新月のサソリ

空想・幻想・詩・たまにリアル。
孤独に沈みたい。光に癒やされたい。
ふと浮かぶ思い。そんな色々。

プルシャンブルー

2024-10-11 07:45:00 | Short Short

市販のキャンバスに下地を塗りこめていく。
大きさは、そう、出来れば大きめがいい。でも決して大きすぎてはいけない。20号~30号くらいが良いだろう。

絵具の仁義はいろいろあるが、あまり気にせず。まずはジンクホワイトを薄くたっぷり何度も重ねる。それからシルバーホワイト。そしてイエローオーカーを濃くならないよう薄すぎないよう。その上からもう一度ジンクホワイトを。キャンバス上でイエローオーカーと馴染ませるように塗り込んで行く。薄い生成りの生地が出来あがる。

しっかりと乾いたことを確かめたなら、さあ、プルシャンブルーを。
初めは刷毛で、それからナイフで何度も何度もキャンバスに置く。ところどころまだらでいい。
黒に近い深い深いブルーから、明るく軽快なブルーまで、プルシャンブルーはそれだけでキャンバスに表情をつけていく。

青が乾かないうち、白や紫や淡いピンクにそれから黄色なんかをキャンバスの上に散りばめ濁らないよう青と馴染ませる。

あるラインを超えたとき、画上に風が吹き空間が開きそれぞれの色たちが輝き出す。キャンバスの奥から求められる色や形を、ただ夢中になってその世界の中に与えていく。もしくは与えた色を削ぎ落とし青の向こうの彩を迎える。

すべての色彩が踊る中、傍らでそっと私の手を取るのはプルシャンブルー。
私は青の中に身を任せ、そのリードに心地良く酔いしれる。時には軽快に、時には重厚に、時には静かに触れ合うように、その情熱の青と踊る。

そして突然、パタッと世界は完結する。

世界があちらとこちらに分けられる。
色彩たちは輝きながら、しかし私の手からは離れてしまった。もうこちらから与えるべきものは何もなく削ぎ落す場所も何処にもない。
青が世界をたゆたゆと湿らせ秩序を与えている。あちらから、静かに私を見つめている。

そうしたら注意深く、遠くから近くからずっと眺める。ずっと眺めていたいと思えたなら、それは完成だ。心が少しでも陰ったならその世界とは決別し、時間を置いてからまたプルシャンブルーと戯れる。

麗しのプルシャンブルー。私は躊躇うことなくあなたの前に跪く。

   

※写真・1994年制作  油彩  15号
※文・2011/09/10 別サイト投稿分を修正





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