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すっかり記事を怠っていたが、去る1月26日、国立劇場に今年初歌舞伎に行ってきた。
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1月も下旬だが、公演の間は正月仕様。
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場内にもおめでた子年の凧が。
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公演は「菊一座令和仇討」四世鶴屋南北の「御国入曽我中村」をアレンジした作品らしい。
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座席は3等席。この席が帰れば今や映画より安い。
定式幕の中央に新年の挨拶が。これどうやって幕を開けるのかと思ったら、暗転し、その隙に中央の挨拶飾りが取り払われる形だった。
そして、この作品は上下日二本の花道が使用される。
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場内案内板にも花道二本。
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休憩時間に見学に行った。上手の仮花道揚幕。
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仮花道。
〈序幕〉
「鎌倉金沢瀬戸明神の場」
頼朝の時代、大江家の跡目争い。本来の後継者・千島之助を妾腹の志摩五郎が頼家の御前で貶めようとする。
そんな中、大江の家臣、権三と権八が頼朝縁の鶴を襲おうとした鷹を両花道から現れ矢で同時に仕留める。
志摩五郎が神前を血で穢すとはとつっこむが、矢は鷹の羽根を止めただけで血は流れてなかった。小道具を絡めた一連の描写は見応えあった。
志摩五郎は意地悪く、この二人なら古寺に出るという化物を退治出来るのではとそそのかす。
「飛石山古寺客殿の場」
権三と権八の様子を見に秘かに現れた志摩五郎、古寺の化物に遭遇し退散。その様は滑稽で、また化物の造形もユーモアで楽しめる場だった。
化物の正体は権三、権八のそれぞれの妹で、結果的にそれぞれの妹と権三、権八が結婚することに。その顛末も面白おかしく描かれ楽しめた。
「六浦川堤の場」
権三と権八それぞれの養父の密会。彼らが志摩五郎派ということが明らかに。たまたまその場で事情を知ってしまった権三権八、それぞれ養父を諌めるが聞き入れられず養父達が刀を抜いたことから切り合いに、どさくさの中、今度は権三と権八がそれぞれの養父を殺してしまい、それぞれ親の敵となってしまい、二人で刀を交えることに…
そこに割って入ったのは幡随院長兵衛。鎌倉時代の設定ながら江戸の侠客でお馴染みの長兵衛が登場してしまうところが歌舞伎の面白いところ。この場も見応えあった。
〈二幕目〉
「朝比奈切通し福寿湯の場」
志摩五郎が大江家を継ぐためくすねておいた家宝を、湯どころで肌身から離れるというシチュエーションを使ってどたばたに描いた笑える場。
女湯を覗こうと欲望をむき出しにする志摩五郎、そのいやらしい心を利用し、結局家宝をかすめ取ることに成功するおせん。喉が渇いたらタピオカドリンクを飲んだり、はちゃめちゃな面白いエピソードを交えた、老若男女誰が見ても楽しめる場だったと思う。
「鈴ヶ森の場」
養父殺害等の罪で追われる身となった権三と権八。権三はなんとか逃亡に成功するが権八は捕われの身に。
処刑場から権八の家臣と妻八重梅が謀を駆使して助け出す様子は手に汗握り見応えあった。
〈三幕目〉
「下谷山崎町寺西閑心宅の場」
手負いの権三と権八はそれぞれ別ルートで偶然にも下谷の町医者、寺西閑心の元へ。
たちどころに負った傷が治るという大金の必要な薬を手に入れるべく工面する物語が展開。
権八が訳あって女装をしたことから女に勘違いされ廓に売られることになるなど、まだ笑いのあるおだやかな展開。
「大音寺前三浦屋寮の場」
廓に入った権八は自分を見初めた客が大江家の家宝を預かっていることを知り、女としてたぶらかし、自分に預からせることに成功。歌舞伎の男女の機微は見応えある。
「元の寺西閑心宅の場」
家宝を手にした権八はいまだ寺西宅に身を寄せる権三の元へ。しかしその前に現れた閑心によって、薬の噂を流して寺西家に来るようしむけ、家宝も偽者を客に渡していたことが暴露される。そして閑心の正体は頼朝の弟、範頼であり、すべては自分の邪魔者となる権三と権八を始末するための作戦だったことが明かされる。歌舞伎らしい正体明かしのシーン、存分に楽しめた。しかも寺西家にいる間、二人には毒が盛られており、今や範頼への反撃不能で絶体絶命。う~む、すごい演出。
さらに勝ちを確信し範頼が去ると、閑心の女房役だったおせんが実は二人の姉であり、二人が兄弟であることが同じ御守りを持っていたことから判明。おせんは秘伝の薬で二人を助け自らは不明を恥じで自害するという劇的な展開。
〈大詰〉
「東海道三島宿敵討の場」
範頼を追撃する権三と権八。それぞれソロでの立ち回りがあり、まさに特撮ヒーローもの同様に演出で存分に楽しめた。
二人は家宝を取り戻すことに成功し範頼も追いつめるが頼朝が場を沈め、次の機会での敵討ちを計らい幕となった。
ストーリー展開もワクワク感あったし、随所に笑いどころがちりばめられ、両花道の活用といい、正月らしい華々しい、そして楽しめる演目だった。
権三の松緑、権八の菊之助の芝居も瑞々しかったし、江戸のヒーロー長兵衛、そして今回の黒幕範頼を演じた菊五郎の存在感もすごかった。
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