新月のサソリ

空想・幻想・詩・たまにリアル。
孤独に沈みたい。光に癒やされたい。
ふと浮かぶ思い。そんな色々。

夜を混ぜる

2024-12-22 00:10:00 | Short Short

こんな夜はエキノプシスを散りばめよう。
浮かんだ月にはドレッシングを降りかける。
雲の合間をクジラが泳ぐ。
ぼくがつくる秘密の夜の、秘密のレシピ。

月がよじってミルクを一滴、クジラの尻尾が滴を跳ねる。空に散らした花にバニラが染みる。
煌めきは甘く、夜に降る、白く降る。
クジラの腹が月を横切る。ドレッシングが色を変え、夜を黒く垂れていく。

小さな世界で小さな明かりで夜の道行く小さな影たち。街の明かりが夜を消す。クジラを消す。ぼくも消す。夜空を見上げた誰ひとり、ぼくの夜だと気づかない。

さあ、そろそろ夜をかき混ぜようか。
ぼくは大きなスプーンで夜をすくう。
人もクジラも同じ海へ、山も街もマーブルの中へ。匙からこぼれる全ての夜が、渦巻く彼方に呑み込まれる。恐れも怒りも散り散りに、痛みも涙も砕けて消えろ。
ぼくは力いっぱい世界を混ぜる。

靴下をくわえた猫が夜を覗いてにゃあと笑った。ひらひらと落ちてゆく靴下には猫のひげ一本。これが今夜の隠し味。
そろそろと北風が世界を整え東風を待つ。

とても冷たい冬の夜、ぼくはこっそり夜を混ぜる。
目を凝らして見ていてごらん。きっと猫が笑うから。




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする