「最近、雨の動画見てるの」
曇天の中、部屋に寄ってくれた友人に言った。
「流行ってるみたいだね。いいの?」
「うん、なんか落ち着く」
「どれ」
「これ」
私はノートパソコンを開いて、いつもの動画を彼女に向けた。
「雨音ってさあ、雨に音はなくて、雨粒が物にぶつかる音だよね。ネーミングが『靴下』みたいだなっていつも思ってたんだ」
そう言って彼女は隣に座り、私が食べかけていたスナック菓子に手を伸ばした。
「靴下と同じ理由だと思ったことはなかったなあ」
私は彼女のコーヒーを淹れに立ち上がる。
お湯を沸かしながら、突然彼女が来てくれたことが心強かった。
靴下ねえ。
雨音が聞こえるというのは、そこに何かがある、ということだ。
ふーん、靴下かぁ。
マグカップを硝子棚から取り出し、ドリップの袋を破る。
ほらまた。香はいろんな思いを運んでくる。
哀しい夢だった。
心を開いてよ、と彼は言う。やっと、まともに話が出来たけど、私を取り巻くバリアを私は破れずにいる。寝る前に観た映画のせいかもしれない。
心を開いてもいいのかな、って思ったけど、あれ? この人、違うよね。あの人がいるんだよね。
今は昔。
曇天の中、部屋に寄ってくれた友人に言った。
「流行ってるみたいだね。いいの?」
「うん、なんか落ち着く」
「どれ」
「これ」
私はノートパソコンを開いて、いつもの動画を彼女に向けた。
「雨音ってさあ、雨に音はなくて、雨粒が物にぶつかる音だよね。ネーミングが『靴下』みたいだなっていつも思ってたんだ」
そう言って彼女は隣に座り、私が食べかけていたスナック菓子に手を伸ばした。
「靴下と同じ理由だと思ったことはなかったなあ」
私は彼女のコーヒーを淹れに立ち上がる。
お湯を沸かしながら、突然彼女が来てくれたことが心強かった。
靴下ねえ。
雨音が聞こえるというのは、そこに何かがある、ということだ。
ふーん、靴下かぁ。
マグカップを硝子棚から取り出し、ドリップの袋を破る。
ほらまた。香はいろんな思いを運んでくる。
哀しい夢だった。
心を開いてよ、と彼は言う。やっと、まともに話が出来たけど、私を取り巻くバリアを私は破れずにいる。寝る前に観た映画のせいかもしれない。
心を開いてもいいのかな、って思ったけど、あれ? この人、違うよね。あの人がいるんだよね。
今は昔。
もう過ぎたこと。ここにはなにもない。
薄く意識が戻り、こんな哀しい気持ちも目が覚めると忘れていくのか、と、夢がまだ近くにあるうちに寝ぼけた頭で私は書き留めた。
この気持ちを忘れてしまうのは、私の大切なものをひとつ失くすようなものだ。
マグカップを彼女の前に置く。また並んで座る。
ふと無造作に放ったままだったマフラーを掴んで手繰り寄せ、もうどこにもない匂いを嗅ぐ。
鼻先の肌触りが懐かしく、脳内でガランと音が聞こえてきそうだ。
「本物の雨、降ってきたね」
彼女がカップに鼻を寄せいい顔で笑う。
音はまだ小さかったけど、窓の向こうを斜めに走る筋が見えた。
そこに何かがある、と知らせてくれる雨。
ノックしているのはどちらだろう。
そこに何かがあると知っているから、多くの人が雨音に癒しを感じるのだろうか。それともただの 1/F?
薄く意識が戻り、こんな哀しい気持ちも目が覚めると忘れていくのか、と、夢がまだ近くにあるうちに寝ぼけた頭で私は書き留めた。
この気持ちを忘れてしまうのは、私の大切なものをひとつ失くすようなものだ。
マグカップを彼女の前に置く。また並んで座る。
ふと無造作に放ったままだったマフラーを掴んで手繰り寄せ、もうどこにもない匂いを嗅ぐ。
鼻先の肌触りが懐かしく、脳内でガランと音が聞こえてきそうだ。
「本物の雨、降ってきたね」
彼女がカップに鼻を寄せいい顔で笑う。
音はまだ小さかったけど、窓の向こうを斜めに走る筋が見えた。
そこに何かがある、と知らせてくれる雨。
ノックしているのはどちらだろう。
そこに何かがあると知っているから、多くの人が雨音に癒しを感じるのだろうか。それともただの 1/F?
画面を見ると、再生回数がくるんと更新した。ひとりきりではない。だけど冷たいときもある。
「ねえ」
動画を観ていた彼女が、コーヒーを啜りながら横目で私を見る。
「ひとりで落ちそうだったら、いつでも電話してきな」
そう言って私が握るマフラーを自分の方へ引き寄せ、同じように匂いを嗅ぐ。
「こういうのより、ちょっとはマシだよ」
穏やかなはずなのに少しだけ涙が出た。
「うん」
今日の雨は、あたたかいみたい。
「ねえ」
動画を観ていた彼女が、コーヒーを啜りながら横目で私を見る。
「ひとりで落ちそうだったら、いつでも電話してきな」
そう言って私が握るマフラーを自分の方へ引き寄せ、同じように匂いを嗅ぐ。
「こういうのより、ちょっとはマシだよ」
穏やかなはずなのに少しだけ涙が出た。
「うん」
今日の雨は、あたたかいみたい。