「なないろ改装」
透明な朝日は 無愛想なコンテナの中に
ゆっくりと舞う小さなほこりのつぶつぶを
幾本かの あたたかな光りの筋で輝かせ まるで小ぶりな「銀河」のようだ
光りのつぶつぶを目で追うために少し動くと 体中を切り裂くような痛みが
音をたてて「自分からはみ出す」程の勢いで駆け巡り
次いで 鈍い痛みがそれに続く
しかし気持ちは 体中に強く巻きつけられた 痛みを覆い込む包帯の
荒々しい男の優しさに包まれて目覚めた「そら」は
なぜか安心感に溢れている
・・・・・・・イテテ・・・・・
ソファーに寝かされた「そら」の見える位置に置手紙
「出て行くんやったら、服は洗ってコンテナのうらに干してある
病院とかは行くなよ ポリがお前を捜してるから
行くあてなしなら、ここで暮らせ
もし そうするなら、お前の名前は今日から ”6号”や」
へぇ・・・今日からおれは「6号」? あはは! 「6号」やって! へんな名前!!
なんか うれしい・・・・これやったら まるで「すうじ」みたいやな!
おれの名前は 「6号」 「6」だけと 「号」だけで
「6号」だけや! これやったら いっぱつで覚えてしまうわ!!
「1号」・・・般若(はんにゃ)、阿修羅(あしゅら)、鬼、このどれもが該当する顔立ちで、「笑顔」が全く似合わない、親分肌の20代後半。未婚。豪快さと、A型の堅実さが矛盾なく具わった、リーダーとして有能な人材だ。
「カイ」・・・「えびす」の長老。40代も過ぎた いい大人であるにもかかわらず、「メンバー」から離れない。「1号」に男としての魅力を感じ、常に「1号」のそばにいて、「1号」の「かゆい所に手が届く」働きをする。「1号」からの信頼も深い。豊富な人生経験から、皆がボスの「1号」には言えないような相談事を、彼が一手に預かっている。朝 早起きなバツ1。O型の職人肌。
「ヘビ」・・・特攻隊タイプ。すぐ「極悪」になる。人殺しも平気だったが、「1号」に「教訓」され、今はだいぶと人間らしくなった。「ネコ」と小さなころからペアーで、それ以外に友達はいない、ちょっとさみしがり。「1号」の目標、「焼き鳥屋 ”えびす”」に乗り気な20代前半。未婚。B型、基本は自分勝手。
「ネコ」・・・おちゃらけキャラ。「暴走族」という「ハード・パワー」の世界があまり好きではなかったが、元来 不真面目な性格のため、流れ流れて、そうなった。おおらかで優しい性格。「ヘビ」と同じく「焼き鳥屋 ”えびす”」に乗り気で、それなら少しは真面目になれそうだと思っている20代前半。メンバーの中で唯一彼女ありの20代前半。O型。
「サソリ」・・・性格は「極悪」。「ヘビ」と極悪同士で、よくペアーにされる。「カイ・ヘビ・ネコ」の様に「1号」に対する忠誠心はない。あまり考えもなく行動し、起こったトラブルは「力」で解決する。「1号」に「力」で押さえられて「えびす」にいるが、「えびす」を出て他では生きてはいけない破滅型。「1号」と「カイ」に拾われてここにいるが、あまり感謝していない。「焼き鳥屋 ”えびす”」にも、まったくやる気なしの20代前半。AB型。
これが「えびす」のメンバーで、皆、軒並み「北斗の拳」体系で、実にたくましい。
「そら」が目覚めたコンテナは縦長40フィート(約10メートル強)の、「そら」が目覚めたソファー以外何もない「貸し倉庫」で、その改装のためメンバーはそれぞれで買い出しにでかけ、ちょうど「そら」が目覚めた時に、帰って来た。「1号」以外のメンバーは、警察には知られていないので、普通に街中をうろうろしても大丈夫だ。
「おう!ミイラくん!起きたか?!」と「ネコ」。 「そら」は「1号」の手当てにより、A型らし「きちっとした包帯の巻き方で、 ”ミイラくん”だ。均等幅に見事に巻き上げられた包帯は、「看護婦さん」顔負けかもしれない。
「サソリ」と「ヘビ」が、大判の部屋の仕切り板をどっちが先に入るかモメながら、2人で担ぎ込んでいる。「カイ」は両手にカップラーメンがどっさり詰め込まれたローソン袋をかかえての「帰宅」。 「取り合えず朝飯や!」と「カイ」。
その誰にともなく、おきぬけの「ミイラくん」が語りだした。
「いま、めっちゃおもろい夢 みたで!!」 「なんや、少年??また、いきなり、意味不明か?」と「ネコ」。 「 ”おっとっと”がな さかなの ”おっとっと”が、まんぼうの ”おっとっと”に ”おまえのひれは何で取れてるんや?って怒って言うてる夢!!で、まんぼうが、 ”折れたんじゃ!!”って切れてけんかになってまうんやけど、そこへ でっかいひどでの ”おっとっと”が出てきて・・・」
辛抱強くその話しを聞く気の「ネコ」を無視して、「ヘビ」と「サソリ」が部屋の仕切り板の設置にかかりだした。「カイ」もまた、「少年」は「ネコ」にまかせて、といった具合に「なあ、ヘビ、設置は午前中に終わったらいいから、とりあえずメシにしよう!!」と言った。 「カイ」がカップラーメンの用意を始めるのを見た、おっとっとを熱く語っていた「そら」は、話を途中でやめて「ああっ!!それは、 ”ながたにえんのえーすこっく”やな??」と、今度は「カイ」に話かけた。 「ネコ」は「おいおい少年!、おまえ”おっとっと”の話、おれ、ちゃんと聞いてるんやけど・・・」と言うのに「おれは”少年”とちゃうで!!”6号”やで!!」と ことわった上で「そうそう、どこまでいったっけ??」と ”おっとっと”の話を続けようとしたが「・・・・・・・・・・・・・”おっとっと”がぁ・・・・・ま、ま まんぼうの・・・・・」と、なかなか出てこず、「あかんやん!!途中で話しかけるから、わからんようになったやんか!!!」と「続き」を語るのを断念した。すかさず「ネコ」は「途中で話しかけたんは、あんたやろ?!」と、笑いながら突っ込んで話を変え、「おまえ ”6号”って、何んなん??それ名前?そう呼んでくれって事??」と聞いた。「だって、おれ、今日から ”6号”になったみたいやから・・・」と、自信無さげに、置手紙を「ネコ」に見せた。それをみた「ネコ」は、ちょっと驚いた。「あっ!!ほんまや!!しかもこれ1号の字や!!ええ??そうなん??1号の ”命名”って事は、おまえは・・おまえは、”ちゃんと、6号やな・・・」
そのやり取りを無視しているようで聞いていた、「ヘビ」が「うそやろ??」とあわてて駆け寄り、1号の置手紙を「ネコ」からひったくり「ほ!ほんまや!!ほんまに・・・ほんまや・・・・・。おれ、よう付き合わんで・・・・」と、やれやれ、といった具合。 「カイ」が「ほら、大日・交差点のこいつの”スタントプレイ”が、たぶん1号のお気に召したんとちゃうか?あれは、1号もびっくりやったから。普通の神経じゃないな。おれには真似できません、いや、真似しません。なっ! ”6号”!!」と、冗談っぽく「そら」に目配せ込みで話しかけた。 「うん!だいたい、そんな感じやな!!」と「そら」。 「ヘビ」が「おれ、そのリアクションそのものが・・無理や・・」と言うのに答えて「そら」が「がんばったら、何でも できるようになるで!!」と、的外れに「ヘビ」を励ました。 「ヘビ」は 「がんばるわ・・・・」と一言だけ言って作業を中断し、「カイ」がお湯を入れてくれた、カップラーメンとおにぎりを取って、とぼとぼとコンテナの隅に腰を下ろした。
この日より、「そら」は「なないろ」での暮らしを始めるが、メンバーの中で、特別待遇の扱いが多かった。 例えば、メンバーは皆それぞれに仕事を探し勤めに行く事になるが、「そら」だけはいつまでたっても無職のままだった。「なないろ」の朝は「カイ」が皆の食事の用意をする音で始まる。そこに、「カイ」と同じく早起きの「そら」が「カイ」の後をつけてまわり、自分で ”これなら できる” と思った「お手伝い」をするのである。「洗い物」は特に気に入り、包帯が外れて全ての傷が治る頃には、メンバー全員の食器洗いをする様になる。 「そら」が無職であっても「食器洗いをやっている」の一点のみで、メンバー全員は暗黙の了解で、 それで良し としていた。 それは、メンバーが「そら」と話すうちに「障害」があると感じていて、社会的に適応できない、と思ったからではなかった。メンバーは「そら」に ”何かが足りない”のではなく、 ”何かが備わっている”と思っていた。「えびす」には、そういう空気があり、それは皆の共通の認識であった。
今の人間の若い人は、皆、こんな空気を持っているのだろうか? それとも、「1号」のパーソナリティーなのだろうか?
皆がカップラーメンを食べ終わった頃、「1号」が帰ってきた。
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