下記の記事は東洋経済オンラインからの借用(コピー)です。
社会的に孤立している実態があるというシングルファーザー。シングルマザーに比べて少数派であるがゆえに、支援の手も少ない。自治体のひとり親支援の相談や交流の場は、シングルマザーのみを対象としていることも多い。
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そんなシングルファーザーの現状を変えようと活動している団体の1つが、「ひとり親支援協会」だ。同協会は2020年11月、行政による支援拡大などを求めて厚生労働省などに要望書を提出した。
代表理事の今井智洋さんは、行政支援が乏しいことについて、「私たちができているのだから、できないはずはない」と強調する。同協会のメンバー数はコロナ以前に比べ5倍以上に増えるなど、当事者同士の交流や支援を求める声は日に日に増している。
「病気や事故に見舞われる可能性はつねにある。現在シングルファーザーでない方々も決して『ひとごと』ではない」と話す今井さんに、シングルファーザーを含む「ひとり親支援」の実態と課題を聞いた。
たとえ「ひとり親」でなくても
ひとり親を支援する団体の代表を務めている今井さんだが、自身はひとり親の当事者ではない。
「私の祖母が死別のシングルマザーだったんです。父が3歳のときに祖父が亡くなったのですが、小さいときから同居している祖母の話を聞いて育ちました。
死別されたひとり親の方が団体の代表なら死別の方の集まる団体になりがちでしょうし、離婚でも同様です。私たちの団体にはさまざまな事情をもつ方がいます。そういう意味では、ひとり親の当事者でないというのは、自分の強みだと思っています」
自身のコミュニティーにおける立ち位置を、利用者のために陰ながら場を整える「公園の管理人」に例える。
「当事者ではないので、私自身は確たる答えを持っていません。だからこそ、皆さんの声を聞き、それぞれの立場を想像しながら活動しています」
シングルファーザーになる理由には、大きく分けて「死別」と「離婚」があるが、コミュニティー作りにおいてはまったく別物として扱っているという。
「死別された方、離婚された方、それぞれの交流の場所は分けてます。
また、死別の中でも、自死遺族の方や病気や事故で亡くされた方などがいて、抱えている事情はまったく異なります。病気で亡くされた方の中でも、突然亡くなった場合もあれば、長期の闘病後に亡くされた方もいます。
1人ひとりに寄り添い、個々人が抱えているものをうかがって、それぞれが悩みを共有できる場所を作るようにしています」
事情が異なるのはシングルファーザー本人だけではない。子どもの置かれた状況も千差万別だ。
「死別したひとり親の子と離婚したひとり親の子では、メンタルの状況も全然違います。子どものケアも含めて大事ですね。
子どもの笑顔のツボは『親の心の余裕』なんです。親に心の余裕がなければ、自然と険しい顔をしたり、ちょっとしたことで怒ってしまったりするでしょう。親が1人しかいない状況だと、その親がその子どもに与える影響はとても大きいんです。
親が笑顔になると子どもも笑顔になれます。子どもの笑顔のためにも、親の精神的なサポートはとても大事だというのを痛感しますね。
私たちのコミュニティーは、パパもママも子どもたちも大勢いる、1つの大きな家族というふうに捉えています。家庭では『ひとり親』でも、この場所には『たくさんの親』がいるので、お互いがお互いを補っていければいいなと考えています」
ひとり親の支援制度「柔軟な運用を」
シングルファーザーはシングルマザーに比べ、正社員として勤めている人が多く、平均所得も高いことが明らかとなっている(厚生労働省の「平成28年度全国ひとり親世帯等調査」)。
もっとも、自分しか稼ぐ人がいないプレッシャーや、病気で働けなくなった場合などの不安を抱えている点はシングルマザーと同様だ。
遺族年金や児童扶養手当など国の支援制度もあるが、遺族年金には850万円の所得制限があり、さらに遺族厚生年金については、妻が受け取る場合は年齢不問なのに対し、夫が受け取る場合は55歳以上でないと受給権がないという年齢制限がある。
児童扶養手当についても、前年所得で支給の有無を判断するため、タイムリーな支給が行われない現状がある。
「遺族年金については、昨年の国への意見書でも改善要望をお願いしました。所得や年齢で制限することについては、『人の命に差をつけるのか』というレベルの問題だと思います。
たとえ今の所得が高いとしても、それは今まで配偶者のサポートがあったから稼げていた額かもしれないわけです。
現在の遺族年金制度は、死亡時点で支給するか否かを判断され、その際に対象外となると、その後事情が変わって収入が大きく減った場合にあらためて受給できるようにはなっていません。
所得制限をなくすか、年収が下がった際に対応するような制度にする。また、支給の可否判断を亡くなったときの1回限りではなくて、一定期間ごとに行うなど、柔軟な運用ができるようにしてほしいです。
児童扶養手当についても、前年所得で支給するか否かを判断していますが、急に無収入になっても受給できないケースが出てきてしまいます。とくにコロナ禍では大いにありうる話です。
『1年後なら支給できます』では間に合わない人もいるはずです。弾力的な対応が必要なのではないでしょうか」
性に関するリテラシーの向上が大事
「イクメン」という言葉が定着するなど、昨今の父親は家事・育児により積極的とされている。各家庭によって差はあるにせよ、子どもを保育園などへ送り迎えしている男性を見る機会は珍しくない。
しかし、たとえ「イクメン」でもそう簡単にはいかないこともある。今井さんによれば、シングルファーザーが実生活でいちばん悩むのは、娘がいる場合の性教育および生理の対応だという。
「シングルファーザーからの相談だけではありません。私たちの団体には、シングルファーザー世帯で育った娘さんも多く参加していますが、『男親ではどうしようもなかった、聞くわけにもいかなかった』というような娘さんからの声もすごく多いです」
対処法まで精通している男性はかなり限られる。今井さんは、シングルファーザーが生理について学ぶ機会が大切だと話す。
「十分な知識がないと大変ですし、取り返しのつかないことにもなりかねません。そこで私たちは、生理に詳しい団体さんの協力を得て、はじめての生理準備BOX『READY BOX』というものを配布しています。
このBOXには、『生理とは何なのか』『生理になったとき、どう対処すればいいのか』といった内容をまとめた冊子や、実際に使える生理用品、生理用ポーチなどが入っています。
娘さんも初めての生理には戸惑うはずです。性に関するリテラシーの向上は、シングルファーザーにとって重要だと思います」
ひとり親支援協会はそれぞれのグループでの交流を大切にしている。コロナ禍では対面での交流は事実上できなくなったが、LINE上でのグループやZoomを利用したオンラインでの交流は今でも毎週開催しているという。
「コロナの影響で、支援や人とのつながりが物理的にも精神的に孤立されてる方が多いと思います。
私たちの団体でも、コロナ禍前のメンバー数は約1500人でしたが、今は約8000人になっていますので、交流できる居場所が求められているのかなとは感じます。シングルファーザーの方も増えてます。
死別の方、離婚された方、未婚の母親、再婚や事実婚などのステップ・ファミリーのひとり親、DVを受けた方、モラハラを受けた方、不登校の子を持つ方、障害児を持つ方など、本当にさまざまなグループがあります。
60以上のグループがありますが、私はそのすべてに関わっています。今もさまざまな相談やメッセージが日々行き交っていますね」
コロナ前は、対面の場で行っていた食料や教材などの配布も、宅配に切り替え、支援が途絶えないようにしている。
ひとり親の現状「ひとごとではない」
ひとり親支援協会は2020年11月、シングルファーザー世帯を対象としたアンケートやヒアリング調査を実施。その結果を公表するとともに、シングルファーザーが社会的に孤立する現状について、問題提起と改善に向けた要望書を国などに提出した。
今井さんは「ひとり親の現状は、今ひとり親でない方々にとっても決して『ひとごと』ではない」と訴える。
「本来は、『ひとり親』とひとくくりにしてはいけないんです。人によって異なる事情や課題がありますから、支援するにしても、それぞれに合わせて個別に対応しないといけないんです。しかし、それができる団体や行政がほとんどいないのが今の日本の現状です。
とはいえ、私たちのような団体があることを知ってもらわなければ、支援することもかないません。『こんな場があるんだ』ということを知ってもらうための活動は今後も力を入れていきたいと考えています。
また、知ってもらいたいのは、ひとり親の方々だけではありません。今ひとり親でない方々も、決してひとごとではないんです。
とくに死別については、いつ何時起こるかわかりません。どれだけ気をつけていても病気になることや事故に巻き込まれるということはありえます。
もしそういったことが自分に起きたとき、何も知らなければ途方に暮れてしまうかもしれません。私たちのような存在やひとり親に関する情報を事前に知っているだけでも、対処の仕方が変わるのではないでしょうか」
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