて、思いの外かっこよく麗しく仕上がっている。無駄が一切なくスケーティングが音楽を奏で手や身振りが伴奏として絶妙に合致している。
羽生選手の思い通りというか、公式練習と試合本番との映像の動きが寸分違わぬところを見ると、これは相当に計算しつくされた精密なプログラムだということが分かる。
振り付けと音楽との一致性が凄い、ジャンプまでもが音楽と一致している。これは羽生選手の本領が発揮されたとしか言いようがない。
このようなことは羽生選手の為せる業なのかもしれない。しかし、私は以前から気になっていたことがある。
振付師のシェイ=リーン・ボーンは主に羽生選手のフリープログラムを担っているが、最近では物凄く多くの選手からのオファーが殺到している現状を見ると、羽生選手の振り付けに振り向ける時間が十分にあるのだろうかと思う。
そして今シーズンからネイサン・チェン選手側の専属?になったらしく、ネイサンの今期のフリーの衣装はシェイが自分の衣装を着せたということで話題になった。
ちなみにシェイは、振付師になりたての頃、荒川副会長がオファーをくれたことに恩義があるらしく、今でも荒川主催のアイスショーには呼ばれるという。
推測だが、もしも荒川の伝手でオファーが殺到したのであれば、これは取り込まれたとしても、しょうがないよね…と思う。でも羽生選手の振り付けをしたことで一躍有名になったのも確かであろう。
ジェフリー・バトルが途中でショートプログラムの振り付けを放棄して羽生選手に丸投げしたのも偶然の出来事かもしれない。
この新しい二つのプログラムの殆どを羽生選手が手掛けることになったのも偶然なことなのかもしれない。
コロナ禍、プレ五輪シーズンとくれば…。あまりにも偶然が重なり過ぎではないのかと邪推もしたくなる。
更新されたBIOには
”Hanyu has contributed significantly to the choreography of his programs in the 2020/21 season.”
『羽生は2020/21シーズンのプログラムの振り付けに大きく貢献している。』
と記されている。