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「イベルメクチン」治験でも日本は後進国か ノーベル賞・大村教授が講演で有効性を解説

2021-05-31 15:30:00 | 日記

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優先接種はけしからん! どうにも予約が取れない! パニック状態の「ワクチン後進国」ニッポン。ならば、せめて治療薬が手に入れば心強いが、その効用についても百家争鳴で……。「イベルメクチン」を巡る世界の動きと、ここでも混迷する我が国の現状ルポ。
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 トレードマークの黒い茶人帽をかぶったその人物は、マイクに向かい明快な口調でこう語った。
「オーストラリアで研究をされている先生から(昨年の)3月ごろ、イベルメクチンは新型コロナウイルスの治療に使えるよっていう手紙を頂いたんです。効果があるなんて話はまだ世に出ていない時でした」
 今月8日、パシフィコ横浜で開かれた日本感染症学会の学術講演会。広々としたホールの壇上に立つ声の主は、2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智・北里大学特別栄誉教授(85)で、「古くて新しいイベルメクチン物語」という演題で講演していた。
「生みの親」の大村教授(他の写真を見る)
 イベルメクチンは、大村博士の研究を基に開発された抗寄生虫薬で、熱帯の河川域で発生する「オンコセルカ症」(河川盲目症)などの発症予防のため、これまで30年以上、アフリカや中南米で計37億回が投与された。現在は新型コロナウイルスの予防や治療にも効果があると期待され、32カ国で105件の臨床試験が行われているという。
「一つの薬に対してこんなに多くの国や研究機関で臨床試験が一気に行われるのは、かつてない話です。規制当局は『治験の数が少ないからエビデンスとしては十分ではない』と主張していますが、私は必ずしもそうではないと思います」
 そう力説する大村博士が引用した、米国の医師団「新型コロナ救命治療最前線同盟」(FLCCC)の論文によると、臨床試験の対象患者約1万5400人にメタ分析が行われた結果、早期治療では82%、後期治療では51%、発症予防では87%の改善が認められた。
 このほか大村博士は、エジプトやペルー、ポルトガルをはじめ各国で行われた臨床試験や普及の結果を紹介し、イベルメクチンの有効性を訴えた。講演終了後、司会を務めた感染症の専門医はこう締めくくった。
イベルメクチン(他の写真を見る)
「イベルメクチンは世界中で使われ、現在、大変な状況に置かれたインドでも国を挙げて使うことになりました。一方の日本はどうでしょうか。ただいま第4波の真っ最中。今までのようにのんびり治験をやっている場合ではありません。大村先生が開発した薬を使わず、お亡くなりになった患者さんには申し訳ない」
 日本国内でイベルメクチン論争が過熱している。その効用をめぐっては医学界でも意見が分かれ、治験も思うように進んでいない。同じアジアのフィリピンではドゥテルテ大統領自らが治験を指示し、先進国のドイツでも治験に向けた動きがみられる中、日本はワクチンだけでなく、治療薬でも「後進国」となるのか――。
 3月上旬、東京都医師会は記者会見を開き、海外で重症化を防ぐ効果が示されているとして、主に自宅療養のコロナ患者の重症化を防ぐ狙いでイベルメクチンの使用を提言した。
 一方、感染症専門医の忽那(くつな)賢志氏は2月末、ネット記事でこんな見解を示し、治療薬としての承認には疑義を呈している。
「私は『イベルメクチンが効かない』と言っているわけではありません。効くのかもしれませんし、むしろ効果が証明されてほしいと心から思っています。しかし、それを検証するためにはまだ十分なエビデンスがない、ということです」
 このほかの専門家からも「効くかもしれないし、効かないかもしれない」といった声が挙がっており、百家争鳴、「イベルメクチン騒動」が起きている。イベルメクチンは抗寄生虫薬としてすでに安全性が立証され、その上「効く可能性」もある。にもかかわらず、なぜ普及しないのか。
製薬会社が抱える「事情」
 背景にあるのは海外、特に先進国での評価だ。
 権威ある米医師会の医学誌「JAMA」は3月上旬、コロンビアで行われたイベルメクチンの研究論文を公表。軽症患者400人をランダムに二つのグループに分け、5日間連続でイベルメクチンを投与したグループ、プラセボ(偽薬)を投与したグループを比較した。この結果、コロナの症状が解消するまでの期間に二つのグループに統計的な有意差はなかったという。
 これに対して、米国の医学会に所属する医師174人(5月18日時点)が連名で、JAMAの論文には致命的な欠陥があるとする書簡を公開し、「このランダム化比較試験における評価項目が不適切に変更され、信ぴょう性を欠いている」などと批判した。
 JAMAと時期を同じくして、米食品医薬品局(FDA)や欧州医薬品庁(EMA)、世界保健機関(WHO)も立て続けに、「科学的根拠は極めて不確実」などとして、服用は臨床試験に限定するよう求めた。規制当局のこうした動きが、イベルメクチンの普及に歯止めを掛けているのだ。
 ただし日本では、医師の裁量で患者に処方できる「適応外使用」が認められている。
 日本国内で流通しているイベルメクチンの商品名は「ストロメクトール」と呼ばれるが、現在、品薄状態だ。実際、日本唯一の販売元、マルホ株式会社(大阪市)の広報担当者は、コロナの感染拡大に伴って注文が殺到したため、昨年4月から「出荷調整」していると認める。
 日本の製造元は、MSD製薬(東京都千代田区)で、親会社は米国の世界的な製薬企業、メルク社。前述の通り、これまでに約37億回分のイベルメクチンを供給してきた源だ。ところがこのメルク社も2月上旬、「科学的根拠はない」などと、自社製品の効果を否定する声明を発表した。親会社の意向に反することができないため、商品の「積極的な製造」を控えているのではないか。MSDの広報担当者は、製造状況についてこう説明した。
「新型コロナの医薬品としては承認されていないので、その患者に対しての製造はしてはいけない。あくまでイベルメクチンの使用が認められている疥癬(かいせん)、腸管糞線虫症の患者に継続的に提供できるよう、市場の需要をみて製造を続けている」
 メルク社はワクチンの開発を進めてきたが、今年1月に効果薄を理由に中止。他に二つの治療薬の開発も進めており、うち一つの開発にはバイオ医薬品企業を4億2500万ドル(約460億円)で買収した。しかしこれも4月半ばに中止が決まり、残る一つの経口薬の開発は継続中だ。こうした経緯を踏まえ、北里大学客員教授の八木澤守正氏(79)は指摘する。
「開発中止に伴う損失は、新しい治療薬の開発によって補填されます。経口薬はイベルメクチンと競合するので、後者を排除するため、その効果を否定する声明につながったのではないか」
 この疑問をMSDにぶつけると、こう否定した。
「科学的な根拠やエビデンスに基づき、イベルメクチンはコロナの治療薬として開発していないので、売り上げがどうとかは関係ない」
 一方で、製薬会社にとっては「新薬開発」こそが生命線なのもまた事実だろう。
 日本での「イベルメクチン不足」を尻目に、治験に関しては世界的にも動きが見られている。
 ドイツでは、国内最大の州である南部のバイエルン州を地盤とする中道右派与党「キリスト教社会同盟」(CSU)が4月下旬、イベルメクチンの臨床試験実施に向け、ドイツ政府に支援を要請する方針を示した。実現すれば先進国の取り組みとして他国に影響を及ぼす可能性もあるが、欧州医薬品庁は推奨していないため、CSUの運動がどこまで拡大するかは未知数だ。
 CSUの幹部は、イベルメクチンの臨床試験を推す理由としてこんなコメントを出している。
「ワクチン接種に加え、ウイルスに対する第2の壁が必要だ」
 ワクチン接種という「第1の壁」で出遅れている日本に、果たしてドイツのこの動きを無視する「余裕」はあるのだろうか。
フィリピンのドゥテルテ大統領(他の写真を見る)
 ドゥテルテ大統領の指示で治験が行われるフィリピンでは、科学技術省がすでに、2200万ペソ(約5千万円)の予算を計上した。医師主導型で、イベルメクチンを約1万人に配布する試みもみられ、予防効果が表れたという。
 フィリピンは日本と人口規模がほぼ同じ島国で、死亡者数は日本を上回るが、桁違いというわけではない。大統領の決断によるトップダウン方式でこのまま治験が進められ、医薬品として承認された場合、「政治力の差」が両国の明暗を分けるかもしれない。
「新興国のフィリピンと同列に語るな」
 そんな声も聞こえてきそうだが、国民にワクチンが行き渡らない現状では、高見の見物を決めこむことはできまい。
「できる防御はすべて」
 日本では北里大学が昨年9月、イベルメクチンを新たな治療薬として国の承認を得るため、治験に乗り出したが、厚労省の「お墨付き」を得られるのはまだ随分先になりそうだ。前出の八木澤氏が強調する。
「糖尿病やアルツハイマーなど周知の疾患に対する新規医薬品の審査には、長い時間がかかったとしても規制当局の先例に異論を唱える者は少ないだろうが、現在の世界的なパンデミックにおいて、そのような旧態依然とした審査方法では、有効で安全な治療薬の迅速な提供は難しい」
 つまりWHOや米当局が主張する「科学的根拠」は、新型コロナの感染拡大という緊急事態にそぐわないというのだ。従来通りの「悠長」なやり方でいいのかと。
 医療の現場に立つ医師からは現実的な声も聞かれる。ストレスケア日比谷クリニックの酒井和夫院長(69)は、自身でイベルメクチンを服用している。
「安全だし、効用については大いに期待している。日々、50人以上の患者と接しているので、できる防御はすべてしないといけない。ですが、手持ちのイベルメクチンはもう使い切り、問屋に問い合わせても『出荷調整中』と言われ、手に入りません」
いつ先手は打たれるのか(他の写真を見る)
 菅義偉首相は2月半ばの衆院予算委員会で、医師である立憲民主党の中島克仁議員から早期の承認を提言された際、「日本にとって極めて重要な治療薬と思っているので、最大限の努力をします」と前向きに答えた。
 全国民がワクチンを接種し終える時期は分かっていない。接種を受け付ける自治体は電話がパンクし、変異株の全国的な広がりに伴い、各地で医療崩壊が深刻化。特に大阪では死者数が急増してその数は東京を上回り、緊急事態宣言に対する国民の忍耐力も、昨年よりは遥かに落ちている。
 それでも尚、治療薬を承認するための「エビデンス」や「前例」はどこまで重視されるべきなのか。目の前で起きている現実を直視し、天秤に掛けるという「最大限の努力」もそろそろ求められる時期にきているのではないだろうか。
「賛成派」と「反対派」がせめぎ合い、「たかがひとつの薬」をめぐって停滞する社会。この状況こそが、「ワクチン後進国」と化した日本の脆弱性を映し出しているのかもしれない。
水谷竹秀(みずたにたけひで)
ノンフィクションライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒


「褒めて欲しい」「叱って欲しい」“普通の主婦”が「電話で悩みを聞く副業」で月収40万を超えるまで

2021-05-31 13:30:00 | 日記

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様変わりした「副業」事情
 たとえば、Webライターの副業は検索エンジン対策やオウンドメディアのノウハウがなければ、効率よく稼ぐことが難しくなっている。動画編集の副業も、YouTubeでバズる方法やクリック率を上げるサムネイルの制作技術がなければ、企業の案件が取りづらくなりつつある。リモートワークが普及したことで、専門知識を有するサラリーマンが、地方の企業へアドバイスする副業も人気だ。近年、「副業事情」は様変わりしている 
 自宅勤務で通勤時間がなくなり、時間を持て余している会社員が、減らされた残業代を取り返すために、特技や経験を生かして副業を始めているのが、今のコロナ禍のサイドビジネス事情といえる。
「見ず知らずの人にお金を払い、悩みを相談する人などいるのだろうか」
 そのようなご時世だからこそ「電話相談」という、誰にでもできそうな副業に対して懐疑的な思いがあった。見ず知らずの人にお金を払い、悩みを相談する人などいるのだろうか。専門家やプロに需要が集まる今の副業の業界で、特別なスキルを必要としない電話相談という仕事が、ビジネスとして成立するとは思えなかった。
 そんなうがった目でネットを調べていると、スキルや特技が出品できる「ココナラ」で、電話相談の副業をしている「けんちゃんママ」という主婦を見つけた。
 どういう思いでこの副業を始め、どういう仕事をして、どのくらい稼げているのか。その他もろもろのことが聞きたくなって、けんちゃんママに取材を申し込んだ。
意外と重労働?「副業の一日」
「本当に普通の主婦なんです」
 リモート取材に応じてくれたけんちゃんママの第一印象は「明るい人」。ココナラでトップクラスの人気を誇る人だったので、少しは横柄に出られることを覚悟していたが、拍子抜けするほど腰の低い女性だった。けんちゃんママ
「この副業のいいところは、自分の好きな時間に働けるところです。家事の合間の隙間時間を利用して仕事をすることができるんです」
 電話相談は朝7時から深夜0時まで。多い時で1日6件ほどの相談を受ける。料金は自分で決めることができて、1分間の相談料金を設定し、話した分だけ料金が加算されていく。
相談時間は短い人で3分、長い人で3時間。これ以上の時間になると自動的にココナラのほうで通話が切断されるシステムになっている。しかし、再び同じ人がすぐに電話をかけてくることも稀にあり、けんちゃんママの最高電話通話記録は8時間47分。朝に電話がかかってきて、電話が終わったのが夕方ごろ、なかなかな重労働だ。
 それでも、平均すると電話相談の時間は30分から1時間ぐらいで収まるという。一見、長時間労働のように見えるが、実際は自分の空いている時間だけで対応をしているので、スケジュールにがんじがらめになることはない。けんちゃんママ
 2人の子供のお母さんである彼女にとって、好きな時間に稼げる電話相談の仕事は、理想の副業の形といえる。
家具の相談から「レポートが終わらない!」「励まして欲しい」まで
 電話相談には必ずココナラの仲介が入るので、電話番号が相手に知られることはない。お互いが評価し合うシステムなので、常軌を逸した電話相談がかかってくることはほとんどないという。
 どんな人が、どんな相談をしてくるのか。
「主婦、学生、サラリーマンさまざまです。友達や身内に相談できない深い悩みが多いです」
 夫の愚痴やパワハラの相談、独身女性からの転職や結婚の悩みなど、知っている人には相談しづらい話が大半を占める。
 一方で、ユニークでほのぼのした相談事も多い。
 ある大学生からは「レポートが終わらない!」と、解決のしようがない相談を受けたことがあった。また、会社の経営者からは、次に買うオフィス家具の相談をされ、ある母親からは「娘が相談したいことがある」と、電話を代わり、女子中学生の悩みを聞いてあげたこともあった。
「『励まして欲しい』という電話も多いです。これから夜勤に出る人から、会社に行きたくないから出勤前に励まして欲しいとか、ある出版社の編集者さんからは、今から怖い漫画家に原稿を取りに行かなくてはいけないから、勇気がもらえる言葉が欲しいとか。そういうことって、知っている人には頼みづらいですよね」
 また、悩み事の域を超えるような相談が舞い込んでくることもあるという。
 病気の検査で異常なしだったから褒めて欲しいと言われたり、お酒を飲み過ぎるから自分を叱って欲しいと言われたり。
「電話で時代劇の練習相手になったこともありました。一生懸命やったんですが、私が大根役者過ぎて、その方から2度目の電話がかかってくることはありませんでした」
悩みを聞くコツは…
 悩みを聞くコツはあるのか。
「真剣に耳を傾けることです。丁寧に話を聞いて、内容を全部受け入れる覚悟で悩みを聞くようにしています」
 現在、けんちゃんママは、月によってばらつきがあるものの、電話相談で20万円~40万円を稼ぐ。主婦の副業としては十分すぎるほどの収入といえる。
 しかし、ここまで稼げるようになるまでは、平坦な道のりではなかったようだ。
得意の料理で始まったネットの副業。しかし…
 ココナラで仕事を始める前まで、けんちゃんママは病院の受付事務のパートとして働いていた。子供が大きくなるにつれて時間に拘束される仕事が難しくなり、在宅で自由に仕事ができるネットの副業に興味を持ち始めた。
 しかし、フリマアプリやブログを書く仕事では思うように稼げず、悩んでいたところ自分のスキルを販売する「ココナラ」と出会った。
 料理が得意だったけんちゃんママは、早速、『体育会男子高校生時短弁当の作り方』というサービスを、テキスト動画にまとめて出品した。だが、売れたのは総額1万3000円ぐらい。思うように収入を得ることはできなかった。
 なんの特技もない自分がココナラで稼ぐ方法はあるのか。他の人の仕事を見ていたところ「電話相談」というサービスにたどり着いた。
「カウンセラーでもない私が、他人の相談なんか受けてもいいのかという不安はありました。話を聞くことがうまい人なんて、世の中にたくさんいますから」
 不安だらけで始めた最初の電話相談は今でも覚えているという。話がまったく噛み合わず、相談にもうまく乗れなかった。自分は人の話を聞く才能はないと激しく落ち込んだ。
「相談する人の悩み事の答え」のありか
 しかし、不慣れながらも人の悩みと向き合い、一生懸命、話を聞いているうちに、少しずつコツが分かってきた。
「相談する人の悩み事の答えは、すでにその人の中で出ているケースがほとんどなんです。受け入れて欲しい、癒やされたい、承認して欲しいという思いがあるから、悩みを他人である私に相談しているんです。だから、何を相談されても、正論やアドバイスを言わないようにしています。その人の気持ちに共感してあげることが、相談する人が一番求めていることなんです」
 けんちゃんママは、「今、この人が求めている言葉は何だろう?」と常に頭の中で考えながら相談を受ける。ノートにメモを取りながら、話の全体像を掴んだ上で相談の受け答えをする。びっしりと悩み事が書き込まれたノートは、5月で9冊目に突入した。けんちゃんママ
副業で出会えた「感動」
 けんちゃんママに電話相談のやりがいを聞いてみた。
「収入面のやりがいはもちろんあります。でも、それ以上に人に感謝されることが、この副業の最大の魅力だと思っています」
 主婦の仕事として家事、掃除、洗濯を日々こなすが、それらを通じて「ありがとう」と言われることはない。母として妻として当たり前だと理解しながらも、心のどこかで淋しいという思いをけんちゃんママはずっと抱えていた。
 そんな自分が、電話相談で見ず知らずの人から「ありがとう」と言われ、時には泣きながら感謝の言葉を述べられる。今までの生活では体験することができなかった感動がそこにはあった。
「世の中にはお金をもらえる副業がたくさんあります。でも、人から感謝される副業はそんなに多くありません。自分の存在意義を感じられるこの仕事は、一度体験してしまうと止められなくなりますよ」
けんちゃんママの「副業のその先」
 今、けんちゃんママが取り組んでいることが2つある。
 ひとつは、ココナラで電話相談の副業をはじめたい人への支援だ。一般の人からの電話相談の他に、副業で稼ぎたい人に対して、コツやアドバイスを電話で教えている。しかし、ノウハウを教えることは、自分のライバルが増えることにもなる。
「何も才能がなかった私が、これだけ楽しい副業に巡り合うことができたんです。きっと誰でもできる仕事だと思うし、多くの人にいろいろな出会いや体験が生まれるほうが、世の中のためになると思ったんです」
 もうひとつ、副業を通じて取り組むのが、フィリピンのセブ島のスラム街への支援だ。昔から海外の貧困層への支援に興味があったが、時間とお金がなくて行動に移すことはできなかった。
 しかし、ココナラの電話相談で稼げるようになり、ボランティア活動の夢を叶えることができるようになった。
「セブ島のスラム街に行って、貧困層の子供たちを目の当たりにしてきました。今はココナラの売上の一部を寄付にあてていて、いつか、電話相談をしてくださった人たちと一緒に、フィリピンの子供たちに支援ができるような事業が始められればと思っています」
 悩みの相談を受けて、そこで稼いだお金を今度は貧困で悩む子供たちを救うために使う。けんちゃんママの悩み事の支援サイクルは、小さいながらも少しずつ回り始めている。
「けんちゃんママの悩み」は誰が聞く?
 最後にけんちゃんママ自身は誰かに相談しないのかと聞いてみた。しばらく考えた後に「あまりないですね」と言葉が返ってきた。
「電話相談を長くやっているとストレスをうまくかわすやり方を覚えてくるんです。それに、こんなに長く電話相談を続けられるということは、人の悩みを聞くのが本当に好きなんだと思います。この仕事にやりがいを感じているし、誇りも持っているから、大きなストレスを感じることはあまりないですね」
悩みを聞いてもらえる場所
 取材する前まで、電話相談の副業に対して「本当に稼げるのか?」という思いがあった。しかし、悩み事が複雑に入り組むこの時代に、誰かに相談したいというニーズは増えているはずである。
 特にコロナ禍で人との接触が絶たれたことで、不満や辛さを心の中に閉じ込めてしまう人は多い。自分自身の存在意義が分からなくなり、心の中で悲鳴を上げている人はたくさんいるに違いない。
 それならば、心理カウンセラーや精神科の医師に相談すればいいと思っていたが、いざ自分の立場で考えてみると、それも難しいことが分かった。
 専門家に相談することで「自分が何かしらの病気なのではないか」とは思い込んでもイヤだし、仮に相談しても、「カウンセラーだから」「話を聞くプロだから」と思って、素直に専門家の話が聞けなくなってしまう。
「人の悩みを聞く」というマーケットは改めて大きいと思った。しかし、ちょうどいいさじ加減のサービスが今まで存在していなかった。そこにけんちゃんママのような電話相談のプロが現れて、悩み事を相談するサービスの市場を急拡大させた。
 格差社会や差別、家庭問題など、息苦しい問題が世の中に増えれば増えるほど、心の隙間を埋める「普通の人の電話相談」という新しい副業は、世の中に浸透していくのではないだろうか。


ストレスで低下する免疫力 入浴や乳酸菌でセルフケア

2021-05-31 08:30:00 | 日記

下記の記事は日経ヘルスアップからの借用(コピー)です

心理的ストレスの蓄積はビジネスパーソンの大敵。コロナ禍によって「何らかの不安を感じる」人が半数以上に及んだ、という調査報告もある。こうしたストレスは、メンタル面だけでなく、新型コロナウイルスなどの病原体の侵入や増殖を防ぐ免疫機能にも悪影響を及ぼすようだ。心理的ストレスと免疫の関係について考察。私たちが実践できそうなストレス対策と免疫ケアとともにお伝えする。

心理的ストレスは「粘膜免疫」を弱くする
コロナ禍による“ニューノーマルな生活”が続く中で、心理的ストレスが限界近くまで蓄積しているという人はいないだろうか。厚生労働省が2020年12月に発表した「新型コロナに係るメンタルヘルスに関する調査」によると、「神経過敏に感じた」、「そわそわ、落ち着かなく感じた」「気分が落ち込んで何が起こっても気が晴れないように感じた」といった「何らかの不安を感じている」人が調査対象の半数以上に及んだという。
心のストレスは、いま守りを固めたい感染症への防御にも負の影響を及ぼすようだ。疲労や緊張といったストレスと常に直面するアスリートの免疫について研究を行うハイパフォーマンススポーツセンタースポーツ研究部研究員の清水和弘さんは、「激しいトレーニングという身体的ストレスだけでなく、心理的ストレスもウイルスや細菌などと戦う免疫機能を低下させる。特に、外敵への第1バリアとなる粘膜免疫が悪影響を受ける」と言う。
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感染から体守る粘膜免疫 高める食事、ここがポイント
運動もハード過ぎると免疫機能低下 コロナ感染に注意
ここで、免疫システムについて簡単におさらいしよう。
免疫とは、「疫(病気)を免れる」という意味。体には、侵入しようとするウイルスや細菌などの病原体から身を守るために、2段階の仕組みが備わっている(図)。
第1段階は、病原体の最初の侵入口となる鼻や口、喉などの粘膜において病原体の侵入を防ぐ「粘膜免疫」。抗菌ペプチドという免疫物質も分泌されるが、病原体の捕獲力で注目されるのが分泌型免疫グロブリンA(以下SIgA)という抗体だ。粘膜から侵入を図る病原体にくっつき、無力化(中和という)するように働く。アメリカズカップに出場したヨットレース選手の唾液中SIgAの濃度を調べたところ、ストレスや疲労の蓄積とともに低下し始め、上気道感染症発症時は最も低かった[1]。つまり、この抗体数が減ることは、粘膜免疫の守りが手薄になっていることを示す。
「粘膜免疫」を突破して体内に病原体が侵入すると、第2段階の「全身免疫」が働く。体内に入り込んだ病原体を好中球やマクロファージといった免疫細胞がとらえ、感染した細胞はNK細胞やT細胞などが攻撃。こうした一連の戦闘で発熱などの炎症症状が起こる。
「選手が本番で十分なパフォーマンスを発揮するには、まずは第1段階で病原体の侵入を許さない、つまり、病原体の侵入口である粘膜免疫が低下しないよう維持することが重要と考えている」(清水さん)。
私たちの免疫システムは、粘膜組織で病原体をブロックする「粘膜免疫」と、そこをかいくぐった病原体を攻撃、排除する「全身免疫」の2段構えになっている。食事や呼吸で入り込んできて粘膜細胞で感染を開始する病原体に対して、「粘膜免疫」では、病原体にくっついて無力化させる分泌型免疫グロブリンA (SIgA)、殺菌機能を持つディフェンシンなどの抗菌ペプチドが立ち向かう。「全身免疫」が働くときにはマクロファージ、好中球、NK細胞、T細胞、B細胞といった免疫細胞が病原体や感染した細胞を攻撃し、次の感染にも備える。上気道感染症の場合、この戦いで発熱などの炎症症状が起こる。(図:清水さん監修、ハイパフォーマンススポーツセンター『感染症を防ぐ免疫コンディショニングガイド』をもとに改変)
粘膜免疫の働きが心理的ストレスによって低下することを見た研究報告には下記のようなものがある。
歯学部学生の精神的ストレスと唾液中SIgAの分泌速度の関係をみた研究では、ストレス強度が高くなるにしたがってSIgAが低値となった(グラフ)。看護師41人の仕事ストレスと免疫物質の関係を9カ月にわたって調べた研究では、意思決定や作業管理などの精神的ストレスが高まる仕事のときに、唾液中のSIgA量が低下していた[2]。また、大学生男女55人を対象に性格とSIgAについて調べたところ、男子において、「自分に厳しく他人にも厳しい」性格の人では唾液中のSIgA量が多く、「不平や不満をしまいこむ」性格、つまりストレスをため込みがちな人では少なかった[3]。
歯学部初年度生64人(平均年齢23.4才)の精神的ストレスと唾液中のSIgA分泌速度を関係を見た。9月の学期始めとストレスから解放された7月ではSIgAは高くなったが、高ストレスの試験期間はSIgAが低くなった。(データ:Lancet. 1983 Jun 25;1(8339):1400-2.)
心のストレスがなぜ免疫に影響を与えるのだろう。清水さんは「自律神経の変調が関わる」と説明する。
自律神経には、緊張モードのときに働く交感神経と、リラックスモードのときに働く副交感神経があり、両者は互いにバランスをとりながら体の機能を調節している。しかし、「過剰な心理的ストレスは交感神経を優位にする。交感神経が優位になるとT細胞など免疫細胞の働きが低下することが確認されている。また、アスリートのハードなトレーニングが免疫を低下させるのは、酸素を多く取り込む持久系運動によって生じる活性酸素が、免疫細胞のDNAを損傷するため。ビジネスパーソンも同様に、知らず知らずのうちに疲労をためたり、強い心理的ストレスを受けると、活性酸素による酸化ストレスが高まる」(清水さん)。
緊張やイライラで交感神経が過緊張になっても疲労が増えても免疫低下につながるのだ。
仕事への不満や徒労感で感染症リスクがアップ!?
ビジネスパーソンのストレス要因の最たるものは、仕事に関わるストレスだろう。「リモートワーク環境への対応など、コロナ禍による環境変化の長期化により、仕事に関わるストレスはさらに高まっているのでは」と案じるのは、労働環境におけるストレスと免疫に関する研究を行う国際医療福祉大学大学院教授の中田光紀さんだ。
中田さんは、職場のストレスのなかでもどのような状態が免疫に負の影響をもたらすのかに注目。「7つの研究を系統的に解析したところ、職場の心理ストレスの中でも、仕事に費やす努力への見返り(経済的、心理的、キャリア面など)が低い、と感じる人ではSIgAとNK細胞活性が低下する一方、感染症の感染時に高くなる炎症マーカー(CRPやIL-6)の増加が認められた[4]。適度なストレスはモチベーションとなり、免疫が増強されることもあるが、こうした徒労感が長期化すると免疫機能は低下する」(中田さん)
「職務満足感」という指標を用いて免疫との関係を調べた中田さんの研究では、職務満足感が低いほどNK細胞の活性が低くなった(グラフ)。別の研究では、職務満足感が高い人は過去1年の風邪罹患(りかん)回数が平均2回だったが、低い人は4.3回と2倍以上の開きがあった[5]。
「反対に、仕事へのやりがいが保たれると感染への防御力が維持される可能性がある。実際に、失業することによってNK細胞活性が下がっても、就職が決まった翌月に前月よりも44~72%の増加が認められたという研究も[6]。ストレスから解放されるとNK細胞活性は1カ月程度で回復すると考えられる」(中田さん)。
健康なホワイトカラー306人(男性165人、女性141人。平均年齢36歳)を対象に、仕事の満足度に関する4項目の質問に答えてもらい、血液検査によって免疫の状態を調べた。男女ともに仕事への満足感が下がるほどNK細胞活性が低くなった。 (データ:Brain Behav Immun. 2010 Nov;24(8):1268-75.)
仕事のストレスをためるのは良くないとわかっていても、取り除くのが難しいのも現実。中田さんは、職場の人間関係のなかで解決の鍵となるのはどんな立場の人かを見るために、働く人に対する「社会的支援」と血中の炎症マーカー(IL-6、TNF-αなど)の関係を調べた。その結果、「男性においては“上司の社会的支援”が上昇したときに、炎症マーカーが有意に減少した」という[7]。
上司に恵まれない場合はどうすればいいか。「誰かを援助する、という能動的行動を行った人は5カ月後に炎症スコアが有意に下がった(論文投稿中)。ボランティア活動など誰かを手助けすることが自身のポジティブな状態を作り出し、免疫低下にブレーキをかけるのだろう」(中田さん)。職場とは別の場で、気持ちをポジティブにする行動をするのがよさそうだ。
免疫低下を防ぐために、自分でできる対策は?
こうした心理的なアプローチのほかに、ストレスによって低下する免疫を維持、あるいは高めることができるセルフケアとしては、リラクゼーション法やある種の食品成分の摂取がありそうだ。
1.リラクゼーション
うつの症状の一つに不眠があることからわかるように、心理的ストレスが高くなると、夜の眠りに問題が起こる。睡眠障害そのものも、免疫低下を引き起こす。「就寝の90分前に入浴すると眠りの質が高まる。風呂によるリラクゼーション作用で副交感神経が優位になり、水圧による血液循環の促進で筋肉の疲労も和らぐ」(清水さん)
健康な男性10人(平均年齢33.6歳)が温泉浴(入浴温度40~41度、10分間の入浴)の前後で唾液SIgAを測ったところ、入浴前と比較して入浴後にSIgA分泌速度が有意に増加した[8]。「免疫にもプラスに働くので、アスリートには、夏場でも毎日バスタブ入浴を薦めている」(清水さん)。入浴以外にも、香り(アロマケア)やマッサージなど自分に合う方法を探してほしい、という。
2.食品成分
免疫維持、ストレス改善、それぞれのキーワードで取り上げられることが多い食品成分に乳酸菌類がある。
心理的ストレスによって低下する粘膜免疫を守るという視点で探すと、例えばSIgAの分泌を高める機能を持つ乳酸菌「b240」に着目し、高齢者の風邪発症抑制について調べた研究がある。65歳以上の高齢者300人が摂取し、風邪発生率が大幅に抑えられたという[9]。
心理的ストレスの改善と免疫指標の変化を見た「ラクトバチルスプランタラムPS128」という乳酸菌もある。IT企業で働く人36人が毎日摂取したところ、ストレススコアが下がり、ストレスホルモンの値も有意に改善した。しかし、この試験では唾液中SIgAには有意な変化がなかったため、免疫への影響を検証するには追加の試験が必要となる[10]。
コロナ禍のソーシャルディスタンスによる孤独感が心理的ストレスとなり、腸内細菌叢に悪影響が及び炎症を引き起こすことを危惧する報告も発表された[11]。有用菌を日常的にとることによって腸内細菌叢(そう)の健康を維持することが、ストレス耐性を高め免疫低下を防ぐことにつながる可能性もある。
「乳酸菌は、心理的ストレスが高まる時期の1カ月ほど前から継続的してとると、免疫機能を高く保った状態で目的の時期に臨める」(清水さん)
このほか、免疫維持に役立つという研究報告が世界で多く発表されている食品成分の代表としてビタミンDが挙げられる。抗菌機能を持つ抗菌ペプチド、ディフェンシンの産生には、血液中に十分な量のビタミンDがあることが必要とする研究もある[12]。ディフェンシンは、SIgAとともに粘膜免疫で重要な働きをする免疫物質なので、ビタミンDは不足のないよう補いたい。
一方、「ストレスの軽減に役立つ」と記された機能性表示食品も200種類以上出ており、機能性成分としてはGABA、L-テアニンを使用するものが多い。しかし、それぞれの届け出情報では、ストレスを軽減することで免疫低下が防げるかどうかはわからない。
また、ストレス負荷を和らげることと、病原体を攻撃するプロセスで起きる過剰な炎症(サイトカインストーム)を防ぐ働きで注目される栄養素には、オメガ3脂肪酸(DHA=ドコサヘキサエン酸、EPA=エイコサペンタエン酸)がある。オメガ3脂肪酸を新型コロナ感染症の流行中は十分に補給すべき栄養素として推奨する研究も多い[13]。
138人の座りがちな生活をしている肥満の男女を対象に、オメガ3脂肪酸を高容量(1日2.5g)、4カ月とった研究では、オメガ3脂肪酸摂取群で、ストレス時に増えるコルチゾール値と炎症マーカーであるIL-6が偽薬をのんだ群と比較してそれぞれ19%、33%低下した[14]。つまり、オメガ3脂肪酸をとると、ストレスからの修復メカニズムを高め、過剰な炎症が低減される可能性がある。
ヨーグルトや乳酸菌飲料、ビタミンDとオメガ3脂肪酸それぞれを豊富に含むサケなどの魚類は、ストレス・免疫対策として積極的にとりたい。難しい場合は、こうした成分が強化された食品やサプリメントの活用を。
過大なストレスを抱え込む前に、気分転換、リラックス、休養に努め、体内から役立つ可能性がある食品を積極的にとり入れて、ストレスケアと免疫アップを目指したい。


「親の後始末をお金で解決したい」じわじわと増えつつある"家族代行業"のリアル

2021-05-30 16:30:00 | 日記

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虐待を繰り返していたような親でも、子供であれば老後の面倒をみなければいけないのか。ノンフィクション作家の菅野久美子さんは「そんなことはない。老親を施設に預けたあと、家族の代わりに最期まで施設とのやり取りを代行してくれる業者もある。一人で苦しまないでほしい」という――。
介護施設にいる母から「呪いの手紙」を送られてくる
「家族じまい」として親を捨てたい人たちがいる。
私もその一人。3歳から母親に強制的にピアノを習わされ、理不尽な暴力、ネグレクトに苦しめられてきた、今振り返れば「教育虐待」の当事者だった。
そのため、近著『家族遺棄社会』では、「家族じまい」と称されるような日本を取り巻く親子の現状について取材した。
取材を通じて最も深刻だと感じたのは、就職や進学、結婚などで一度は親から離れたと思ってもそれはつかの間の安息であるということだ。親に苦しめられた人は、介護から親の死までのラストランで、ふたたび地獄を見ることになる。介護施設や病院とのやり取り、葬儀や相続などの死後の手続き……。これも親子関係が悪いほど疲弊することになる。
他方で、核家族化が進む現代において、多くの子供は親とは同居していない。親と別居しているのに、親の介護が苦しい。なぜそんなことになってしまうのか。
『家族遺棄社会』の中で取材したAさん(50代・女性)は、まさにそのケースだった。Aさんは、母親の暴力や暴言、ネグレクトによって苦しめられた幼少期を過ごし、現在もその後遺症で摂食障害を患っている。
Aさんの母親は、現在秋田の介護施設に入所していて、関東在住のAさんとは物理的に距離も離れている。しかし、それでもAさんにとって、母親の存在はとてつもない重荷だった。Aさんのもとには毎月、介護施設の請求書と共に、母親の手紙や写真が送られてくる。Aさんは心の中で、「呪いの手紙」と呼んでいる。
ケアマネジャーには「お母さん、娘さんが自慢なんですよ」と言われ…
「こんな犬や猫も着ない服なんか送ってきて。自分のことを乞食かと思うこともあります」
母親が毎月送ってくる手紙には、毎回送ってほしいものが書かれているが、母親が希望するパジャマやインナーなどを送っても、感謝の言葉一つなく、前述の呪詛じゅそのような言葉を手紙で投げつけてくる。
さらに、母親は施設でトラブルを起こし、施設を転々として、その度に新しい施設探しに追われた。Aさんは看護師として介護施設に勤めているので、高齢者の対応は慣れている。それでも母親の存在は重くのしかかってきた。
担当のケアマネジャーにこれまでの事情を相談しても「お母さん、娘さんが自慢なんですよ」とにべもなく返される。一人っ子であるAさんの苦しみに寄り添ってくれる人はいない。それがつらい。孤立したAさんは、介護施設から連絡があると、一日気分が落ち込み、動悸どうきがして、仕事が手につかないこともあった。
そんな中、コロナ禍となり介護施設からの呼び出しもなくなり、Aさんはつかの間の安息を得たという。Aさんの母親は昨年末に肺炎で亡くなったが、心の底からホッとしていると胸の内を語ってくれた。
「私は看護師ということもあり、介護施設とのやり取りや、母が亡くなった後の葬儀の手配など、何とか自力でできました。でも普通の人なら、心が折れていたと思う。もし第三者の方がサポートしてくださるなら、それはとても助かる。これからの時代、私のように親と関わりたくないという人は増えてくると思う。だけど、現実問題として親子の縁はなかなか切れない。でも、やりたくないことは親子でもやらないほうがいい」
Aさんの言葉が私の胸に響く。遠方でも、物理的に距離が離れていても、親との関係の苦しさは変わらない。
介護施設に入居したときの第一連絡先を引き受けてくれる
家族関係の取材を続ける中で、介護から納骨までを一手に引き受ける「一般社団法人LMN」代表の遠藤英樹さんに出会った。
LMNは一種の「家族代行業」として、親の最後の「後始末」を手掛けている数少ない民間の終活団体である。LMNのサービスをわかりやすく言い換えれば、子供に代わって親の最期までを請け負うエンディング版の家族代行業だ。
ホームページによると、料金は、例えば82歳の親の介護施設入居から葬儀までサポートしてもらう場合97万円。もちろん、介護施設の月々の費用などは別になる。
サービスの一番のポイントは、LMNが介護施設の入所者の第一連絡人になっているという点である。身元保証人になるのは家族だが、本人の最期はLMNに任せることができる。つまり本人と家族との関わりを絶つことができるというわけだ。
「煩わしい親の後始末をお金で解決したい」という人が増えている
遠藤さんはそのメリットをこう語る。
「介護施設に親を入れたらもう大丈夫と子供は思いがちですが、それは落とし穴です。むしろ元気な頃よりも事務連絡などが多くなると思ったほうがいいくらい。さらに毒親であれば施設でトラブルを起こすケースもよくあるのです。その度に新たな施設を探すことになったりして、子供は苦しみ、悪循環のスパイラルに陥っていく。認知症になったら、『こんな施設にいれやがって!』『もっと高い施設に入れろ』などと、ますます親の無理難題や暴言に苦しめられるというケースもある。われわれは、そんな煩わしい事務連絡やトラブル対応を一手に引き受けているのです」
まさに、先ほど紹介したAさんのような人たちに、LMNの存在は必要なのだ。
煩わしい親の後始末をお金で解決したい――今、LMNにはそんな相談が急増しているという。
「われわれへの相談件数が、2020年には月5件程度だったものが、今は月25件と急増しました。この1年で5倍に増えたんです」
「身内の孤独死は恥」という意識も薄れてきた
私の取材現場においても、長年疎遠だった親の遺体の引き取りを子供が拒否するという事例に遭遇することが増えた。かつては「どんな親であっても、最後に葬儀ぐらいはあげる」という規範意識が強かった。だが、それも急速に弱まりつつあるのだろう。
また身内で孤独死が起こると、かつては「恥」とされて、隠されることがほとんどだったが、今は、「あそこで死んでたみたいです」などと、平然と口にされるようになった。また、警察などから突然連絡があり、会ったこともない叔父や叔母の葬儀を任され、戸惑う人たちもこれまで以上に増えているという実感がある。
無縁社会は音も立てずにひたひたと日本社会に押し寄せていて、それは親子関係においても例外ではなく、カネの切れ目が縁の切れ目となる。
遠藤さんによると、LMNに寄せられる相談の多くが親の介護に悩む40~50代の女性たちだという。この数字は、女性がまだ介護の担い手としての役割が大きいという現状を表している。
「親の面倒は子供が必ずみるべき」という固定観念を払拭したい
遠藤さんがこのビジネスを始めたのは、5年前だ。当時は身寄りがなく、比較的裕福なおひとりさまの高齢者を対象にした「終活サポート」を行っていた。しかし、事業を始めてみると、相談者の多くは本人ではなく、親族との関係に苦しんでいる子供たちだった。そのため遠藤さんは、彼らのサポートにまい進することになった。
「先日携わったのは、親の介護から納骨まですべてわれわれにお任せというケースでした。子供が来たのは、介護施設の事務手続きだけ。親が亡くなっても子供は姿を現さなかったので、亡くなったことだけは確認してもらいましたが、葬儀から火葬まで全てを私たちで代行したんです。われわれはそれぞれの親を捨てたいという子供の事情を深く聞くことはしないのですが、推察するにこの方は、いわゆる『毒親』のケースだったと思います」
それでもまだいいほうだ。子供とはメールのやり取りだけで、介護から納骨まで代行し、あっさりと完結するということもある。
「完全に親を捨てたいという人もいますが、介護から一時的に離れたいという人も多いんです。あと、自分や子供との生活で手いっぱいだったり、本人が病気で親の面倒をみられないというケースもある。子供には子供の「親をみられない事情」もあるんですよ。われわれは、親の面倒は子供が必ずみるべきという固定観念を払拭ふっしょくしたいと思っています」
親から迷惑をかけられたなら、後始末を誰かに任せてもいい
親の死後も安泰ではない。葬儀、お墓はどうするのか、納骨はどこに行うのか。また、実家の遺品整理など、片づけなければならない問題が山積しているのだ。
例えば遠藤さんは、親と遺恨があり、親の納骨には行きたくないという子供の要望を受け止める。そして、先祖代々の菩提ぼだい寺と3時間にわたって交渉を重ねることもある。「なんで子供が来ないんだ」と怒鳴る住職との仲裁に入り、納得してもらうまで話し合う。希望すれば、墓じまいのサポートも行う。
「自分たちが間に入ることで、子供の側にはそういった心労をなるべく減らして、最後に親が亡くなったときに『あぁよかった』という気持ちになってもらいたいと思っています。だから、私たちのような第三者の存在が必要とされるのでしょう。親から迷惑をかけられたとか、暴力を受けたんだったら、その後始末を誰かに任せてもいい。親はその前段階を放棄したわけだから、それがツケとして返ってきているだけ。だけど、日本の行政とか世間の倫理感は血をすごく大事にする。そのあつれきで、子供は苦しい。それなら私たちはその負担を減らすために働けばいいと思っています」
そう語る遠藤さんの言葉に、高齢の親を持ち、虐待の当事者である私自身、深く救われた気がした。
血縁というだけで全ての負担を負わせられる
家族を取り巻く環境を巡っては、少しずつではあるが、世間の認知も変わりつつある。最近では、週刊誌やマスメディアでも相次いで「家族じまい」「親を捨てたい人」「毒親」などの特集が組まれるなど、親と子を巡る世間のまなざしも変化の兆しがある。1997年に『日本一醜い親への手紙』という本が出版されベストセラーとなったが、当時まだ未成年だった私は、この本だけを唯一の心の支えに生きるしかなかった。毒親問題とは、まさに私にとって自分事である。
菅野久美子『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(角川新書)
国立青少年教育振興機構が2014年9~11月、日米中韓各国の生徒計7761人に対して行った調査によると、「親が高齢となり、世話をすることになった場合どうするか」との質問に「自分でしたい」と答えたのは日本は37.9%で4カ国中最低だった。
この数字は、日本社会の過酷な現実を雄弁に物語っている。
私が長年取材している孤独死においても、疎遠だった親が孤独死し、その高額な特殊清掃費用や葬儀費用を子供が泣く泣く負担せざるをえないというケースに多々遭遇している。以前に行き場のない漂流遺骨の取材をしたことがあるが、その中には長年疎遠だった親の遺骨を押しつけられ、当惑している子供の声も多く聞いた。
血縁というだけで、全ての負担を負わせられる。そして、その胸の内を誰も理解してくれない。
そこには家族が形骸化した現代においても、旧態依然の血縁関係が非常に重視される日本のいびつな社会構造がある。遠藤さんらの草の根的な活動の輪が広がることによって、私のような親子関係に苦しむ人が少しでも減ればと感じてやまない。
菅野 久美子ノンフィクション作家


「妻は自宅、私は老人ホーム」65歳で施設に移り住んだ元数学教諭の終活設計

2021-05-30 13:30:00 | 日記

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「動けなくなってからでは遅いんです」
「問題は、自分が動けなくなった時にどうするのか、ということなんです」
小出順さん(66歳/仮名)にいきなりそう言われ、私は虚をつかれたような気がした。
正直にいえば、その「問題」について私は考えたことがない。昨今の60代の方々はとても活動的。むしろ体力を持て余しているようで、どちらかというと「動けること」のほうが問題ではないかと思っていたのである。
実際、知人の女性も父親の活動で悩んでいた。なんでも会社を定年退職した途端、毎朝、近所の山に登り、昼頃に家に帰るようになったのだという。まるで山に通勤しているようで、娘としては転んでケガなどしないかと心配でならない。大体、なんで山に登るんですか? と彼女は問題視していた。
考えてみれば、かつて日本には「姥うば捨て」という風習があった。60歳になると「六十落とし」「終命じゅんみょう」(『日本伝説大系』みずうみ書房 昭和57~平成2年)となり、山に捨てられる。奇くしくも「姥捨て」は定年と同じ歳で、その歳を迎えると人は山に引き寄せられるかのようなのである。
「体が動くうちは、動けなくなった時のことなど考えないんです。でも、ある日突然、病気などで動けなくなる。そうなってからでは遅いんです」
意識がはっきりしているうちに決める
——確かにそうですね。
うなずく私。動けるうちは動けなくなることなど考えたくない。私の母なども「動ける」ことを確認するために動いている節もあるくらいだ。
「私は自分で動いて、自分できちんと判断できるうちに準備しておきたい。自分の身は自分で処する。だから65歳でここに入居したんです」
現在、彼は伊豆にある介護付き有料老人ホームに住んでいる。入居金約3000万円で居室(2DK)と大浴場や図書室などの共用施設を終身利用できる。居室には緊急用コールや人感センサーが設置され、異常があればすぐにスタッフが駆けつける。
施設内の食堂を利用すれば食費は月約6万円(1人分)ほど。管理費や光熱費を含めると毎月、約15万円で生活できるという。
診療所も完備し、介護が必要になれば専用の居室への移転も可能。パンフレットによれば「ご家族や医師と綿密な連携をとりつつ、最後までご入居者本人の尊厳や意志を尊重した暮らしができる」そうで、まさに備えあれば憂いがないようなのである。
「きっかけは去年亡くなった母ですね」
小出さんが打ち明ける。
「5、6年前に認知症になりまして。それまでは保険証の番号まで暗記している頭のよい人で、私も『母には勝てない』とずっと思っていたんです。ところが、ある日突然わからなくなった。私のことを『近所のやさしいお兄さん』とか言い出したんです。あまりに突然のことで本当にショックでした。だから、私も意識がはっきりしているうちに決めなければいけないと思いましたね。子供に迷惑をかけたくないし、甘えたくありませんから」
小出さんは固い決心のようなのである。
資産のピークは定年になった時
——しかし、ちょっと早くはないですか?
不躾ぶしつけながら私はたずねた。備えが大切なのはわかるが、65歳はまだまだ若い。施設内を眺めても、入居者のほとんどは80代。颯爽さっそうと歩く小出さんは何やら施設のスタッフのようなのだ。
「それは裕福な人の考え方ですね」
——裕福?
貧乏人である私は目を丸くした。
「いいですか。我々庶民の資産のピークは定年になった時です。その後は年金しか収入がないので、長生きすればするほど資産は目減りしていく。80歳になってこうした施設に入ろうと思ってもお金が残ってないんです。我々庶民は退職金があるピークの時しか入居金を払うチャンスがありません。唯一のチャンス。これはタイミングの問題なんです」
グラフを描くように彼は熱弁をふるった。同施設の入居の条件には「65歳以上」とあるが、実は65歳がラストチャンスらしい。
——タイミング、ですか……。
退職金もなく万事に無計画な私はうなだれた。私にはそのチャンスはなく、タイミングもすでに逸しているではないかと。
彼の合理性に圧倒されるばかりなのだが、聞けば、小出さんはもともと高校の数学の先生だった。現役時代のモットーは「学びに妥協なし」。人生の信念は「真理の追究は不断のテーゼ」とのことで、常に問題を立てて解答を導き出すアルゴリズムに生きているようである。
「勉強はひとつの習慣なんです。たとえできなくても取り組む。取り組むことで生きていく自信につながるんです。0点であっても鉛筆を握ること。やろうとする姿勢。できなくて悩む子がいれば、絶対わからせてやろうと気持ちがムラムラわいてくる」
覚書に記された退職後のモットー
彼は私の取材に備えて履歴・職歴をまとめた覚書を用意してくれていた。それによると、26年にわたって教員をつとめ、教頭、校長になり、60歳で定年。再雇用で進路指導を担当する嘱託となるが、友人に「君は数学を教えている時に輝いている」と言われ、1年で職を離れて地方の新設校の立ち上げに参加。副校長兼数学の教員として生徒指導にあたり、65歳で退職した。
「卒業生の中から東大合格者も出て学校も軌道に乗ったので、自分の役割は終わったと思いました。その先は、社会へのご恩返し。何か人の役に立って、そっと生きていきたいと決めたんです」
覚書に記された退職後のモットーは次の通り。
セカンドライフはボランティア精神を発揮、小さく社会に貢献していく人であり続ける。
「子供に甘えたくない」「そっと生きる」「小さく貢献する」……。おそらく人に迷惑をかけたくない一心なのだろう。いずれにせよ彼はモットーに基づき、来日したミャンマー難民のサポート、市民大学での数学講師、さらには観光客に近隣の自然を解説するボランティア活動に励む。最近では老人ホーム内で入居者向けに「数学講座」を開いたそうだ。
「私自身は日本の美学、侘わび寂さびに興味があって、今、百人一首を全部暗記しようと勉強中です。和歌をすっと言えたり、解説できる人にもなりたくて。だから現役時代より忙しい感じ。もっと時間が欲しい」
ひとりだと寂しいけど、ふたりは鬱陶しい
毎朝8時前に起床。食堂で朝食をとり、午前中は居室で読書と勉強。昼食は自炊して午後からボランティア活動に出かける。寸暇を惜しんで学ぶ「定年後」を送られているようなのだが、私にはどうしても気になることがあった。
——すみません。小出さんはひとり暮らしなんですか?
「はい」
淡々と答える彼。「奥様は……」と言いかけると、
「妻は今も自宅に住んでいます。彼女は彼女でやりたいこともあるから」
——えっ、それで問題はないんですか?
思わず私は問うた。そのほうが重大な「問題」に思えたのである。
「いや、特に問題は……」
——そうなんですか?
「もちろんここには夫婦で入居する人たちもいます。でも旦那さんのほうに訊くと『ひとりになりたい』とかこぼしていますよ。ひとりだと寂しいけど、ふたりは鬱陶しい。そのあたりの兼ね合いは難しいですね」
——奥様とは話し合って、入居を決められたんでしょうか?
「私たちは将来について心配する度合いが違うんです。私は自分ができるうちに判断したいと考えましたが、妻はそこまでは考えていない。それにお互い、やりたいことがあるんです。やれるうちはそれぞれ好きなことをしようと……」
夫婦愛に正解はない
彼によると、夫婦の間には次のようなルールがあるという。
髙橋秀実『定年入門 イキイキしなくちゃダメですか』(ポプラ新書)
・責任をもって子育てをする。
・きちんと生活できれば、それぞれのやりたいことを尊重する。
ふたりの子供を育て上げた彼ら。ルールに照らし合わせると、別居は正解ということになるのだろうか。
「実は妻も教師で、現役時代はふたりとも忙しかったんです。土日も部活動などがありましたからね。ある意味、すれ違いの生活。地方に単身赴任していた時も身の回りのことは自分でやっていたので、私はひとりでも大丈夫なんです」
——寂しくないんですか?
私がたずねると彼は小首を傾げ、こう答えた。
「ここは書斎っていう感じですかね」
——書斎?
「昔から私は家に書斎が欲しかったんです。でも安月給ではそんな贅沢はできません。今になってようやく書斎が持てた。夢がかなったという感じですね。それに住むところがふたつあったほうがいいんじゃないかと思いますよ。別荘感覚で」
定時にチャイムが鳴るこの老人ホームはどこか学校に似ている。彼にとって馴染みのある場所なのかもしれない。
——奥様も来られたりするんですか?
「来ようと思えばいつでも来られます。来たければ来ればいいんです。居室はふたりで住めるし、子供部屋だってあるんですから」
——じゃあ、いずれはふたりで暮らすことも……。
「それは考えないようにしています」
——なぜ、なんですか?
「ここで私が『来てほしい』と言うと、彼女の今の生活を『やめろ』と強要することになるじゃないですか。やれるうちはお互いにやりたいことをやる。それがルールですから言いたくても言えない……」
数学的な問題と違って、夫婦の問題は「上手く説明できない」とのこと。これも切り出すタイミングの問題のような気がしたが、ふたりの間の「真理」は知る由もない。