結局…飛行機に乗れたのは夕方で、
サンパウロへ到着したのが午後6時。
JALのデスクカウンターへ走る。
誰も居ない…
あちこち走り回って分かったのは、JALは明後日まで飛ばないって事。
今度は、日本までの便を持つ航空会社を調べてカウンターへかけこむ。
「日本へ帰りたい。」
私の声に顔を上げたおじさんが「いまからですか?」と聞いた。
「そう。満席ならキャンセル待ちをします。とにかく、今すぐ帰りたい。」
そう詰め寄った私に、彼は申し訳なさそうに言った。
「残念ですが、それは出来ません。
今日は、日本へ行く便は出ていないんです。」
「なら、どこかで乗り換えて行ける便は?」
「もちろん、乗り換えになります。
それでもやはり、最短で日本へ行けるのは明日の深夜発の便です。」
明日? しかも深夜?
日本って なんて遠いんだろう…
余りの遠さに眩暈がした。
私は、何だってこんな所まで来てしまったんだろう。
小さい時、弟は言ったんだ。
母に連れられて歯医者に行く前、必ず。
「ねー(ねーちゃん)、おくすりちょうだい。」って。
私が調合するフリをして渡した、見えない薬。
「効くはずないんだけど、飲むと痛くないんだもん…」
とつぶやきながら弟は、前日から予約を入れる程の信仰ぶりを見せてた。
それから
「ねーとなら乗る。」って、ジェットコースターにはいつも私と乗りたがってた。
「もし、ベルトが外れても、ねーとだったら大丈夫な気がする。」んだって。
また、作ってやるよ、お薬。
あの時のより、ずっと効くやつ。
あたしと居たら大丈夫な気がするんだろ?
病は気から…って言うんだとしたら「大丈夫な気がする」のって、
すげー大事なんじゃ?
わかってる。
あいつはもうあの時の子どもじゃない。
でも、よく聞くでしょ?
「子どもはいつまでたっても子ども」って。
正にそれ。
弟はいつまでたったって弟なんだ。
先に生まれたあたしより先に、あいつに何かある事なんてガマンならないんだよ。
何があったって、何をしたって、守ってやりたい。助けてやりたいんだ。
なのに、なのに、あたしは今、どこに居る?
そばに居たって何も出来ないかも知れない。
でも今は、そばに居ることすら出来ない。
しゃがみこんで動かないで居る私に、
カウンターから出てきたおじさんが、顔を覗き込むようにして言った。
「とにかく、航空券と、今夜の宿の手配をしてあげるよ。
そんなに費用もかからないところをね。
そこで少し休むといい。そうするしかないんだから。」
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