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自分にマッサージをしてくれる父親に、お菓子を作ってあげる娘。父娘の密着ぶりに母親の心の中は……

2021-07-14 13:30:00 | 日記

下記の記事はヨミドクターオンラインからの借用(コピー)です

濃密すぎる父娘の関係
 ある日の診察で、父親がA子さんの家での様子を次のように話しました。
 A子さんは、時々、父親にアイスクリームやゼリーを手作りしているそうです。そして、それはマッサージをしてもらっていることへの「お礼」だというのです。
 以前に父親がマッサージをしてあげたら、A子さんは非常に喜んだそうで、以降、いつもそれを楽しみにしており、逆にA子さんが父親にマッサージをしてあげることもあるそうです。お互いをマッサージし合うというのは、中学生の女の子と父親の関係としては、あまりにも濃密な行動です。
 しかし、母親はそこではない部分を懸念していたようです。
 父親が「A子は料理が得意だから、私のためにお菓子を作ってくれている」と言ったときには、たまりかねたように母親が口を開きました。
 「私は料理があまりうまくなくて。A子は時々、私の代わりに夕飯を作りたいと言うんです。夫もA子の気持ちを大切にしてあげたいというのですが……」と表情を曇らせました。さらに、こうも付け加えました。
 「娘が料理をするときには、娘と夫が2人で買い物に行くんです」
 本来は「母親である自分の仕事」と考えている夕食づくりを娘がやることや、買い物までも娘と一緒に出かける自分の夫と娘の密着ぶりへの疑問や不満が伝わってきました。
 しかし、心の中の疑問や不満については、直接、父親には伝えていないことがわかりました。
 父親と娘は、夜中に2人でウォーキングに出ることもあるそうで、「まだA子は中学生なので、夜は早く寝かせたほうがいいと思っているんですが、それを止めるわけにもいかず……」と口ごもりながら言いました。
女性としての成熟に自らストップを
 表面上、母親とA子さんの関係は決して悪くはなく、けんかやもめごともありません。ただし、母親の側は夫だけではなく、娘に対しても心中に強い違和感を抱えているようなのです。父親は、それにまったく気づいていないようでした。
 A子さん本人はどうでしょうか。
 敬愛し、尊敬する父親からは、自分の姉、それに母親以上に愛情を受けているとの自覚があるのは間違いありません。お互いへのマッサージ、早朝テニスや深夜のウォーキングなど、父親離れが始まる中学生の女の子としては考えられないほど、A子さんと父親の関係は濃密なものです。姉が留学した後は、その傾向にさらに拍車がかかっています。
 とはいえ、いつまでもそんな自分をめぐる環境に、葛藤なく居続けることができるでしょうか? 児童期とは異なり、思春期はさまざまな理由から、不安が高まりやすい、難しい時期なのです。
 ピーター・ブロスは、児童期と成人期の橋渡しである思春期青年期の精神発達の理解に貢献した精神分析家です。思春期を初期思春期(中学生前後)、中期思春期(高校生前後)、後期思春期(大学生前後)に分類しました。とくに、中期思春期は、心の問題が起こりやすい時期です。
 精神分析の専門用語で「エディプス葛藤」と呼ばれますが、幼児期には異性の親への愛着、それと同時に同性の親への嫉妬や敵意が芽生えます。この感情は、小学校に入る頃にはいったんは影を潜めますが、中期思春期に再燃し、それが子どもの不安を高めやすいという精神分析的発達論の考え方があります。
 小学生の時代には、父親との関係はA子さんにとって問題になっていませんでした。しかし、思春期を迎えてエディプス葛藤が再燃したA子さんが、母親よりも自分のほうが父親と近しい関係にあることで、母親への潜在的な恐怖感を抱くようになったと考えることができるのです。
 同様に、自分が女性として成熟していく不安が、A子さんにとって「食事への恐怖感」として表れたと考えることもできました。
父親との関係が母親に対する恐怖に
 これらのことを伝えると、A子さんの両親もすんなりと理解してくれました。2人とも、内心思うところがあったのかもしれません。
 私の勧めに従って、以降、父親がA子さんにお菓子や夕食を作らせることはなくなりました。もちろん、マッサージや夜の散歩もやめました。学校の勉強では、過剰に父親が介入せずに、自分で計画して勉強する習慣をつけるように促しました。
 家庭内において、父親、母親、そして子どもの位置づけや役割、それに親離れの行動などは「本来あるべきもの」に修正されていきました。
 しばらくして、A子さんの姉が留学から帰国すると、家族の関係は、さらにA子さんの発達を妨げない健康なものへと改善していきました。
 それと共に、A子さんが抱えていた「食べることが怖い」という症状は、徐々に治まっていきました。
 当初から、体調に変化を与えるほどではなかったため、かかりつけ医からも医学的な病名での診断はありませんでした。A子さんの両親がクリニックに来た理由も、「問題はなさそうだが、念のため」だったのです。
 とはいえ、A子さんの内面には、思春期ならではの葛藤が存在し、それが「食べることが怖い」という症状で顕在化していたわけです。
 特に中期思春期は発達が滞りやすく、難しい時期です。身体的にも子どもから大人の体へと大きく変化し、それを受け入れていかなければなりません。この時期に不安が本人の許容量を超えて高まると、さまざまな心の問題が生じてきます。子ども自身一人では対処しきれない、もしくは、親として子どもを発達方向に導くのが難しいと感じたら、症状や病名にかかわらず、専門医へのご相談をお勧めします。(関谷秀子 精神科医)



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