お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

コーイチ物語 「秘密のノート」 34

2022年08月29日 | コーイチ物語 1 4) コーイチとゆかいな仲間たち 2  
「何かあったんですか?」
 コーイチを引きずりながら改札へと向かった一団に、駅員が恐る恐る声をかけた。
「いやいや、気にしないでくださいな」
 先頭を歩いていた印旛沼が笑顔で言って駅員に向かって指をぱちんと鳴らした。指先に一輪のバラをつまんでいた。それを気取った手つきで駅員に渡す。
「そうそう、月曜病の一種ですよ」
 林谷がスーツをキラキラさせながら笑った。
「困ったものです。今日は定例会議があると言うのに」
 西川は困惑した顔で言った。
「違いますわ。黒ミサですわよ。うふふふふ……」
 最後を歩いていた清水が、目だけ笑っていない笑顔を駅員に向けて言った。
「それを言うなら我慢会だろ」
 林谷が振り返って言った。スーツがまたキラリと光る。
「朗読会だよ」
 印旛沼がまたバラ一輪を出した。
「何度も言うが、吉田課長が議長を勤める営業四課の定例会議だ!」
 西川が怒鳴った。人気の失せた通路に「だ! だ! だ! ……」と、こだまが繰り返した。
「お客さん、通路で大声は困ります!」
 駅員がまごまごしながらも抗議をした。
 吉田課長…… そうだ、あのノート、いったい誰が入れたんだろう。コーイチは引きずられながら少し頭を上げた。考えを巡らせていた。オカルトも、暗殺集団も、手品も関係無さそうだ。となると、考えられる唯一の可能性は……
 コーイチは両足に力を入れ、すっくと立ち上がった。
「おい、どうした?」
「病気が治ったのかい?」
 両脇の二人が釣られて立ち止まる。
「痛いわねぇ……」
 清水がコーイチの背中にぶつかり、鼻の頭をさすっていた。
 コーイチは天井に顔を向けて叫んだ。
「宇宙人だ!」

       つづく

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« コーイチ物語 「秘密のノー... | トップ | コーイチ物語 「秘密のノー... »

コメントを投稿

コーイチ物語 1 4) コーイチとゆかいな仲間たち 2  」カテゴリの最新記事