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ジェシルと赤いゲート 76

2024年09月07日 | マスケード博士

 突然、何かが落ちる音と低い呻き声がした。
 ジェシルがその方を見ると、コルンディが地面に転がっていた。からだを丸めて呻いている。デスゴンの力が急に失せたので、コルンディの宙づりが解けたのだ。
 傭兵の一人がコルンディの元に駈け寄り、コルンディの上半身を抱き起した。こちらも、デスゴンの力が失せたので、金縛り状態から解放されたようだ。
「くっ……」喰いしばった歯をむき出しにしたコルンディがトランと抱き合うマーベラを睨み付ける。「貴様ぁ…… 許さんぞぉぉ……」
 低く唸る獣のような声でコルンディは言う。コルンディは介抱している傭兵の助けで立ち上がった。
「散々オレをコケにしやがって……」コルンディは怒りで震えている。手にしている銃をマーベラに向けて構えた。震える指が引き金に掛かる。「死ね! 死んでしまえ!」
 コルンディは引き金を引いた。しかし、コルンディの銃は宙を舞った。ジェシルが素早く熱線銃を腰から抜き取って引き金を引き、熱線がコルンディの銃を弾き飛ばしたのだ。高温の熱線はコルンディの銃を半ば溶かしてしまい原形を留めていなかった。
「ははは、わたしを無視したのが敗因ね」ジェシルは銃を構えたままで笑う。「殺人未遂の現行犯として逮捕するわ」
「ふざけた事を言うな! ここは大昔だろうが!」
「馬鹿ねぇ。わたしたちが勝手にここに来ちゃっただけでしょ? 法は適用されるわ」睨み付けてくるコルンディに、ジェシルは小馬鹿にしたような笑みを向けて言う。「諦めなさい。……それと、傭兵のあなたたちもね」
 言い終えるとジェシルは笑顔のままで銃を傭兵たちへ向ける。
「出力を最大にしたから、一斉に襲って来ても、あなたたち全員、一瞬で消滅よ」
「笑顔でそんな物騒な事を言うなよ……」ジャンセンが呆れたような顔をする。「でも、ここまでだね。みんな揃って戻ろうじゃないか。そこで正規の裁きを受けるんだね」
「この、一介の考古学者風情が、偉そうに言うんじゃないぜ!」コルンディは悪態をつく。「……それにな、ジェシル。オレは武器開発者だぜ。もう何も持っていないと思っているのかよ!」
 コルンディは言うと、ズボンのベルトのバックルに手をかけた。バックルから何かが発射された。
「うっ……」
 呻いたのはジェシルだった。銃を持つ右の二の腕を左手で押さえ、銃を地面に落とした。右腕が、続いてからだ全体が小刻みに震え始めた。ジェシルは殺気を込めた眼差しをコルンディに向ける。
「おいおいおいおい、そんな怖い顔をするなよ、ジェシル。それに言っただろう? オレは武器開発者だって」形勢逆転とばかりにコルンディは晴れやかな笑みを浮かべている。「バックルに神経をマヒさせる薬をエアで撃ち込める装置が仕込んであるんだ。基本は対面の敵からの逃走用だけどな。……な~に、ほんの一時間ほど痺れているだけさ。まあ、それだけの時間がれば充分だけどな」
「逃走用だなんて、やっぱり、卑怯者の、考える事は、そんな所よね……」
 不敵な笑みを浮かべるジェシルに、コルンディは忌々しそうな表情をする。しかし、すぐに負けないほどの不敵な笑みを浮かべてみせる。それから、ゆっくりと傭兵たちに顔を向ける。
「あいつらを殺せ」コルンディは低い声で命じる。顔は笑ってはいなかった。「お前たちなら素手でも充分だろう」
 傭兵たちは全員が構えを取った。十人がそれぞれ別々の構えをしている。マーベラが対するように身構える。
「あの人たち、個々に、達人って、感じだわね……」ジェシルは苦しそうな声で言う。「マーベラの格闘技でも、応じきれないわ……」
「ははは! 諦めるのはそっちだったな!」コルンディは右腕を振り上げた。「ジェシルと仲間たち、異世界で散る、ってかあ! やっちまえぇぇ!」
 コルンディは言うと右腕を思い切り振り下ろした。
 傭兵たちが一斉にジェシルたちに飛び掛かって来た。

 

つづく


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