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ジェシル 危機一発! ⑨

2019年11月04日 | ジェシル 危機一発!(全54話完結)
「どう言う事なのだ、ジェシル?」
「見ての通りです」
 宇宙パトロール本部のトールメン部長のオフィスで、ジェシルは部長と相対していた。私服のスーツが汚れ、所々破れている。
 自分の屋敷近所で爆弾による攻撃を受け、何とか逃げ出し、自らパトロールに通報した。パトロールや消防隊が急行し、保護されたのだ。
「ほう……」
「ほうって……」心配している素振りを全く見せず、逆に迷惑そうな口ぶりの部長に、ジェシルは腹を立てた。「見て分かんないんですか? もしそうなら、単なる無能野郎ですよ!」
「ジェシル、君は狙われていると言うのか?」トールメン部長はジェシルの罵り言葉を全く無視して言う。「相手は分かっているのか?」
「良くは分かりませんが、狙われていると思います」ジェシルはうんざりしたように言う。「それに、もうへとへとなんです。せっかくの休みが台無しです」
「それで、狙われる理由はあるのか?」
「何、馬鹿な事言っているんですか!」ジェシルは全く気遣いを示さない部長にますます腹を立て、怒鳴った。「宇宙パトロール捜査官は、数多の悪党どもから恨みを買うのが仕事じゃないですか! 部長ならそれくらい分かるでしょ? それとも現場経験が少ないエリート組には分からないのかしら?」
「恨みを買うと言うのは、君個人の問題ではないのか?」部長は表情を変えない。「私が覚えている君の過去の報告から察するに、君は色々と過激にやり過ぎている」
「悪を根絶するためです」
「多分に、君の嗜好が入っているのではないかね? 良く君が使う言葉で『ギッタンギッタンのグッチャングッチャンにしてあげるわ』ってやつだ」
「大きなお世話です!」
「まあ良い…… 身の安全のため、解決するまで自宅ではなく、君のオフィスで寝泊まりすると良いだろう」
「捜査はしても良いんですか?」
「かまわんが、早期に解決するのだ。ノースデン地区の住人から苦情が殺到している。あそこの連中にはパトロール上層部と親しい者も多いのでな」
「わたしがいると、あそこの治安が不安だって事ですか? わたしもそこの住人なんですけど?」
「それとこれとは別問題だ」
 部長は言うと、椅子を回してジェシルに背を向けた。ジェシルは部長の背中に見えない熱線銃を最大出力にして撃ち込み、その存在自体を消滅させた。
 ジェシルは部長のオフィスを出て、自分のオフィスへ向かう。
「狙撃屋に爆弾魔か……」ジェシルはつぶやきながら歩く。「あんな手口は初めてだわ。個人的な恨みと言うよりも、誰かに雇われた未知のプロってところかしらね。……だとしたら、犯人を特定できないかも」
 ジェシルは自分のオフィスに着いた。クロークに行き、汚れてしまった服を脱ぐ。下着姿の上にフリソデを羽織った。
「今日は休みだし、当分ここが家の代わりだし、別に構わないわよね」
 ジェシルは言い、買い置きしてあるベルザの実を手に持って、自分の皮張りの椅子に座り、コンピューターを立ち上げる。
「さてと…… 殺し屋を雇ってまでわたしを始末したいヤツって、どれくらいいるのかしら?」コンピュータを操作しながらジェシルはベルザの実をかじる。「……やっぱり、こんな程度しか分からないか……」
 ジェシルは背凭れを軋ませて反り返る。フリソデの前がはだけ、滑らかな腹が見えた。
「やっぱり、ディープな検索は資料室に行かなきゃ、か……」


つづく


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