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吸血鬼大作戦 ㉑

2019年08月31日 | 吸血鬼大作戦(全30話完結)
 明を先頭に歩き出す。
 夜の巡回だというのに、懐中電灯も持ち合わせていない。薄暗い街灯を頼りに歩き回っている。しかし、女子たち(白木先生も含む)は、そんな事には全く無頓着にすっかりおしゃべりに夢中だった。いくら従姉妹とは言え、くるみとはるみの息の合い方は普通ではない。やはり、くるみには不良の要素があるのかもしれない。他の三人娘は、くるみが後継者だと思っているのか、いっしょになって楽しそうだ。あまりにきゃあきゃあ騒ぐものだから、近所から警察へ通報されるんじゃないかと、明は冷や冷やしていた。白木先生はそんな不良娘たちを注意するでもなく、一緒になって話をしている。保健室の先生とは言え学校の先生が、この不良行為を率先しているのだ。この先生が学校にいる限り、この学校の不良は不滅だろう。明はうんざりして、ため息をついた。
「へっぽこ! 次の角を右ね!」
 くるみが声を開けてくる。明は返事もせずに言われた通りにする。明は、人格を全否定されているようで、面白くない。面白くないが、逆らえば、不良四人娘プラスくるみプラス元その筋系の白木先生に、散々馬鹿にされ罵られ笑われるだろう。
 角を曲がる際も、先に明に一人で行かせ、何も無いと分かってから、のろのろと後に付いて来る。これじゃ何の事は無い、生贄だ。万が一、明が襲われたら、きゃあきゃあ悲鳴を上げながら、明そっちのけで逃げ出すに決まっている。
 今も言われた通りに角を右に曲がってから振り返ると、誰も付いて来ていない。ため息をつきながら歩き出すと、しばらくして、わいわいと声がしてくる。
「おい、へっぽこ!」いきなり背後から肩をがっしりと抱きしめられた。声は文枝のものだった。「何、つまんなそうにしてんだよ」
「いや、別に……」明は硬直したように動きが止まる。背中全体に文枝のからだが貼り付いている。「オレは、みんなを守る役だから……」
「そうかい、偉いねぇ……」文枝の腕に力が加わる。そして、明の耳元で囁く。「あたしは、へっぽこが好きだよ」
「え? あ、はあ……」明はさらに硬直する。「そ、そりゃあ、どうも……」
 明には他に言い様が浮かばなかった。文枝はうんうんとうなずいている。
「おや、お二人さん、妬けるねぇ」後ろから桂子がからかった。「へっぽこ、しっかり支えてやらないと、倒れちまうぞ」
「大丈夫だよ」文枝が桂子に答えた。「へっぽこ、からだをピンと伸ばして支えてくれてるからね」
 違う! これは恐怖と驚愕とでからだか硬直しているだけなんだ! 明は思ったが、口にはできなかった。
「へっぽこ、そこを右ね」くるみが言う。「文枝さんも、こっちに戻って、一緒にお話ししましょうよ」
「いや、あたしはへっぽこと一緒にいるよ」文枝の腕にさらに力が加わった。「そこを右だね。さあ、へっぽこ、行くよ!」
「あ、ちょっと待ってください……」明が足元を見ながら言う。「靴の紐がほどけてしまって……」
「しょうがないねぇ……」
 文枝が鼻を鳴らしながら腕を離した。明は街灯の下に行くとしゃがみ込んで靴紐を締め直し始めた。全員の視線が明に注がれているのをひしひしと感じる明だった。いつもなら、わけもなく締め直せるのだが、緊張してしまっているのか、手が震えてしまって、なかなか締め終わらなかった。
「何やってんだや、へっぽこ!」文枝がしびれを切らす。「あたしと一緒がイヤで、わざともたもたしてんだろ?」
「いや、そうじゃないんだけど……」言われれば言われるほど、慌ててしまい、上手く靴紐が結べない。「もう少しだけ、待って……」
「いや、待てねえよ!」
 文枝は言うと、一人で先へ進み出し、角を曲がって行った。明は何とか靴紐を締め直すことができた。やれやれと立ち上がった時だった。
「ぎゃああああ!」
 悲鳴が聞こえた。文枝が曲がって行った通りから聞こえた。
 まさか!
 明は走った。


 つづく
 

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