ジェシルはクラブを出ると通りを足早に歩いた。クラクションが鳴った。ジェシルは振り返った。「貸切」の表示をしたロボ・タクシーだった。ジェシルは面倒臭そうな表情でロボ・タクシーの所へ向かった。ドアが開いた。
「もう良いわ」ジェシルは顔だけを車内に入れて言った。「待っていてくれてたのはありがたいけど、もう用は終わったわ」
「じゃあ、パトロール本部へ戻るのかい?」
「いいえ、なんだか疲れちゃったから、家へ帰るわ」
「そうかい。それなら送って行くぜ。料金は受け取らねえよ」
「あら、気前が良いじゃない」ジェシルは笑う。「でも、大丈夫よ、検挙したりしないから」
「いや、そうじゃねえんで」ロボ・タクシーは改まったような言い方をする。「姐さんの気風の良さに惚れこんじまいましてね。あのテトを手玉に取るなんて、大したお人だと……」
「あなた、テトが重傷を負ったって話、聞いた事ある?」
「ありますぜ…… まさか、あれは姐さんの仕業、いえ、業績で?」
「ははは、あなたって本当、面白いわね」ジェシルは後部座席に乗り込んだ。「じゃあ、家まで送ってもらおうかな」
ロボ・タクシーのドアが閉まる。ジェシルは住所を告げた。
「え? ノースデン地区?」ロボ・タクシーは不思議そうな声を出す。「あそこは高級住宅街ですぜ。まだ捜査でもあるんですかい?」
「捜査は無いわ。わたし、そこに住んでるのよ」
「ひゅーっ!」ロボ・タクシーが口笛の音を発した。「そんなお嬢様がテトを病院送りにねぇ……」
「いいから、さっさと発信してちょうだい」
ロボ・タクシーは走り出した。ジェシルは背凭れに深く身をあずける。
「それで、収穫はあったんですかい?」
「無かったわ……」ジェシルは、むっとした顔で答える。「でも疑っているけどね」
「まあ、そんな時は熱めの風呂にでも浸かって、美味い酒でも飲んで、素敵な相手と過ごすと良いらしいですぜ」
「ロボ・タクシーに言われたくないわねえ」
「でも、彼氏くらいいるんだろう? そんだけ可愛いんだからさ」
「残念でした。彼氏なんていないわよ」
「そうすると、性格が悪いんだな。テトをぶっ潰すくらいだもんなあ……」
「うるさい!」
ロボ・タクシーは郊外へ出て、ノースデン地区へと入った。高級住宅街にふさわしい閑静な雰囲気の中に豪邸が広い敷地を取って並んでいる。
「こんな所、初めて入ったぜ」ロボ・タクシーは興奮気味に言う。「これでセレブの仲間入りだな」
「ふん! ここの住人は他人に無関心な自分大切な連中ばかりよ!」ジェシルは吐き捨てるように言う。「そのくせ、他人の動向には興味津々なのよね」
「姐さんも、ここの住人だろう?」
「わたしは、屋敷を売っちゃいけないから、仕方なしに住んでるだけよ。無駄に大きな家って逆に不便よ」
「そんなもんかねえ……」
「あなたのガレージが百台も停まれるようなスペースを持ってたら、嬉しいかしら?」
前を走っていた運送用車両が、突然轟音と共に破壊された。貨物コンテナ部分が大きく潰れ、炎を上げている。ロボ・タクシーは急停車した。
「何よあれ? どうなってんのよ!」ジェシルはフロントガラス越しに見なが叫ぶ。「すぐ、パロトールに連絡を入れて!」
「こりゃあ、爆弾だぜ!」ロボ・タクシーが慌てた声を出す。「逃げなきゃあ!」
ロボ・タクシーはすぐに方向転換をしようと動き出した。すると、すぐ目の前で爆発が起こった。轟音が凄まじく、土埃とアスファルトの破片が飛び散る。フロントガラスに亀裂が入った。まだ耳鳴りが治まらない中、ロボ・タクシーの後方で爆発した。リアガラスが割れた。
「ダメだ、前後に穴が開いちまって、動くに動けねえ……」ロボ・タクシーの声が弱々しい。「それに、車体も破損しちまったよ……」
「何、弱気な事を言ってんのよ! 客を守るのが義務でしょ!」
「ダメだ…… 動けねぇよ……」ロボ・タクシーの電子表示盤が消えかかっている。「さっきの話だけどさ、分相応が良いや。ガレージは一台分の広さってのがおいらにゃふさわしい……」
ジェシルは緊急脱出用のレバーを操作してドアを開け、転がるようにして車外に出て走った。背後で再び轟音がした。振り返ると、乗っていたロボ・タクシーが燃えていた。
つづく
「もう良いわ」ジェシルは顔だけを車内に入れて言った。「待っていてくれてたのはありがたいけど、もう用は終わったわ」
「じゃあ、パトロール本部へ戻るのかい?」
「いいえ、なんだか疲れちゃったから、家へ帰るわ」
「そうかい。それなら送って行くぜ。料金は受け取らねえよ」
「あら、気前が良いじゃない」ジェシルは笑う。「でも、大丈夫よ、検挙したりしないから」
「いや、そうじゃねえんで」ロボ・タクシーは改まったような言い方をする。「姐さんの気風の良さに惚れこんじまいましてね。あのテトを手玉に取るなんて、大したお人だと……」
「あなた、テトが重傷を負ったって話、聞いた事ある?」
「ありますぜ…… まさか、あれは姐さんの仕業、いえ、業績で?」
「ははは、あなたって本当、面白いわね」ジェシルは後部座席に乗り込んだ。「じゃあ、家まで送ってもらおうかな」
ロボ・タクシーのドアが閉まる。ジェシルは住所を告げた。
「え? ノースデン地区?」ロボ・タクシーは不思議そうな声を出す。「あそこは高級住宅街ですぜ。まだ捜査でもあるんですかい?」
「捜査は無いわ。わたし、そこに住んでるのよ」
「ひゅーっ!」ロボ・タクシーが口笛の音を発した。「そんなお嬢様がテトを病院送りにねぇ……」
「いいから、さっさと発信してちょうだい」
ロボ・タクシーは走り出した。ジェシルは背凭れに深く身をあずける。
「それで、収穫はあったんですかい?」
「無かったわ……」ジェシルは、むっとした顔で答える。「でも疑っているけどね」
「まあ、そんな時は熱めの風呂にでも浸かって、美味い酒でも飲んで、素敵な相手と過ごすと良いらしいですぜ」
「ロボ・タクシーに言われたくないわねえ」
「でも、彼氏くらいいるんだろう? そんだけ可愛いんだからさ」
「残念でした。彼氏なんていないわよ」
「そうすると、性格が悪いんだな。テトをぶっ潰すくらいだもんなあ……」
「うるさい!」
ロボ・タクシーは郊外へ出て、ノースデン地区へと入った。高級住宅街にふさわしい閑静な雰囲気の中に豪邸が広い敷地を取って並んでいる。
「こんな所、初めて入ったぜ」ロボ・タクシーは興奮気味に言う。「これでセレブの仲間入りだな」
「ふん! ここの住人は他人に無関心な自分大切な連中ばかりよ!」ジェシルは吐き捨てるように言う。「そのくせ、他人の動向には興味津々なのよね」
「姐さんも、ここの住人だろう?」
「わたしは、屋敷を売っちゃいけないから、仕方なしに住んでるだけよ。無駄に大きな家って逆に不便よ」
「そんなもんかねえ……」
「あなたのガレージが百台も停まれるようなスペースを持ってたら、嬉しいかしら?」
前を走っていた運送用車両が、突然轟音と共に破壊された。貨物コンテナ部分が大きく潰れ、炎を上げている。ロボ・タクシーは急停車した。
「何よあれ? どうなってんのよ!」ジェシルはフロントガラス越しに見なが叫ぶ。「すぐ、パロトールに連絡を入れて!」
「こりゃあ、爆弾だぜ!」ロボ・タクシーが慌てた声を出す。「逃げなきゃあ!」
ロボ・タクシーはすぐに方向転換をしようと動き出した。すると、すぐ目の前で爆発が起こった。轟音が凄まじく、土埃とアスファルトの破片が飛び散る。フロントガラスに亀裂が入った。まだ耳鳴りが治まらない中、ロボ・タクシーの後方で爆発した。リアガラスが割れた。
「ダメだ、前後に穴が開いちまって、動くに動けねえ……」ロボ・タクシーの声が弱々しい。「それに、車体も破損しちまったよ……」
「何、弱気な事を言ってんのよ! 客を守るのが義務でしょ!」
「ダメだ…… 動けねぇよ……」ロボ・タクシーの電子表示盤が消えかかっている。「さっきの話だけどさ、分相応が良いや。ガレージは一台分の広さってのがおいらにゃふさわしい……」
ジェシルは緊急脱出用のレバーを操作してドアを開け、転がるようにして車外に出て走った。背後で再び轟音がした。振り返ると、乗っていたロボ・タクシーが燃えていた。
つづく
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