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盗まれた女神像 ⑭

2019年07月12日 | 盗まれた女神像(全22話完結)
「やれやれ……」
 ジェシルは、うんざりした顔で椅子に深く座り込んだ。背凭れが軋る。デスクの上では、マグとゼドとアルミーシュのホログラムが回転している。ジェシルは身を起こし、ホログラムを操作する。デスク上で回転する三体が左側に寄り、右側にメイムとゼリルとベアトレイトスのホログラムが映し出され、回転する。
 ジェシルは左右のホログラムを交互に見比べながら、両肘で頬杖を付き、目尻に当たっている左右の薬指を思い切り下げて極端な垂れ目を作っては戻すを繰り返した。
「どうしようもない三人に、どうしようもないお相手……か」ジェシルは嫌悪感丸出しに、ホログラムに向かって、べえと舌を出す。「任務で言った地球の日本に、こんな諺があったわね。ええ~と……『タコ食う牛もスキヤキ』だったかしら? とにかく、わたしには付いて行けない世界だわ!」
 その時、デスクのインターホンが呼び出し音を鳴らす。ジェシルは面倒臭そうな表情でスイッチを入れた。
「ジェシル、トールメンだ」言わなくても、その声は大嫌いな部長だって分かるわよ、ジェシルは、画像を送れない旧型インターホンで良かったと思い、見えない部長にジャブを繰り出し続ける。「君の中間報告に関し、幾つか質問がある」
「はい、何でしょうか?」ジェシルは、見えない部長に見事なアッパーカットを食らわせた。「言って下さい。お答えします」
「詳細は、わたしのオフィスで」
 部長は言うと、切ってしまった。ジェシルは立ち上がった。拳でデスクを叩く。
「何よ、偉そうに! 『詳細は、わたしのオフィスで』だってさ! どうせ、文句しか言わないんだろうけどね! ふん! 何時までに来いって言ってないんだから、しばらく知らん顔してやるんだから!」
 インターホンの呼び出し音が鳴った。ジェシルは嫌そうな顔をしながらスイッチを入れる。
「トールメンだ。ジェシル、今すぐ出頭するように。今すぐだ」
 ジェシルは、見えない部長の長い顎に渾身のエルボースマッシュを見舞ってやった。
 トールメン部長のオフィスに入ると、部長はいつもの不機嫌な顔で座っていた。
「早速だが、ジェシル」挨拶も無く部長は切り出す。毎度の事なので、ジェシルも平然としている。「我々は犯罪を追う捜査官で有り、プライバシーを追う下種なレポーターでは無いのだぞ」
「おっしゃる意味が、分かりません」
「恍けるのではない。わたしが言うのは、犯罪容疑の掛かっている三人の性癖などを報告書に載せるのは、不適切だと言っているのだ」
「公序良俗を重んじる宇宙パトロールですものね」ジェシルはうんざりした顔をする。「分かりました、削除しておきます」
「まだ有る」部長は帰りかけたジェシルに言う。ジェシルは無表情で向き直る。「君の報告書だと、容疑者の三人共、女神像を持っている事になっている」
「そう言う事になっていますね」
「巫山戯ているのかね?」
「部長は、どう思いますか?」
「それを考えるのが捜査官だろう」
「え~っ!」ジェシルは態とらしく驚きの声を上げ、両手で自分の頬を挟んで見せた。「部長、こんな簡単な事も部下任せなんですね! きっと上に立つ人って言うのは、もっと別な事に頭を使っているんですねぇ!」
 ジェシルは、出世欲の人一倍強いトールメン部長に言い、にやりと笑ってみせた。部長は全く動じる事無く、表情も変わらない。
「良いですか、部長」ジェシルは両手を部長のデスクに置き、正面に座っている無能野郎に、噛んで含めるように話し始める。「三人が女神像を持っていると言っています。でも、女神像は一体だけ。三から一を引くと二ですよね? と言う事は、二体は贋物です」
「どうしてそんな事をするのだ?」
「部長には、理想のお相手って居ます?」
「何を言い出すんだ! 仕事中だぞ!」
「まあ、その様子じゃ、居ないですね。ですが、この三人には理想のお相手を与えました。何よりも一番失いたくない相手です。その相手から、メルーバの女神像を求められたら、何としてでも渡したいと思うのが人情でしょう。嫌われたくないんですから。ですから、この中の二人は持っていなくても、持っていると言い、女神像をでっち上げるのです」
「そんな事をするものなのか?」
「幸か不幸か、メルーバの女神像は全く公にされていませんから、でっち上げやすいんじゃないでしょうか?」
「どう見分けるんだね?」
「あのね、部長…… 色々忙しくて忘れているんでしょうけど、本物はオラルグ石が使われているんでしょ? 結構、珍しい石だから、分析器が有ればすぐに分かります」
「そうか」散々皮肉られ小馬鹿にされた部長は、しかし表情一つ変えなかった。「では、ジェシル、君に任せた。但し、失敗は許されん。メルーバ教団からの催促が激しいのだ。そこの幹部は、宇宙パトロールの上層部と親しい者が多いのだ。早期決着を望む」
 そう言うと、トールメン部長は椅子を回転させて背を向けた。……ちっ、結局は保身かい! ジェシルはトールメンの背中に向かって、べえと舌を出して、オフィスを後にした。


 つづく



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