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かけがえのない家族の一員として、動物との暮らしを楽しんでいるARIA世代の女性は多いはず。物言わぬ彼らですが、時に心を幸せな気持ちで満たし、時に沈む気持ちにそっと寄り添ってくれます。「この子のためなら何でもする!」とまで思わせる存在かもしれません。人生に豊かな彩りを運んでくる最愛のパートナーとの物語を紹介します。
第22回 志田周子さんと、アリスちゃん
「アリス、今日は女優魂、すごいね!」。カメラを向けるとぴたっとポーズを決める愛犬に、志田周子(のりこ)さんは驚きの声をあげます。「確かに、今日は機嫌がいいよね」と、隣で応じるのは、夫の文毅(ふみたか)さん。アリスちゃんは推定11歳のミニチュアシュナウザー。高齢のため膵臓(すいぞう)と心臓が悪く、毎日の服薬と月に1回、病院での血液検査が欠かせません。それだけに、元気な姿を見せてくれるのが家族としては何よりうれしい。そんな二人の思いが伝わってきます。
北海道からフェリーに乗って東京へお引っ越し
都内で夫と大学3年生の長男、2年生の次男と暮らしている志田さん。結婚以来、子育て中心の生活をしてきましたが、息子たちの手が離れ、本格的な仕事再開に向けて今年の春から大学のリカレント教育課程を受講しています。ところが、コロナ禍で授業はすべてオンラインに変更、同級生にも一度も会えていません。「でも、これからは仕事もリモートでやりとりする場面が増えていくだろうから、オンライン授業はZoomに慣れるいい機会になりました。あと、春ごろアリスが一時ほとんど食べなくなってしまったりしたので、家で一緒にいられるのも結果的にはよかったです。ただ、どんどん甘えん坊になってしまいましたが……」
アリスちゃんと志田さんは2019年の秋、北海道からフェリーに乗って、はるばる東京までやってきました。というのも、志田さんは単身赴任の夫と離れ、息子たちと長く札幌で暮らしていたのです。息子が二人とも東京の大学に通うようになったのを機に札幌の住まいを手放し、東京で久しぶりに家族全員がそろう新生活が始まりました。
初対面からうれしそうに「だっこして」
国家公務員の文毅さんは全国転勤があり、そのたびに住まいを移していた志田さんたち家族が札幌に引っ越したのは2008年。11年に文毅さんは東京へ転勤することになりますが、「当時は長男が中学に入学したばかり。子どもたちの希望も尊重して、2歳下の次男が高校を卒業するまで私たち3人は札幌に残ることを決めました」。
それまではずっと公務員宿舎暮らしでしたが、当面札幌に腰を落ち着けることを決めたので、初めて中古のマンションを購入。志田さんにとって念願だった、犬を飼うことができるペット可の物件でした。「飼うなら保護犬をというのは前から考えていました。この年は東日本大震災があったので、最初は飼い主と離れ離れになってしまった犬を引き取ろうかなと思っていたんです」と志田さん。しかし保護団体のホームページを見ていて目に留まったのが、道内で保護された推定2歳のアリスちゃんでした。
「私は犬種とかに全然詳しくなくて、単純にマンションの規約にも合う大きさの子だし、いいかも? と思って会いに行きました。そうしたら、初対面からアリスはうれしそうにぴょんぴょん跳ねて『だっこして、だっこして』と私のところに寄って来たんです。保護犬でそういうことってあんまりないらしくて、保護団体の方も『あら、珍しいわね』って驚いていました」
出会って早々、アリスちゃんに心をつかまれてしまった志田さんでしたが、そのときはまだマンションの本契約が済んでいなかったため、一旦は帰ることに。「その日から毎日、ケータイで撮影したアリスの写真を見ては『待っててね』って話しかけていました」
アリスちゃんはもともと、石狩の雑木林で同じ犬種の別の2匹と一緒にいたところを保護団体のスタッフに保護されました。当時妊娠していて、おそらく遺棄された繁殖犬ということでした。つらい経験の末、志田さんのもとにやってきたアリスちゃんでしたが「本当にお利口でかわいくて。こんなにいい子、私がもらっていいんですか? っていう感じでした」と志田さん。ただ、一つだけ気になることがありました。「おしっこは1日に1回だけ、それも我慢していたかのように大量にするんです。体によくないからいつでもしていいんだよ、って言っても変わらない。うんちもなかなかしないと思ったら、長男の部屋で隠れてしていました。
困ったなと思いつつ、あんまり怒るとかわいそうなのでこちらにも遠慮があって。でもあるとき、車で一緒に出掛けた帰りに助手席でおしっこをしたことがあって、そのときは私も子どもに言うのと同じように、大きな声で叱ってしまったんです」
ところがそれを境に、アリスちゃんはおしっこもうんちも問題なくトイレでするようになりました。「この話を保護団体の人にしたら、『試していたのかもね』って。保護犬って、そういうことがあるみたいですね」
次男のサッカー観戦で一緒に道内を旅する日々
志田さんが北海道で過ごした時間で思い出深いのは、アリスちゃんと道内各地を旅したことだといいます。「次男はずっとサッカーをやっていて、週末は道内各地で試合があるんですね。そのたびに、アリスを車に乗せて試合観戦に出掛けました。例えば帯広で試合があるときは、札幌から3時間半の『ふたり旅』。サッカー仲間のお母さんたちの間でもアリスはおなじみで、『アリスちゃん来たのー?』って声を掛けてくれるんです。
高校3年生のときの道大会もアリスと一緒に応援に行って、息子の学校が11年ぶりに全国大会出場を決めたんですよ。そのときもみんな『アリスのおかげだよ』なんて言ってくれて。うれしかったですね」
コマイをつまみに連日、涙の晩酌
サッカー観戦では、アリスちゃんの存在に救われたところが大きかったといいます。
「次男のポジションはゴールキーパー。キーパーの親って皆さん同じことを言うんですけど、チームが失点するたびにどうしても責任を感じてしまうんです。私は試合のたびにプレッシャーでおなかを壊していました。そんなときにアリスがそばにいてくれると、じわーっと心があったかくなるんです」
息子さんたちにとってもアリスちゃんはかわいい妹のような存在。長男は高校卒業後に上京し、文毅さんと一緒に暮らしながら1年間の浪人生活を送りますが、「アリスに会えない寂しさを紛らわすために、近所の野良猫を見に行ったりしていたらしいです」と志田さん。2019年の4月には次男も大学進学で上京し、9月に東京へ引っ越すまでの約半年間、北海道でアリスちゃんと二人きりになりました。
「もうね、子育てが終わった喪失感があまりに大きくて、毎日泣いていたんですよ。北海道ではコマイっていうシシャモみたいな魚がとれるんですけど、それをつまみに毎日ひとりで晩酌して、子どもたちの写真を見たり、次男のサッカーのDVDを見たりしてはうわーんって。それを横でアリスは全部見ていました。いてくれて本当によかったです。あのときさんざん泣いたので、今はスッキリしちゃいました(笑)」
子育てやパートに追われていた時期を終えて少し精神的に余裕が出てきたという志田さんには今、ある思いが芽生えています。
「夫はとにかく多忙だったので、転勤に合わせて引っ越しを繰り返す中で、私の育児はずっと知らない土地でのワンオペでした。頼れる人もおらず、一歩間違ったら虐待していたかもと思うようなこともありました。リカレント講座を修了したら仕事とは別に、あの頃の自分みたいに苦しんでいる若いお母さんたちを支えるような活動もできたらと思っています」
「考えてみると、それまで病気一つしなかったアリスの具合が悪くなったのは、次男が東京へ行くことになったとき。アリスも母親のように息子たちを見守ってきて、もう大丈夫って気が抜けたのかもしれませんね」
アリスちゃんのごちそう【犬用ビスケットときゅうり】
出会った当初から歯が弱かったアリスちゃんは高齢になった今、歯が数本しかありません。それでも喜んで食べるのが、「ペッツバリュー オリゴビスケット」。もともとはしつけでおしっこをした後にご褒美であげていたため、今もトイレの後は「ちょうだい」とおねだりしてくるそうです。大好きなきゅうりも食べやすいよう細く切ってあげています。「最近は甘えて、こうやって手からあげないと食べないんですよ。私は厳しいので『食べないなら捨てるよ』なんて言っちゃうんですが(笑)、やっぱり食べないと心配なので、ついこうして食べさせてあげちゃいますね」
取材・文/谷口絵美(日経ARIA編集部)
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