「松次!」
「おーい、松次!」
「松次さーん!」
仁吉、兵太、おみよそれぞれが呼びかけながら、寺の敷地内を走り回った。
身の丈にまでなっている草を掻き分け、朽ちかけた本堂を覗き込み、三人は声の限り松次の名を呼んだ。
しかし、松次の返事はない。三人には、この荒れ寺の薄気味悪さよりも、松次の返事が無い方が怖かった。
本堂の前で三人は顔を見合わせる。
「兵太、本当に松次は寺に連れ込まれたんだな」
「仁吉まで疑うのかよう!」
「そうじゃない。そうじゃないけど、見つからないから……」
「まだ探していない所ってないかしら?」
「……」
三人は考え込む。大人たちは入って来ない。
「父ちゃんたちって臆病者だな!」兵太が吐き捨てる。「子供のオレたちが平気でいるのに!」
「大人は、やった事がひどい事だと知ってるから、怖がっているのさ」仁吉が門の方を見ながら言った。「きっと、大人たちには、ここへ放り込んだじい様やばあ様が見えてんだ」
「でもよ、草むらの中には、骨なんぞなかったぞ」
「うん、そうだった」
「じゃ、やっぱり、猫が……」
「やめて、そんな話!」おみよが強い口調で割って入った。「今は松次さんを見つけなきゃ! それに、お天道様が出ている間は、何にも悪い物は出ないんよ!」
「そうだ、そうだな」仁吉はおみよに話を合わせた。また泣かれでもしたら面倒だ。「もう少し、松次を探してみよう」
「でも、あらかた見て回ったぜ」
仁吉はふと本堂の中を見やった。
白い猫がいた。
腰を落とし、前脚をぴんと伸ばして行儀良く座っていた。じっと仁吉を見つめている。
「しろ……」
「しろ、だって?」兵太が仁吉の言葉につられ、本堂へ顔を向けた。「……何にも居ないぞ……」
白猫の姿は消えていた。……ひょっとして、見間違えたかな、仁吉は思った。
「そうだ! 本堂の縁の下を見ていなかった」仁吉はしゃがみ込むと、本堂の下を覗き込んだ。「あっ!」
仁吉は縁の下の暗がりに何かが動くのを見た。仁吉は目を凝らした。
「……おい、兵太! おみよ! ちょっと覗いてみろよ!」仁吉が叫んだ。「いたぞ! 松次だ!」
二人はあわてて縁の下を覗き込む。
もぞもぞと這いながら、こちらへ近づいてくる松次が見えた。
「おい! 松次! オレだ、兵太だ!」
「松次さあん!」
松次は返事をする事なく、縁の下から這い出してきた。松次を見て、三人は思わず驚きの声を上げた。
口を固く閉じ、目はいっぱいまで大きく見開かれ、背を丸めながら、両肘と両膝とをぴたりと地に付けている。ふうふうと荒い呼吸を繰り返している。
「こりゃあ…… まるで……」仁吉は松次の様子を見ながらつぶやいた。「まるで…… 猫だぞ……」
つづく
「おーい、松次!」
「松次さーん!」
仁吉、兵太、おみよそれぞれが呼びかけながら、寺の敷地内を走り回った。
身の丈にまでなっている草を掻き分け、朽ちかけた本堂を覗き込み、三人は声の限り松次の名を呼んだ。
しかし、松次の返事はない。三人には、この荒れ寺の薄気味悪さよりも、松次の返事が無い方が怖かった。
本堂の前で三人は顔を見合わせる。
「兵太、本当に松次は寺に連れ込まれたんだな」
「仁吉まで疑うのかよう!」
「そうじゃない。そうじゃないけど、見つからないから……」
「まだ探していない所ってないかしら?」
「……」
三人は考え込む。大人たちは入って来ない。
「父ちゃんたちって臆病者だな!」兵太が吐き捨てる。「子供のオレたちが平気でいるのに!」
「大人は、やった事がひどい事だと知ってるから、怖がっているのさ」仁吉が門の方を見ながら言った。「きっと、大人たちには、ここへ放り込んだじい様やばあ様が見えてんだ」
「でもよ、草むらの中には、骨なんぞなかったぞ」
「うん、そうだった」
「じゃ、やっぱり、猫が……」
「やめて、そんな話!」おみよが強い口調で割って入った。「今は松次さんを見つけなきゃ! それに、お天道様が出ている間は、何にも悪い物は出ないんよ!」
「そうだ、そうだな」仁吉はおみよに話を合わせた。また泣かれでもしたら面倒だ。「もう少し、松次を探してみよう」
「でも、あらかた見て回ったぜ」
仁吉はふと本堂の中を見やった。
白い猫がいた。
腰を落とし、前脚をぴんと伸ばして行儀良く座っていた。じっと仁吉を見つめている。
「しろ……」
「しろ、だって?」兵太が仁吉の言葉につられ、本堂へ顔を向けた。「……何にも居ないぞ……」
白猫の姿は消えていた。……ひょっとして、見間違えたかな、仁吉は思った。
「そうだ! 本堂の縁の下を見ていなかった」仁吉はしゃがみ込むと、本堂の下を覗き込んだ。「あっ!」
仁吉は縁の下の暗がりに何かが動くのを見た。仁吉は目を凝らした。
「……おい、兵太! おみよ! ちょっと覗いてみろよ!」仁吉が叫んだ。「いたぞ! 松次だ!」
二人はあわてて縁の下を覗き込む。
もぞもぞと這いながら、こちらへ近づいてくる松次が見えた。
「おい! 松次! オレだ、兵太だ!」
「松次さあん!」
松次は返事をする事なく、縁の下から這い出してきた。松次を見て、三人は思わず驚きの声を上げた。
口を固く閉じ、目はいっぱいまで大きく見開かれ、背を丸めながら、両肘と両膝とをぴたりと地に付けている。ふうふうと荒い呼吸を繰り返している。
「こりゃあ…… まるで……」仁吉は松次の様子を見ながらつぶやいた。「まるで…… 猫だぞ……」
つづく
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