「こんな事になるんなら、放っておいてくれた方が良かった・・・ あなたみたいな人にこんな恥ずかしい思いをさせられるんなら、朝多くの人に見つけられた方がマシだったわ!」
葉子は泣きながら妖介に食って掛かった。妖介は嘲笑うかのような表情で葉子を見下ろしていた。
「お前がただの通りすがりの馬鹿女ならそうしていた。だが面倒な事に、そうじゃない馬鹿女だった。だから、仕方なく連れて来た」
「そうじゃない馬鹿女って・・・ あの変なのが見えたって事なの?」
葉子が聞き返した。が、妖介は返事をせず、再びクロークに向き直った。葉子は自分を無視した態度に腹が立ってきた。
「あれが見えるとどうだって言うの? あれは一体何なの? あなたって何者なの? 何がどうなっているの!」
葉子は続けざまに聞いた。そうよ、私の事ばかりお見通しじゃ不公平よ!
妖介は面倒くさそうに振り返った。
「やかましい! 『根暗の葉子』は黙って落ち込んでろ!」
『根暗の葉子』! 葉子が学生時代に言われた仇名だった。自分には覚えがないのにこう呼ばれ、落ち込んだ事があった。
「あっ、そこは・・・」
葉子が気が付くと、妖介は、クロークの下段に入れてある、三つの引き出しが縦に並んでいる衣類入れの、一番下の段を引き開けていた。
「分かっている。下着の入れてある段だ」
妖介は背中で答えた。葉子は腰を浮かせたが、布団がずり落ちそうになったので、またあわてて座り直した。
「やめて! やめてよう!」
妖介は一番奥の下着を掴み出すと、葉子の方へ放り投げた。それはロングTシャツの上に落ちた。
黒のシースルーで乳首の部分だけ布になっているホックレスのブラジャーと、同じ仕様で股の一部が布になっているTバックのパンティだった。
「別の恋人だった幸久がお前に買わせたヤツだ。デートの度にこれを着けて、よくホテルに行ったな。でかい鏡の前で、これだけ着けた姿を映しちゃあ、馬鹿なポーズ取ってたな。イヤらしい女だよ、お前は!」
妖介がからかう様な声で言った。葉子の目からまた涙が溢れ出した。
妖介は葉子のそばに寄った。もう、叫ぶのも、抵抗するのも、疲れた。この人、わたしの全てを知っているんだもの、何を言ってもやっても無駄だわ・・・
「別れた男の品をいつまでも持っているから『根暗の葉子』なんて言われるんだ。そんなヤツは単なる馬鹿だ! もうお前には何の意味も価値もない。とっとと捨てちまえ!」
妖介は葉子の顔を覗き込んだ。葉子の視線が妖介の顔の上をうろうろと彷徨った。
「呆けてるんじゃない。さっさと服を着ろ。それから何か作れ。腹が減った」
妖介はそう言うと、部屋から出て行った。
つづく


葉子は泣きながら妖介に食って掛かった。妖介は嘲笑うかのような表情で葉子を見下ろしていた。
「お前がただの通りすがりの馬鹿女ならそうしていた。だが面倒な事に、そうじゃない馬鹿女だった。だから、仕方なく連れて来た」
「そうじゃない馬鹿女って・・・ あの変なのが見えたって事なの?」
葉子が聞き返した。が、妖介は返事をせず、再びクロークに向き直った。葉子は自分を無視した態度に腹が立ってきた。
「あれが見えるとどうだって言うの? あれは一体何なの? あなたって何者なの? 何がどうなっているの!」
葉子は続けざまに聞いた。そうよ、私の事ばかりお見通しじゃ不公平よ!
妖介は面倒くさそうに振り返った。
「やかましい! 『根暗の葉子』は黙って落ち込んでろ!」
『根暗の葉子』! 葉子が学生時代に言われた仇名だった。自分には覚えがないのにこう呼ばれ、落ち込んだ事があった。
「あっ、そこは・・・」
葉子が気が付くと、妖介は、クロークの下段に入れてある、三つの引き出しが縦に並んでいる衣類入れの、一番下の段を引き開けていた。
「分かっている。下着の入れてある段だ」
妖介は背中で答えた。葉子は腰を浮かせたが、布団がずり落ちそうになったので、またあわてて座り直した。
「やめて! やめてよう!」
妖介は一番奥の下着を掴み出すと、葉子の方へ放り投げた。それはロングTシャツの上に落ちた。
黒のシースルーで乳首の部分だけ布になっているホックレスのブラジャーと、同じ仕様で股の一部が布になっているTバックのパンティだった。
「別の恋人だった幸久がお前に買わせたヤツだ。デートの度にこれを着けて、よくホテルに行ったな。でかい鏡の前で、これだけ着けた姿を映しちゃあ、馬鹿なポーズ取ってたな。イヤらしい女だよ、お前は!」
妖介がからかう様な声で言った。葉子の目からまた涙が溢れ出した。
妖介は葉子のそばに寄った。もう、叫ぶのも、抵抗するのも、疲れた。この人、わたしの全てを知っているんだもの、何を言ってもやっても無駄だわ・・・
「別れた男の品をいつまでも持っているから『根暗の葉子』なんて言われるんだ。そんなヤツは単なる馬鹿だ! もうお前には何の意味も価値もない。とっとと捨てちまえ!」
妖介は葉子の顔を覗き込んだ。葉子の視線が妖介の顔の上をうろうろと彷徨った。
「呆けてるんじゃない。さっさと服を着ろ。それから何か作れ。腹が減った」
妖介はそう言うと、部屋から出て行った。
つづく


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