呼び鈴を押す。
玄関扉の前で、ゼドは両手に抱えたカレクの花束と二フィート程の直方体の化粧箱とを、満足げに見下ろす。赤紫色のカレクの花の甘い香りが、ゼドの鼻腔を優しく刺激し、触角がゆっくりと回る。……それにしても、でっかい屋敷だ。ゼリルの家なのかねぇ? どうだい、この落ち着いた佇まいは。オレの所のわちゃわちゃした感じと大違いだぜ。ゼリルの品の良さの元ってのは、こういう所にあるんだろうな。ゼドの触覚が少し早く回り出した。
扉の鍵の開く音がし、ゆっくりと扉が屋内側へと開いて行く。
「よう、ゼリル。……こりゃあ……」
ゼドは絶句した。玄関ホールにゼリルが立っていた。恥ずかしそうに顔を赤くしながら、微笑を浮かべている。緊張しているのか、唇が震えている。胸と腰回りだけ白い下着で包んでいるだけで、骨ばった全身をホールの照明の下、惜しげも無く晒している。
「ゼド様……」ゼリルの顔から笑みが消え、不安な表情になった。「こんなの、お嫌でしたか? ゼド様……」
「あ?」ゼドは、にやりと笑い、触角を激しく回し始めた。「嫌なわけないだろう! ちょっと驚いただけさ。……それにしてもゼリルよう、おめぇも大胆だなぁ!」
「……恥かしい……」ゼリルは赤くなって顔を伏せる。照明がゼリルのからだの骨格に沿った陰影を付けた。「でも、嬉しいです。喜んで頂いて……」
「あ、そうだ!」ゼドは玄関ホールに入ると、花束と化粧箱とをゼリルに差し出した。「プレゼントだよ」
「ありがとうございます」
ゼリルは笑顔で受け取ったが、両方を抱えた途端に、ふらふらと体勢を崩してしまった。慌てたゼドが、倒れないように支えた。
「両方は重かったようだな」ゼドはゼリルから花束を取ると床へ置いた。「その箱の中に女神像がある。開けてみな……って、オレが開けてやろう」
「すみません……」
「なあに、気を遣うんじゃねぇよ。今日は部下が居ないんだ。何でもオレに言ってくれよ」
ゼドはゼリルから化粧箱を受け取ると、ビリビリと破いた。中から、黒光りした女神の立像が現れた。
「これが、メルーバの女神像さ」
ゼリルに像を渡そうとしたゼドに、ゼリルは抱き着いた。その力が強かったのか、ゼドの全身に痛みが駈け巡り、触角がフル回転する。
「私の我儘を聞いて下さって、何とお礼を申し上げたら宜しいのでしょう……」
「まあ、気にするなよ」ゼドは像を床に置き、両手をゼリルの背中に回し、浮き出た背骨を優しくなぞり、ゆっくりと胸を包んでいる下着に手を掛けた。
「……いけません」ゼリルが身を離す。「こんな所では…… 二階のお部屋で……」
ゼリルは言うと、玄関ホール左壁に設えられている真っ直ぐな階段を指差す。ゼドは目を階段に昇らせ、階段と連なっている廊下に見える最初の扉に目を留め、指差した。
「あの部屋で良いのかい?」
「はい、そうです。お酒もシャワーも、……ベッドもあります」
「そうかい。何時もながら気が利くなぁ。ところでよ、ここはお前の家なのかい?」
「いいえ、ここは伯母の屋敷です。わたしがこんなからだなのを心配して、何くれとなく世話や面倒を見て下さっているんです。今は旅行中なので、好きに使って良いと言われていますので、ゼド様をお招き致しました」
「そうかい、そうかい。お前の品の良さは伯母さん譲りってわけだ。……じゃ、先に行って待ってるぜ」ゼドはゼリルの全身を繁々と見やる。「本当、良い骨っぷりだぜ!」
ゼドは階段を軽快に昇って行く。
ゼリルは、ほうっと深いため息をつく。
つづく
玄関扉の前で、ゼドは両手に抱えたカレクの花束と二フィート程の直方体の化粧箱とを、満足げに見下ろす。赤紫色のカレクの花の甘い香りが、ゼドの鼻腔を優しく刺激し、触角がゆっくりと回る。……それにしても、でっかい屋敷だ。ゼリルの家なのかねぇ? どうだい、この落ち着いた佇まいは。オレの所のわちゃわちゃした感じと大違いだぜ。ゼリルの品の良さの元ってのは、こういう所にあるんだろうな。ゼドの触覚が少し早く回り出した。
扉の鍵の開く音がし、ゆっくりと扉が屋内側へと開いて行く。
「よう、ゼリル。……こりゃあ……」
ゼドは絶句した。玄関ホールにゼリルが立っていた。恥ずかしそうに顔を赤くしながら、微笑を浮かべている。緊張しているのか、唇が震えている。胸と腰回りだけ白い下着で包んでいるだけで、骨ばった全身をホールの照明の下、惜しげも無く晒している。
「ゼド様……」ゼリルの顔から笑みが消え、不安な表情になった。「こんなの、お嫌でしたか? ゼド様……」
「あ?」ゼドは、にやりと笑い、触角を激しく回し始めた。「嫌なわけないだろう! ちょっと驚いただけさ。……それにしてもゼリルよう、おめぇも大胆だなぁ!」
「……恥かしい……」ゼリルは赤くなって顔を伏せる。照明がゼリルのからだの骨格に沿った陰影を付けた。「でも、嬉しいです。喜んで頂いて……」
「あ、そうだ!」ゼドは玄関ホールに入ると、花束と化粧箱とをゼリルに差し出した。「プレゼントだよ」
「ありがとうございます」
ゼリルは笑顔で受け取ったが、両方を抱えた途端に、ふらふらと体勢を崩してしまった。慌てたゼドが、倒れないように支えた。
「両方は重かったようだな」ゼドはゼリルから花束を取ると床へ置いた。「その箱の中に女神像がある。開けてみな……って、オレが開けてやろう」
「すみません……」
「なあに、気を遣うんじゃねぇよ。今日は部下が居ないんだ。何でもオレに言ってくれよ」
ゼドはゼリルから化粧箱を受け取ると、ビリビリと破いた。中から、黒光りした女神の立像が現れた。
「これが、メルーバの女神像さ」
ゼリルに像を渡そうとしたゼドに、ゼリルは抱き着いた。その力が強かったのか、ゼドの全身に痛みが駈け巡り、触角がフル回転する。
「私の我儘を聞いて下さって、何とお礼を申し上げたら宜しいのでしょう……」
「まあ、気にするなよ」ゼドは像を床に置き、両手をゼリルの背中に回し、浮き出た背骨を優しくなぞり、ゆっくりと胸を包んでいる下着に手を掛けた。
「……いけません」ゼリルが身を離す。「こんな所では…… 二階のお部屋で……」
ゼリルは言うと、玄関ホール左壁に設えられている真っ直ぐな階段を指差す。ゼドは目を階段に昇らせ、階段と連なっている廊下に見える最初の扉に目を留め、指差した。
「あの部屋で良いのかい?」
「はい、そうです。お酒もシャワーも、……ベッドもあります」
「そうかい。何時もながら気が利くなぁ。ところでよ、ここはお前の家なのかい?」
「いいえ、ここは伯母の屋敷です。わたしがこんなからだなのを心配して、何くれとなく世話や面倒を見て下さっているんです。今は旅行中なので、好きに使って良いと言われていますので、ゼド様をお招き致しました」
「そうかい、そうかい。お前の品の良さは伯母さん譲りってわけだ。……じゃ、先に行って待ってるぜ」ゼドはゼリルの全身を繁々と見やる。「本当、良い骨っぷりだぜ!」
ゼドは階段を軽快に昇って行く。
ゼリルは、ほうっと深いため息をつく。
つづく
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