使わなければ呪われそうで、使えば使ったで呪われそうな清水の消しゴムを手にして、コーイチは溜息をついた。ちらっと目を上げると正面の席の清水がじっと見つめている。コーイチは愛想笑いをして見せて清水の視線を避けた。・・・清水さん、僕がこの消しゴムを使うまで見ているつもりなんだろうなあ。気付かれないように清水を見たが、コーイチの手元に視線が注がれている。・・・最近の清水さん、なんだか黒魔術の腕が上がったような気がするんだよなあ。イヤだなあ、コワイなあ・・・
「コーイチ君」左斜め前の印旛沼が声をかけてきた。「右手を出してごらん」
言われるままにコーイチは手の平を上にして印旛沼の方に伸ばした。印旛沼はその上に握った右手を乗せ、ぱっと開いた。
「うわっ!」コーイチは驚いて叫んだ。コーイチの右の手の平に真新しい消しゴムが幾つも乗っかっていた。「こ、これは・・・」
「どうも清水君の消しゴムを使いたくなさそうなんで、別なのを出してみたんだよ」
「あら、印旛沼さん、失礼しちゃうわ」清水は言いながら意地悪そうな笑顔をコーイチに向けた。「これからわたしの消しゴムを使うところだったのに・・・ それに、こんなにいっぱいあっても、逆に困るんじゃありませんの?」
「たしかに、それは言えますね」隣の席の林谷が加わった。「いっぱいあると、かえって油断してどんどん無くしてしまいますよ。・・・コーイチ君、そう言うわけだから、これを使ってみたまえ」
林谷が差し出したのは少し太めのボールペンようなものだった。コーイチは印旛沼の消しゴムを机の上に置いて、それを受け取った。
「シャープペンシルのように頭の部分を押すとスイッチが入り、毎秒五千回転して文字を消すハイパワー電動消しゴムだよ。世界でまだ数十本しかないんだ」林谷が含み笑いをしながら言った。「筆圧強く書いた文字だって、毎秒五千回転の超振動で文字も紙のへこみも無かった事にして、未使用状態に戻せるんだよ。ただねぇ・・・」
コーイチは頭の部分を押してみた。途端に物凄い回転音が耳に飛び込み、物凄い振動が手に伝わった。思わず机の上に落としたが、電動消しゴムは机の上でやかましいモーター音を立てながらガタゴトと跳ね回り続けた。そして、清水の消しゴムと印旛沼の消しゴムを蹴散らすように机から落としてしまった。
「見ての通り」林谷が言った。「うるさい消しゴムでね、使いにくいんだ」
「使いにくいと言うよりも、使えないですよ」コーイチが文句を言った。「どうやって止めるんですか?」
「もう一度頭を押せば良いんだよ。君なら出来るさ!」
「コーイチ君、がんばって!」
「しっかりな! 逸子に良い所を見せるつもりで!」
勝手な応援を無視して、コーイチは暴れまわる電動消しゴムと三十分ほど格闘し、どうにか止めて、林谷に返した。
「林谷さん・・・」コーイチは肩で息をしている。「新しもの好きも、ほどほどにしてくださいよ・・・」
「西川課長!」洋子が立ち上がって、西川の方を向いた。「ここは遊び場ですか! きちんと仕事をするように言ってください!」
「まあまあ、芳川君」西川は苦笑いをしながら言った。「この課はこんな感じが持ち味なんだよ。みんなやる時はやる連中だから、そう怒らない、怒らない」
洋子はむっとしたまま、座り込んだ。
あなたが元凶よ・・・ コーイチをにらみつける洋子の目が、そう語っている。
・・・やれやれ、凄い新人だな・・・ コーイチは大きな溜息をついた。
つづく
「コーイチ君」左斜め前の印旛沼が声をかけてきた。「右手を出してごらん」
言われるままにコーイチは手の平を上にして印旛沼の方に伸ばした。印旛沼はその上に握った右手を乗せ、ぱっと開いた。
「うわっ!」コーイチは驚いて叫んだ。コーイチの右の手の平に真新しい消しゴムが幾つも乗っかっていた。「こ、これは・・・」
「どうも清水君の消しゴムを使いたくなさそうなんで、別なのを出してみたんだよ」
「あら、印旛沼さん、失礼しちゃうわ」清水は言いながら意地悪そうな笑顔をコーイチに向けた。「これからわたしの消しゴムを使うところだったのに・・・ それに、こんなにいっぱいあっても、逆に困るんじゃありませんの?」
「たしかに、それは言えますね」隣の席の林谷が加わった。「いっぱいあると、かえって油断してどんどん無くしてしまいますよ。・・・コーイチ君、そう言うわけだから、これを使ってみたまえ」
林谷が差し出したのは少し太めのボールペンようなものだった。コーイチは印旛沼の消しゴムを机の上に置いて、それを受け取った。
「シャープペンシルのように頭の部分を押すとスイッチが入り、毎秒五千回転して文字を消すハイパワー電動消しゴムだよ。世界でまだ数十本しかないんだ」林谷が含み笑いをしながら言った。「筆圧強く書いた文字だって、毎秒五千回転の超振動で文字も紙のへこみも無かった事にして、未使用状態に戻せるんだよ。ただねぇ・・・」
コーイチは頭の部分を押してみた。途端に物凄い回転音が耳に飛び込み、物凄い振動が手に伝わった。思わず机の上に落としたが、電動消しゴムは机の上でやかましいモーター音を立てながらガタゴトと跳ね回り続けた。そして、清水の消しゴムと印旛沼の消しゴムを蹴散らすように机から落としてしまった。
「見ての通り」林谷が言った。「うるさい消しゴムでね、使いにくいんだ」
「使いにくいと言うよりも、使えないですよ」コーイチが文句を言った。「どうやって止めるんですか?」
「もう一度頭を押せば良いんだよ。君なら出来るさ!」
「コーイチ君、がんばって!」
「しっかりな! 逸子に良い所を見せるつもりで!」
勝手な応援を無視して、コーイチは暴れまわる電動消しゴムと三十分ほど格闘し、どうにか止めて、林谷に返した。
「林谷さん・・・」コーイチは肩で息をしている。「新しもの好きも、ほどほどにしてくださいよ・・・」
「西川課長!」洋子が立ち上がって、西川の方を向いた。「ここは遊び場ですか! きちんと仕事をするように言ってください!」
「まあまあ、芳川君」西川は苦笑いをしながら言った。「この課はこんな感じが持ち味なんだよ。みんなやる時はやる連中だから、そう怒らない、怒らない」
洋子はむっとしたまま、座り込んだ。
あなたが元凶よ・・・ コーイチをにらみつける洋子の目が、そう語っている。
・・・やれやれ、凄い新人だな・・・ コーイチは大きな溜息をついた。
つづく
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