与一から出て来た生き物の記録

奇妙な生き物。早朝の自宅ガレージ奥の「与一」の中から、様々な働きをする者たちが生まれています。その有様と効能の記録です。

和解マン 「稲のうた」ー最終話ー

2009-06-11 10:25:09 | 「生き物」たちの物語

「稲のうた」



ー最終話ー



 



事務局より



水田撤去作業の内訳



参加動員数・・・22名



作業開始時間・・・7時30分



作業内容・・・集合完了の後点呼。ミーティング。担当者・斎元さんより一言。



事務局より一言。社長挨拶。



泥水のくみだし作業ー15名。



泥の撤去ー全員・4t車3台(手配済)



当日、水田撤去完了後、通常業務に入ります。したがいまして極力スムースに作業を進め、十分な休憩を取って頂き、一日の仕事に支障が出ない様、よろしくお願いします。





「ゆきりん」と「ぽち」は



「和解マン」を怖がっている



どんな「かたち」をしているのか?



どんな「こえ」をしているのか?



何人もいるのか?



「斎元」の状況をずっと見ている限りでは



すぐにでも電話しそうな勢いだ



緊急事態に備え



待機する私達も



不安と期待でいっぱいで



いよいよの時を



迎えようとしている



にわかにざわめきがあり



「ゆきりん」と「ぽち」からの



「発信あり!」の知らせ



私達は即座に対応する為



耳をそばだてた



2~3回のコールの後



 



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



「ご利用ありがとうございます。



登録番号の確認をおこないます。



{*}じるしを5回押してください。」



「*******」



 



「確認が取れません。



もう一度{*}じるしを5回押してください。」



「*****」



 



「確認が取れました。



次に電話番号を



市外局番から順に押してください」



「999-9999-9999」



「斎元様ですね。



斎元様に「稲」様より



新着メッセージが



届いています。



これよりJPSGファイルにて



メッセージの転送を行いますので



電話を切って



心を開いて



お待ちください。



ご利用ありがとうございました。」



 



JPSGファイル



 



川は氾濫し



泥水はしぶきを上げ



われらの



幸福の水田に押し寄せ



錯綜する根っこごと



弾き飛ばし



われらを翻弄する



みみずたち おけらたち



その他の ちいさい者たちよ



われらの根元に集いなさい



われらと共に



この安住の水田に



留まり続けるために



たたかおう



 



いつか来る



愛する実りの時をめざし



いつか来る



報恩の 収穫をめざし



いつか来る



皆の よろこびの時をめざし



共々に たたかおう



 



みみずたち おけらたち



その他の ちいさい者たちよ



決して流されてはならない



いかに濁流が荒れ狂おうと



決して 



流されてはならない



 



われらは 大木の心で



しりぞく事はしない



あくまで太陽の光を希求し



皆の喜びの時をめざし



共々にたたかおう!



JPSGファイルText





 私達は このメッセージに拍手した



これは 生命の



「たたかい」のメッセージである



「ゆきりん」と「ぽち」は


額に大きく「OK!」の文字を輝かせ




無垢な笑顔を



私達に向け



水田の方へ進んで行く



「返還」の儀式である



私達の大切な ちいさな仲間 


「ゆきりん」と「ぽち」は


みみずたち おけらたち


その他のちいさいものたちと


共にたたかう「稲たち」の


「いのちのみなもと」としての


「勢い」を増して行くにちがいない





「返還」は実に



滞りなくおこなわれた



さようなら



「ゆきりん」と「ぽち」





泣き寝入りの「斎元」は、疾走するスクーターが勢いのままに、急ブレーキでたてる派手な音に驚き



あわてて目覚め、自宅のドアを開けた。そこには、スリップで舞い上がる砂煙と、



スクーターにまたがった「そら」の姿があった。「そら」は大きな声で、



目覚めきれてはいない様子の「斎元」に言った。



「のれよ!!」



 



朝のまだ早い時間、二人は水田に到着した。泥の撤収のために用意された3台の4t車は



もう着いていて、作業の始まりを静かに待っている。



二人は水田の前で立ち尽くしてしまった。



 



そこには、朝日を浴びて嬉しそうに風にそよぐ、豊かに育った緑の稲が



幾重にも重なり合って、いのちの勢いに満ちていたから。



「そら」はつぶやいた。



これは「バッテン」じゃなくて



「まる」だね!



 



おしまい



 



 



 


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4 コメント

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ありがとうございました&お疲れさまでした^^ (ココ)
2009-06-11 11:19:37
前編の時の怒涛のような感動とは違い、今はとても静かに感動しています。

読めてよかった。胸のすくようなお話でした。

実は、分からなかったのです。
「そらくん」という少年が、うまくイメージできなくて。
「たちが悪いがうそは言わない。美しく、わたしたちと話ができる少年」
どんな子だろうと、ずっと思っていたのですが…

普通の子でした。

多分うちの近所を、夜中爆音バイクで走る彼らと変わらない、普通の少年でした。
それで思い出したんです。
井川さんのお話は、どこか遠い世界の話ではない。
ありふれた、どこにでもある日常の中に隠れてるかもしれない「与一から生まれたもの」たちのお話だってこと。
そう思って読み返した時初めて、「そら」くんや「斎元」に色がついた気がしました。

斎元とそらくんの出会い、私は好きです^^
「じゃがりこ」投げつけて逃げるそらくん大好きだ(笑)
そこから斎元がそらくんに思いを抱くまでもとても自然で、たくさんの説明がなくてもストン、と私の中に落ちてきました。お見事です^^
 そう言えば前回「和解マンに電話する理由が水田のことだと思っていた」というようなコメを残しましたが、最初の方を読み返すとちゃんと、「斎元は和解マンと何度も連絡をとっている」「斎元がそらと話している姿をわたしたちはよく見かけた」と書いてありました。
…伏線ちゃんと張られてるじゃん…_| ̄|O

となると、不思議です。
私は「泣き寝入りする斎元と固まった携帯」を見て、和解マンとのコンタクトに失敗したと彼は思っているんじゃないかと思ったんです。
そして逆に、「稲」からのメッセージはそらくんが受け取ったのではないかと。
(そして砂煙をあげながらスクーターで登場するそらくんは絶妙に私好みかと笑)
でも斎元は和解マンとは今までコンタクトとれてるんですよねー…。
んん?私の読解力不足でしょうか^^;
それか深読みしすぎ??

そして、最終話。
「ゆきりん」と「ぽち」の返還。
どこまでも二人に肩入れしてる私ですが(笑)素直に、よかったね、と思いました。
もしかしたら「返還」は、私や二人が思うほど大げさな、怖いものではなかったのかもしれません。
人間でいう「死」なのだと思っていたのですが、最終話でそうではなく、「再生」なのかもしれないと思うことができました。
それは稲たちのメッセージが、ちゃんと私にまで伝わったからなのだと思います。
人間など到底及ばない、輝く命の言葉だと思いました。
うん。光が差した(笑)


冒頭で述べましたが、本当に読めてよかったと思える作品でした。
私には井川さんのような世界を表現することはできませんが、井川さんが形にしてくれて、それを見ることができるのはとても嬉しいことだと思っています^^
また彼らの世界を読ませてくださいね♪

またもやガッツリ長文で失礼しましたー^^;


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ことめちゃんへ (井川誠一)
2009-06-11 15:59:49
前作にコメント戴いてたのに返事ができず、本当にごめんなさい
実は「稲~」ので、作品のUPが上手くいかず、格闘していました。

「キャラの一人一人の個性がもっとよく見えるように・・・」そうそう!!これ、参考になりました
ありがとうございます!!確かに、何回か読み返してみると、読み手にとってこれほど「不親切」な話はない・・・

だいたい、キャラの個性はもとより「いつ、どこで、誰が、何を、どうしたのか」が、ほとんど説明されていない・・・

「何を、どうしたか」のみで、話が進んでしまう。
実はこれ、わざとやってるんですけどね・・そして、最後の方で、ちゃんと「説明」的なエピソードを、と思ってたら、PCがトラブルオンパレードで(笑)

「読解力」!こういう能力は僕の作文を見てもらう時はあまり必要ありません(断言!)「なんとなく」でいいと思います
「なんとなく」が大事

さて、自分のやりたかった「課題??」が一段落したんで、ことめちゃんのとこにも遊びにいくぞー

あ、ところでこの返事は、ここに書いてるけど、そちらの届くのかな・・・
返信する
ココ先生! (井川誠一)
2009-06-11 16:51:08
濃い濃いストロングなコメント、本当に本当にありがとうございますうう「ゆきりん」と「ぽち」も大喜びです(笑)「ゆきりん」と「ぽち」は「おかーさーん!!」って言ってます

そして、「稲~」前編にも激しいココさんコメコメが・・・
重ねて感謝です!!!

実はココさんのコメントからたくさん学んでいます。本当にすごい人ですね

「どこか、遠い世界の話じゃない・・・」そんな感じですよ!まさに!!「現実」ではないんだけど、「あっちの世界」でもない、微妙な感じ。う~ん上手く説明できません(笑)

「そら」と「斎元」の具体的なイメージ。
実は、「絵」を付けてたんですよ。「ことば」で説明せずに、それって解るように、二人のエピソードの近くに・・・ところが例のトラブルのおかげでみんなけずってしまう事になってしまいました Gooのあほたれ!!!
というか、たぶんパソコン初心者の僕の技術の問題なんです・たぶん。だんだんその辺のスキルUPもしていくと思うんで、気長にお付き合い頂ければと・・
っていうか、いろいろ教えてくださいねー!

「斎元の電話・伏線をじつは敷いていた」・・すみません、わかりにくくて実は「稲の~」と「和解~」と「斎元+そら」のからみで「しめ」ってのが、一番はじめからあったんです。その「つなぎ」に「優しさ倉庫」を思いついたっていう感じです。

とりあえず、長々とありがとうございました!!!
でも、ココさんの「イメージする力」というか「想像力」って、本当にびっくりです!それだけじゃなく、ちゃんと相手につたわる様に「ことば」にできる・・・あなたはもしやプロ???
またちょくちょくココさんの方に遊びに行きますので、その都度いっぱい吸収していかせていただきます僕は「吸収力バツグン」で「多いときも安心!?」な人なので・・・・

ぐっひっひっひっひっ
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 ()
2009-09-10 11:03:39
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