神のみ使いと遭遇したその夜、ギデオンは寝床でまんじりとも出来なかった。
オレがミディアンを打ち倒す? 神が共にいて下さる? たしかに岩の上の供え物は燃えた。オレはみ使いを見たが死ななかった。神はオレを選んでくれたのか…… でも、なんでオレなんだ?
「ギデオンよ……」
声がした。聞き覚えがあった。神の声だ。ギデオンは寝床から飛び降り、床に平伏した。
「はい、ここにおります……」
「若い雄牛を取りなさい。あなたの父に属する雄牛、つまり七歳になる第二の若い雄牛を……」
「……バアルに捧げろと言うんですか?」
ギデオンは不思議そうな顔をする。七歳の雄牛は、バアルには神聖なものだったからだ。
「そして、あなたの父のものであるバアルの祭壇を打ち壊すように。また、そのそばにある聖木を切り倒す……」
「何ですって……」
ギデオンは驚愕した。祭壇を破壊せよとは…… いや待てよ、これは真の神からの命じゃないか。オレに証しを示してくれた神の命じゃないか。共にいて下さると言ってくれた神の命じゃないか!
「そしてあなたは、このとりでの頭に石を並べてあなたの神への祭壇を築かねばならない。第二の若い雄牛を取り、あなたが切り倒す聖木の木切れの上でそれを焼燔の捧げ物としてささげるように」
「……承知いたしました」
ギデオンは答え、さらに平伏した。
いよいよ神は事を起こされるだ! オレがそれを担うのだ。武者震いに震えるギデオンだった。
翌朝、気心の知れた僕たちを十人呼び集めた。
「真の神がオレに言ったんだ。バアルの祭壇をぶち壊し、並んでいる聖木、アシュトレテの像を切り倒せ、ってな」
ギデオンは一人一人の顔を見ながら言う。
「本当か?」
「バアルからの天罰が下らないのか?」
僕たちが不安そうに言う。
「馬鹿野郎! オレたちはもともとバアルもアシュトレテも信じちゃいなかっただろ? 怖れることはない! それに、オレは神から命じられたんだ」
ギデオンは胸を張る。
「わかったよ、ギデオン。町のヤツらの目を覚まさせてやろうぜ!」
「じゃあ、今から行って、ひと暴れしようか!」
僕たちは立ち上がる。
「待て待て。今行ったら、とっ捕まるのは確実だし、そうなったら、ぶっ殺されちまう」
ギデオンはあわてて制した。
「何だ、神より人が怖いのか?」
僕たちは笑った。
「そう言うな……」ギデオンは苦笑いをした。「昼のうちに準備して、実行は夜中にしようぜ」
その夜、ギデオンたちは集まった。幸い月も出ていない。
交代で見張りをしながら、持参した鎚や鋸で、バアルの祭壇を破壊し、聖木を切り倒した。
バアルの祭壇跡に石を並べ、雄牛をほふり、聖木を焚きつけにし、焼燔の捧げものとした。
かなりの音がしたが気が付いて見に来る者はいなかった。真の神が守ってくださっている、ギデオンたちはそう思っていた。
額の汗をぬぐいながら、ギデオンたちは帰った。
翌朝、町は大騒ぎとなった。
バアルの祭壇が破壊され、聖木は焚きつけとなって黒こげになり、雄牛もすっかり炭になっていた。
「誰がこんな事をしたんだ!」
「これは誰の祭壇だ?」
「ヨアシュの祭壇じゃないか!」
「そう言えば、息子のギデオンが、昼間に何人かとこそこそしていたぞ」
「そうだ、鎚とか鋸とか持ち寄ってた」
「雄牛も一頭運び出してたな。『バアルへの捧げ物か?』って聞いたら『うん、まあ、その、あれだ』なんて誤魔化してた」
「ギデオンの仕業だ!」
「おいヨアシュ! 息子のギデオンを連れてこい! バアルの祭壇を破壊し、聖木を切り倒して罪は重い! 死に渡さねばならない!」
町の者たちはヨアシュに詰め寄った。そこで、ヨアシュは言った。
「あんた方はバアルのために復讐しようってのか? 擁護しようってのか? バアルのためにそうしようってヤツは、明日の朝にでも死に渡されるだろうさ」ヨアシュは嫌味たらしく続けた。「もし、バアルが神なら、自分で復讐するだろう。祭壇をぶっ壊したヤツがいるんだからな」
ヨアシュは民が嘆いた時に遣わされた預言者の言葉を思い出していた。真の神の声に聞き従う時が来ているのだ、ヨアシュはそう確信した。
そしてヨアシュは、その日以来、息子のギデオンのことをエルバアル(バアルに自分で復讐させたらよかろう。その祭壇を取り壊した者がいるのだから)と呼ぶようになった。
(士師記 6章25節から32節をご参照ください)
オレがミディアンを打ち倒す? 神が共にいて下さる? たしかに岩の上の供え物は燃えた。オレはみ使いを見たが死ななかった。神はオレを選んでくれたのか…… でも、なんでオレなんだ?
「ギデオンよ……」
声がした。聞き覚えがあった。神の声だ。ギデオンは寝床から飛び降り、床に平伏した。
「はい、ここにおります……」
「若い雄牛を取りなさい。あなたの父に属する雄牛、つまり七歳になる第二の若い雄牛を……」
「……バアルに捧げろと言うんですか?」
ギデオンは不思議そうな顔をする。七歳の雄牛は、バアルには神聖なものだったからだ。
「そして、あなたの父のものであるバアルの祭壇を打ち壊すように。また、そのそばにある聖木を切り倒す……」
「何ですって……」
ギデオンは驚愕した。祭壇を破壊せよとは…… いや待てよ、これは真の神からの命じゃないか。オレに証しを示してくれた神の命じゃないか。共にいて下さると言ってくれた神の命じゃないか!
「そしてあなたは、このとりでの頭に石を並べてあなたの神への祭壇を築かねばならない。第二の若い雄牛を取り、あなたが切り倒す聖木の木切れの上でそれを焼燔の捧げ物としてささげるように」
「……承知いたしました」
ギデオンは答え、さらに平伏した。
いよいよ神は事を起こされるだ! オレがそれを担うのだ。武者震いに震えるギデオンだった。
翌朝、気心の知れた僕たちを十人呼び集めた。
「真の神がオレに言ったんだ。バアルの祭壇をぶち壊し、並んでいる聖木、アシュトレテの像を切り倒せ、ってな」
ギデオンは一人一人の顔を見ながら言う。
「本当か?」
「バアルからの天罰が下らないのか?」
僕たちが不安そうに言う。
「馬鹿野郎! オレたちはもともとバアルもアシュトレテも信じちゃいなかっただろ? 怖れることはない! それに、オレは神から命じられたんだ」
ギデオンは胸を張る。
「わかったよ、ギデオン。町のヤツらの目を覚まさせてやろうぜ!」
「じゃあ、今から行って、ひと暴れしようか!」
僕たちは立ち上がる。
「待て待て。今行ったら、とっ捕まるのは確実だし、そうなったら、ぶっ殺されちまう」
ギデオンはあわてて制した。
「何だ、神より人が怖いのか?」
僕たちは笑った。
「そう言うな……」ギデオンは苦笑いをした。「昼のうちに準備して、実行は夜中にしようぜ」
その夜、ギデオンたちは集まった。幸い月も出ていない。
交代で見張りをしながら、持参した鎚や鋸で、バアルの祭壇を破壊し、聖木を切り倒した。
バアルの祭壇跡に石を並べ、雄牛をほふり、聖木を焚きつけにし、焼燔の捧げものとした。
かなりの音がしたが気が付いて見に来る者はいなかった。真の神が守ってくださっている、ギデオンたちはそう思っていた。
額の汗をぬぐいながら、ギデオンたちは帰った。
翌朝、町は大騒ぎとなった。
バアルの祭壇が破壊され、聖木は焚きつけとなって黒こげになり、雄牛もすっかり炭になっていた。
「誰がこんな事をしたんだ!」
「これは誰の祭壇だ?」
「ヨアシュの祭壇じゃないか!」
「そう言えば、息子のギデオンが、昼間に何人かとこそこそしていたぞ」
「そうだ、鎚とか鋸とか持ち寄ってた」
「雄牛も一頭運び出してたな。『バアルへの捧げ物か?』って聞いたら『うん、まあ、その、あれだ』なんて誤魔化してた」
「ギデオンの仕業だ!」
「おいヨアシュ! 息子のギデオンを連れてこい! バアルの祭壇を破壊し、聖木を切り倒して罪は重い! 死に渡さねばならない!」
町の者たちはヨアシュに詰め寄った。そこで、ヨアシュは言った。
「あんた方はバアルのために復讐しようってのか? 擁護しようってのか? バアルのためにそうしようってヤツは、明日の朝にでも死に渡されるだろうさ」ヨアシュは嫌味たらしく続けた。「もし、バアルが神なら、自分で復讐するだろう。祭壇をぶっ壊したヤツがいるんだからな」
ヨアシュは民が嘆いた時に遣わされた預言者の言葉を思い出していた。真の神の声に聞き従う時が来ているのだ、ヨアシュはそう確信した。
そしてヨアシュは、その日以来、息子のギデオンのことをエルバアル(バアルに自分で復讐させたらよかろう。その祭壇を取り壊した者がいるのだから)と呼ぶようになった。
(士師記 6章25節から32節をご参照ください)
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