仁吉は松次の父親を呼びに門の所まで走った。
「松次が見つかった! でも、子供だけじゃ何ともできない! 手伝ってくれよう!」
仁吉の呼びかけに、大人たちは互いに顔を見合わせているだけだった。
「何やってんだよう!」仁吉は門から出ると、松次の父親の所に行き、着物にすがった。「おいちゃん! 松次が大変なんだよう!」
松次の父親は、長の顔を見た。長は無表情のまま、何も言わない。
「松次がどうなっても良いのかよう!」仁吉は尚も松次の父親にすがり付く。しかし、松次の父親は動かない。「ふん! もう良いや!」
仁吉は手を放し、門の中へ戻ろうとした。
「きゃあ!」
おみよの悲鳴が上がった。
「うわっ!」
続けて兵太の叫び声がした。
敷地の方から松次が門の外へ飛び出してきた。松次は、四つん這いで背を丸め、大きく見開いた目を周囲の大人たちに向け、威嚇するように低く唸り声を立てている。見つけた時と同じく、猫のような格好だった。
松次の後を追うように兵太とおみよが駈け出て来た。
「松次さんがいきなり駈け出しちゃって……」
おみよは泣き出した。仁吉はおみよの頭を優しく撫でた。
「松次の奴、猫になったみてぇだぜ……」兵太が大人たちに言う。「猫によう……」
「わかった」長が言った。「後は大人たちでやるで、子供たちはもう家へ帰れ」
「何をする気だ!」
仁吉が怒鳴った。仁吉は別の村の話で、狐憑きと言われた子供が、大人たちに殴る蹴るを繰り返されて死んだという話を聞いていた。その姿に松次が重なったのだ。おみよはびっくりして、また泣き出した。仁吉はおみよに構わず続けた。
「まさか、ぶちのめすんじゃないだろうな!」仁吉は長をにらみ付けた。「ぶちのめして正気にさせようってんじゃないだろうな!」
「仁吉……」仁吉の剣幕に押されたのか、長は弱々しい声で言う。「そんな酷い事はせん。松次を連れ帰るだけじゃ」
「何もしてくれなかったくせに、こんなになってからあれこれと言いやがる! 大の大人が雁首揃えて、やれる事は子供の後始末くらいなのかよう!」
「仁吉!」仁吉の父親が叱りつける。「ガキが何を偉そうにぬかしおるかあ!」
「ふん! お前らが昔やってた事で、松次はこんな…… こんな猫みたいになっちまったんだ! それにな、しろって言う猫はまだ居るんだぞ!」
「嘘を言うな!」長が怒鳴った。「しろが死んでいたのをみつけたのは、このわしじゃぞ!」
「そんな事、知った事かよう!」
仁吉は言うと、家の方とは反対の方へと駈けて行った。
兵太とおみよが後を追おうとしたが、大人たちに取り押さえられてしまった。
つづく
「松次が見つかった! でも、子供だけじゃ何ともできない! 手伝ってくれよう!」
仁吉の呼びかけに、大人たちは互いに顔を見合わせているだけだった。
「何やってんだよう!」仁吉は門から出ると、松次の父親の所に行き、着物にすがった。「おいちゃん! 松次が大変なんだよう!」
松次の父親は、長の顔を見た。長は無表情のまま、何も言わない。
「松次がどうなっても良いのかよう!」仁吉は尚も松次の父親にすがり付く。しかし、松次の父親は動かない。「ふん! もう良いや!」
仁吉は手を放し、門の中へ戻ろうとした。
「きゃあ!」
おみよの悲鳴が上がった。
「うわっ!」
続けて兵太の叫び声がした。
敷地の方から松次が門の外へ飛び出してきた。松次は、四つん這いで背を丸め、大きく見開いた目を周囲の大人たちに向け、威嚇するように低く唸り声を立てている。見つけた時と同じく、猫のような格好だった。
松次の後を追うように兵太とおみよが駈け出て来た。
「松次さんがいきなり駈け出しちゃって……」
おみよは泣き出した。仁吉はおみよの頭を優しく撫でた。
「松次の奴、猫になったみてぇだぜ……」兵太が大人たちに言う。「猫によう……」
「わかった」長が言った。「後は大人たちでやるで、子供たちはもう家へ帰れ」
「何をする気だ!」
仁吉が怒鳴った。仁吉は別の村の話で、狐憑きと言われた子供が、大人たちに殴る蹴るを繰り返されて死んだという話を聞いていた。その姿に松次が重なったのだ。おみよはびっくりして、また泣き出した。仁吉はおみよに構わず続けた。
「まさか、ぶちのめすんじゃないだろうな!」仁吉は長をにらみ付けた。「ぶちのめして正気にさせようってんじゃないだろうな!」
「仁吉……」仁吉の剣幕に押されたのか、長は弱々しい声で言う。「そんな酷い事はせん。松次を連れ帰るだけじゃ」
「何もしてくれなかったくせに、こんなになってからあれこれと言いやがる! 大の大人が雁首揃えて、やれる事は子供の後始末くらいなのかよう!」
「仁吉!」仁吉の父親が叱りつける。「ガキが何を偉そうにぬかしおるかあ!」
「ふん! お前らが昔やってた事で、松次はこんな…… こんな猫みたいになっちまったんだ! それにな、しろって言う猫はまだ居るんだぞ!」
「嘘を言うな!」長が怒鳴った。「しろが死んでいたのをみつけたのは、このわしじゃぞ!」
「そんな事、知った事かよう!」
仁吉は言うと、家の方とは反対の方へと駈けて行った。
兵太とおみよが後を追おうとしたが、大人たちに取り押さえられてしまった。
つづく
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます