与一から出て来た生き物の記録

奇妙な生き物。早朝の自宅ガレージ奥の「与一」の中から、様々な働きをする者たちが生まれています。その有様と効能の記録です。

そらの物語・55 「”取り”はHiたかお」

2011-04-23 03:13:46 | そらの物語


 


55


「”取り”はHiたかお」


 



いったん騒然とした場内は、一拍あけて言葉を継ぐ「FA637」に集中した。


「この”希崎”という人物が、”発病した”と言っている年月日なのですが、何か記憶にありませんか?そう、この協議会の開催直前に”おがたの尻”から出てきた「ファイル」の中にもこの”1990年代”があり、気になる記述があるんです。 では、もう一度、”あのファイル”をご覧ください。」


 


月の者256N    不定期・発信




 




1900・06・22  初起動 確認




1919・03・01 返還拒否 確認




1920・12・07  生き物バージョン5220076mbpより離脱  確認




1920・12・08  再度 返還拒否  確認




1940・05・21  誤作動頻発 進化の可能性  確認




1951・01・20  生き物バージョン0008099mbpより離脱 データ解凍に失敗  確認




1953・04・?  誤作動  確認




1962・10・06  全てのバージョンから離脱  未確認




1966・?・?  動きアリ  未確認




1990・?・?  動きアリ  未確認




199?・?・?  他生命とのリンクの可能性 検知  未確認




2004・?・?  「おがた」への発信  確認


 


「赤線の部分です。 月の者は”与一発足”の百年以上前の1900年に初起動を起こし、いく度も”返還”を拒み、その後も”誤作動”を繰り返しながら進化し続けた、そして199?年に”他生命とリンク”した。 この「他生命」とは「人間」ではないでしょうか? わたくしの憶測ですが、「リンク」された”人間”が希崎であって、それを希崎は”病気が発病した”と認識し、診察を受けた。 その「リンク」によって何んらかの症状があったのかも知れません。 医師がどう診断したのかはわかりませんが、「致死に及ぶ病」であると診断し、年月日も切って希崎に告げた。 そして、どの様なとらえ方なのかも全く分からないのですが、”告白”の中にあった”同義的に許す事のできない犯罪”を犯し、滅びる事を切望している。 これは、あくまでわたくしの飛躍した憶測かも知れませんが・・・。 しかし、 「返還」などという単語が普通に出て来るはずはないですし、ましてや「月の者256N」という名称に至っては・・・。


今の所、この希崎からの出し抜けのメッセージに対しての返答はまだ何もしていません。 ただ、メッセージの中の”同義的に許す事ができない犯罪”というのが何を指すのかは分かりませんが、”今年”と期日を限定しているからには、わたくしたちの対応もあまり悠長な事は言っていられないと思うのです。 皆さんの意見をお聞かせ下さい。 わたくしからの報告は以上でございます」。


 


場内は静まりかえった。 誰もがこの報告に対してどう対処したら良いものか、困惑し、思案していたのだ。 静まりかえった場内に、帰って間なしに眠ってしまった「一の妄」と「ケリー・糸3番」の”いびき”が小さく聞こえている。 「希崎」という人物の出し抜けの「告白」に対しての「FA637」の”飛躍した憶測”は、それを聞いていた全ての生き物たちにとって”飛躍している”ようには思えなかった。 ”飛躍”どころか、おおむね”その線”で正解ではないか? 皆、「よも清さん」の返答を待った。 しばらくの沈黙ののち、全ての生き物たちと同じく、長い首を折り曲げて深く思案していた「よも清さん」が、顔をあげた。


(よも清さん) 「・・・・・・・・見つけましたね。 この人物は恐らく”月の者”です。 ただ・・・その確証が何もない。 「希崎」という人物に「月の者」が”憑りついている”様な状態なのか、それとも「月の者」そのものなのか?・・・・。 いずれにせよ、まずはしっかりとした情報を集める事です。 その上でないと正しい判断はできませんし、もし私たちが判断を誤ってしまえば多くの人々が被害を被る事になってしまいかねません。 すでに「告白」の中でも、強く「犯罪を志向している事」をみずから述べています。 それに、この「告白」という”かたち”を取っての文書も、単純に”急に告白をしてきた”ととらえて良いものなのかどうなのか?・・。 自分自身の態度をハッキリと示しておいて、その上でこちらの”出方”を見ている様にも思えます。 いずれにせよ、不明な点が多すぎます。 ただ、「サソリ」や「カマクイ」たちとは「犯罪を思考している」という点では似ているようですが、少し違う次元で物事を思考する人物であるという事が、この文書から伺えます。 


私たちの「大調査」において大切な事、それは、「調査の範囲」をどんどん”限定”し、狭めて行く事です。 もし違っていれば、「はじまり」にもどればいいのです。 この人物を「月の者と限定」し、今後の「大調査」を進めましょう。 「FA637」一名だけでは危険が多すぎます。 もしもの時を考え、誰か”相方”を連れて行って下さい。 そして、その人物に対しての返答は


”はじめまして。 私たちはあなたを「止める者」であり、あなたの「末裔(まつえい)」です。


 今後ともよろしくお願い致します。”


としておきましょう。 送信名は ”与一” でいいでしょう」。


(FA637) 「わかりました。 では相方については熟慮の後にお伝えいたします」。


 


全ての生き物が緊迫していた。 しかし、今すぐに何かができる訳ではない。 どこまでも続いて行きそうなこの「協議会」の、ちょうど良い切り上げ時だと思った司会・生き物が、「協議会」の閉会の言葉をのべようとした時、会場の外側に位置する所から、慌てた口調の大阪弁が響いた。 「まいどまいどまいど~!!まだやってんですかぁ??お~疲れぇ~~ッス!!もう、終わってる思てましたがなぁ~!!!」。 「Hiたかお」が帰って来たのだった。 会場のあちこちから「たかおくんだ!!」というどよめきが起こった。 いつもなら「Hiたかお」は皆に愛想をふりまいて一つ二つは”おもろい事”を言っては盛り上げるのだが、勢いはいつもと変わらないのに、何か様子が違っていた。 居並ぶ生き物たちの中央突破をする様に、真っ先に「よも清さん」の前に進み出て、こう言った。 



(Hiたかお)「よよよよよ、よも清さん!!!」。 (よも清さん) 「ああ!!たかおくん!!!お疲れ様でした!!本当にお疲れ様でした!!」。 (Hiたかお) 「よも清さん!!”そら”についての新しい報告なんですが・・・」。そこまで言って、なぜか急に言葉に詰まってしまった。 (よも清さん) 「??そらくんの新しい報告ですか?」。 (Hiたかお) 「はい、斎元さんへのメールがあまりに”ひつこくて”・・・で、やっと寝てくれたと思ったら・・・・」。 (よも清さん) 「思ったら??・・・」。 (Hiたかお) 「・・・思ったら・・・ですね・・・」。 と言うなり、「Hiたかお」は又言葉に詰まってしまい、その”鳥”を思わせる丸い瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。 (よも清さん) 「思ったら・・・たかおくん、どうしたのですか?何か起こったのですか?!」。 「よも清さん」だけではなく、そのやり取りを聞いていた全ての生き物たちが身構えるふうだった。 ”私たちのそらくん”に何があったのか??もし、何かあったら、どのような対応も厭わない・・・そんな思いで、皆が身構えていた。 (よも清さん) 「どうしたのですか?もしかして、神経的な新しい症状が・・・・・」。 (Hiたかお) 「いえ・・・ちがいます・・・。 泣いてるんです・・・」。 (よも清さん) 「んん??泣いてる?」。 (Hiたかお) 「はい。 眠ってからしばらくして・・嬉しそうな寝顔で、で・・・泣いてるんですよ・・」。 感きわまった「Hiたかお」の感涙は、”感きわまりすぎて”、「Hiたかお」の報告を困難にする程の勢いで、とめどない。 


(Hiたかお) 「嬉しかったんですよ!きっと!・・・。斎元さんと手をつないだ事、それからメールのやり取りができるようになった事、親しくなれた事・・・・。よっぽど嬉しかったんですよ!!呼吸は完全に睡眠の状態でしたから、熟睡していました。 あんな・・・あんなに嬉しそうな笑顔で眠るそらは初めてなんです!!ボクはもう・・・あの子の気持ちを考えると、嬉しくて、嬉しくて・・・もう・・・もう・・・」。そこまで話して、ついに”オイオイ”泣き崩れる「Hiたかお」のオーバーな報告に、同感の涙を浮かべる生き物たちもいれば、笑いながらも賛同の拍手を送る生き物たちもいた。 場内は急にあたたかい空気が流れた。 (よも清さん) 「たかおくん!!それは、最高じゃないですか!!この協議会の最後を飾る、とても素敵な、そして何より素晴らしい報告でした!本当にご苦労さまでした!!たかおくん、あなたの真心からの”奉公”が実を結んだのです!!この任務をあなたにお願いして、まさに大正解でした!!たかおくん!あなたでないとできない、とても素晴らしいお仕事です!!皆さん、そう思いませんか?!!」。


満場の大拍手と喝采が爆発した。 しばらく続く全ての生き物たちの「大はしゃぎ」が収まるのを待って、司会・生き物の閉会の挨拶が響いた。 


「それでは皆さん!、本当に長時間の協議、本当にお疲れ様でした!”希崎”について、そして”サソリとカマクイ”について、その他にも様々な新しい課題も多々出てきてまいりましたが、「協議会」としては、以上をもちまして閉会とさせて頂きます!!本当にお疲れ様でした!!!」。


       


 


波乱に満ちたこの「協議会」は、更なる波乱を約束するように終わった。 「協議」の中で、「分解えら子」や「メジ式」の新たな人事も行われたが、「Hiたかお」についても「24時間態勢で「そら」のもとに常駐」と、シフト変更がなされた。 もとよりこれは「Hiたかお」自身が望んでいた事でもあり、「そら」の今後を考慮しての事でもある。 「大調査」そのものも24時間態勢となり、城東区内全域と京阪沿線の各定点に散在していた全ての生き物たちについても、その全てが「希崎」のいる「やさしさ倉庫」の所在地でもある「鴫野町と、野江付近」にさらに範囲を限定し、進める事となったのである。 


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4 コメント

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えええぇぇぇぇ?! (ココ)
2011-04-23 13:00:57
末裔?!末裔なの?!

なんだか生き物たちがカッコよく見えてきました…(笑)

はたらき協議会から帰る生き物たちの列を見て

この物語が始まった当初は、まさかこんなにも壮大なお話になるとは思ってもいませんでした
ただそらくんのために足元でゴソゴソしてるだけなものかと…
超失礼でした!すみません(笑)

でも希崎の言葉はなんだか切なくて。

>”同義的に許す事のできない犯罪”を犯し、滅びる事を切望している。

犯罪が目的の愉快犯ではなく、そうして何かを道連れにして「返還」することを望んでいる気がして…。

ゆきりんとぽちの一件以来、私の中で「返還」が特別なものになっているせいかもしれませんが

返還とは消えることではなく、たとえば赤子に戻って真っ白からやり直すような神聖なもののような気がしています。

果たしてこれからの展開は?!
うっはー!!気になる!!

そしてHiたかおのシメにはうるっとさせられました

斉元さんはお気の毒でしたが(笑)←でも幸せだったはずだ
斉元さんがそらくんの気持ちを丸まるっと受け入れてくれたことでそらくんは心から満たされたんでしょうね(*´ー`*)

それを我が事のように喜ぶたかおっち…。
そしてそんなたかおっちに惜しみない称賛を浴びせる生き物たち…。

・・・・・・・


久しぶりに来てまたもや長々と好き勝手語ってしまいましたけれども^^;
いよいよ佳境ですね!
次のお話も楽しみに楽しみに待っています
返信する
そう・・末裔・・・。 (ココさんへ(お返事))
2011-04-24 05:07:27
カッコ良いんです(笑)
僕の中では、「生き物たちの物語」の頃から、
生き物たちは、とにかく、カッコいいんです
”キモカッコ良い(大笑)”
いや、それか、”キモカッコおもしろい(?)”・・

=この物語が始まった当初は・・=
そうそう建物でいうと「基礎」にあたる部分は最初からあったんですが、
でも、実際「組み立て」ていくうちに、
「え”え”え”~~っ?!!!??
こんなトコにベランダが??」
「え”え”え”~っ??こんなお部屋が、なな何んで
・・・・・。
「聞いてねえ~」
みたいな感じで、あげくの果てには自分自身まで出演してしまったり・・・・。

とにかく「ヤれるトコまでやっちまえ()」的に、ノリノリで楽しんでます
それを、同じく楽しんで頂けたら・・・
こんなうれしい事はないッス・・・。

=希崎のことば=
この人は本当にすごく切ないです、本当に・・。
”真剣”に「悪」を描こうとすると、
なぜだか「切なく」なってきます。
なんでやろう??
イメージ的には「政治犯」とか「思想犯」的な感じ。
昔で言うと、戦争を起こした「指導者」的な人物像をイメージしています。
ヒットラーとか、ムッソリーニとかその辺の・・・。
この「切ない」感じは、人間の持つ「切ない」部分かもしれません。
そんな感じを、上手く描ければと思っています。教育上・・・あまり良くないかも知れません・・・。


=たかおっちの”シメ”=
ちょっと「ディズニー的」な(笑)・・
ちょっと「ヒューマンな」感じに・・・。
実は大好きな場面なんです
ずっと前から早く書きたかった、
あたため続けていたシーンでもありました
やっと描けた(笑)・・。

=「返還」についてのいろんなキャラたちのいろんなとらえ方=
僕にとってもココさんのおっしゃる通りです。
でも、それをちょっと”ズレ”た所でとらえてしまうキャラが「希崎」さん・・・。
「神聖なものとしての返還」なのですが、
それがそのキャラによって違ってくる。
「希崎」さん。いろんな意味で、大変な人です
「優しさ倉庫」での、希崎さんの”仕事っぷり”は見ものですよ
こんな人自分の職場にいたら、ごっついイヤ!!って感じなんだけど、でも、この人、スゴ・・とも思ったり・・。
そんな感じで書き込んでいきます(うひひひ


・・・・・・長い・・・・・と思いながらも・・・ついつい長いお返事になってしまっている
こんななが~~いやり取りをするBlog、他では見た事がない(爆笑)
何?これ?長すぎ・・・。

まだまだ、だだだぁ~っと書きたい感じですが・・・「ええかげんにせえっ!!!」とかって突っ込まれそうなんで・・・
このへんで

返信する
面白いです。 (さかた)
2011-04-24 16:16:44
そらの物語、始まりから全部読ませて頂いただきました。
細かな感想はまた送ります。個人の趣味の延長としてのブログにこれほど夢中なった事にはありません。読み物が好きなもので、いろんな方が創作された作品をブログを通じて拝見しておりましたが、そらの物語ほど読み手の感性にじかに抵触するようなリアリティーを実現されている方はいないのではないのでしょうか?ブログで収めておられるのが勿体ないくらいです。一つの話のレベルや文節のレベル、そして単語のレベルに至るまで、井川さんの言う様に、詩的な表現と小説としての表現が見事に絡み合っています。
分解えら子、ケリー糸3番、FA637、一ノ妄、メジ式、滝沢何んパオ、和解マン、月の者、ほとんどが現実味のない奇抜なnameで、どうしてリアルな現実味が あるのか。
わたくしはこの物語の創造性に驚きと共に感動しております。
応援しております。

さかた
返信する
ありがとうございます!!! (さかたさんへ(お返事))
2011-04-26 04:29:57
「そらの物語・読破」!!!!!
すごいです!!
書いた本人でもなかなか出来なかったりして(笑)・・・・
いやいやそんな事はないんですが
実は何度も読み返しつつ、やって行ってるのですが、未だにちょこちょこ書き直したり、書き加えたりしています
「誤字・脱字」もまだまだ全部は直せてない(笑)・・・。
なので、「全部読んだよ!」と言われると、
ものすごいうれしい半面、ちょっとドキっとします
その辺でさかたさんがお気づきの部分があれば、またコソっと教えて下さい
「げんてん・2」では本当にその辺でお世話になりました(苦笑)
”あれ”以来、一つの記事をUPする前には、
ものすごい見直す習慣がつきました(大笑)。
何重にも、ありがとうございます!!!!

=話しのレベル・文節のレベル・単語のレベル=
いろいろと工夫してみてるんですよ
必要以上に「感触」がある言い回しだとか、
自分で読んでて「においや味」とか、「さわった感じ」だとか・・・とにかく毎回何回も表現としてどうなのか吟味してからUPしています。
記事の内容が出来上がっていても、”漬物”みたいに、一日二日はぜったいに「ねかしておいて(笑)」からUPするんですが、一日置いておくと書いてる時には気がつかなかったいろんな事に気がついて、描き足したり削ったり・・
なんだか、そうした「ゴソゴソ」とやってる努力を認めてもらえた感じで、ホント!感無量です!!

=詩的な表現と小説としての表現=
すみません、正直、最近、あまり考えていません
ほとんど「ノリ」です(大笑)・・・。
「ノリ」というか「勢い」というか(笑)・・・。それを”キチンと”言ってもらえたような(笑)・・・。

=奇抜なName=
この”奇抜さ”は今後も変わりなく(笑)がんばっていきます!!
細やかなコメント、本当にありがとうございました!!!!
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